Luca Orsini(ルカ・オルシニ)氏 2017年から2020年まで北東アジア地域のネットワーク責任者を務め、中国・日本・韓国・台湾・香港・マカオ各国でエリクソンの製品およびソリューション強化業務に携わりリーダーシップを発揮してきた。2001年以降、日本およびアジア地域において多様な責任ある役職を歴任。1999年、エリクソン イタリアにシニアシステム・テクニカルサポートエンジニアとして入社。2020年2月12日より現職。ソフトバンク事業統括本部の本部長も務める。ローマ・ラ・サピエンツァ大学 電子工学修士。
野崎 哲(のざき・とおる)氏 1961年生まれ、1983年早稲田大学法学部卒業。1983年、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。国際市場向け営業・マーケティングに従事。1997年、モトローラ日本法人のネットワーク事業部ディレクター。営業、マーケティングおよび事業戦略などに従事し、同社のネットワーク事業拡大に貢献。2011年、エリクソン・ジャパンに入社。執行役員として新規事業の開発に携わる。2014年2月14日より現職。
野崎社長
当社も日本で5Gが普及期に入った段階と受け止めています。日本で5Gのサービス開始から3年経過していますが、最初の2年は出足が遅れました。東京オリンピックも延期になるなどスタートダッシュできませんでしたが、最近では人口カバー率も90%近くになり、これから勢いが増してくるだろうとみています。
すでにスマートフォンを中心としたモバイルサービスは日々の生活に必要不可欠なツールです。5Gはその利便性をさらに高めます。5Gは4Gよりさらに高速・大容量通信が可能になり新しいユースケースが生まれます。ビデオのユーザー体験一つとっても、今までより遥かに人の感性に訴えるものが出てくる。現実と仮想世界を融合したXR(クロスリアリティ)やメタバース(仮想空間)といった新しいユーザー体験を提供できるプラットフォームともなります。
産業界でもスマートファクトリーやドローンの遠隔操作、医療においては遠隔医療、さらに通信機能をフル活用するコネクテッドカー(つながる車)など多様な分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)に活用されていくでしょう。大切なのは、これを単体で運用するのではなくエコシステムとして作り上げていくことです。工場一つに特化した形で作ってもそれだけではコストがかかります。そこで水平展開してグローバルに使っていただけるようにすることが普及の大きなポイントだと思います。
当社はグローバルにビジネスを展開していますので、他の市場での知見も含めて、お客様に提供していきたいと思っています。世界では、この5月時点で239の5Gネットワークが動いており、そのうちエリクソンが提供させていただいているものが147件あります。これらの知見、新しいユースケースを日本のお客様と共有していきます。
日本ではスマートファクトリーを計画する場合、通信会社の公衆回線を活用するより、ローカルなプライベートの5Gネットワークを志向するケースが多くあります。こうしたお問い合わせが増えていることも、本格的な普及期を迎えてきた証といえるでしょう。
オルシニ社長
私自身、20年間、日本のテレコム産業とかかわってきました。これまで日本は2G、3Gと技術シフトが起こる際、世界でもいち早く通信環境を作り上げていく、リードしていくポジションにいたと思います。今回、日本が初めて他のマーケット、例えば北米、韓国、中国などに先行を許している状況です。したがって日本の通信会社、メーカー、政府・関係省庁が連携し5Gのメリットを享受する環境をつくる、そのお手伝いができればと考えています。日本は目標をきちんと設定すれば、迅速に実現するポテンシャルがあります。現在のギャップをいち早く解消できる可能性は十分にあります。
野崎社長
「デジタルツイン」であれ「エッジコンピューティング」であれ、いずれもお客様に5Gをどうお使いいただくか次第です。当社はお客様である通信会社と連携しながら、これらの手法を日本のメーカーさんのビジネスにどう活用していただくかを考えていきます。「デジタルツイン」はスマートファクトリーで活用されています。エリクソンの工場も同様で北米、エストニア、中国、ブラジルの工場をすべてスマートファクトリー化しました。自前の5Gシステムを使い、生産プロセスをどう変えれば生産性がどれほど向上するかをデジタルツインで作った仮想環境で検証して、実際の工場の生産ラインに反映させていく仕組みがあります。これを日本のお客様に活用していただくことが一つのソリューションです。
オルシニ社長
こうしたソリューションは日本で非常にポジティブな領域だと思います。製造業の現場は日本が非常に強みを持つところですし、品質も製造プロセスも高い水準にあるからです。本格的に提供するタイミングは世界情勢なども踏まえて検討する必要はありますが、人手不足に悩む製造現場にとっては、こうした新しい技術は非常に有効になると思います。先ほど、エリクソンの工場で人員効率が3分の1になったという話がありましたが、5Gを基盤とした新しい技術は労働力の補完という意味でも産業界のお役に立てると思います。
※1=仮想空間に現実の環境を再現する概念や技術。シミュレーションの精度を高める有力な選択肢とされる
※2=データ処理・分析を担うサーバー機能をコンピューターネットワークの端(エッジ)にある端末や端末付近に配置する技法。中央に集中させるよりデータ処理の負荷や遅延を軽減できる
※3=通信ネットワークを仮想的に分割(スライシング)し、スマホやコネクテッドカーなど用途ごとに最適な通信環境を提供する技術。5G通信の効率的な運用を目的としている
