NIKKEI Media Marketing

情報活用塾

情報活用Tips Column

今だからこそ、情報の「収集」を考える(2)

6ステップから成る「調べるサイクル」

知識ギャップの認識→自分の情報源リストとのすり合わせ→情報の獲得→検証・判断→伝達→自分の情報源リストの整備、の6ステップから成る「調べるサイクル」。
みなさん意識したことはないだろうが、実は身近な調べごとの際にも多少なりこのサイクルを使っているものだ。

例えば、「ロボット掃除機が欲しい、でも、安い買い物ではないし、本当に役に立つかどうかわからないし...」と悩んだときのことを考えたのが、下記の図だ。

調べるサイクル

このように、無理やり分析的に考えれば、日常の些細な調べごとでも何らかの形で「調べるサイクル」は回っているものだ。
もちろん、生活上の調べごとの際に、サイクルなどを気にする必要は全くないし、いちいち「まず必要な情報を洗い出して...」などと考えている人がいたら、ちょっと気味が悪い。
しかし、ビジネス上の調べごとの際には、このサイクルを意識しているかどうか、特に①と②、いわゆるプランニングの部分をきちんと行っているかどうかで、その調べごとの効率やアウトプットのクオリティは大きく変わってくる。

情報は能動的に集めるもの、と意識する機会は非常に少なくなっている

前回も触れたが、私たちが情報を自らの意思のもとに能動的に集めるもの、と意識する機会は非常に少なくなっている。
意識せずとも、大量の情報がパソコンやスマホをちょっとさわれば出てくるし、ひとことつぶやけば誰かが教えてくれたり、どこかから情報が集まってくる。
今や、調べるはググるとほとんど同義語となり、「調べるサイクル」の①と②などほとんど意識されない。
というよりスキップされている。何かわからないことがあったら、まずはグーグルを開く、SNSに投稿するなど、いきなり「③情報の獲得」から始まることがほとんどだろう。

調べるサイクルの入り口、プランニングの部分の重要性を説明するのに、逆にサイクルの先のことをまず考えてみたい。

ちょっとググっただけでも見きれないほどの情報が出てきて、いったい何をどうやって選べばよいのか、どこまで探せばよいのか、と悩んでしまうことも多いのではなかろうか。
セミナーなどで「ネット検索の結果を何ページ目まで見ますか?」と会場の方々に聞いてみると、平均的なところで4-5ページといったところ。
もちろん、少なくとも10ページは見ます、という方もいらっしゃるのだが、キリがないので2-3ページしか見ないという人も少なくはない。
そして、どこで見切りをつけるか・次のページを見るのをやめるのかというと、「これでいいかなという情報が見つかったら」「なんとなくもういいかなと思って...」などという答えが返ってくる。

もちろん、ネット検索の結果は何ページ目まで見れば十分である、という基準はない。「これでいいかな」と思ってやめても構わない。
ただし、なぜ「これでよい」と判断したのか、という説明ができるのであれば、という条件がつく。
要は、自分が必要としている情報、自分がやろうとしていることに役に立つ情報が、ある程度の量、手に入れば、検索結果を見るのは1ページで終わりにしてしまってもいいし、納得できないのであれば20ページでも30ページでも見る必要があるということだ。(実際には、ネット検索の結果を何十ページも辿る必要がありそうなら、キーワードを工夫するなどやり方を考えた方がいいとは思うが...)

この、自分にとって必要な情報かどうか、役に立つかどうかの判断は、何のためにその情報が必要なのか、それを用いて何をしたいのか、ということをはっきりと認識し、そのために必要な情報のリストアップを最初にしていれば、それほど難しいものではない。
漫然と何も考えずに検索を初めてしまうから、必要かどうか、足りているかどうかの判断をできるだけの材料がなく、どこでやめればいいのだろう、もっと見た方がいいのだろうか...と考えてしまうのではなかろうか。

調べるサイクルでは「③情報の獲得」と「④検証・判断」を分けているが、実際には情報を手にしたときに、必要かどうか、役に立ちそうかどうかを考え、要るもの・使えそうなものだけを手元に残していくという、同時並行的な手順を経ることになる。ロボット掃除機の例にしても、自分が納得すればよいだけの場合(自分が購入決定できる)と、家族が反対しているので説得しなければならない、というときに、選択すべき情報は異なるはずだ。
例えば、家族の反対理由が、どうせすぐに使わなくなってコストパフォーマンスに見合わないという点だとしたら、今現在どんなに安く手に入るかという情報を集めて提示してもほとんど何の意味も持たないだろう。

どんな情報があれば目的(購入のゴーサインを得る)を達することができるかを明確に意識していないと、見る情報すべてが役に立ちそうな気がしたり、もっと良い情報が手に入りそうな気がしたりして、どんどんネット検索のアリ地獄にはまっていってしまう。
もしくは、情報の洪水に溺れそうになった過去の経験から、最初から家電コンシェルジェのような専門家とおぼしき人の意見に従うことにするとか、フェイスブックで友達に意見を聞いて決めることにする、などと、自分なりに情報の入り口を狭める方法を考えるようになる。

