NIKKEI Media Marketing

トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

「リモデル」で店舗の魅力増す 上質な暮らしを求める、世界中の声に応えたい
三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役会長 赤松憲様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
赤松憲(あかまつ・けん)氏
赤松憲(あかまつ・けん)氏
 トップインタビュー第12回は転換期を迎える百貨店業界にあって収益力の強化と事業構造の転換を加速させている三越伊勢丹ホールディングス代表取締役会長の赤松憲氏です。異例のリーダー交代を経て1年半、リストラに区切りをつけて、三越日本橋本店、伊勢丹新宿本店という旗艦店の大型「リモデル」に着手する一方、掲げたデジタルトランスフォーメーションのもと、リアルな店舗を持つ「百貨店なり」の新しいIT(情報技術)活用の道を探る試みが始まろうとしています。現場の表(売り場・商品)も裏(物流・総務・危機管理)も知り尽くし、自らを「へこたれない」楽観主義者と評するリーダーに、代表取締役社長執行役員CEO兼CDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)の杉江俊彦氏と一体となって進める改革の狙いと進捗、展望をうかがいました。
プロフィル
赤松憲(あかまつ・けん)氏 1975年慶應義塾大学経済学部卒、三越入社。2006年執行役員業務部長、07年取締役上席執行役員グループ業務部長兼統合準備室長、08年三越伊勢丹ホールディングス取締役常務執行役員管理本部長、13年に同取締役常務執行役員業務本部長兼三越伊勢丹取締役常務執行役員業務本部長、16年新光三越(台湾)副董事長、17年現職。1952年生まれ、東京都出身

「インバウンド」、「ラグジュアリー」、「化粧品」の3要素がけん引

--- 記録的な猛暑や豪雨、地震、台風など、日本は2018年度上期は思いも寄らなかったような自然現象に見舞われました。百貨店への来客、売り上げなどへの影響はいかがですか?

 2018年度上半期については比較的、堅調に推移しています。この夏はやはり猛暑によって夏物衣料が売れたほか、サングラスや日傘、サンダルなども売り上げを伸ばしました。9月になって、急に涼しくなった地域もあり、夏物のセールが落ち着いた後、秋物も秋色・夏物素材の商品から売れ始めました。国内百貨店業界全体では2017年の年間売上高はピーク(9兆7,000億円台)からみると、大幅に下がっていますが、5兆9,532億円となり、既存店ベースでは3年ぶりに前年比プラスとなりました。百貨店業界は2018年も総じて好調が続いており、三越伊勢丹ホールディングスも業界平均を上回る伸びを示しているものとみています。
三越伊勢丹ホールディングスの連結業績
 好調の要因はインバウンド(外国人観光客)、ラグジュアリー、化粧品の3つの要素にあるとみています。(自然災害やそれに伴う交通・観光インフラへの影響などで、一部、外国人観光客が減少した地域がでていることが懸念されますが)外国人観光客による買い物需要の恩恵は大きいです。たとえば、三越銀座店は売り上げの約30%がインバウンドの免税売上高です。伊勢丹新宿本店は約10%、三越日本橋本店は約2%です。さらに、最近では札幌、名古屋、京都、福岡などの中核都市で売り上げが伸びています。つい4年ほど前は0.3~0.5%だったインバウンド売上比率が平均5%程度と急速に上昇しています。
 地方に足を延ばす外国人観光客が増えています。三越伊勢丹グループの店舗は全国にありますので、それぞれの地域でも期待するところは大きいです。店内の案内ボードや館内放送、接客スタッフなど、外国から来るお客さまのニーズや利便性を考えて対応しています。
 「ラグジュアリー」「化粧品」もこうしたインバウンド需要に加え、国内のゆるやかな景気回復や株式相場の上昇(株高)などにより、好調に推移しています。「化粧品」では欧州ブランドの人気が高く、高額品が売れています。国内消費者の上質な暮らしを求めるニーズの高まりが売り上げをけん引しているのではないでしょうか。

三越伊勢丹ホールディングスの3カ年計画(2018~2020年度)

 三越伊勢丹ホールディングスは2017年11月、2018年度から始まる3年間の経営計画を発表、リフォーメーション(収益体質の強化)とトランスフォーメーション(事業構造の転換)を柱とした成長戦略を進めている。不採算店舗・事業の整理を急ぐ一方で、既存店舗のリモデルやネット通販事業の再構築、さらに保有不動産の活用本格化を掲げている。トランスフォーメーションのキーワードはデジタライゼーションで、先端IT(情報技術)を積極的に採用する計画。2017年度の比較的、堅調な業績を受けて、2018年5月、2020年度にめざした営業利益目標(350億円)を1年前倒し2019年度にしている。
リフォーメーション&トランスフォーメーション
※イメージは同社ウェブサイトから

