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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

地域・取引先とともに成長 ESGなど新しい視点も活用
尼崎信用金庫 理事長 作田 誠司様Adobe PDF file icon

作田 誠司氏
作田 誠司氏
 トップインタビュー第48回は、「あましん」の愛称で親しまれ、兵庫県の阪神地区を中心に中堅・中小企業、個人事業者、個人向けリテール金融機関として確固たる基盤を持つ尼崎信用金庫理事長の作田誠司様です。新型コロナウイルス感染拡大禍(コロナ禍)のなか、創業101年を迎えた2022年度に3カ年事業計画をスタート。創業の原点「地域の顧客とともに成長する」を守りつつ、ESG(環境・社会的責任・企業統治)やSDGs(国連の持続可能な開発目標)など新しい視点をいかしたアイデアあふれるサービスの提供に取り組むリーダーです。求められるサービスの高度化、専門化、多様化に応えようと組織の先頭に立つリーダーシップの真髄をうかがいました。
※2022年11月1日インタビュー当時の内容をもとに構成しています。
プロフィル
作田 誠司(さくだ・せいじ)氏 関西大学第一中学・高校を経て、1985年、関西大学商学部卒業後、尼崎信用金庫入庫。総務部専門部長 兼 総務部秘書課長、宝塚支店長、秘書室長、総合企画部長などを歴任。2011年、執行役員・総合企画部長、2015年、常務理事執行役員を経て2016年6月理事長就任、2020年6月兵庫県信用金庫協会会長、2022年6月からは近畿地区信用金庫協会会長を務める。1963年生まれ、兵庫県尼崎市出身

3カ年計画、創業101年の原点を意識 これから加速度的な進捗期待

--- コロナ禍が収束しつつあるといわれていますが、今年度から3カ年事業計画がスタートしています。足元の事業環境、進捗状況はいかがですか。

 取引先のなかにはコロナ禍を乗り越えようとしているところがでていますが、資金需要は両極端、いいところも悪いところもあります。今後はゼロゼロ融資※の返済も始まり、資金繰りにご苦労される取引先もでてくるのではないでしょうか。昨年、創業100周年を迎え、100年前の1921年を振り返る機会となったのですが、当時もスペイン風邪が大流行し、第一次世界大戦後、地域の取引先が大変、苦労されている時代でした。あらためて、信用金庫の原点や役割を実感しました。自分たちだけでできることには限界があり、行政やほかの金融機関、取引先企業としっかりと連携し、次の時代に向けて「地域と取引先とともに成長していく」ことがキーワードとなりました。
 3カ年事業計画はこうした原点を意識してスタート、半期(6カ月)が過ぎましたが、(計画に合わせた)機構改革が7月だったこともあり、(年間目標の)50%以上できているかといったら、なかなか言い切れませんが、これから加速度的に進捗していくものと期待しています。

 ※ゼロゼロ融資=新型コロナウイルス禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する仕組み。当初、政府系金融機関が手掛けていたが、2020年5月からは民間金融機関でも融資できるようになった。民間金融機関の受け付けは2021年3月末に終了した。

新しいかたちの「伴走支援」、顧客に先んじて課題を見つけて解決策提案

--- あましんの役割としてお客様に対する「伴走支援」という言葉を使っていますね。

 取引先を十分に理解し、日ごろの付き合いや会話のなかで、事業内容や経営環境、経営者の人柄や性格まで知ったうえで、悩みや課題を聞きながら、相談に乗り、一緒になって解決策を考えることが、あましんのめざす中堅・中小企業、個人事業者支援です。こうしたコンサルティング活動は地域貢献活動とならぶ事業の二本柱です。
 ただ、最近では待っていてはほかの金融機関からもいろいろな提案がきますから、待っているだけではだめです。逆に、お客様の課題をこちらが見つけて、先んじて提案していかなければいけません。取引先は卸・小売りなどから製造業、そして不動産、建設などまんべんなく業種は広がっており、いろいろな業種に対応できることが求められています。お客様のニーズも高度化、専門化し、役割もかなり広範囲になっていることを実感しています。
 地道な訪問を続けて、現状の課題をヒアリングするところから始まります。事業承継や新規事業参入、環境対策などテーマを決め、アンケート調査をして実態を把握することもあります 。そして、どんなサービスを提供できるのか、あましん自身も研究し、外部の専門家と連携しながら、毎年毎年、引き出しを増やしてきました。こうしたスキームは競合している金融機関と比べてもまったく見劣りしないのではないでしょうか。

