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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

オープン・イノベーションによる「脱・銀行」への挑戦  次世代を支える新たな事業基盤
りそなホールディングス 取締役兼代表執行役社長 南 昌宏様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング会長
  大村泰
南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏
南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏
 トップインタビュー第44回はグループに地域金融機関を持ち、地域に密着しながら、伝統的な銀行業務に加え、一般の商業銀行にはない信託・不動産・資産運用など高度な専門サービスを全国規模で展開する、りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長の南昌宏様です。2003年の一時国営化から、これまでに中堅・中小企業、個人向けのリテール事業を軸に独自のビジネスモデルを構築、さらに脱・銀行へ新たな挑戦に乗り出しています。顧客目線に立ち、店舗サービスの革新やデジタル化をけん引し、大手銀行として初めての平成入行トップとして2020年に就任、若い発想力と胆力で大改革に挑む抱負と展望をうかがいました。
※2021年1月26日インタビュー当時の内容をもとに構成しています。
プロフィル
南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏 1989年関西学院大学商学部を卒業後、埼玉銀行(現りそなホールディングス)入行。りそなホールディングスグループ戦略部長、りそなホールディングス取締役兼執行役オムニチャネル戦略部担当兼コーポレートガバナンス事務局副担当などを経て、2020年りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長 事業開発・デジタルトランスフォーメーション担当統括に就任。1965年生まれ、和歌山県出身

人とテクノロジーが共鳴 リアルとネットを融合、新しい金融サービスへ

--- 2020年5月に発表したりそなホールディングスの中期経営計画では「リテールNo.1」の実現に向けて、「レゾナンス・モデル(Resonance:「共鳴」)」を確立することを目標に掲げています。

 現行の中期経営計画は2018年に公表した「2030年SDGs達成に向けたコミットメント(Resona Sustainability Challenge 2030)」をベースに、「レゾナンス・モデル」の確立という新たなテーマを掲げています。「レゾナンス」とは耳慣れない言葉ですが、りそなの社名の由来である共鳴という意味です。長期的なビジョンとして、「持続可能な社会」と「りそなグループの持続的な成長」との共鳴を目指しています。そして、お客さまの「こまりごと」や社会課題を起点に、従来の銀行の常識や枠組みにとらわれることなく、新しい発想、幅広いつながりや共鳴を通じて、お客さまに新たな価値を提供するための枠組みです。
 つながりや共鳴の一例として、「人財」と「テクノロジー」の融合、リアル(対面)とデジタル(非対面)の融合などを、スピード感をもって進めていきます。
 たとえば、りそなグループでは、中堅・中小企業のお客さまが50万社、個人は1600万人のお客さまとお取引をいただいていますが、実際に、フェイス・トゥ・フェイスで能動的にお会いできるお客さまは、そのうちの10%程度にとどまっています。残る90%のお客さまは自ら情報を得て、りそなグループのサービスを選んでご利用いただいている状況です。
りそなホールディングスwebサイト
 こうした現状を変えたいという思いから、まず、非対面チャネルとして、圧倒的に利便性が高く、お客さまと有効な双方向コミュニケーションが取れるアプリの構築を進めてきました。足元で330万を超えるダウンロードをいただいています。今後は、リアルとデジタルをシームレスに融合させ、より多くのお客さまに、場所や時間を気にすることなく、より最適なソリューションを提供できる仕組みへと進化させていきたいと考えています。
 お客さま接点の質量両面での拡充は結果として、お客さまの真のニーズにより近づくことが可能となり、予測精度の向上に直結していきます。これまで気づくことができなかったお客さまの「こまりごと」やニーズの変化に、適時適切にお応えすることにもつながっていきます。
 金融の未来は予測できませんが、少なくとも5年後はこうしたリアルとデジタルが融合し、共鳴する世界観が主流になっているのではないでしょうか。

