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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

変化にすばやく対応 次のネタ、新事業を生み出したい
住友電気工業 代表取締役社長 井上治様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
井上治(いのうえ・おさむ)氏
井上治(いのうえ・おさむ)氏
 トップインタビュー第13回は電線やケーブル、光ファイバーなど自動車、電力・通信関連分野で高い技術力をいかしたモノづくり・システム構築で成長を続ける住友電気工業の井上治代表取締役社長です。2018年度から始めた中期経営計画「22VISION」の陣頭指揮に立ち、ワイヤーハーネス(自動車の配線に使われる電線)を軸に、ここ数年、業績をけん引してきた自動車関連ビジネスを一段と飛躍させるとともに、環境エネルギー、情報通信事業などを伸ばし、収益の多様化をめざすリーダーです。リーマンショック後の海外子会社の再建、国内中核子会社における事業拡大路線の確立などで実績を挙げてきた経理出身の行動派トップが描く、さらなる進化に向けたシナリオをうかがいました。
プロフィル
井上治(いのうえ・おさむ)氏 1975年九州大学経済学部経営学科卒、住友電気工業入社。2001年自動車部長、2004年執行役員、2008年常務、自動車事業本部長、2009年取締役、独スミトモエレクトリックボードネッツェゲーエムベーハー社長、2012年住友電装社長、2017年現職。1952年生まれ、福岡県出身

自動車の大変革「CASE」すべてがチャンス システムで社会とつなぐ

---住友電気工業は2018年度から中期経営計画「22VISION」をスタートさせています。井上社長は就任2年目、その滑り出しをどのように評価していますか?

 2018年度上期はほぼ計画通りで、順調な滑り出しができていると思います。米国と中国の「関税合戦」の影響が今後、気になるところですが、当社グループでは年間で30億円から40億円ぐらいのコスト増要因になるとみています。限定的なコスト増だけで済めばいいのですが、景気全体をダウンさせ、成長に水を差してしまうのではと少し心配です。現時点では事業計画にどこまでのインパクトがでてくるのか見越せない状況です。
 しかし、収益の柱となっている自動車関連事業は自動車産業が100年に1度の大変革期を迎えるなか、当社にとっては大きなビジネスチャンスが広がるものとみています。「22VISION」でも自動車事業本部としては「ワイヤーハーネスをコアとするメガサプライヤーを目指す」ことを掲げています。
連結業績と中期経営計画目標
 自動車業界の大変革は、キーワードの頭文字を取って「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」と呼ばれていますが、当社はその多くに対応する事業分野や製品・サービス群があります。
 2018年4月、自動車事業本部と情報通信部門にあったシステム事業部を統合し、さらに自動車事業本部に「ソフト戦略室」を新設しました。自動車事業本部はワイヤーハーネスなどの車載部品を手がけていますが、システム事業部は自動車の「外」、道路規制や渋滞の情報、信号、カメラなどを管理して交通インフラを支える交通管制システムなどの製品・システムを開発・製造してきました。今後、5G(次世代高速通信規格)やIoTを使ってインターネットに常時つながるコネクテッドカー(Connected Car)が普及したり、自動運転車(Autonomous Car)が登場したりするにつれて、車内と車外をインターネットでつなぐ製品やシステムの需要が高まることに備えたものです。
 「ソフト戦略室」はそのためのソフトウエアの開発基盤を強化することを狙った組織です。昨年から自動車関連のモビリティ事業において、ICT(情報通信技術)やセキュリティ関連に優れた技術力、ノウハウを持つ日本電気(NEC)と協業を開始し、連携を強めています。

EV化=軽量化、求められる素材革命に答えを用意

---自動車のEV化も大きな追い風になるのではないでしょうか?

 自動車の電動化によって、車の軽量化がますます求められてきます。そのためにも素材の革命が必要です。当社はワイヤーハーネスのアルミ化に取り組んでおり、現在、1台に使われているアルミワイヤーハーネスはワイヤーハーネス全体の10%強ですが、将来は50~60%を占めることになると見込んでおります。高強度のアルミ合金製ワイヤーハーネスの開発を進めており、今後、自動車メーカーに提案していきます。1台につき20~30キロといわれるワイヤーハーネスの重さを10~20%軽くすることができます。また、素材としてアルミより軽くて硬いマグネシウム合金も開発中で、これはシートやボディにも鉄の代わりに使っていただけるよう、製品化を進め、働きかけていきます。
 電気自動車のカギとなるモーターでも内部に巻き線として使われるエナメル線にこれまでの「丸線」ではなく「平角線」を開発し、増産を進めています。平角線は巻き線の密着度が上がるため、モーターの小型・高出力化が期待できます。2050年までにガソリン車がなくなるともいわれています。モーター需要は今後も拡大が見込まれており、国内やタイ、中国などでの「平角線」の大幅な増産に向けた設備投資を進めております。
目標ポートフォリオ

