NIKKEI Media Marketing

情報活用塾

  • グローバルコンプライアンスへの備え~7.企業における外国公務員贈賄防止体制(指針⑤)~
情報活用Tips Column

グローバルコンプライアンスへの備え~7.企業における外国公務員贈賄防止体制(指針⑤)~

1. はじめに

 前回のメールマガジンでは経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)が示している外国公務員贈賄防止体制のうち子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方などについて概説した。今回は本指針を踏まえた有事における対応の在り方などについて説明する。

2. 有事における対応の在り方

(1) はじめに

法令遵守の徹底必要、望まれる迅速な行動

 日本企業やその海外子会社・グループ会社が有事に直面する場面としては賄賂を実際に外国公務員などから要求されたケースや現地担当者が賄賂を外国公務員などに支払った可能性があることが内部監査、内部通報などによって明らかとなったケースなどが想定される。このような有事に直面した場合には、日本企業は法令遵守を徹底するとともに、自社(ひいては自社株主)への経済的損害を含めた悪影響を最低限に抑制するための行動を迅速に行うことが望まれる。

(2)子会社などにおける有事

親会社の積極的な関与、必須なケースも 利益相反も論点

 有事については自社で発生するケースのほか、海外子会社・グループ会社で発生するケースも想定される(ビジネスの性質上、むしろ後者のケースが生じやすい企業集団も多いと考えられる。)。特に、対応能力に不足がある子会社で有事が発生した場合については親会社やグループ全体へ生じる影響の大きさ次第では親会社が積極的に関与することが必須となることも考えられる。

 子会社などで発生する有事については利益相反管理や利益相反回避が論点となることもある。すなわち、有事においては、子会社役員などに子会社との間の利益相反が生じることがあり得る。たとえば、子会社における贈賄行為が解明された結果、親会社によって子会社役員などが解任されるため、保身を図る目的で調査・報告を怠るリスクなどが想定され、結果として子会社において適切な調査および親会社への報告などが行われない可能性がある。
 

担当者を指名、報告体制や対応なども事前のルール化を

 そこで、日本企業は、あらかじめ担当者を決めておいたり、親子会社間の有事に関する情報の報告体制のほか有事における対応体制に関する事前にルール化するなどの対応を行うことが考えられる。
 また、経営陣から独立した立場で会社と経営陣との間の利益相反状況を適切に監督することが期待される独立社外取締役に対して有事に関する必要な情報が報告される体制を構築する対応も有用である。
 

非常に有益な内部通報制度の機能、実効性高めたい

 なお、有事発覚の端緒の1つとして内部通報があり、内部通報制度を機能させることは外国公務員贈賄防止の観点からも非常に有益である。「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」(消費者庁)によれば、内部通報制度を導入していると回答のあった事業者のうち、社内の不正発見の端緒として「従業員などからの内部通報(通報窓口や管理職などへの通報)」が最も多く、外国公務員贈賄などに係る不正の防止・早期発見の観点から、内部通報制度の実効性を高めることが重要である。

消費者庁がガイドライン改正、内部通報制度見直し・拡充は好ましい

 この点、消費者庁は平成28年(2016年)12月9日に「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を改正した。それまでのガイドラインを見直し、内部通報制度の実効性の向上に向け、事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項を具体化・明確化するものであり、改正内容の採用は事業者の義務ではないが、改正を契機に、各社において自社の内部通報制度の見直しを検討するケースもあるところである。グローバルコンプライアンスへの備えの観点においても、自社の内部通報制度の見直し・拡充は好ましい取り組みであると考えられる。

(3)有事対応体制の留意点

 有事対応体制を構築するに当たっては次のような事項を考慮して対応をすることが考えられる。
・担当取締役・担当者の決定
・監査役との連携
・調査チームの設置、適切な調査の実施(関係証拠の保全・検証、対象者ヒアリング等の実施など)
・親子会社間の有事に関する情報の報告体制その他有事における対応体制に関する事前のルール化
・(悪質事案については)捜査機関への通報や自首の検討
・原因究明と再発防止策の検討

それぞれの企業の責任で優先順位、必要な項目から対応を

 また、これらの項目のすべてを同時期に採用・実施することが困難なことも想定される。そこで、企業規模・業種、既存の体制、国際商取引との関係、実効性などに加え、企業が外国公務員贈賄罪に問われるリスクの大きさを勘案したうえで、各企業の責任により、緊急的な対応として特に必要な項目を優先的に実施すべきである。

3.関係先との協議・連携

 外国公務員贈賄問題は、一企業のみで、外国公務員などの賄賂要求を不利益も覚悟して拒絶するといった適切な対応を講じることが困難な場合も多い。
 

現地大使館やジェトロなどへ相談も 開発協力事業は外務省、JICA窓口

 このような場合には、現地日本大使館・領事館の日本企業支援窓口やジェトロ(日本貿易振興機構)、現地商工会議所などに相談をする対応が考えられる。さらに、これらの機関を通じて、事前にまたは事後に、特定・不特定の公務員の明示または黙示の賄賂要求を停止するよう現地政府に要求することも考えられる。

 また、開発協力事業に関しては、外務省やJICA(国際協力機構)に設置された不正腐敗情報相談窓口に相談をする対応も考えられる。

 関係先との協議・連携も企業による外国公務員贈賄防止に際して重要な取り組みである。

 次回は、日本弁護士連合会が策定した「海外贈賄防止ガイダンス(手引き)」の内容などについて説明する。
(日経MM情報活用塾メールマガジン10月号 2018年10月29日 更新)
$ext_top.ext_col_01}
鈴木 正人 Masato Suzuki
稲葉総合法律事務所 パートナー弁護士

2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FATCA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、「The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition」(共著、Law Review、2016年)、『Q&A営業店のマネー・ローンダリング対策実践講座』(共著、きんざい、2019年)等著作多数。