NIKKEI Media Marketing

トップインタビュー

NMM 35th anniversary top interview

  • 第15回 キッコーマン 代表取締役社長CEO 堀切功章様
 日経メディアマーケティングは2018年3月1日、おかげさまをもちまして会社創立35周年を迎えました。その記念プロジェクトとして、4月、お取引先様などとの絆(きずな)を深めさせていただくことを目的に、ウェブサイトを大幅にリニューアルしました。
 その目玉企画として、企業や各界のトップにインタビューをお願いし、みなさまにお届けする連載を始めました。グローバル化やデジタルトランスフォーメーションが加速するなか、ビジネスの革新や働き方改革に向け、今を読み解いて、未来に向けて行動するための視点やヒントを探っていきます。

「No.1バリュー」追い求める 「おいしさ」通じて世界中に貢献したい
キッコーマン 代表取締役社長CEO 堀切功章様

聞き手 日経メディアマーケティング社長  大村泰
堀切功章(ほりきり・のりあき)氏
堀切功章(ほりきり・のりあき)氏
 トップインタビュー第15回目は1950年代から「しょうゆ」をどんな料理にも合う万能調味料としてそのグローバル化を推し進め、1970年代に米国で現地生産を始めるなど、日本企業でもいち早く国際企業として成長してきたキッコーマンの堀切功章代表取締役社長CEO(最高経営責任者)です。江戸時代から続く8つの創業家のうちの1つ、堀切家出身のリーダーとして、社員ひとりひとりに語りかける姿勢を貫きながら、常に、現場を歩き、経営の最前線に立っています。2017年に会社創立100周年を迎え、「長く、高い」目線を持って、次の100年、200年に向けて、2018年度から「グローバルビジョン2030」を打ち出し、さらなる進化をめざす戦略をうかがいました。
プロフィル
堀切功章(ほりきり・のりあき)氏 1974年慶應義塾大学経済学部卒、キッコーマン醤油(現キッコーマン)入社、2002年関東支社長、03年執行役員、06年常務執行役員経営企画室長、08年取締役常務執行役員、11年代表取締役専務執行役員、兼キッコーマン食品代表取締役社長を経て、13年に現職(キッコーマン食品代表取締役社長兼務)。1951年生まれ、千葉県出身

2030年へ新しい価値の創造に挑戦 内外で高付加価値化

--- キッコーマングループ長期ビジョン「グローバルビジョン2030」に込めた「No.1」バリューへの思いをお聞かせください。

 『グローバルビジョン2030』は2030年へ向けたキッコーマングループがめざす姿とその戦略を定めたものです。2030年に向かってキッコーマングループはどこをめざすのか、何をミッションとするのか、作成に向けて2年以上、社内で議論してきました。議論のなかでテーマとして設定したのが、キッコーマンのDNAとも言える「新しい価値創造への挑戦」です。
 この挑戦を実現するために3つの具体的な取り組みを示しました。それが「グローバルNo.1戦略」「エリアNo.1戦略」「新たな事業の創出」です。「グローバルNo.1」はしょうゆおよび東洋食品卸の世界戦略であり、
「エリアNo.1戦略」とはデルモンテがアジアでNo.1、国内豆乳市場でNo.1というように特定のエリアのなかでNo.1をめざす戦略であり、「新たな事業の創出」とは発酵や醸造、食品製造技術をいかした新しい事業分野の確立です。また、今年度から2020年度までの中期経営計画も始まっていますが、いまのところ、順調にスタートを切れたものとみています。
 キッコーマンの成長の継続、収益力の強化のためには国内市場では人口減少や高齢化により、量的な成長が望めないなか、事業の質を上げ、付加価値の高い商品・サービスを提供するとともに、海外でさらに成長を加速させる必要があります。
 
グローバルビジョン2030
※キッコーマン ウェブサイトから

まずは南米、そしてアフリカ、インドでも市場を開拓

 キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にするため、北米、欧州、アジアに続いて、南米やアフリカ、インドなど新たな市場の開拓に取り組みます。まず、2020年代には南米、特にラテン系ローカルの消費者の食文化や料理のなかに、しょうゆを浸透させていくことを考えています。そして、アフリカやインドは2030年代以降、それぞれを成長ステージに引き上げたいと思っています。
連結業績と中期経営計画目標 セグメント別経営指標

コンセプトは「オープンイノベーション」、新研究開発棟19年夏完成へ

--- 2019年には新しい研究開発棟の新設を予定されています。その狙いと、新しい柱の構築に向け、どのように活かしていくかを教えていただけますか?

