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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

グランドセイコー、世界高級ブランドへ手応え デジタル化は多角化の追い風
セイコーホールディングス 代表取締役社長 中村 吉伸様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング会長
  大村泰
中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏
中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏
 トップインタビュー第45回は、2021年に創業140周年を迎えるセイコーホールディングス代表取締役社長の中村吉伸様です。主力のウオッチ事業において、世界的な高級ブランドへの飛躍をめざす「グランドセイコー(GS)」を軸に国内外で高価格帯へのシフトを進めるとともに、電子デバイス事業やシステムソリューション事業の強化など経営の多角化をけん引するリーダーです。新型コロナウイルス感染症の拡大との厳しい戦いのなかで見つけたGSブランド成長への確信と、デジタル化への熱い想いを語っていただきました。
※2021年2月19日インタビュー当時の内容をもとに構成しています。
プロフィル
中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏 1972年慶應義塾大学工学部を卒業後、精工舎(現・セイコークロック)入社。セイコークロック社長などを経て、2008年セイコーホールディングス専務、2012年現職。2021年6月に取締役副会長(予定)。1949年生まれ、千葉県出身

コロナ禍で厳しい国内需要、海外はイーコマース軸に善戦

--- 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、時計業界は厳しい局面に立たされています。現状をどのようにみていますか。

 新型コロナウイルスの影響がここまで来るとは思いませんでした。経営者としては言ってはいけないのかもしれませんが、「想定外」のうえに「想定外」でした。2020年度第三・四半期(10~12月)に入るころには影響が収まり、これからという状況だっただけに、年明けの緊急事態宣言に至り、不透明感が強まってしまいました。
 セイコーは国内、海外ともに高価格帯へシフトしているなかで、特に、国内ではシニア層が外出を控えるようになった影響で、リアル店舗での販売が苦しいですね。

グランドセイコー、日本的な美しさを象徴するブランドとして定着 米国、欧州から中国へ

 一方、海外はコロナウイルスの感染は国内よりひどい状況ですが、米国、そして欧州、中国で意外と善戦しています。お客様もイーコマース(EC、電子商取引)に慣れていることから、我々がイーコマースを強化してきた戦略も奏功し、売れ行きはいいようです。
 米国で「グランドセイコー(GS)」が高級ブランドとして認知されてきたことが、欧州や中国へとワールドワイドに広がってきた手応えを感じています。また、グランドセイコーのほかに、ダイバーズウオッチなどのブランドである「セイコー プロスペックス(Prospex)」の人気が高まり、両輪となって、善戦しています。海外の落ち込みは少ないです。
 GSは2020年に60周年を迎えた歴史のあるブランドです。ただ、当初は「実用時計」としての最高峰という位置付けでした。しかし、現在は日本の匠(たくみ)の技を追求した「本物」としての高級ブランドへ転換を図っています。精巧なつくり、装飾、加工、装着感、部品ひとつひとつを手作りにより組み立てている点などをアピールしています。四季の変遷を織り込んだモデルなど、日本的な美しさを象徴するブランドとして定着しつつあります。
 スイスやフランスなど欧州の高級ブランドとは違う価値が認められてきました。

国内でも販売改革、デジタルシフト進める DX推進室に期待

--- コロナ禍は海外に比べて国内への影響が大きいということですね。

 イーコマースへの慣れの違いが大きいのでしょう。特に、シニア層からは百貨店や専門店など店頭での丁寧な「おもてなし」を高く評価いただいているため、イーコマースにはハードルがあるのかもしれません。国内については、アジアを中心としたインバウンド(訪日外国人)需要の復活はまだ1年半から2年先でしょうから、しばらくは厳しい状況が続くと思います。国内でもデジタルテクノロジーを駆使し、イーコマースを軸としたマーケティングやプロモーション、販売施策へシフトするなど、改革に取り組んでいかなければならないと考えています。
 DX推進室をセイコーホールディングスに設置し、セイコーウオッチにも同様の組織を作って連携しています。セイコーウオッチ本社内にデジタル・スタジオを設けて、新製品の発表をオンライン形式でも始めました。リアル店舗の取り組みとして、グループ会社で銀座のランドマークである和光本館にGS専門の売場「GSブティックフラッグシップ和光」をオープンしました。じっとしているわけにはいきません。リアルの販売ネットワークを維持しつつ、まず、若い世代を意識してデジタルシフトを進めていきます。