非自動車関連比率、55%めざす 環境エネルギーや情報通信に期待

---中期経営計画では収益バランスの変革を一つの柱としています。

 17年度の実績では自動車関連が売上で52%、営業利益で56%を占めています。もともと、半分以下にするのが(17年度の)目標だったのですが、自動車の伸びが大きかったのとFPC(回路基板)などのエレクトロニクス関連が苦戦し、やや自動車偏重となったきらいがあります。
これまで話した通り、自動車関連事業を伸ばさないというわけではなく、それ以外の事業部も成長率を上げ、中期経営計画では自動車関連の比率を45%ぐらいとすることが目標です。
 その中でも成長を期待しているのは環境エネルギーです。電力関連事業がその中核ですが、グローバルな電力インフラ市場ではここにきて国と国、地域と地域を結ぶ大型送電プロジェクトが目白押しです。当社は高圧直流ケーブルに高い技術力を有しており、グループを挙げ、受注の獲得に力を入れています。欧州の国家間の送電連携だけでも大口プロジェクトが複数あるのですが、積極的にオファーしていきます。英国とベルギー間の海底ケーブルプロジェクトは2019年1月にも完工予定です。こうした実績をアピールしたいと思います。100km程度ジョイントなしで海底ケーブルを作る新設備も整い、独自技術やコスト競争力をいかし、東南アジアや香港、フィリピン、インドなどでも大型案件獲得を進めていきます。
 国内では再生可能エネルギー関連設備の受注獲得に取り組んでいきます。グループには変電設備を手がける日新電機、施工業者の住友電設があり、パッケージで提案できる強みがあります。2020年に完成すれば日本最大となる風力発電所「ウィンドファームつがる」(青森県つがる市)の送変電設備を受注しました。また、環境エネルギー部門には「平角線」事業も入っており、「22VISION」では営業利益全体の20%まで引き上げる計画です。
 情報通信は次世代の5Gに向かって、2018年度後半から徐々に設備投資が進むものとみています。当社では、5G対応の100Gbps、200Gbpsなど高速光通信機器用デバイスを開発しています。5G関連投資は東京、名古屋、大阪など大都市圏から本格的に始まるのではないでしょうか。情報通信で営業利益全体の10%を占めることを目標としています。

正確な情報収集、心がける 目配り・気配りそして即決

---独現地法人、中核子会社である住友電装のトップも経験しています。あらためて、いま、リーダーとして心がけていることや信条を教えてください。

 2008年のリーマンショック後、業績が悪化したドイツ現地法人の社長を3年間、その後5年間、住友電装の社長としてワイヤーハーネスの新しいプロジェクトの立ち上げに携わってきました。感じたのは変化にいかに対応するか、限られた時間の中でどれだけ準備をきっちりとやるかが大切だということです。そして、変化にすばやく対応するためには、日ごろからの情報収集、正しい情報をすばやく収集して、何かあった時にすぐ決断ができるようにしておく。これが一番大事だと思っています。
 ワイヤーハーネスは量産の4年前ぐらいに注文が決まり、どの工場で製造するのかというところから準備します。目配り、気配り、どこか遅れていないかを確実にトレースし、遅れているところに人を集中させるなど、車は2、3年前から準備できるのですが、時に、1年または半年で対応しなければならないことがあります。また、環境変化により、採算があわず、全体的に赤字となり、顧客と交渉しなければならないこともありますし、リストラもやらなければならないこともありました。自動車向けは一つの仕事が取れると4、5年仕事が続きますが、赤字も続きます。いかにすばやく交渉できるか、一方でコストを低減できるか、判断し、実行できなければいけません。

「自動車新領域」「パワーシステム」「情報ネットワーク」を軸に研究開発

 私が社長でいる間に次の商売のネタを生み出したいと思っています。120年続いた会社のなかで、まったくの新しい商品でなくても、新しい事業部門として「昇格」できる製品・サービス群を育てたいですね。それがビジネスの継続性につながるのではないかと思っています。3つの研究開発センター(自動車新領域、パワーシステム=エネルギー分野=、情報ネットワーク)を軸に、海外拠点も含めて、半導体や各種デバイス、新素材や加工・解析技術、セキュリティなど広範な分野で研究開発に力を注いでいます。再生可能エネルギーの利用に即した蓄電池であるレドックスフロー電池や集光型太陽光発電装置、マグネシウム合金などのほか、排水浄化・再利用など特殊な透過膜を使った水処理事業などにも期待しています。競争相手のことを考えた時に、優位性がどこにあるのか、コストがどうなのか、そこが勝負になりますので、その辺りは遅れないように叱咤激励していきたいと思います。
井上治(いのうえ・おさむ)氏

関西拠点の恩恵大きく、アジアに近い利点いかす

---関西ではインバウンド需要の盛り上がり、大阪万博や総合リゾート施設誘致などに対する期待が高まっています。

 住友は大阪の地で発展したので、その恩を忘れてはいけないと思っています。住友グループでも大部分が東京に本社を移転していますが、本社を移すつもりはないですし、ITの時代ですので本社がどこにあっても大丈夫です。関西は東南アジア、韓国や中国に近い。海外の売上高比率は約60%になっていますので、大阪でしっかり根を張って、世界に注目していきたいですね。恩恵に預かってきた関西地区に恩返ししたいと思っています。

メリハリある働き方求め裁量制・在宅勤務加速、数値目標掲げ実行

---働き方改革、ダイバーシティへの取り組みはいかがですか?