オルシニ社長
エリクソンにとって非常に重要な課題です。プロダクトの開発だけでなく、社会における企業のポジショニングを左右するテーマです。会社としては2040年までにネットゼロ(二酸化炭素排出の実質ゼロ)を達成するという目標があります。これを実行し、きちんと評価するため短期的なターゲットを設定しています。お客様の拠点においては2025年までに二酸化炭素(CO2)の排出、パワー消費の40%削減、当社のサプライチェーンでCO2排出を36%削減することを目指します。
この達成に向けて3つの具体的な取り組みがあります。まずはエリクソン自身の企業活動に関する分野です。製造・サプライチェーンの領域でエネルギー消費、CO2の削減に努めますが、その一例が北米工場のケースです。製造効率を高めるほか、使うエネルギーも100%を再生可能エネルギーで賄います。再生可能エネルギー100%を達成しているのはブラジル工場、中国工場、エストニア工場なども同様です。また、AI(人工知能)、ロボットを活用して人に依存する業務を最小限にしていきます。これによりOHS(労働安全衛生)の評価基準も上昇しています。
次は各国の通信会社様に提供している当社の技術・システムによりお客様のオペレーションを効率化します。ここ数年、エネルギーの上昇曲線をブレイクする取り組みをしてきました。飛躍的に増大するデータ、それに伴いネットワークのパフォーマンスが高まる中で、必要なエネルギーが増えかねないところ、逆に消費量を削減しています。エリクソンが開発する ASIC(特定用途向け半導体)、そして高度なソフトウェアのソリューションという2つの要素がこれを実現しています。最新の例として台湾のあるネットワークではダウンリンク、アップリンクとも速度が3割高まっているのに対し、エネルギー消費は3割低下しました。
また3つ目としては多くの産業、業界の方々に当社のデジタルソリューションを提供することで、環境・社会・経済面でのサステナビリティ(持続可能性)をさらに広げていきます。ソリューションの効果によりCO2の排出が15%減っているという調査も出ています。
野崎社長
サステナビリティ、脱酸素では、スウェーデンというお国柄もあり世界に先駆けて取り組んできました。その意識も非常に高いですね。エリクソンが最初に環境に関するレポートを発表したのは30年前、1993年になります。その後、国連がSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を策定しましたが、この策定作業にもエリクソンが参画しました。2040年にネットゼロという目標を掲げる企業は大変多いと思いますが、その取り組みの具体性は、今申し上げた通りです。工場のオペレーションもそうですし、製品やソリューションを通じて脱炭素の取り組みを支援できると考えています。
野崎社長
エリクソンというのは「(創業者の名前である)エリック(Eric)の息子」という意味です。そこでエリックにドッター(娘)を付けて「Ericsdotter」と命名しました。女性が働きやすく働き甲斐のある組織づくりのための活動です。
ジェンダーのダイバーシティに関しては、コロナ禍でリモートワークを取り入れ、今はハイブリッド型の勤務形態に移行しています。これを活用すれば、女性に限らず働きやすい環境を提供できると考えています。例えばリモート環境を活用して子育て世代の従業員がストレスを感じずに仕事ができるのではないか。長くエリクソンで働いていただけるような環境づくりを「Ericsdotter」を通じて強化していきたいと思います。
こうしたコミュニティの存在は非常に大切です。部門を超えた女性の方々との対話を通じ「こう改善しよう」とか、「こういう働き方がしたい」といった声を集約してもらうことで、我々へのフィードバックもタイムリーになります。
オルシニ社長
もう一点、エリクソンとしては非常に重要なものと位置付けているのは、社会に貢献し、障害のある方々をサポートしていくということです。これがエリクソンのエンゲージでもあります。全世界でさまざまな活動をしていますが、エリクソン・ジャパンでは、障害のある方々が働ける屋内農場「Hoppas Farm」(※エリクソン・ジャパンのWebサイトを表示します)を運営しています。
ここではハーブを育て乾かし、ハーブティーのティーバッグを作っています。これを社内で使っています。これはスウェーデン語で「希望」を意味する「Hoppas」に「Farm」をつけた名前にしました。また、エリクソンのオフィスの中でも障害を持つ方々が働いていらっしゃいます。サステナビリティと、社会におけるクオリティは非常に重要であり、これからも企業として投資を惜しみません。
野崎社長
言うまでもないことですが、データというのは非常に重要なビジネスのアセットです。求められるのは3つだと思います。まずは正確な事実に基づいたデータ。2つ目は信頼のおけるデータ。出所も含めてですね。3つ目はリアルタイム性です。
ウェブサイト上で、クリック一つで最新のデータが見られるようになっていることは重要です。例えば、こういうデータを使いたいという利用者がいる場合に、プッシュでもいいですし、ワンクリックでもいいので、常に最新のデータがユーザーに届けられるような環境の重要度が増してくるのではないかと思います。
オルシニ社長
ビジネスで決断する際、データが非常に重要です。通信会社様とのビジネスなら我々はどこからデータをとってくればいいのか分っています。ただ、個人様向けのビジネスも広げていく目標もあります。このため製造セクターで増えているデータ、弱点や見逃されているポイントを探るような、そんなデータ領域に関心がありますね。