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情報活用塾

情報活用Tips Column

最終回 ネット時代に必要とされる情報の選択眼

第2回 ネット時代に必要とされる情報の選択眼

 "なんとなく検索"をやめ、検索をする前に目的を明らかにし、情報の身元を確認しながら進めることによって、情報収集の効率はあがる。しかし、情報は集めただけで終わりではない。目的に応じて、報告書だったり、企画書だったり、提案書だったり―と、何らかの形の資料にすることが必要とされる。本連載の最終回は、この情報のまとめ方、効率よく効果的な資料を作成することについて考えていこう。

フレームワークを使えば、まとめまでスイスイ

 インターネットの検索をしただけでもすぐにたくさんの情報が手に入り、SNSやニュースアプリなどから刻々と降ってくる情報もある。さらに、企業の中を見渡してみれば様々な種類のデータが存在する。このように、身近にある情報が爆発的に増え、しかも簡単に入手できるようになると、有り余るほどの情報をどうやってまとめるか、ということが問題になってくる。実際、私のところにも最近は「情報をうまくまとめられない...」という相談が増えている。しかし、問題は「まとめ方」にではなく、その前の情報の集め方や集めた情報の量や質にある場合が圧倒的に多いように感じられる。

 たとえば、A社についての最近の動向をまとめようと、会社名で新聞記事検索をしたとする。この1、2年の記事数が100件ぐらいあったとすると、みなさんはそれをどのように見ていくだろうか。キーワードを追加してもう少し絞り込む?見出しから役に立ちそうだなと思う記事を選ぶ?もしかして、とりあえず全部本文を表示・打ち出しをして後でじっくり読んでまとめよう―――などということをやってはいないだろうか。

 前回、必要な情報を漏れなくダブりなく集めるためにフレームワークを活用するとよい、という話をしたが、フレームワークに沿って情報収集を行っていれば、基本的に集める情報はそれぞれの枠の中に収まることとなる。もちろん、ひとつの枠だけに収まり切れない情報も出てくるだろうし、途中で「こういう情報もあったほうが良さそうだな」「これも役に立ちそうだな」と枠から外れた情報を入手しておくこともあるだろう。しかし、フレームワークを意識していれば、大幅に道を外れることはないはずだし、あれもこれもと大量の情報を集めてしまうこともないはずだ。

 入手できる情報の絶対量が限られていたころは、「集めるだけ集めて」→「それを読み込み」→「まとめる」―――という手順でもよかったかもしれない。しかし、これだけ情報が溢れていると、あれもこれもと目移りしてしまってキリがない。たくさんの情報があった方がなんとなく安心なような気がしてしまうかもしれないが、それを読み込むのには集めるのと同じ、いや、はるかに多くの時間が必要とされる。情報を効率的にまとめたいと思ったら、余分な情報を集め過ぎないことが肝心だ。そのためにも、情報を集める前に、目的をきちんと意識してそのためにどんな情報が必要かを明らかにし、フレームワークに沿って漏れなくダブりなく情報を集めていく、ということが重要となる。効率よく資料をまとめられるかどうかは、実は資料に必要な情報の入手の部分が握っている。

過ぎたるは猶及ばざるが如し

 余分な情報を集め過ぎないようにと言っても、それでもやはり手元には多くの資料が集まってくる。それらをすべて盛り込んだ資料を作ると、非常にわかりづらいものができあがってしまう。「資料が見づらい」、「わかりづらい」という原因の多くは、情報量の多さにある。記録として残しておくというような場合であれば、網羅性を重視した数十ページにも及ぶような資料であってもよいかもしれないが、1時間の企画会議のための資料が20ページも30ページもあっては、資料を説明するだけで終わってしまいディスカッションの時間がなくなってしまう。あまりページを増やさないようにと思うと、1ページあたりの情報量が増えて、ごちゃごちゃと何が書いてあるかわからない、何が言いたいのかわからないページが並ぶことになってしまう。

 集めた情報はすべて使いたくなる。時間をかけたり、苦労して集めたりした情報だったらなおさらだし、そうでなくても、肝心の情報が抜けているなどと指摘されたくはないので、念のために―という心理が働く。しかし、それは資料を作る側の都合にすぎない。数十ページに及ぶ資料を渡された人はそれを読む時間はあるのか、チャートが4つも5つも並んだページを見せられたらそこから何を読み取ればよいと思うか―資料の受け取り手、読み手の立場にたってみると、過ぎたるは猶及ばざるが如し、でさえある。