岩手・雫石に木造建築のGSスタジオ 周囲の自然と調和 匠の技を体感 SNSなどで発信

グランドセイコースタジオ 雫石 webサイト
 2020年7月、岩手県雫石町にGSの機械式時計を製造する「グランドセイコースタジオ 雫石」を作りました。(新しい国立競技場を設計した)建築家の隈研吾氏に設計を依頼し、木造にこだわり、「虹の街」といわれる周囲の自然ときれいな空気に調和した工房です。匠の技を持つ職人たちが精魂込めて、手作業で時計を組み立てています。
 見学スペースや組み立てを体験できるセミナールームも用意、職人がピンセットで200以上ある小さな部品をひとつずつつまみながら作り上げていく姿は感動します。コロナの影響で公開は控えめですが(※)、webサイトやSNSで世界に発信しています。
 職人たちの世代交代、ノウハウ継承を常に課題と認識しており、若手も採用しながら、着実に人材を育てていきたいと考えています。
 海外でも2020年3月、パリの高級ブティックが並ぶヴァンドーム広場にGSブティックを出店することができました。ヴァンドーム広場への出店は難しいとされていましたが、竹を使い、日本らしさを醸し出した店舗が好評です。米国ではコロナ前にGS専門の販売会社を立ち上げ、高級ブランドの販売経験豊富なマネジャーをスカウトしてチームを作り、高級流通に参入していきました。2020年5月までの1年間、米国男性用ウオッチの小売価格5千ドルから1万ドルのカテゴリーでGSは売上金額4位にランクインし、いよいよ注目が高まってきたところです。
 米国の勢いが欧州、中国に広がっているからこそ、海外の善戦があるのだと思います。コロナがなかったら、もっといけたと思いますが、日本のものづくりが評価されています。

(※)新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当面の間、一般公開を見合わせております。
   予約受付の開始時期につきましては、グランドセイコー公式webサイトにてあらためてご案内いたします。
   公式WebサイトURL:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/studio-shizukuishi/

三本柱の強化へ、システムソリューション事業成長 デジタル化の流れに乗る

--- 2019年度からスタートした第7次中期経営計画(3年間)は2021年度、最終年度を迎えます。その手応えと展望を教えてください。

 セイコーホールディングスグループは長らく、ウオッチ事業と電子デバイス事業の二つを柱にしてきましたが、三本柱とすることで経営を安定化させようと、もう一つの柱としてシステムソリューション事業に力を入れてきました。
 歴史は古いが規模の小さかったシステムソリューション事業ですが、着実に育っており、足元ではデジタル化の流れに乗り、予算通りの実績をあげています。コロナ禍による在宅勤務、リモートワークなど働き方改革の波が来ています。特にストックビジネスと多角化に注力し、これが経営の安定化につながっています。
 中期経営計画については主力のウオッチ事業がコロナの影響を受け苦戦しており、全体では目標からはずれるかもしれませんが、電子デバイス事業は水晶部品や半導体関連を中心にパソコン、スマートフォン、ゲーム機向け需要の高まりで好調ですし、自動車用精密加工部品も一時落ち込みましたが、現在は復活しているようです。強いて言えば、プリンター関連は小売り、飲食店向けが苦戦しているなど、でこぼこはありますが、総じて善戦しているのではないでしょうか。
 コロナ禍に限らず、為替変動や金融危機など外部環境の変化に強い経営体質へと強化を進めてきました。その成果は着実に表れていると思っています。
セイコーホールディングスのwebサイト
セイコーホールディングスのwebサイトへ移動します
セイコー創業140周年特設サイト
 2021年は創業140周年の記念の年であり、夏以降になるかと思いますが、なんらかのイベントを実施したいですね。ウオッチではすでに、いくつかの記念モデルを発表しています。セイコーホールディングスグループには全社員に勇気を与え続けてくれる「常に時代の一歩先を行く」という創業者の言葉があります。この言葉をあらためて実感しながら、ステークホルダーすべてにエネルギーを与えるきっかけとなればと考えています。