自らの強みを磨きぬく「深掘」、外に開いて異業種との連携・融合

--- 具体的にはどのように取り組んでいきますか。

 中期経営計画は、既存領域の強みにさらに磨きをかけて“差別化”を図る「深掘」、“脱・銀行”に向けて取組む新たな創造としての「挑戦(オープン・イノベーション)」、そして、この2つのチャレンジを支える次世代に向けた「基盤の再構築」の3つ要素で構成されています。
 りそなグループは100年を超えるリテール特化の歴史のなかで、培ってきた厚いお客さま基盤をベースに、信託や不動産、年金運用などフルラインの信託機能を備えた国内唯一の商業銀行です。「深掘」はこれらの強みを活かし、お客さまの「こまりごと」や社会課題を解決することです。日本が直面する超高齢社会において、事業や資産の次世代への円滑な移転、中長期的な資産形成に関するお客さまのニーズや想いに応えることはリテールNo.1を目指すりそなグループの存在意義の一つだと考えています。地域に根差したリレーション力と差別化された機能という伝統的な強みに加え、デジタルやデータの要素とも融合していくことで、お客さまへの新たな価値の提供を目指していきます。
 また、社会・産業構造が変化し、テクノロジーの進化を背景にお客さまの金融行動そのものが大きく変化しています。お客さまのニーズが多様化・高度化、そして複雑化するなかで、銀行が持つソリューション力だけでは、お客さまのニーズを的確に満たすことが難しくなってきています。「挑戦」はこうした変化に適応していくために、外に開き、異業種や地域金融機関の方々が持つ様々な知見やノウハウ、顧客基盤とつながることで、新しい化学反応を起こすことです。
りそなホールディングスwebサイト
 たとえば、りそなグループでは、飲食・小売業等のお客さまに向けて、決済業務の効率的なサポートを支える「りそなキャッシュレス・プラットフォーム」を提供しています。これは決済分野のトータルサポートを目指すものですが、10社を超えるフィンテック企業の方々のサポートを既にいただいています。また、スマートフォンやタブレットなどで金融取引ができる「りそなグループアプリ」ではお客さまのUI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザーエクスペリエンス)を最重視していますが、100%お客さま側に立ち続けたいとの思いから、インターフェース部分はデジタルコンテンツの制作などを行うチームラボ社(https://www.team-lab.com/)に力強いサポートをいただいています。

高コスト体質を打破 複線型人事で専門性や多様性を高める

--- ビジネスの基盤から変革しようとされていると聞いています。

 世の中が変わり、お客さまの金融行動が変われば、競争力を向上させるために、われわれのビジネスのあり方やそれを支える仕組みもまた、進化させていく必要があります。コロナを経て、お客さまの「こまりごと」や社会課題にも大きな変化が生じてくると感じています。こうした状況下にあっては、「りそな」自身が、お客さまに先んじて変化を遂げることができるのかが勝負の分れ目だと考えています。だからこそ、中期経営計画に掲げる「深掘」と「挑戦」を支える次世代に向けた「基盤の再構築」を急ぎたいということです。
 具体的には、営業スタイルそのものの見直し、チャネルネットワークの再構築、仕組みやプロセスの変革、システム構成の見直しなど、一気通貫で次世代化を目指していきます。こうした取組みの先に、お客さまへの新たな価値提供があり、同時に、リテール業務に内在している高コスト体質の打破につながっていくものと考えています。
 こうした一連の改革を成功裏に導くうえで最も重要なファクターは、やはり「人財」です。2021年4月からは、複線型の人事制度に移行します。多様性と専門性をより重視し、社員一人ひとりのキャリア自律を目指します。全員がゼネラリストとして支店長を目指すような体系ではなく、渉外、融資、信託、年金、M&A、不動産、データサイエンティストやITなど、19分野から自分自身でコースを選択していくことになります。変化の時代には、多様性や専門性がイノベーションを生み出していく一つの原動力です。会社の競争力は、いずれ個人のマーケットバリューの総和に近づいていくのではないでしょうか。
 慣れ親しんだ業務のプロセスも大幅に見直します。これまで専用回線と専用端末を軸に、人と伝票・モノが複雑に動く難易度の高い運営でしたが、業務プロセスそのものの簡素化を前提に、テクノロジーの力を借りて変革に向います。複雑な業務を支えてきたプロ人財は、そのミッションを解放し、お客さまの接点や新しいビジネスの担い手として、さらに力を発揮していってほしいと考えています。
 営業店のあり方も変わっていきます。目指す姿は「相談と手続きの一体化」を前提に全員営業・全員コンサルティング体制へ移行することです。同時に、デジタルやデータを活用し運営を変えることで、営業店の損益分岐点を大幅に引き下げます。リテールNo.1を目指すうえで、地域に営業店がある意味を再整理し、対面と非対面を融合させながら、顧客接点の質量をさらに拡充していくことが基本的な考え方です。
 最後は、これらを支えているシステムです。銀行システムは複雑な勘定系システムをベースとしていますが、これを一部オープン型に踏み切るなど、システムそのもののあり方についても次世代化を目指していきます。
 現行の中期経営計画は、10年後にりそなが目指す姿からのバックキャストアプローチをとっています。我々が何十年も前に作った基盤のうえで、10年後のビジネスはもはや動いていないのではないでしょうか。