 これは3つめの戦略である「新たな事業の創出」の前提となるのですが、これまで培ってきた発酵・醸造技術や食品加工技術など内外の経営資源を活用して新しい価値を創造するため、研究開発(R&D)体制を強化するための取り組みです。これまでの建物が老朽化していたこともありますが、新しい建物にする過程で、コンセプトも変えて、活性化させようと考えています。柱は「オープンイノベーション」です。これまでは研究開発が部門ごとに個別に行われ、どちらかというと閉ざされた部分がありました。今回はもっとフリーに議論が行われるようなオープンなスペースを用意します。グループ外の研究者も含め、研究者同士が議論を重ねて、シナジーを生み出す研究開発棟にしたいと思っています。
 基礎的なバイオテクノロジー、新しい食品加工技術分野など、研究の幅を広げていきます。キッコーマングループは発酵・醸造技術を使った調味料づくりを何百年も行ってきましたが、そもそも「おいしさ」をどうとらえるべきなのか、心理的、生理的な概念、研究も取り入れて、いろいろな角度から研究を進めていきたいと思います。研究の幅と奥行きを増していくことで、蓄積されたテクノロジーが食品以外にも活かせるものと思っています。新研究開発棟は2019年夏にも完成する見通しです。

リーダーの基本は「三現」主義 「積小為大」、日々の積み重ねが大事

--- リーダーとして心がけていることや、信条を教えてください。

 基本的には「三現」主義です。「現場」、「現物」、「現実」を大事にするようにしています。机に座っているよりも、生産や販売などの現場に出ていって、直接、見るようにしています。「足で稼ぐ」というわけではないですが、そのほうが仕事としておもしろいし、やりがいもあります。なるべく現場に近いところにいたいですね。海外も含めて極力、時間を作ります。最近は中国に行ってきました。キャッシュレス社会を目の当たりにして、ちょっとカルチャーショックを受けました。
 あとは仕事を進めていくうえでいつも自分なりに考えているのが「積小為大」(せきしょういだい)という言葉です。二宮尊徳の言葉ですが、「小さいことの積み重ねが大きな成功につながる、日々の細かいことをおろそかにしない」ということです。夢やビジョンは大きく描くことが大切ですが、それを達成するには日々の積み重ねだと思います。

--- 社員とのコミュニケーションを大切にしていると聞いています。

 現場の部長、課長あるいは若手、女性などとクラスやグループをわけて、「CEOセッション」と名付けたミーティングを毎年1~3月にかけて、開いています。私が何か訓示をするのではなくて、何か特定のテーマについて、社員が話し合う、それに対して、私がコメントするというスタイルで、CEOになってからずっと続けています。彼らが普段考えていることが分かりますし、私の考え方がじかに伝わります。なるべく「伝言ゲーム」にならないように、直接、接する機会を設けています。1グループ20人ぐらいです。最近は少し減りましたが、同じ層を集めると、共通の課題がありますので、職場で抱えている課題だとか、出てきたものを取り上げ、それをみんなで話し合います。ずっと継続していきたいですね。
堀切功章(ほりきり・のりあき)氏

より良いものにして次の世代へ 創業家DNA「目線は長く、高く」

--- キッコーマンはこれまでも創業家の方が経営トップを継ぐケースが多く、「DNA経営」と言われています。

  私自身、あまり創業家出身という意識はないのですが、振り返って、自分のことを考えてみると、やはり先人の方々の功績のおかげで、今日があると思っています。「現在を担当する者の使命は先達から受け継いだものを、より良いものにして、次の世代につないでいくこと」という言葉を大事にしています。自分の代だけ良ければいいということではなく、先代からつないできたものをより良くして、世代間で「たすきリレー」を行って、つないでいこうという考え方です。
 ステークホルダーとの関係では、目線を長く、高く、保つこと、つまり長期にわたる視線で経営していることを伝えています。株主には「短期的な業績ではなく、長い目で見ていただきたい」ということを申し上げています。キッコーマンは会社としては昨年創立100周年を迎えましたが、個人経営時代から数えると350年の歴史があります。いまの我々の思いは「次の100年に向け、今年がその1年目である」ということです。その過程に先ほどの「グローバルビジョン2030」の目標があります。企業の寿命30年説から見れば、そんな先のことは分からないと言われるかもしれません。しかし、100年前、もしくはその前から、100年、200年先の未来を見据えて経営を行ってきたという自負があります。その意味では、長期の視点で先を読むというDNAは私の中にも受け継がれているといえます。

産休・育休など早くから導入 「サマータイム」も今年試験実施

--- 「働き方改革」や「ダイバーシティ」、「ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)経営」などへの取り組みはいかがですか?

