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情報活用塾

情報活用Tips Column

第2回 海外ビジネス情報の収集(2)

情報がない、手に入らないということも、情報のひとつ

前回ご紹介をしたように、海外ビジネス情報だからといっていきなり英語のWebサイトを見なくてはならないという訳ではない。国内のビジネス情報を収集するのと同じように、日本政府や国内の業界団体の資料、新聞や雑誌記事などを見ていくだけでも、多くの情報を手に入れることができる。

さらに、海外情報に特化した情報源として、日本貿易振興機構(ジェトロ)のWebサイトがある。ジェトロは日本企業の海外展開支援を行う機関であり、その支援策の一環として海外ビジネス情報の提供を行っている。70余りの国・地域について、政治体制や日本との関係などの概況、基本的な経済指標、輸出入、投資の統計データ、および、各国・地域のジェトロの現地事務所で実施された調査や、そのネットワークを通じて入手した経済・産業情報や、投資実務等に関する情報がまとめられている。

例えば、近年経済発展が目覚ましいベトナムのページを見ると、"農林水産物・食品""ファッション・繊維""デザイン(日用品)"などの産業情報が掲載されている。"農林水産物・食品"関連では、ハノイでの日本産農水産物・食品輸出相談会などのイベント情報、ジェトロが発行しているベトナムの農林水産業・食品産業に関わるニュースレター・調査レポート、食品小売価格や外食産業の動向などのマーケティング情報・レポートなどを見ることができる。さらに、ベトナムに進出したり、製品を輸出する際の制度や手続き、関税、その国の税制・法制、投資環境などの実務的な情報もまとめられている。

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産業情報については、国・地域ごとにとりあげられている産業も異なるし、同じ国の中でも産業によって掲載されている情報の内容や量は異なる。従って、必ずしも自分たちが欲しい情報が手に入るという訳ではないかもしれないが、現地のこれだけの情報を日本語で見ることができる情報源は、他にはない。海外ビジネス情報収集の際には、まず見るべきWebサイトのひとつである。

前回、私が関心を持っている国としてエストニアをご紹介したが、エストニアにはジェトロの事務所はなく、残念ながらこのWebサイトにはエストニア関連情報は掲載されてない。ただ、ジェトロが調査を行ったり情報提供をしている国や産業というのは、日本企業が既に進出・展開したり、多くの企業が進出に関心を持っている、ということの裏返しでもある。ということは、今エストニアに進出すれば、競合する日系企業はまだあまりないという見方もできるだろう。

海外情報に限らず、必要な情報が得られないと途方にくれてしまうのではあるが、一方で、情報が非常に限られている、存在しない、ということの意味合いも考えてみるといいのではないだろうか。情報がない、手に入らないということも、情報のひとつである。

ちなみにジェトロでは、輸出入や海外進出にあたっての無料の実務相談や、海外で開催される見本市への出展支援なども行っている。実際に輸出や海外進出をする際には、様々な面で心強い味方となる機関といえよう。

国際機関の統計から"情報環境の違い"を回避

さて、ここまでは日本の情報源を見てきたが、海外の情報源にも目を広げていこう。といっても、一足飛びに国ごとにどのような情報源があるのか、どのような情報が入手できるのか、を考えるのではない。

経済や社会情勢について、日本と比較したり複数の国・地域で比較するなどという場合には、国ごとにデータを集めるのではなく、国際機関の統計からの入手をまず考える。効率的であるというのは言うまでもないが、最初に述べた海外ビジネス情報収集の際のふたつの壁のうちのひとつ、"情報環境の違い"を回避できるからである。

同じ統計データ、例えば労働人口や失業率などのような基本的なデータでも、国・地域によって統計手法や定義が異なることも少なくはない。それを考慮せずに、国ごとに集めたデータを比較しては、間違った解釈にもつながりかねない。各国の現地通貨建てのデータを入手できたとしても比較するのには為替レートの数値をもってきて換算しなければならない。

国際機関の統計であれば、統計手法の違いなどを織り込んで比較可能にしている場合がほとんどであるし、違いがある場合には、どこがどのように違うのかという解説が付記されている。通貨単位も基本的に統一されている。