「地域に寄り添うこと」は既にライフワーク 「REENAL」モデル500件以上 組織知に

--- 2030年SDGs達成に向けたコミットメントの進捗をどのようにみていますか。

 SDGs(国連の持続可能な開発目標)については、地域、少子高齢化、環境、人権、この4分野を当社グループの優先テーマに選定し、目指すゴールを設定したうえで、グループをあげて取組んでいます。
 たとえば、「地域」に関する具体的な取組みとして、2003年以降、「REENAL式」という独自の手法を通じて、自治体とマーケットの創出・地域活性化といった新しい共有価値を生み出す取組みを継続しています。「REENAL(リーナル)」とは、RESONA(りそな)とREGIONAL(地域)を掛け合わせた造語です。そのルーツは2003年5月のいわゆる“りそなショック”に際し、「新しい銀行像を創ろう!」という、りそなホールディングスの故・細谷英二会長(当時、元JR東日本副社長)のメッセージを受けて、全国ネットワークを持ちつつ、地域とともに歩む銀行として何ができるのかを考えたことが出発点です。
 これまで500件以上の施策を具現化してきました。こうした取組みを通じて、課題解決のプロセスを組織知として蓄えながら、りそなのライフワークとして、今も進化しています。SDGsやESG(環境・社会・企業統治)は、いまや大きな世界的潮流です。人類が目指す共通のゴールと捉えたうえで、一私企業として、本業を通じた貢献とその具体的なロードマップを手探りで描いていきます。いずれにしても、我々りそなグループは地域社会に支えていただいている企業であり、地域社会の持続的な成長なくして、当社の持続的な成長はないと考えています。

関西圏はマザーマーケットのひとつ、再成長へ反転攻勢

--- 地域との結びつきという意味では近畿に地盤を置く関西みらいフィナンシャルグループを2021年4月に完全子会社化します。

 大阪を中心とする関西圏は、りそなの重要なマザーマーケットのひとつです。今回の完全子会社も、りそなグループとしての関西圏でのさらなるプレゼンスの向上、連結収益の極大化を目指すものですが、背景を含めて3点触れさせていただきます。
 一つめは、コロナを含め不確実性がさらに増すなかでの「変化への適応」の一環です。二つめは、意思決定のスピードをさらに引き上げることで、リテールNo.1の実現に向けて、グループとしての成長スピードをさらに加速させること。そして、三つめは、関西みらいフィナンシャルグループが抱える高コスト性をグループ一体となって解決することで、関西みらいフィナンシャルグループの良さをさらに生かすための決断です。
 関西みらいフィナンシャルグループは2年前に経営統合を行い、ともに歩み始めました。当初計画に対して業績面での進捗は道半ばですが、短期間での関西アーバン銀行と近畿大阪銀行の合併や事務・システム統合の実現、店舗チャネルの再編計画の策定など、今後の反転攻勢に向けた地ならしは確実に進捗しているものと認識しています。
 4月からは、りそなグループとの連結運営のもとで、関西みらいフィナンシャルグループが持つ営業力をしっかりと活かしながら、スピード感をもってコスト構造の改革を推し進めていきたいと考えています。