 キッコーマンは歴史がある会社だけに、体質も古いのではないかと思われるところがありますが、実は産休制度や育休制度などの諸制度はかなり早くから導入しています。たとえば、かつて、工場で働く女性社員のために、社内に保育園を設け、小さなお子さんのいるお母さんが働きやすい環境を提供していました。また、介護休暇制度は法律が施行される20年以上前の1978年に導入しています。食品会社では唯一、病院を経営しています。昔は働く人たちのための「養生所」でした。それを大正の初めに病院に変えて、現在では、地域の総合病院です。訪れる9割以上が一般の地域の方々です。
 「働き方改革」では在宅勤務の導入に取り組んでおり、社員約1,300人を対象に、月4回まで取得できるようにしています。年休制度も使いやすいものにしました。年休取得を段階的に1日単位から半日単位、さらに1時間単位でできるようにしたのです。年休取得を1時間単位にすると、個人の自由度が高くなります。お子さんをお持ちの方は学校のPTAの集まりなどに参加する場合、従来の制度では半日休暇を使わなければなりませんでしたが、時間単位で休みが取れるため、年休を有効に消化できます。
 今年は7月から8月の間、試験的にサマータイムを導入しました。導入に関しては社内でも賛否両論がありましたが、いま、成果について、社内でアンケートを採っています。その結果次第で、来年も導入を続けるかを考えます。サマータイム制を導入したことが「やっぱり良かった」という意見もあるでしょうし、その逆もあるでしょう。実際にやってみなければ、その結果を社員も実感できません。机上の空論でなく、実際に試してみて、意見を吸い上げる。そういう「ゆらぎ」を起こしていくことが必要と思っています。
 「ダイバーシティ」に関してはこれまで話してきましたように早くからグローバルに事業展開していますし、今後もさらに進めていきます。さまざまな国籍や性別、年齢、障がいをお持ちの方々など、すべてを包括して「ダイバーシティ」に対応する必要があると考えています。それが企業の多様性につながり、企業力を高めていくからです。
 「ESG経営」には長期的な経営展望のなかで、いかに事業を通じて社会の課題を解決できるかを考え、実行していきます。SDGs(国連の持続可能な開発目標)について「環境」「人」「食」の3つを大きなテーマとして、キッコーマンらしいやり方で社会の課題の解決に取り組んでいきたいと思います。

異文化への適応性、自立型人材を求める 失敗恐れないこと

--- 求められる「人材」、若い世代へのメッセージをお願いします。

 グローバル化を推進するにはやはり異文化への適応性が高い人材、そして自立型の人材です。海外勤務では地域によってはワンマンオフィスのところもあります。相手はみんなローカルの人であり、すべて自分でやらなければならないところもあります。そのため、自ら考えて、判断し、行動できる自立型の人材が求められます。実際にそれをやり遂げた人は一段と大きく成長します。人材教育に関しても、同じ視点で、常に自分で考え、判断し、行動ができるような人材育成を進めています。
 若い人には失敗を恐れないで挑戦をしてほしいと思います。失敗を恐れて、そこそこの仕事をするよりも失敗しても次の成功につながるような仕事をしてほしい。そのためには挑戦することが必要です。挑戦しなければ、失敗もしない代わりに、成功もしません。若いうちにする失敗はたいしたことではありません。逆に、若いうちにどんどん失敗しないと、歳をとって失敗するリスクが大きくなります。
 海外勤務を志望する若い人たちが増えてきましたが、外国語の能力はそれほど重視しません。たとえ、言葉ができても、仕事ができない人は海外に出しません。言葉ができなくても、仕事ができる人はどんな国や地域に行っても適応できます。言葉は自然に後からついてくるものです。国内でいい仕事をしている人は言葉が全然、話せなくても、海外に赴任してもらうケースはたくさんあります。

東京五輪、縁あって「空手」の応援 ジムで週2回体動かす

--- 東京2020オリンピック・パラリンピックではオフィシャルパートナーのほか、全日本空手道連盟とのオフィシャルスポンサー契約を結んでいます。

 私は大学ではスキーをしていましたが、慶應義塾高校の時は空手部でした。当時の高校の空手部は大学のジュニアのような位置づけで、週5日のうち高校生だけで練習するのは1日か2日、後は大学生と一緒に練習していました。その時の大学のキャプテンが世界空手連盟事務総長の奈藏稔久さんです。私にとっては“神様”みたいな人で、そういう縁もあり、空手競技のオフィシャルスポンサーになりました。実はそれが決まったころは東京2020オリンピック・パラリンピックの競技種目に選ばれていませんでしたが、和食の調味料であったしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料に育てることをメインに国際展開してきたキッコーマンとしてイメージはぴったりだと考えました。2018年のアジア大会の空手の型で金メダルを取った清水希容さん、組手の金メダルの荒賀龍太郎さんの2人をサポートすると同時に、空手競技全体を応援していきます。清水選手と荒賀選手が世界選手権で優勝した際、2人の道着にキッコーマンのコーポレートマークを見たときはうれしかったですね。

--- 趣味、リフレッシュ方法を教えてください。

 社長になるまえは趣味としてスキーと答えていましたが、いまはリスクを考えてやめています。それでも体を動かすことが好きです。週に2回、ジムに行って泳いだり歩いたり体をほぐしたり、動かしています。ジムにはだいたい1回2時間ぐらい、土日に1回、平日1回です。そんなペースです。後はゴルフです。
(左)堀切功章(ほりきり・のりあき)氏<br />
(右)大村泰
(左)堀切功章(ほりきり・のりあき)氏
(右)大村泰
(掲載日 2018年12月5日)

35周年記念「トップインタビュー」