そもそも、ビジネス資料というのは相手に何かを伝えるため、わかってもらうために作るものである。事業や業績の報告、新規事業や新製品の企画、顧客向けの営業用資料、などなど―――それぞれの立場、仕事によって、日ごろ作成する資料のタイプは様々だろうが、それを伝える相手がある、ということは共通している。業務上の資料だから当たり前だろう―と言われてしまいそうだが、目の前の情報をまとめなくてはと一生懸命になると、意外とこの視点が欠けてしまう。そうなると、相手が必要としている内容に沿ったわかりやすい資料、ではなく、自分の想いが詰まった資料、になってしまうのだ。わかりやすい資料を作るためには、相手のことを考え、自分が伝えたいことではなく、相手にとって必要十分な情報を厳選することが欠かせないのである。

相手のニーズをくみ取り 情報を取捨選択・提示

 手にしたたくさんの情報の中から、資料に載せる情報を選ぶ際にも、ポイントとなるのは「相手」である。A社について、どのような情報があれば上司の訪問が実り多きものになるのか、企画書がどんな内容であれば部長が「その企画をやってみよう!」と言ってくれるのか、B社にどんな情報を提示すればうちのサービスを導入してもらえるのか... 資料を提示した先の相手のニーズにマッチした内容でなければ、資料として意味をなさない。

「できる!」資料の作り方・発想法イメージ図

 新規事業を考えていく際に、部長にとっては新規顧客獲得へどのようにつながるかというのが重要なポイントだが、事業部長にとってはそれにかかるコストや人件費と比べた投資効率が最優先、という場合だってあるだろう。そのような場合は、同じ内容の同じフォーマットの資料を出すのではなく、順番を組み替えたり、追加情報を付加したりするなどして、より相手の関心に響く提示の仕方を考えてもよいのではなかろうか。

 相手が何を求めているのか、どんな情報があれば相手に響くのか、ということから考えていくと、たくさんの情報の中から何を選べばよいのかという基準も見えてくる。「日経産業新聞の記事にある内容でOK」とか、「××研究所のレポートを使っておけば間違えはない」と、すべての場合に共通の情報の取捨選択基準というのは存在しない。厳選された内容の効果的な資料を作るために欠かせないのは、相手の状況を理解し、ニーズをくみ取る力、なのである。

AI時代だからこそ、求められること

 本コラムの第一回で、現代のネット社会においては"情報を見極める眼"が必要であり、それを磨くためには、情報の身元=出所と伝達経路の確認、ダブルチェック・トリプルチェックの習慣、想像力がポイントになる、ということを述べた。情報を活用するにも、やはりこの"情報を見極める眼"が欠かせない。ダブルチェック・トリプルチェックのうえで身元の定かな情報を用いていれば、信頼性の高い資料ができ、なぜこの情報なのかということもきちんと自分の言葉で説明ができる説得力の高い資料となるはずだ。そして、相手の真のニーズをくみ取るのには、想像力が欠かせない。

 「まとめサイト」に頼り切ったり、SNSで自分の興味のある情報ばかり拾ったりしているのでは、"情報を見極める眼"は身につかない。今後、スマートスピーカーなどが登場すると、ますます何も考えずに多様な情報を得ることが可能になっていくのだろうが、その状況に安住していては、それこそ人工知能(AI)に仕事を奪われかねない。

「この資料でお客さんに納得してもらえるだろうか」、「この情報で部長決裁がえられるだろうか」、「ウェブサイトに載っているこのデータ、元々どこから持ってきているものなんだろう」、「こんなニュースが流れてきたけれど誰が何のために発信しているの?」等々。ビジネスシーンにおいてはもちろん、日ごろから自分の頭(アタマ)で考え、想像力を働かせることで、情報に翻弄されるのではなく、情報を使いこなしていくビジネスパーソンになろう。

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上野 佳恵 Yoshie Ueno

津田塾大学卒業後、株式会社日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンクにて顧客向け情報提供サービスに携わる。のち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてリサーチ業務の傍ら情報センターの整備、トレーニングなどを手掛ける。 2004年にリサーチ関連サービス、コンサルティングを手掛ける有限会社インフォナビを設立。 著書に『情報調査力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)。