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情報活用塾

情報活用Tips Column

同じニュースを見聞きしても、受け止め方やそこから考えることは千差万別

私たちは、個々に置かれている立場があり、仕事も違えば、価値観も異なる。
となれば当然、興味関心の対象分野も人それぞれだ。

2020年の東京オリンピック開催が決まったが、これに対しても様々な声を聞くことができる。
是非夢の舞台に立ちたいという若手選手、自分は年齢的に難しいので後輩を鍛えたいというトップアスリート、たくさんのお客さんを受けいれる準備にかからなくてはという観光業者、オリンピック関連施設建設に向けそろばんをはじく建設業経営者、関連株へ投資しようという市民投資家...もちろん、オリンピック景気に沸くだけではなくその先を見据えて手を打っていかなくてはいけない、と警鐘を鳴らしているエコノミストもいる。
同じニュースを見聞きしても、自分と隣にいる人では受け止め方やそこから考えることは千差万別なのである。

ビジネスにおいて情報を用いる際に、この"立場"における感じ方、中身の受け止め方の違いを認識することは欠かせない。前回のコラムで、情報は「相手を説得するための材料」と書いたが、相手の立場や考え方を理解しなければ、納得を得る、説得をすることはできないはずだ。
同じ情報を見ても、人によって見るポイントは違うし、そこから何を読み取るかというのも異なるのだから。

日本経済新聞社の「社長100人アンケート」 あなたはどの数字に着目するだろうか。

右の円グラフは、日本経済新聞社が半年に一度行っている「社長100人アンケート」の今年6月調査の結果として発表されたものだが、これを目にしたとき、あなたはどの数字に着目するだろうか。

社内で女性の活用促進を担っている大手企業の人事担当者;
「すでに登用していて、さらに増員するという企業が25%。うちも女性活用に積極的な会社として認められるには更なる手を早めに打たないと...」

中小企業の人事担当者;
「大手企業でも、登用を検討しているという段階が17%余り。我々にまで話が及んでく るのにはもう少し時間がかかるかな。でも、早目に取り組んでおくべきだろうか...」

ミドルクラスの女性管理職;
「登用を検討していないと断言している経営者が6.8%もいるなんて。これだから一向に 会社も社会も変わらないのよ」

などなど。

記事の見出しには「女性役員『「さらに増員」』25%」、「登用検討は17%」とある。
社内のダイバーシティ推進検討チームの一員のあなたが、会議でこの記事を引用して「さらなる女性役員増員を検討しているという経営者が4分の1にも達しているので、女性役員がゼロといううちの企業はやはり遅れています。候補者の選抜教育を行って、早々に役員になってもらわないと。早速選抜教育のプログラムを検討しましょう!」と前のめりの発言したら...
「でも、役員に登用しているが増員の考えはないとか、登用を検討していないという経営者も多くはないがいるよね。女性役員選抜を焦ってうまくいかなかった企業もあるってことなんじゃないの?」と、部長あたりから突っ込みが入るに違いない。

ひとつのアンケート調査の結果として、女性役員の増員や今後の登用を検討している経営者がかなりの数に上ることも、一方で登用を検討していないと言う経営者がいることも事実だ。
そもそもこの数字があてにできないとか、調査のやり方がよくないのではないか、などという話ではない。
問題なのは、見出しや記事だけで判断してしまい調査結果のデータを細かく見ていないこと、ひとつの記事や調査だけで結論を出そうと急いでしまうことにある。

女性役員の登用についての記事検索をしてみれば、日経WOMANが実施した「企業の女性活用度調査」の結果や、女性管理職の人数目標を具体的に掲げている企業の例や、女性の登用を積極的に進めてきた企業経営者のインタビューなど、多くのものが出てくる。
これらを読み合せ、様々な状況や動向を理解した上で、自分たちが目指すべき方向、取り組むべき目標に対してのメッセージを導き出すべきであろう。

ちなみに、前掲のチャートを見たときに私が着目したのは「その他」の割合が40%近くで最も多いということ。
すでに登用している⇒増員する、しない
現状では登用していない⇒登用を検討している・していない
という選択肢がある中で、「その他」の内容を具体的に思い浮かべることができず、あれこれと考えてしまった。この場合、調査全体の多くの設問の中のひとつであり、そもそもの調査目的が女性役員の登用状況について詳しく調べようというものではない。
また、他の設問とのバランスもあり選択肢の設定が制限されていたと思われるので、「その他」が最も多くなってしまったのも致し方なかったのだろう。
しかし、調査設計のあるべき姿から考えると、この選択肢の設定はいただけない。
ウェブ調査が手軽に行えるようになり、専門家の力を借りずに自分たちで調査を企画・設計を行う方々も増えていると思われるので、敢えて述べさせていただいた。内容のわからない「その他」を選ぶ人が多くては、そのデータは説得力を持たない、ということになるのだから。