さまざまな切り口から融資案件を審査、いただく金利に見合うサポートを心がける

--- 3カ年計画に沿って新たな組織づくり、体制整備も進めています。

 7月に「価値創造事業部」という組織を本部に立ち上げました。取引先に対して、さまざまな切り口で事業発展や継続のためのソリューションを提供する部門と、リスク管理や債権回収を担う審査部門と管理部門の組織を統合しました。いろいろな角度からお客様をサポートしていこうと考えた体制で、代表理事専務が部長を務めており、今回の事業計画の目玉の一つです。
 融資のスタンスも変わっていくと思います。これまで、担保や保証に過度に依存しない融資に力を入れてきました。しかし、新しい技術であったり、事業の切り口、アイデア、その将来性、さらには社長の人柄であったり、そうしたことをしっかりと分析して評価し、それを応援していくにはどうしたらいいかということになります。案件の審査のための会議では、本部の担当者や支店長、担当者も入り協議しています。本部各部署がいろいろな切り口から案件を見るようになると、現場にはいい勉強になると思います。
 担保に依存しない融資となれば、その分、貸し手としてリスクを取ることになります。ただ、リスクに見合う金利を受け取らせていただき、いただく金利に見合うサポートを提供するということです。

兵庫県の信用金庫、それぞれが地域で存在感大きく 再編より共有・連携か

--- 金融機関では常に再編の動きが注目されており、信用金庫も例外ではありません。デジタル化への対応も課題です。

 あましんは、尼崎市内、尼崎以外の兵庫県内、大阪府内とほぼ3分の1ずつ、あわせて90の支店を持っています。兵庫県には11の信用金庫があり、それぞれの地域でそれぞれの特色を出し、しっかりと根を張って経営しています。地域のなかで存在感が大きく、(経営が立ち行かなくなった)再編うんぬんというのは、いますぐにはないと思います。
 しかし、マネーロンダリング(資金洗浄)防止への取り組みやシステム投資など、コストのかかる部分は待ったなしの状況です。投資のための収益力は必要です。共有する課題について、横のつながりも大切になってきます。将来、効率化のための連携がでてくるのかもしれません。価値観を共有できるかどうか、トップ同士の信頼関係が大事ですね。
 デジタル化という意味では、信用金庫はかなり保守的にやってきた部分があり、正直、出遅れ感があります。取引先のほうが逆に進んでいるところがあります。現在、総合企画部のなかにDX戦略グループを設けています。すぐに追いつけるということはないでしょうが、タイミングとか、その中身とか、身の丈にあわせながら、工夫して進めていきます。タブレット端末を使った提案なども始めていますし、法人ポータルサイトなども導入に向けて動いています。会議や打ち合わせ・説明資料などのペーパレスも本格化しています。

環境問題に先進的な表彰制度、国から賞も ESG事業評価で神戸大学と共同研究

--- ESGやSDGsなどにはこれまでも積極的に取り組んでいます。

 創業90周年を記念して2011年に「あましんグリーンプレミアム(※尼崎信用金庫のWebサイトを表示します)」という表彰制度を設けました。地域のなかで、環境問題に取り組む先進的な事業や活動、技術、製品などを毎年、表彰しています。今年で12回目です。2017年には環境省21世紀金融行動原則「環境大臣賞」を信用金庫として初めて受賞しています。昨年、記念シンポジムを開きましたが、2025年には万国博覧会(大阪・関西万博)もありますし、さらに、未来につなげていくための企画やイベントを考えています。
 また、2022年5月からは神戸大学と「ESG要素を考慮した事業性評価の深化」と「地域における事業者支援体制構築」をテーマに共同研究を始めました。ESGの観点から取引先の事業活動を評価する手法を確立し、実効性のある融資提案やコンサルティングにつなげる狙いがあります。取引先の事業開発のヒントになれば、一番いいと考えています。研究会には部店長や次長クラスが参加しており、環境省や金融庁OBの講演などを聞いて、刺激を受けているようです。

阪神タイガースの環境配慮型ボールパーク構想、事業創出や商品開発などにいかす

阪神タイガースファーム施設

--- あましんというと、阪神タイガース定期などアイデアあふれる商品開発でも話題になっています。

 阪神タイガースは地元にとって宝のひとつです。野村克也さんや星野仙一さんが監督になられたとき、優勝すると特別な金利となる特典付き定期預金の取り扱いをしました。来シーズンは新監督に岡田彰布さんを迎えて、あらためて、期待が高まっています。勝負にこだわる人ですから、昔ながらのタイガースファンが喜んでおられると思います。
 阪神タイガースと親会社である阪神電鉄、尼崎市が共同で、尼崎市内の阪神大物(だいもつ)駅近くの小田南公園に、タイガース二軍専用の野球場、市民球場、芝生広場、室内練習場、選手寮などを備えたボールパークを創る計画を発表しています。この計画は脱炭素社会をめざす環境省の「脱炭素先行地域」に選ばれており、「阪神大物地域ゼロカーボンベースボールパーク整備計画」として尼崎市と連携しながら開発が進められます。新監督を迎えたタイガースに加えて、2025年に迫った大阪・関西万博、そして二軍球場のオープン、環境に配慮したボールパークタウンとなれば、話題性は豊富で、信用金庫としても地域経済活性化・新規事業創出支援ビジネスにつながり、タイガース定期預金の商品設計のアイデアになると思っています。

