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情報活用塾

情報活用Tips Column

第2回 ネット時代に必要とされる情報の選択眼

第1回 ネット時代に必要とされる情報の選択眼

 前回、フェイクニュースなどに踊らされないために、ビジネスパーソンに必要とされるのは情報を見極める眼であるということを述べた。その選択眼を磨くための3つのポイント、(1)情報の身元を意識し確認する(2)ダブルチェック・トリプルチェックの習慣(3)想像力を働かせる―――はいわば、日々の心がけである。何事も一足飛びに専門家にはなれないように、地道に積み重ねているうちに、身についていくものだ。この心がけをないがしろにしてはいけないのだが、一方でビジネスパーソンには効率も求められる。働き方改革が言われ、資料作成などにかけることのできる時間はどんどん減らされている。  今回は、効率よく最短の時間で、資料などの作成の際に必要な情報を得るためのポイントを考えてみたい。

"まずは検索"が生む「非」効率

 何かを調べようと思ったときに、たいていの人はほぼ無意識にネットにアクセスするのではなかろうか。キーワード検索をすればたいていのことはわかるし、SNSでつながった友人からも貴重な情報を得られることは多い。しかし、この"無意識に"というのが最大の落とし穴だ。

 知りたいこと、わからないことがある、から検索をするのであるが、本当に調べるべきことはきちんと意識されているだろうか。たとえば、前回紹介した京都市の人口データ。必要なデータ=京都市の人口、というのは明確であるが、何のためにその人口データが必要なのか、どんな目的のためにそのデータが必要なのかを意識していないと、本来、住民基本台帳人口を見た方がよいのに、国勢調査による人口を使ってしまうことにもなりかねない、というのは説明をした通りだ。

 これが「来週訪問するA社について調べておいて」と上司に言われた場合だったらどうだろう。まずはネットでA社のホームページを開いてみたり、社名でキーワード検索をしたり、というケースが多いのではないかと思う。しかし、この"まずはなんとなく検索"から始めてしまうことによって、実は資料作成全体の効率が悪くなっている。

いったい、何のために調べるの?

 「A社について調べておいて」と言われた時に、まず行うべきはA社のホームページを開くことではない。何のためにA社について調べようとしているのか、を考えることである。「上司に言われたから」ではビジネスパーソンとして失格というのは言うまでもなく、来週A社を訪問する目的は何かという点から、A社について何がわかれば良いのかを考える。

 最近のA社との関係を考えてみれば、「最近A社からの引き合いがないので、あいさつを兼ねて様子をうかがいに行く」、「A社とは最近新しく取引が始まったところで、今後も良好な関係を築いていくため」などなど、訪問の目的はある程度想像がつくはずだ。それに応じて、「最近引き合いがない」のであれば、A社の最近のビジネス展開状況やうちの会社との取引をどう考えているのかを探りたいのだから、新聞・雑誌の記事などからA社の動向、ビジネス展開状況を中心に見ておくべきだろう。

 一方、A社が新たな取引先であれば、売上や業績などの基本情報も必要だし、関係を強化していくために相手の懐に入りこむのに役立つような情報、たとえばA社の社風や社長のパーソナリティなども役に立つかもしれない。

 もちろん、自分でA社訪問の目的を考えることも重要であるが、その想定が上司の本来の目的と一致していないと元も子もない。上司が忙しそうだから、などと気を遣ったつもりでこのすり合わせを行わないと、せっかく調べてまとめた資料もそのために使った時間も無駄になる。逆に、皆さんが部下に調べごとを依頼する立場だとしたら、ただ「調べておけ」というだけでは、自分が必要とする内容とは違う情報が出され、やり直しという無駄が生じかねない、ということを考えておくべきだ。

 言わなくてもわかるだろう、が常に通用するとは限らない。

フレームワークで考える

 A社が最近取引の始まった相手であるとしたら、どのような情報を押さえておくべきだろうか。先ほど「売上や業績などの基本情報」「社風や社長のパーソナリティ」を挙げたが、それだけでよいのだろうか?どんな情報があればA社との関係性を深めるのに役に立つか、と漠然と考え、ランダムに「こんな情報もあったほうがいいかな」と挙げていくと、キリがない。逆に、自分の思考範囲にとらわれてしまい、本来、見ておくべき情報が抜けてしまったりもする。

