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グローバルコンプライアンスへの備え~9. 海外贈賄防止ガイダンス(手引)の概要(海外贈賄防止ガイダンス②)

1. はじめに

 前回のコラムでは、日本弁護士連合会が策定した海外贈賄防止ガイダンス(手引)(以下「本ガイダンス」という。)の概要について解説した。今回のコラムでは、本ガイダンスのうち、第1章「海外贈収賄防止体制の整備」の意義を述べたうえで、第1条「経営トップがとるべき姿勢と行動」について説明する。
 
※海外贈賄防止ガイダンス(手引)はこちら(日本弁護士連合会のウェブサイトに移動します。)

2. 海外贈収賄防止体制の整備(第1章)

外国法への配慮も必要 適用範囲の広さに注意

 前回コラムでも述べたが、株式会社の取締役は、会社法上の善管注意義務(同法330条、民法644条)の内容として、内部統制システムを整備(構築・運用)する義務を負うことが判例上認められており、国内のみならずグローバルで課題となっている海外贈賄防止体制の整備も内部統制システム構築義務の対象の一要素であると考えられる。また、取締役は善管注意義務の一環として法令遵守義務を負っており(会社法355条)、「法令」には日本法のみならず、外国法も含まれると解されている(外国の法令違反により株式会社が課された罰金につき取締役の責任が肯定された大阪地判平成12・9・20判時1721号3頁参照)。
 つまり、日本企業の取締役は、贈収賄防止との関係では、外国公務員等に対する不正の利益の供与等を禁止する不正競争防止法のみならず、米国の海外腐敗行為防止法(US Foreign Corrupt Practices Act、以下「米国FCPA」という)や英国の贈収賄法(UK Bribery Act)、その他適用のある諸外国の贈収賄規制を遵守することが望まれている。海外贈収賄防止体制の整備に当たっては、日本法のみならず、外国法も意識して対応を行う必要があろう。
 外国法令は適用される範囲も広範囲になることがあるため、注意が必要である。たとえば、米国FCPAは、たとえ、非米国企業が米国以外の第三国で贈賄に関与した場合であっても、米国で贈賄行為の一部が行われた事実や米国企業(米国に上場している外国企業も含む)と共謀した事実などがある場合には、当該非米国企業にも規制が適用され得る。ドル建てで賄賂を送金したり、米国の事務所に贈賄に関連するメールを送信したりするに過ぎない場合でも、米国で贈賄行為の一部が行われたと認定される可能性や、米国企業(米国に上場している外国企業も含む)がJVやコンソーシアムのメンバーに入っていた場合にも、米国企業と共謀したと認定される危険性がある(本ガイダンス脚注3参照)。

3. 経営トップがとるべき姿勢と行動(第1条)

(1) はじめに

経営トップのスタンス、行動が非常に重要

 海外贈収賄防止の対策に当たっては、経営トップのスタンスが非常に重要である。たとえば、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針では、「過去の国内外の処罰事例では、現場の従業員が賄賂は会社のためになるとして『正当化』することがみられるが、経営トップのみがそのような誤った認識を断ち切ることができる」という旨を定めているとともに、「経営トップの姿勢が全従業員に対して明確に、繰り返し示されることが効果的である」とされている(第2章1.(4)①「経営トップの姿勢・メッセージの重要性」参照)。
 全社一丸となって海外贈収賄防止の体制を整備・強化するためには、経営トップの姿勢や行動が肝要である。

 本ガイダンス第1条は「経営トップがとるべき姿勢と行動」を定めている。

※外国公務員贈賄防止指針はこちら(経済産業省のウェブサイトに移動します。)

(2) 経営トップがとるべき姿勢

従業員へ姿勢を明確に示したい、自らが率先垂範

 本ガイダンス第1条第1項は、経営トップがとるべき姿勢を定めており、具体的には、「経営トップは、企業集団として、不正を行ってまで売上や利益を追求してはならないという姿勢を明確に示し、率先垂範する」との指針を示している。取締役の法令遵守義務(会社法355条)などとの関係で、「不正を行ってまで売上や利益を追求してはならない」点についてはある意味、当然のことではあるが、経営トップが従業員に対してこのような姿勢を明確に示し、率先垂範することで、当該従業員も贈賄要求などに対して謝絶を行いやすくなると考えられる。

(3) 経営トップがとるべき行動

求められる継続的な行動、贈賄リスクに応じてアプローチを

 本ガイダンス第1条第2項は、経営トップがとるべき行動を定めており、第1条第1項(経営トップがとるべき姿勢)を実施するため、「経営トップは、贈賄リスクの状況に応じて、企業集団全体に対し、下図の①から⑥までの行動を継続的に行う」との指針を示している。

 本条項では、「贈賄リスクの状況に応じて、」との文言が使用されており、これは、リスクベース・アプローチ(本ガイダンス第2条参照)に従い、行動をとり得ることを示すものと考えられる。
 

単体ではなく、企業集団全体で体制整備を推進

 また、本条項では「企業集団全体に対して、」との文言も使用されている。日本企業単体ではなく、企業集団全体において海外贈収賄防止体制の整備を推進していくことを示すものと考えられる(なお、企業集団を通じた海外贈収賄防止体制の整備の必要性は、本ガイダンス第3章「子会社管理・企業買収」第15条「親会社による子会社の海外贈収賄防止体制の支援」第1項にも定められている)。
図 経営トップがとるべき行動
取締役会において贈賄防止に向けた基本方針を採択し、経営トップが自ら署名して社内外に公表し、企業集団として贈賄防止に取り組む姿勢を社内外に公表する
経営トップの贈賄防止に向けた姿勢を継続的に役職員に対して伝達する
コンプライアンス委員会、内部統制委員会等の贈賄防止対策を管轄する機関を設置し、上級役員をその長とし、その職務を達成することに十分な権限を付与する
贈賄リスクが高い企業活動を承認しない
贈賄に関与した役職員に対しては、その地位にかかわらず厳正な人事処分を行う
上記③の機関が、贈賄防止対策を実行的に行うために十分な予算配分を行い、その活動を補佐する法務又はコンプライアンス部門の人的資源を十分に確保する
 次回のコラムでは、「第1章 海外贈収賄防止体制の整備」「第2条 リスクベース・アプローチ」以下の内容に触れていく。
(日経MM情報活用塾メールマガジン4月号 2019年4月24日 更新)
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鈴木 正人 Masato Suzuki
潮見坂綜合法律事務所 弁護士

2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FATCA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、「The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition」(共著、Law Review、2016年)、『Q&A営業店のマネー・ローンダリング対策実践講座』(共著、きんざい、2020年)等著作多数。

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