中学生からリーダー役 組織や人をどう動かすか、常にチーム全体を考える

--- リーダーとして心がけていることはなんですか。

 中学で野球部のキャプテンを務めて以来、リーダー役が多かったと思います。中学生のときはどうしたら仲間が声を出し、元気に戦ってもらえるか、自分で声を張り上げてみたのですが、当時の監督からは自然と声が出るように何をすべきか考えるのがキャプテンの仕事と言われました。それからはよく考えるようになりましたね。気持ちよく練習するためにはどうする、試合の前にはどういう空気を作るとか、自分のなかで考えました。うまく回り出したとき、「あ、これが人を動かすヒントなんだ」ということがわかりました。
 高校からアメリカンフットボールを始め、1年生からポジションはクオーター・バック(QB)でしたから、攻撃の要として、自分はリーダーという強い気持ちがありました。チームメイトや先輩との接し方、作戦の出し方など、いつも考えていました。
 チーム全体で動くためにはどうするか、チームプレーを考えるのがリーダーの役割です。組織をどう動かすべきかを常に考えるのがリーダーだと思います。もちろん、力がないのに言っても伝わらないので、自分自身、納得感を与えるような立ち居振る舞い、力量、レベルアップしなければいけません。

俯瞰的なモノの見方ときめ細かさ、先を見通す力 こだわりも大事

--- リーダーの条件、後進のトップ選びをどのように考えていますか。また、座右の銘があれば、教えてください。

 俯瞰的なモノの見方ができるかどうかが、リーダーの条件かと思います。それと「きめ細かさ」「先を見通せる力」も必要です。あとは「こだわり」です。こだわることはすごく大事だと思います。もういい、この辺りでいいわ、ではだめで、柔軟にするところもあるけれど、ここだけは絶対に譲れないという芯(しん)をしっかり持っている人間がいいです。岡田新監督はそうなんじゃないですか。ものすごく繊細だし、先読みもされています。明るさも大事ですけど、それだけでは組織は動きません。
 最近、よく言っているのは、論語から「止むは吾が止むなり、進むは吾が往くなり」や「和して同ぜず」ですかね。基本的には、他人任せにしない、自分の道は自分で切り拓くみたいなところは自分自身でいつもそう思っています。思った通りにならなかったとしても、努力していることがやっぱり自分の力になっていることは忘れてほしくないです。

人材育成はトップの仕事 世代間に大きなギャップ、指導のしかたに工夫を

 次のトップ選びですが、20歳ぐらい年の離れたゾーンのなかで後継を考えることが理想と言われていますが、やはり10歳ぐらいの範囲になるのですかね。いろいろな巡り合わせがあり、何人かの候補を常に考えて、計画し、適材人材、ポジションを経験させていくということです。
 人を育てることができる人材がトップとしてふさわしいとも思っています。今の時代は世代間に大きなギャップがあります。我々の時代の常識で相手にぶつけてもなかなか伝わりません。相手の状況もみながら伝えていくという意味では、阪神タイガースの矢野燿大・前監督のスタイルかもしれません。優しく教えていくという部分も持っていないといけません。
 ただ、それだけで通用するのですか?ということになります。金融機関ですから、やっぱり本来あるべき姿は崩したらいけないところがあると思います。場合によっては、厳しく指導しなければならない。指導の仕方を工夫し、相手に気づきを与えるようないろいろ仕掛けを作りながら、指導してほしいです。

ウエストコースト音楽に魅せられ趣味に 阪神タイガースと母校アメフトの応援も

--- 趣味の話、休日の過ごし方などをお聞かせください。

 趣味はあまりないんですけど、音楽鑑賞とゴルフぐらいですね。音楽は洋楽、中学3年とか高校ぐらいから、当時のウエストコーストサウンドが好きになり、後で処分に困るくらいレコードを買いました。いまも昔の音楽を聞いたり、妻とか娘も音楽が好きで、最近の音楽も娘が携帯音楽プレーヤーに入れてくれる曲を聞いたりしています。歌手の名前とか題名、歌詞まではわからないけど、音楽はわかっているみたいな、そんな感じはありますね。
 阪神タイガースの応援(甲子園)には毎年10試合くらい行きます。岡田新監督は好きなタイプ、采配が楽しみです。アメリカンフットボールは結局、両親の希望で大学1年の秋にやめることになりましたが、母校(関西大学)と関西学院大学や立命館大学との試合は応援に行っています。会場やその後の懇親会を通じて、OBとの付き合いが続いています。
作田 誠司氏

(掲載日 2022年12月20日)

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