 2008年から「メリハリのある働き方を」ということで、いろいろなことに取り組んでいます。2017年は裁量労働制、在宅勤務制を取り入れたこともあり、年間の総労働時間は平均で2,000時間を切りました。有給休暇取得は平均16日で、毎年改善傾向にあります。今年は年間の総労働時間1,965時間未満を目標とし、毎月の残業時間を1時間減らし、有給休暇取得を1日増やす「ワンワン運動」を行っています。ITツールの活用で、在宅勤務についてもそれまでの制約を減らし、勤続3年以上で従事する業務とパソコンの環境が整えば、申請により認めるようにしました。
 女性の活躍推進では、もともと技術系の女性が少なくて難しいのですが、数字的な目標がないと達成できないので、事務系で40%以上、技術系で15%以上をめざして採用活動を進めています。管理職も18年3月末で、課長職以上の女性比率が1.7%、係長クラスで10.3%ほどしかいません。目標は管理職(主席以上)で2.0%以上、係長職以上に占める女性割合において13%以上です。毎年100人以上採用しているキャリア採用なども含めて、「働き方改革」を進めるなかで、実現したいと考えています。

仕事に情熱を持てる人、仕事を好きになり、深掘りできる人がほしい

---住友電気工業として求める人材はどのような人材でしょうか?後継者にはどのようなイメージを持っていますか?

 それぞれの専門分野を持ち、こういう知識がありますということで入社してくるのですが、目の前の仕事に情熱を持てる人がほしい。一生懸命やるというか、外目で見て一生懸命やっていると感じる人です。自分の担当している製品や仕事内容が好きになって、どんどん自分から深掘りして勉強するような、そういう人がいいですね。製品が好きだとそれなりの興味が湧き、おもしろくなり、他社の商品はどうなっているのか探したり、経理や人事だと新しい仕組みや制度が変更になったとき、自分から勉強できると思います。
 次のリーダーも住友電工の文化からみると、外からポンと連れてきてお願いすることは難しいと思います。周りの人や部下の人が必然的にこの人というリーダーでないとついてこないと思います。M&Aで買収した企業でもそうですが、住友電工からリーダーを出していかないと住友電工のやり方はわからないと思います。それを考えると、後継者は外から連れてくるのではなくて、今、いる人たちの中から、この人だったらみんながサポートしていけるという人を選ぶのが筋ではないかと思います。

勝負早いパソコン将棋が好き、散歩と読書も 宮部みゆきさんのファン

---趣味でパソコン将棋を楽しまれていると聞いています。また、ほかにもリフレッシュ方法はありますか?

 最近のパソコン将棋は2段ぐらいの実力があります。結構、速くて強い。いろんな手筋とかを覚えないといけないのでしょうけれども、なかなかそれも難しいです。負けてばかりだとすぐやめてしまいますが、時々、勝つことがあります。今日は頭がさえているなと思います。それと、パソコン将棋がいいのは勝負が早いこと、「まった」もできます。2手でも3手でも戻れます。そして、やり直しがきくことです(笑)。
 昔からそうでしたが、結構、散歩ばかりしています。休日には1時間から1時間半ぐらい歩いたりしています。ドイツや四日市(住友電装本社、三重県)の時も同じです。午前中1時間、夕方1時間ということもありました。雨の日などは妻と一緒にショッピングモールに行って、1時間ぐらい歩いています。歩いているときは考えごとはせずにのんびりしていますね。
 あとは小説が好きで、特に、宮部みゆきさんの小説や、米国人作家で「スナイパー」シリーズを書いているスティーブン・ハンターさんの小説を時々読み返しています。筋は覚えていますが、細かいところは覚えていなかったり、読みきれていなかったことを発見したりすることがあります。宮部みゆきさんの昔の作品には、普通の人がなにげなく行動することが、ある人にとっては悪になっている、そういう内容のものが多いような気がします。あーそういう見方もあるのだなと勉強になります。
 プライベートではだんだんゴルフの腕が悪くなってきたので、もう少し筋力をつけなきゃいけないなと考えています。昔は90前後を目指していたのですが、今はなかなか100が切れなくて…。
(左)井上治(いのうえ・おさむ)氏(右)大村泰
(左)井上治(いのうえ・おさむ)氏
(右)大村泰
(掲載日 2018年11月14日)

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