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グローバルコンプライアンスへの備え~10. 海外贈賄防止ガイダンス(手引)の概要(海外贈賄防止ガイダンス③)

1. はじめに

 前回のコラムでは日本弁護士連合会が策定した海外贈賄防止ガイダンス(手引)(以下「本ガイダンス」という。)のうち、第1章「海外贈収賄防止体制の整備」の意義を述べたうえで、第1条「経営トップがとるべき姿勢と行動」について解説した。今回のコラムでは本ガイダンスのうち第2条「リスクベース・アプローチ」以下の内容を説明する。
 
※海外贈賄防止ガイダンス(手引)はこちら(日本弁護士連合会のウェブサイトに移動します。)

2. リスクベース・アプローチ(第1章 第2条)

贈賄リスクの程度に応じて対応、アセスメントは継続的かつ定期的に

 「リスクベース・アプローチ」とはリスクの高い事業活動に対して重点的に人的物的資源を配分する手法をいう。企業は贈賄リスクに関しても当該リスクの高い事業活動に対して重点的に人的・物的資源を配分するリスクベース・アプローチを採用することが考えられる。リスクベース・アプローチの採用に当っては次のリスクアセスメントを実施することが考えられる。
企業集団が活動する国・地域およびその活動拠点を確認し、その国・地域における腐敗の程度について、入手可能な資料・情報(たとえば、Transparency International の Corruption Perceptions Index スコアなど)を収集し、確認する
その企業活動が属する業界について、外国公務員などとの接点の高さに鑑み、贈賄リスクを確認する(商社、防衛、製薬、医療機器、資源、建設、不動産、運輸、金融は一般に贈賄リスクが高い)
取引形態、事業規模に応じた贈賄リスクを確認する(政府系入札や通関、許認可取得が必要な事業、現地工場における製造などは一般に贈賄リスクが高い)
企業集団の海外贈賄防止体制について、経営トップの姿勢や組織体制、社内規程の整備・遵守状況を検証する
リスクアセスメントの方法に関しては、必要に応じ、基礎的情報収集、海外事業部門および現地の活動拠点における実際の腐敗状況を確認するヒアリング、またはアンケート調査などを実施する
 リスクアセスメントを実施した後はその結果を分析し、現地拠点または事業に応じて贈賄リスクの格付けを行い、接待・贈答・外国公務員などの招聘(しょうへい)・寄付の規制方法、教育・モニタリングの対象・頻度・方法、エージェントなど第三者の管理・評価の方法、子会社の支援の方法などを決定することが重要である。
 リスクアセスメントは継続的かつ定期的に実施する。また、有事が発生した場合などリスクアセスメントの内容に重大な影響を与える事象が発生したときは、リスクアセスメントの見直しを検討すべきである。リスクアセスメントは一度実施して終わりにするのではなく、継続的にPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを機能させて高度化していくことが重要であると考えられる。

3. 基本方針および社内規程の策定(第3条)

贈賄防止に向けて明確な規程必要 適用範囲や禁止規定、処罰、組織体制など記載

 企業は贈賄防止の内部統制の枠組みとして、明確な贈賄防止に向けた基本姿勢を示す基本方針、およびそれを具体化する社内規程を策定することが考えられる。基本方針においては、不正をしてまで売上や利益を追求しないという経営トップの基本的な姿勢、および企業集団に属するすべての役職員が、外国公務員などに対し、直接または間接を問わずに贈賄行為を行ってはならないことを明確に示すことが考えられる。また、社内規程には贈賄リスクの程度に応じて、次の内容を記載することが考えられる。
社内規程の適用範囲(適用されるグループ企業の範囲、および従業員のほか役員にも適用されることを明確にする)
贈賄の明確な禁止規定(外国公務員などに対して、直接または間接を問わず、金銭その他一切の利益を供与、申込み、約束またはこれらの行為を承認してはならないこと)
不正会計の防止(賄賂の支払いが「コンサルティング費用」などの虚偽の名目で支払われることに着目し、実態と異なる会計処理と記録を禁止すること)
懲戒(就業規則を引用するなどして、社内規程=それに付属する規則を含む=に違反した場合には懲戒の対象となることを明確にすること)
内部通報制度(贈賄に関する通報が内部通報制度の対象であること)
組織体制(本社および現地における海外贈賄防止のコンプライアンスを担当する組織の体制)
手続規程(接待・贈答・外国公務員などの招聘(しょうへい)、寄付、エージェントなどの第三者の起用に関する手続)

4. 組織体制(第4条)

本社、現地拠点における組織体制を整備 経営から独立 内部通報制度や相談窓口も 

 海外贈賄防止のコンプライアンスは、企業の規模および贈賄リスクの程度に応じて、本社および現地拠点において組織体制を構築することが重要である。
 本社の組織体制としては、①取締役会または社外取締役過半数により構成される監査委員会に対して報告する内部統制委員会、コンプライアンス委員会、または海外贈賄防止のコンプライアンスに特化した委員会などを設置し、社長以外の上級役員がその長となって経営からの独立性を確保し、②そのもとで、法務・コンプライアンス、経理、人事、内部監査などの担当部署が実務を行うことが望ましい。
 現地拠点(現地拠点が小規模である場合にはその拠点を統括する現地統括拠点)において、現地拠点の経営陣から独立した者のなかから現地コンプライアンス責任者を選任し、社内規程に基づく承認決裁または本社コンプライアンス組織への報告を行うことが望ましい。
 また、内部通報制度および相談窓口の設置も重要である。日本国内のみならず、現地拠点の役職員も利用可能であり、匿名での通報・相談が原則可能な内部通報制度および相談窓口を設置し、その存在の啓発活動を積極的に実施する。

 次回のコラムでは、「第1章 海外贈収賄防止体制の整備」「第5条 第三者の管理」以下の内容に触れていく。
(日経MM情報活用塾メールマガジン9月号 2019年9月26日 更新)
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鈴木 正人 Masato Suzuki
潮見坂綜合法律事務所 弁護士

2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2010年4月から2011年12月まで金融庁・証券取引等監視委員会事務局証券検査課に在籍。『FATCA対応の実務』(共著、中央経済社、2012年)、「The Anti-Bribery and Anti-Corruption Review Fourth Edition」(共著、Law Review、2016年)、『Q&A営業店のマネー・ローンダリング対策実践講座』(共著、きんざい、2020年)等著作多数。

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