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グローバルコンプライアンスへの備え~2.外国公務員への贈賄、増える摘発事例・不正競争防止法~

1. はじめに

 日本は経済協力開発機構(OECD)が1997年に外国公務員贈賄防止条約を採択したことを受け、1998年に不正競争防止法を改正し、外国公務員などに対する贈賄の規制を導入した。最近になり、この規制に関連する摘発事例が生じるなど、日本で活動する企業のコンプライアンス対応において重要な事項となっている。そこで、本稿では不正競争防止法の外国公務員等贈賄規制(以下「本規制」ともいう。)について概説する。

2. 外国公務員等贈賄規制の概要

(1)具体的な要件

不正競争防止法は「外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束を行うこと」を禁止している(同法18条1項)。

 本規制の名宛人(なあてにん)は「何人も」であり、(国籍を問わず、)規制対象行為(の全部又は一部)を日本国内で行った場合や日本人が国外で規制対象行為を行った場合が含まれる。また、「国際的な商取引」とは貿易や対外投資など国境を越えた経済活動に係る行為を意味すると一般的に解されている。

 本規制には「営業上の不正の利益を得るため」との目的要件が存在する。「不正の利益」には、外国公務員等に対する利益の供与等を通じて自己に有利な形で当該外国公務員等の裁量を行使させることによって獲得する利益や、外国公務員等に対する利益の供与等を通じて違法な行為をさせることによって獲得する利益が含まれると解されている。いわゆるfacilitation payment(ファシリテーション・ペイメント、通関などの行政手続きを円滑に通してもらうための少額の支払い)が許容されるかどうかについては、この目的要件との関係で問題となるが、経済産業省策定の「外国公務員贈賄防止方針」(平成27年7月30日改訂)は具体例を紹介しながら目的要件の考え方を説明しており、実務上、参考になる。

「職務に関する行為」とは外国公務員等の職務権限の範囲内にある行為のほか、職務と密接に関連する行為も含むと解されている。また、「金銭その他の利益」には財産上の利益にとどまらず、およそ人の需要・欲望を満足させるに足りるものも含むと解されている。

(2)外国公務員等の概要

 不正競争防止法18条2項は、供与先である「外国公務員等」の範囲を定めており、具体的には(1)外国の政府又は地方公共団体の公務に従事する者(2)外国の政府関係機関の事務に従事する者(3)外国の公的な企業の事務に従事する者(4)公的国際機関の公務に従事する者及び(5)外国政府等から権限の委任を受けている者―――が含まれる。

この点、上記(2)は日本の特殊法人に相当するものであると解されている。上記(3)は外国の政府又は地方公共団体が議決権のある株式の過半数を所有する者、出資金額総額の過半数超の出資をしている者、役員の過半数の任命・指名をしている者―――などが該当する。上記(4)には国際連合や世界貿易機関(WTO)などの団体の公務に従事する者が含まれる。上記(5)には外国政府等、国際機関が自らの権限として行うこととされている事務(たとえば、検査や試験等の事務)について権限の委任を受けて行う者が含まれると解される。

(3)刑事罰

 不正競争防止法18条1項の規定に違反した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又は併科の刑事罰の対象となる(同法21条2項7号)。また、法人の代表者や使用人等が当該法人の業務に関し違反行為をした場合には、両罰規定として法人に対して3億円以下の罰金刑が科される可能性がある(同法22条)。

3. 過去のエンフォースメント事例

本規制導入以降、刑事事件化された件数はそれほど多くなく、日本政府がOECD贈賄作業部会からエンフォースメント(執行)に向けた提言を受けたこともあったが、最近は摘発事例が増加傾向にあり、企業における本規制への対応の重要性が強まっている。
摘発事例の概要は次の通りである。

  事案の概要 刑事罰
1 日本法人のフィリピン子会社に出向していた社員2人が、請負契約を早期に締結するため、来日した同国の捜査当局幹部2人に対して、日本国内で約80万円のゴルフクラブセットなどを供与した事案。 社員がそれぞれ50万円、20万円の罰金に処された。法人への罰金はなし。
2 日本法人の社員4人が、ベトナム・ホーチミン市における幹線道路建設事業に関するコンサルタント業務を受注した謝礼などの趣旨で、同市幹部に対して、約60万米ドルと約20万米ドルの利益を供与した事案。 社員がそれぞれ懲役2年6カ月、懲役2年、懲役1年6カ月、懲役1年8カ月(いずれも執行猶予3年)に処された。法人への罰金7000万円も課された。
3 日本法人の元専務が、中国の現地工場の違法操業を見逃してもらうなどのため、地方政府の幹部に対して、現金・女性用バッグ(合計約60万円)を供与した事案。 元専務が50万円の罰金に処された。法人への罰金はなし。
4 日本法人の元役員3人がインドネシア、ベトナム及びウズベキスタンでのODA事業に関連し、鉄道公社関係者などに対して、それぞれ約7000万円(日本円)、約2000万円(日本円とインドネシアルピア)、約5500万円(米ドル)を供与した事案。 元役員がそれぞれ、懲役2年(執行猶予3年)、懲役3年(同4年)、懲役2年6か月(同3年)に処された。法人への罰金9,000万円も課された。

 次回は「外国公務員贈賄防止方針」に基づく企業における外国公務員贈賄防止体制について説明する。

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鈴木 正人 Masato Suzuki
稲葉総合法律事務所 パートナー弁護士

2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FATCA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、「The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition」(共著、Law Review、2016年)、『Q&A営業店のマネー・ローンダリング対策実践講座』(共著、きんざい、2019年)等著作多数。