長い間言われていた国際化ということと、グローバル競争にどう対応するかというのは、次元の違うことだと思います。現在のグローバル化は「ボーダレス」という言葉に象徴されるように、人材や資金、そういうことが国境を越えて垣根がなくなっていくということです。国内の大学も海外の大学といろいろ交流し、異文化に接触する機会が増えています。若い人材は世界中を移動しています。日本もそのグローバル化の波を受けています。
そこで生き残っていくにはどうするか。一つは世界標準に適合していくことです。みんな同じところでやるのであれば、共通のルールでやりましょうということです。ただし、一つの共通ルール、世界標準に適用していくと、当然、埋没していきます。日本の個性とか慶應義塾の個性は何かということが重要になると思います。
日本の大学のランキングが低下していることを心配する声をよく聞きます。しかし、その「ものさし」は何かを考える必要があります。ランキングは多様化していますので、どのランキングをみて、どういう指標で自分の大学を評価するのか、どこを伸ばしていくのか、そういうきちんとした考えを持っていないと、ランキングに振り回されてしまいます。
たとえば、理系の研究成果や論文が科学雑誌、論文集などにどれくらい載っていたり、別の研究論文などで引用されていたりするかを評価するとなると、基本は英語論文でしょうし、慶應義塾の場合は総合大学で教員の7割近くは人文系・文系教員ですから、構造的に、そのものさしで測られると低くなります。だからといって、慶應義塾大学は文系をなくして、これから工科大学になりましょうということではありません。
慶應義塾の伝統を守りつつ、どういう大学になりたいかを明確にし、「この『ものさし』で測った時には世界中でも非常に水準が高い」というものをめざすべきです。
英国の教育専門雑誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が毎年、公開する大学ランキング(日本版、2018年)では日本の私立大学としては唯一10位に入りました。また、同誌の調査では2013年、世界の大企業にどれだけCEO(最高経営責任者)を輩出してきたかを示すランキングで慶應義塾は9位でした。アジアでイノベーティブな大学という指標でいうと、きわめて高くなっています。こうした強みをさらにいかしていくことが必要です。財界や経済界への人材貢献、そうした特長を伸ばしていきたいと思います。