ひとつの情報のあらゆる側面を考えるのと同時に多方面からの情報を集めてみて考える

話を戻そう。
ひとつのグラフを見ても、人によって着目するポイントが異なることはご理解いただけたことと思う。表題や見出しがあったとしても、それはそれを書いた人の見方だ。
日常的なニュースであれば見出しを読み流していけばいいだろうが、ビジネスでその情報を利用しようというのであれば、自分の目にはどう映るのか、他に読み取れることはないか、など、ひとつの情報を多面的に考えていく必要がある。

このように、ひとつの情報のあらゆる側面を考えるのと同時に、多方面からの情報を集めてみて考えるということも重要となる。
先の女性役員登用の例では、記事検索をしてみれば他の調査結果や様々な取組みを行っている企業の事例などが得られる。それらの中から、どれかひとつふたつの情報を選ぶのではなく、全体を見渡してどういうことが言えるのかを考えていく。
いくつかの成功例からどんなポイントが浮かび上がるか、うまくいっていない会社と自社に共通点はないか、女性社員に対する調査結果を見ると新入社員時の研修での意識付けが大きいようだ...、等など。

ビジネスの情報検索をネットでやろうとすると、あまりに多くの情報が出てきてしまい、多様な情報、多方面からの見方を集めるというのはなかなかに難しい。Googleの検索結果を何ページ見ていっても、同じような内容のものしか出てこない、と感じることも多いのではなかろうか。
どんなに見ていっても同じような話しか出てこないのであれば、何ページ検索結果を繰っても無駄。「これでいいかなという情報が見つかったら」OKとなってしまうのは、大量の情報の中からネット検索で何かを得ようとしたら、仕方のないことなのかもしれない。

大海原で魚を釣ろうと思っても、やみくもに釣り糸をたれるだけではいつまでたっても魚はひっかかってくれない。当たった、と思ったらそれは海中を漂うゴミかもしれない。
それより、地元の漁師さんに釣れるポイントを教えてもらったり、魚が多いという時間帯を狙ったりするほうが有効だ。さらに、のんびりしたいということもあって釣りに行くというのならよいが、ただ新鮮な美味しい魚を食べたいのなら、評判のよい魚屋に行って選べばよいだけだろう。

私が、情報を探すときに「とりあえずググる」のではなく、情報を作成・発信していそうな機関・組織のホームページを見るとか、データベースサービスを利用するというのも、同じこと。趣味ではなく仕事なのだから、限られた時間の中で、少ない手間で、大きな獲物を得たい。

マイナスの情報に目をつぶってはいけない

多方面からの情報を見るべきという中には、マイナスの情報に目をつぶってはいけない、ということも含まれる。
前回、情報の選択基準は「自分にとって必要かどうか」だと述べたが、この選択基準に対する意識が強すぎると、自分にとって都合のよい情報ばかりに目が行ってしまう、自分の言いたい方向性に沿った情報ばかりを集めることにもなってしまいかねない。

例えば、先の女性社員の活用促進という話のときに、人事部門は渋っているが推進チームとしてはある程度強制的に管理職候補を集めて研修を実施したい、という思惑があったとする。
そうすると、調査結果の「さらに増員=25%」で目がとまってしまうし、女性を積極的に活用している企業の事例などには目が行くが、女性そのものの意識改革が必要とか、女性を優遇することに対し男性社員の建前と本音は異なる、などという、自分の考えている方向性に合致しない記事などはあまり目に入ってこない。
目に入ってきたとしても、「そんなこともあるよね」程度でスルーしてしまったり、さらには、見なかったことにしてしまうケースもあるかもしれない。

情報は何らかの目的のために利用されるものであり、その目的達成をサポートするために必要とされるものだ。
相手を説得するためには、自分たちの考え方の裏付けになるような情報が望ましい。
しかし、自分にとって心地よい、目的達成の支えになるような情報ばかりを見てしまい、方向性が異なる情報、否定的な情報に蓋をしてしまっては、異なる意見を持っている人たちに突っ込みどころを与えるだけだ。リスク情報や否定的な意見もきちんと把握したうえで、それを上回る可能性があるとか、リスクに対応する体制も整えることを考え併せていく、などといったコメントまで付記されていてこそ、説得力も増すというものだろう。

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上野 佳恵 Yoshie Ueno

津田塾大学卒業後、株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンクにて顧客向け情報提供サービスに携わる。のち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてリサーチ業務の傍ら情報センターの整備、トレーニングなどを手掛ける。 2004年にリサーチ関連サービス、コンサルティングを手掛ける有限会社インフォナビを設立。 著書に『情報調査力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)。