経済・社会情勢に関わる、いわゆるマクロ統計が中心ではあるものの、中期的な経済予測データや、インターネットの普及率などといった特定産業に関わるデータもある。そう言ってはなんだが、意外と色々なデータが手に入るのである。「国連などでこんなデータは無理だよね」と鼻から思ってしまわずに、まずは一度アクセスしてみることをお勧めする。

以下に、主要な統計や統計サイトを紹介しておく。
 

統計・統計サイト 内容
国連『Statistical Yearbook』(冊子、毎年発行) 各国の人口、労働状況、経済活動、鉱工業生産、教育など幅広い社会・経済統計データを収録した統計年鑑。主要データについては毎月発行される『Monthly Bulletin of Statistics』でもカバーされている
国連データ・ポータル(UNdata) 国連食糧農業機関(FAO)、国際労働機関(ILO)などの国連関連機関の統計データを、横断的に検索・ダウンロードすることができるデータベースのポータルサイト
国連食糧農業機関(FAO)統計サイト 農業生産量、漁獲高、食料輸出入、自給率など、農水産業関連の基礎データ
国際労働基金(ILO)統計サイト 労働人口、労働時間、賃金など労働関係データ
国際電気通信連合(ITU)統計サイト 固定電話・携帯電話普及率、ブロードバンド普及率、インターネット利用人口など
国際通貨基金(IMF)統計サイト 財政、国際収支など
IMF World Economic Outlook Database 人口、GDP、物価、輸出入、財政状況などの将来見通し。予測値は年に2回(4月と9月 or 10月)更新される
経済協力開発機構(OECD) 加盟国に限られるが、人口、GDP、財政などのマクロ経済統計から社会情勢など幅広いデータを収録。数年先までの経済成長率予測、エネルギー消費動向・見通し、子供の学習到達度調査の結果などもある
世界銀行 経済格差、貧困状況、気候変動、教育水準、ジェンダー格差、インフラ整備状況など
欧州連合(Eurostat) 加盟国の経済、社会データ、農業生産、鉱業生産など幅広いデータ

これらの国際機関の統計情報は、一部在日事務所のWebサイトで日本語で提供されているものもあるが、基本的には英語の情報となる(上記はすべて英語のサイト)。しかし、誰もが使いやすいように作られているので、統計用語などの基本的な知識があれば、"言葉の壁"は乗り越えられないほどのものではない。前回ご紹介をした、総務省統計局の『世界の統計』のWebサイトにある、主な国際機関のデータベースの使い方(Q&A内)なども参考にしながら、見ていただくとよいだろう。

もっと詳しい国ごとのデータを得たいという場合。各国にも、日本で言えば「総務省統計局」のような統計を専門に扱う省庁や部署、アメリカセンサス局、ドイツ連邦統計局、ベトナム統計局などがあり、そのWebサイトには統計データがまとめられている。英語で提供されているサイトも多いので、アクセスしてみる価値はあるだろう。ただし、英語に翻訳されているのは一部の情報に限られている場合も多いことには、留意しておいたほうがよい。また、上記でも述べたように、同じ言葉を使っていても、各国ごとに定義が違う場合などもある。できる限り、統計調査の方法や用語の定義などもあわせて確認してから利用すべきだろう。

総務省統計局のリンク集に、「外国政府の統計機関」の一覧が掲載されているので、そちらも参照されたい。

以上、海外情報源のうち、国際機関と各国政府の統計情報について見てきた。これらの情報源から、その国の社会情勢や全般的な産業動向はつかむことができる。しかし、海外ビジネス情報と言った場合、企業や市場についてのより詳細な情報が必要とされる場合が多いはずだ。次回は、そのような企業情報、産業情報の入手方法について見ていくこととしよう。

資料・統計サイト
日本貿易振興機構(ジェトロ) 『世界の統計』主な国際機関のデータベースの使い方(Q&A内)
アメリカセンサス局 ドイツ連邦統計局
ベトナム統計局 「外国政府の統計機関」
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上野 佳恵 Yoshie Ueno

津田塾大学卒業後、株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンクにて顧客向け情報提供サービスに携わる。のち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてリサーチ業務の傍ら情報センターの整備、トレーニングなどを手掛ける。 2004年にリサーチ関連サービス、コンサルティングを手掛ける有限会社インフォナビを設立。 著書に『情報調査力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)。