2016年10月1日に施行された改正犯収法では、特定事業者の体制整備に関連した改正も行われた。本稿では特定事業者による取引時確認等の措置などの改正点を概説する。
2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、「顧客の取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」と「使用人に対する教育訓練の実施その他の必要な体制の整備」が特定事業者の努力義務として規定されていた(旧法10条)。
これに対して、FATFからの指摘を踏まえて継続的な顧客管理措置を法定するため、改正犯収法では、特定事業者が講じる努力義務として、上記の内容として以下の事項が追加された(同法11条各号、同法施行規則32条1項各号)。
上記措置の詳細については、平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)での見解が参考になる。なお、特定事業者作成書面等の作成((同法11条4号、同法施行規則32条1項1号)に当たり参考とする犯罪収益移転危険度調査書(同法8条2項)であるが、平成28年11月24日に「平成28年犯罪収益移転危険度調査書」(下記URL参照)が公表されているため、各社においては同調査書の内容にも注意が必要である。
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk281124.pdf
上記事項については金融庁の各種監督指針の「取引時確認等の措置を的確に行うための法務問題に関する一元的な管理態勢が整備され、機能しているか。」との項目でも言及されているものがある。これらは努力義務ではあるが、金融機関は当該措置を講じるために努める必要があり、監督指針では、その点を含めた態勢が整備されているかという着眼点を定めているとされている(平成28年7月27日付改正監督指針に係る金融庁パブコメ回答2頁9番、10番参照)。そこで、特に金融機関については、上記措置に係る対応を行うことが望まれる。
特定事業者のうち、金融機関(犯収法2条2項1号から38号までに定めるものであり、国内に本店又は主たる営業所若しくは事務所を有するものに限る。)については、外国において特定業務に相当する業務を営む外国子会社又は外国において営業所(以下「外国所在営業所」という。)を有する場合であって、犯収法、同法施行令及びこの命令に相当する当該外国の法令に規定する取引時確認等の措置に相当する措置が取引時確認等の措置より緩やかなときには、以下に掲げる措置を講じる努力義務を負う(同法11条4号、同法施行規則32条2項各号)。
上記の趣旨は、特定事業者に対し、支配下にある外国所在の子会社を含め、グローバルに整合性のとれた犯罪収益の移転防止に係る体制整備を求める点にあり(本パブコメ回答199番参照)、「取引時確認等の措置」の全部又は一部が義務付けられていない場合は緩やかであると評価されると解されている(同回答198番)。
銀行等の特定事業者が外国銀行などの外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う場合には、①当該業者が、取引時確認等相当措置を的確に行うために必要な基準として主務省令で定める基準に適合する基準を整備していること及び②当該業者が、業として為替取引を行う者であって監督を受けている状態にないものとの間で為替取引を継続的に又は反復して行うことを内容とする契約を締結していないこの確認を行わなければならない(犯収法9条。当該主務省令は同法施行規則29条参照)。
同条はコルレス先がいわゆるシェルバンクではない点を確認するためのものである。
また、特定事業者による確認の方法は、当該業者から申告を受ける方法又は当該業者若しくは外国監督当局相当の外国機関がインターネットで公表している情報を閲覧して確認する方法である(同施行規則28条)。
2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FATCA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、「The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition」(共著、Law Review、2016年)、『Q&A営業店のマネー・ローンダリング対策実践講座』(共著、きんざい、2020年)等著作多数。
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