コロナで変化するお客さまの「こまりごと」、伴走してサポート ソリューション提案

--- あらためて、新型コロナウイルス感染症の影響をどのようにみていますか。

 2020年4月の緊急事態宣言以降、お客さまの資金繰り支援に軸足を置いた運営に注力してきました。これまでのコロナ関連融資は、既に約5万件、3兆円を超える水準となっています。資金繰りについても、まだまだ予断を許さない状況が続きますが、今後は、コロナを経てお客さまの「こまりごと」や社会課題が大きく変化していくと考えています。具体的には、経営戦略やビジネスモデルの転換、サプライチェーンやバリューチェーンの見直しなど、お客さまのニーズはより多様化していくと考えています。また、バランスシートの改善が必要となるお客さまには、状況に応じて資本性資金の提供も検討が必要です。いずれにしても、個々のお客さまの声に耳を傾け、状況に応じた最適なソリューションを円滑に提供できるよう、りそな自身がさらに進化していく努力が必要です。
南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏
南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏
 コロナ禍において、デジタル化やキャッシュレス化という非対面や非接触のニーズはさまざまな場面で拡大しました。また、多くのお客さまが、事業・資産の承継、老後の資産形成など先々の手当てを早めに検討したいという声も高まっています。これまでは間接金融が中心でしたが、これからは、お客さまの「こまりごと」を深く理解しながら伴走し、新しいビジネス機会を的確に捉えていくことが重要です。これまで以上に、お客さま側に立って、コンサルティング型の営業スタイルに磨きをかけていきたいと考えています。
 ワクチンの国内接種も始まりましたが、一進一退の状態がしばらく続くことを前提に、これからもコロナを正しく恐れる必要があります。不確実性がさらに高まる状況下にあって、常に複数のシナリオを持ちながら、予測と準備を怠ることなく着実に歩みを前に進めていきます。そして、常にお客さまの「こまりごと」、社会課題の解決に向けて、全力を尽くす金融グループでありたいと考えています。

リーダーの使命は「結果」、「変革のDNA」をつなぐ先頭に立つ

--- 南社長が考えるリーダーというものはどういうものですか?

 リーダーとは、志があること。困難な局面で変革をドライブすること。そして最後に結果を出すことが必要です。そして、結果を出すプロセスのなかで、個を成長させ、チームをさらに強くすることが重要だと考えています。
 細谷会長からは、さまざまなことを教わりました。りそなグループに根付いた「変革のDNA」は細谷会長がりそなにもたらしたものだと思います。この変革のDNAをしっかりと受け継ぎ、次世代に向けて変革の舵(かじ)を切ることが、現経営陣に課せられた責務だと思っています。時代の転換点にあって、恐れずに変化し続けたいと思います。

前を向いて考え続けること、モノゴトの根っこにある構造を理解して行動

--- 具体的に普段心掛けている言葉などはありますか?

 いまは、VUCA(ブーカ)と言われる時代に、新型コロナが直撃したという構図でしょうか。当然、ビジネス面もそうですが、日常生活においても、良いことよりも、むしろ課題や問題に直面することの方が多いと思います。私は「何が起きたか」ということよりも自分自身がそれをどう捉えたか、どのように整理して解釈したかをいつも大事にしたいと思っています。
 表層的に見えているものではなく、その根っこにある課題や問題点をみつけて分析したうえで「これからどうするか」という点に集中したいと考えています。
 勝っても負けても、うまくいってもいかなくても、そこから学ぶものは必ずあります。いつも、自分自身にそう言い聞かせているということです。後ろを振り返っても、下を向いても、あまり良いことはないと思います。それなら、前を向いて考え続ける方が建設的ではないでしょうか。これだけ不確実で不透明、正解の見えない難しい時代には必要なことかと思います。

VUCA(ブーカ)

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉。現代の会社経営や個人を取り巻く環境を表現する言葉として使われる。
 モノゴトを構造的に変えることが必要です。デジタルトランスフォーメーションは、単にデジタル化を進めるものではありません。重要な手段として、デジタルやデータを活用しながら、トランスフォームすること、つまりビジネスモデルや仕組み・プロセスを構造的に変えることだと考えています。デジタルトランスフォーメーションを通じて、顧客体験を変え、同時にコスト構造改革を実現することが、私の重要な責務だと考えています。

ドライブから歩くことが趣味に 一瞬にかける高校野球に共感

(右)南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏<br />
(左)大村 泰
(右)南 昌宏(みなみ・まさひろ)氏
(左)大村 泰

--- ストレス解消法やご趣味を教えてください

 本当は自動車を運転することが好きですが、最近はほとんど車に乗っていません。趣味は歩くことと言っています。歩きながら考えることが楽しみです。休みの日は1万歩以上を目標に歩いています。近くの運河沿いなどはとても景色もいいですし、ストレスの解消になります。
 もともと運動が得意で、スポーツ観戦も大好きです。特に、高校野球は大好きですね。私も野球をやっていたので、彼らの日頃の努力が目に浮かびます。そして千日の業(練習)を経て、トーナメント方式で一瞬の勝負にかける姿に、大きな共感を覚えるとともに、いつもワクワクさせられます。高校野球を見ている時が、心洗われるときです。
(掲載日 2021年3月24日)

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