プライベートな調べごとであれば、自分の納得がゆくまで時間をかけてもよいかもしれないし、友達の意見だけを聞くのでもよい。
しかしながら、ビジネスの場ではそうはいかない。
限られた時間の中で、最大の効果を生み出さなければならないのだから、不要な情報をたくさん集めたり、情報を集めてまとめるのに何日も費やしたり、間違った結論に結び付けてしまいかねない情報を選んだり...などというわけにはいかない。
ビジネスにおいて、常にPDCA(Plan/Do/Check/Action)が重視されるのと同じように、情報収集にもプランニングが欠かせない。

忘れられがちな調べるサイクルの入り口が、実はサイクル全体のカギを握っているということがおわかりいただけただろうか。

私の場合、テーマが明確な場合に「とりあえずググる」ことはほとんどない

上記のとおり、情報を選択する基準の第一は、自分にとって必要な情報かどうか、であるが、客観的な判断も一方では大切になる。
それは、誰が発表している情報なのか、どんな調査をした結果なのか、どうやって自分のところに伝わってきた情報なのかという、情報の"身元"だ。情報には、必ず発信者・作成者=情報源があり、そこから他人の手を経て伝播していくと、伝言ゲームと同じく、本来の意味が変わってしまったり、一部の内容のみが伝わってしまったりするケースも多い。
そのため、リサーチ業界においては、情報源に一番近いところで情報を得ることが鉄則とされている。

よく、ネット上の情報は信頼できない、と言われるのは、この身元が不明な情報が多かったり、また、身元が定かで信頼性も高いと考えられる情報とそうでないものが混在し、ぱっと見ただけではわかりづらいからだ。
「○×△と言われている」「×××だそうである」などといったいわゆる引用情報の中から身元の定かな情報を選び出すより、あらかじめ身元がある程度保証されている情報源のサイトをあたったほうが、はるかに効率よく良質の情報を得ることができる。

私の場合、テーマが明確な場合に「とりあえずググる」ことはほとんどなく、そのことに関して情報を作成・発信していそうなところはどこかということを考え、その機関・会社・組織等のホームページなどを見る、という手順をとっている。
これだけ簡単にたくさんの情報が無料で手に入る時代になっても、新聞や雑誌の電子版が有料で提供されていたり、日経テレコンのようなデータベースサービスの存在意義は、まさにそこにある。

ところで、身元の定かな情報源とはいったいどういうものであろうか。
一般的には、政府機関であったり、業界関連団体、シンクタンク、各種報道機関、ということになる。
東日本大震災による原発事故への対応で、日本政府の発表する情報やマスコミの報道に対する信頼度は非常に落ちた。確かに、マスコミの報道が中立的でなかったり、ある種政権の意図が反映されていることがあるのかもしれないし、政府発表の調査結果が計算ミスで修正されることもある。
例えば、今年2月に発表された2012年10-12月期の国内総生産(GDP)速報値は、"推計作業シート上の単純なミス"で、5月に修正された。
しかし、そうは言っても、少なくとも日本においては、ビジネスプレゼンの資料の出典は、経済産業省や日本自動車工業会や日本経済新聞であって、「○×氏のブログ」ではない。(ちなみに、アメリカなどの場合、ジャーナリストが自身のブログでニュースのより詳しい背景情報や記事にはならなかったニュースを書いていることなどもあり、一概にブログだからNGというわけではない。)

日本でビジネスをしている限り、日本の社会通念上信頼性が高いと考えられている情報源の情報を、まず基本としておさえるべきだろう。
それにとらわれすぎる必要も、それだけで他を見なくてよいということでもないが、個人の判断で政府の情報は信頼できないとして、見てもいない・把握してもいないということでは説得力を持たない。
「政府の発表では○○○とされているが、一部の専門家の間では別な見方があり...」などとして、信頼できないと考える理由や背景を説明すべきだ。

ある経営者の方が、情報をひと言でいえば「相手を説得するための材料」と言っていらしたことがある。
情報を見る相手を説得するには、あまたある情報の中からなぜ自分がその情報を選んだのか、を明確に説明できなくてはならないはずだ。
情報を集めるとき、選ぶとき、まとめるとき...なぜこの情報なのか、これで本当によいのか、ということを常に考えていないと、この説得は難しい。

あなたは、先日の企画書になぜそのデータを使ったのか、説明できるだろうか?

$ext_top.ext_col_01}
上野 佳恵 Yoshie Ueno

津田塾大学卒業後、株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンクにて顧客向け情報提供サービスに携わる。のち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてリサーチ業務の傍ら情報センターの整備、トレーニングなどを手掛ける。 2004年にリサーチ関連サービス、コンサルティングを手掛ける有限会社インフォナビを設立。 著書に『情報調査力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)。