事業会社と同じ目線で、えらぶらず、謙虚に できるだけ任せる

--- セイコーホールディングスのトップとして心がけていることを教えてください。

 「ホールディングス」という特殊な雰囲気をできるだけ醸し出さないよう心がけています。組織上、セイコーホールディングスは親会社という位置付けとはなりますが、事業会社と同じ目線に立つこと、できるだけえらぶらず、謙虚に、上から目線ではなく事業会社が話しやすい環境をつくることが大切だと思っています。セイコーホールディングス社員にも、そのように指導しています。ホールディングスから事業会社へ異動することもありますし、いろいろな経験を積んでほしいので、(ホールディングスと事業会社の)人材交流は積極的に進めています。
 また、部下にはできるだけ仕事を任せるようにしてきました。そうでないと(人材も組織も)育ちません。要所要所では報告するように、悪い報告はすぐ、いい報告は後でもかまわないと伝えています。

大切な「一所懸命」、ワンランクずつ進化を 若い人は失敗を恐れずチャレンジを

--- 若い世代へのメッセージをお願いします。

 入社式などで強調しているのは「一所懸命」という言葉です。与えられた場所で与えられた仕事を一所懸命にやってもらいたい。希望通りの仕事や部署でなく、不本意に感じることがあるかもしれませんが、会社に無駄な仕事はありません。調べていくと奥が深いものです。必ず、経験が生きてきます。与えられた仕事に全力で取り組み、ワンランクでも上がっていく。いずれ配置転換もあるでしょう。ワンランク上がって異動するのと、そのまま移るのでは、雲泥の差があると思います。
 これには私自身の反省もあります。大学で管理工学(コンピューター)を勉強しましたが、精工舎(当時)入社後の最初の配属先は、思いもよらない経理部門でした。机のなかに「そろばん」がありました。まったく使えませんでしたが(笑)。経理の仕事に身が入らず、まったく勉強もしないまま、2、3年後に工場の経理部門に異動することになり、本当に困りました。工場では「経理に若手の切れ者がくる」と言われていたそうですが、実際は知識も経験もなく苦労しました。その後必死に勉強しましたが、いまでも入社直後からしっかり仕事に取り組んでいれば人生が変わっていたのではないかと思うことがあります(笑)。
中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏
中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏
 それから、若い人には失敗を恐れず、チャレンジし続けてほしいということもお伝えしたい。若いってすばらしいことです。なにより、失敗が許されますし、それどころか評価されます。私が失敗したら許されませんよね。失敗が後から生きること、糧になることを知ってほしいです。この2つは経験から言えることです。

趣味の将棋、初段をめざす スポーツ観戦でワクワク 奥深さ感じる

(右)中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏<br />
(左)大村 泰
(右)中村 吉伸(なかむら・よしのぶ)氏
(左)大村 泰

--- ストレス解消法やご趣味を教えてください。

 「趣味は将棋です」と言えるよう、初段くらいにはなりたいと思っています。時間ができれば、教室にも通おうかと思っています。
 スポーツ観戦はいいですね。2月の全豪オープンテニスで優勝した大坂なおみさんはすごかったですね。しばらくは彼女の天下が続くのではないでしょうか。ワクワクしますね。プロ野球も楽しみです。今年はニューヨーク・ヤンキースから田中将大投手が楽天イーグルスに戻ってきます。大きくなって、成長して凱旋ですね。どんなピッチングをするのか、特に、注目しています。
 また、大相撲も好きです。いまは誰が優勝するかわからない、戦国時代です。それはそれでおもしろいです。相撲は何度か仕切り時間があって、間があって、仕切りを何度も繰り返すなか、力士たちの気合が徐々に盛り上がっていくんです。そして、立ち会い、ぶつかったとき、ものすごい音がします。奥が深いです。
 (自社に所属する)陸上・短距離の山縣亮太選手には(100メートル走で)早く10秒を切ってもらいたいですね。
(掲載日 2021年3月26日)

トップインタビュー更新停止のお知らせ

 2018年4月から3年間にわたって、連載してまいりました「トップインタビュー」は今回をもって更新をいったん停止します。ご愛読を深く感謝するとともに、あらためて、インタビューに多大なご協力をいただいたみなさまに厚く御礼を申し上げます。
 なお、しばらくはアーカイブページとして閲覧いただけるようにしてまいります。

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