 知るべきこと、達成すべき目的に対して、どんな情報が必要かを考える際に役に立つのがフレームワークだ。

 フレームワークは、一般的に市場や事業構造を分析したり、思考を整理したりするときに用いられるのだが、実はこれが情報収集や資料作成にも役に立つ。たとえば、ある会社について調べるという時には会社を捉える基本的なフレームワーク「ヒト・モノ・カネ」を考えていけばよい。

  • ヒト=従業員や組織(従業員数、年齢層、雰囲気、社長のパーソナリティ、社風など)
  • モノ=事業内容(主力の商品・サービス、最近力を入れている分野など)
  • カネ=業績動向(売り上げ、利益動向、各種経営指標など)  

 具体的にどのような情報があればその会社の「ヒト」を理解できるか、「モノ」は、「カネ」については?と考えていけば、無駄に同じような情報を集めてしまったり、必要な情報を漏らしてしまったりすることは避けられる。ランダムに「A社についての最近の情報は?」と考えていくと、業績や商品動向は追っても「ヒト」に関係する部分が抜けがちになる。

 

 難しいフレームワークを駆使する必要はない。たとえば、業界調査であれば、図にある4つのフレームワークの組み合わせで十分だ。

4つのフレームワーク

 まずは業界全体をMCC:市場(マーケット)、顧客(カスタマー)、競合(コンペティター)というフレームワークで捉える。そして、市場(マーケット)についてはエネルギーなど政策動向が大きく左右する業界や消費者の健康志向がカギになりそうな市場であれば、社会情勢や法制度・政策などの影響が大きいと考えてPEST(Politics、Economy、Society、Technology)の枠組みで見ていく。また、競合企業について詳しく知りたいと思ったらその企業の「ヒト、モノ、カネ」を押さえ、競合のモノ(商品)戦略が重要となったらマーケティングの基本要素である4P(Product、Price、Place、Promotion)のフレームワークを使えばよいだろう。

 似たような情報ばかりを集めるという無駄や必要な情報を抜かすモレを避けることも、情報収集の効率化の大きなポイントなのである。

"情報の身元"がどんな時もポイントに

 効率的な情報収集のポイントの最後は、前回の繰り返しにもなるが、常に情報源を意識すること。まず、何のサイトにアクセスするのか、検索結果をどうやってどこまで見ていくのか、どんな時にも判断のポイントになるのは"情報の身元"である。

 ある業界や企業について知りたいと思ったときに、日経テレコンで記事検索をするのと、ネット検索をするのでは、出てくる情報の質が違い、結果的に効率が大きく異なってくるというのは、このコラムの読者の皆さんであればお分りいただけていることだろう。効率を考えれば、ビジネスシーンで何かを調べる際に、最初にアクセスすべきサイトは無料検索サイトとは限らない。私の場合、テーマが漠然としていたり、まったく知らない業界を調べたりする時などには最初にキーワード検索をすることもないわけではないが、たいていはまず、1―2年の日本経済新聞の記事とビジネス雑誌の記事を検索し、そこでおおよその状況をつかむことから始める。

 新聞や雑誌の記事になっていない、ネットメディアの情報や時にはSNSの情報も役に立つ場合もあるかもしれない。しかし、A社との取引を考えていくうえで、「口コミサイトでのA社の製品の評価」が参考になるのは、来週の訪問時ではなく、もうしばらく先のことだろう。

 ビジネスで役に立つ情報をまとめているサイトも近年では多い。便利で使いやすく、それらを利用すると一見、効率は高まるように思える。しかし、前回例示した京都市の人口のように、データを使う際には調査の前提や定義などを確認しなければならないのに、その詳細まではサイトに書かれていない場合も少なくはない。データは入手できても、定義を確認するのに手間がかかるのでは意味がない。身元の定かな京都市の人口データを得るのであれば、京都市のホームページを見るのが近道。どんな場合でも、まとめサイトを見れば効率がよいわけではない。

 以上、効率よく最短の時間で必要な情報を得るためのポイントについて述べてきた。"効率化"というと、最新のアプリやサービスの活用を思い浮かべる方も多いかもしれない。しかし、ちょっとした習慣で効率をあげられる部分もたくさんある。(1)目的を明確にする(2)フレームワークで考える(3)情報源を意識する―――。まずは"なんとなく検索"をしない、という意識を持ってみてはどうだろうか。

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上野 佳恵 Yoshie Ueno

津田塾大学卒業後、株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンクにて顧客向け情報提供サービスに携わる。のち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてリサーチ業務の傍ら情報センターの整備、トレーニングなどを手掛ける。 2004年にリサーチ関連サービス、コンサルティングを手掛ける有限会社インフォナビを設立。 著書に『情報調査力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)。