イベント取り込み、にぎわい演出 店舗改装加速、顧客志向鮮明に

--- 2019年の改元・新天皇即位、消費税増税、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックと、これから個人消費に影響を与えそうなイベントが続きます。また、18年から19年にかけて、三越伊勢丹ホールディングスでは店舗の改装も急ピッチで進める計画ですね。

 国内の人やモノの移動も激しくなりますし、旅行客も含めて、外国人の方が訪れるスピードや数もイベントに向けて高まると思います。こうしたお客さまに対して、しっかりと商品やサービスを提供し、買い物のサポートをしていかなければならないことはすごく意識しています。これまでも百貨店はこうしたイベントをうまく取り込みながら、お客さまの気持ちを楽しく、豊かになっていただく「仕掛け」をたくさん実施してきました。来年の改元では写真展をやったり、スポーツ大会ではラグビーやオリンピックなどに関連する商品を展開したりして、百貨店のにぎわいに行ってみたいと思っていただく企画を行っていきます。 
 店舗の魅力を増していくことは大きな課題です。三越伊勢丹ホールディングスでは「リモデル」という言い方をしていますが、お店の内装や取扱商品の構成を変えていく、それぞれのお店の立地や来店されるお客さまの関心やニーズに合わせていくということに徹底的に取り組みます。
 いま、アパレルや装飾品・雑貨、食品などでも、従来、百貨店などで購入していただいていた中間の品質・価格帯の商品が売れなくなっています。たとえば、かつては2~3万円のハンドバッグが多くのOLの方に買われましたが、この価格帯の商品が売れなくなっています。消費行動の二極化に原因があります。普段、利用する商品であれば、必要最低限の機能で十分、安ければ安いほどよく、ファッション性を求めない消費者が増えています。逆に、高機能商品やブランドを求めるケースでは、ハンドバッグなども10万円、20万円という高額な商品を買われます。“ファストファッションの服を着て欧米の高級ブランドバッグを使う”という消費行動が明らかになっています。
 三越伊勢丹グループも実はこうした消費行動の変化に店舗がうまく対応できていなかったという反省があります。「化粧品」は伊勢丹新宿本店の場合、つい5、6年前は年間100億円くらいだった売り上げが、いまでは300億円ほどになっていますが、売り場面積はほとんど変わっていません。時間当たりの来客数の密度が増えるなか、接客の質を高めることでなんとか売り上げを伸ばしてきたのです。一方、婦人向け商品の売上シェアは減少傾向にあったにもかかわらず、フロアの構成や売り場面積のバランスを変えてきませんでした。お客さまの嗜好の大きな変化に対し、リアルな店舗の対応が遅れていたのです。
 問われているのはお客さまに商品を買ってもらうために、お客さまが求めている「適正な商品」を「適正な時期」に「適正な場所」「適正な量」「適正な価格」で提供するMD(マーチャンダイジング)の管理をしっかりと徹底することです。お客さまの生活のスタイルが変わっているなか、それぞれの店に期待していることをあらためて読み切り、その期待に合わせて、店舗の特徴、内装・外装、フロアの構成、品揃えを変えていくということです。

伊勢丹新宿「ファッション」・三越日本橋「おもてなし」を極める

--- 伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店という2つの旗艦店の「リモデル」は大注目ですね。

 伊勢丹新宿本店は「ファッションの伊勢丹」として世界最新・最先端のファッションを強力に発信する拠点とします。ここ5年ほどはモノづくりに傾斜する部分があったのですが、SPA(製造小売り)企業と競合するのではなく、いろいろなところにアンテナを張って、最先端の商品をバイヤーの力を発揮し、新宿本店に集めていくことに力を入れていきたい。アパレルだけでなく、化粧品やリビング、食品なども対象です。「ファッションとこだわり」は本来、三越伊勢丹ホールディングスの強みです。
 店舗や売り場という器(うつわ)ばかりが議論されますが、情報発信においてはウェブやスマートフォンなどITをどのように駆使していくか、そこでの発信力も大切です。ITを活用したアプローチに取り組みます。
 一方、三越日本橋本店は「モノ」を中心としたこれまでの百貨店から「おもてなし」(接客)を中心とする百貨店をめざしています。ショッピングや暮らしのなかで、どういう選択をしたらいいか迷っているお客さまに対して、徹底した「おもてなし」をする体制を築いていこうと考えています。販売員が間に入って、顧客が気づいていないニーズを顕在化させたり、商品選びの際、的確なアドバイスをしたり、ヒューマンインターフェースを備えた店舗にします。
 具体的にはフロアを超え全館を案内するガイドがフロアをまわって顧客の相談に応じるほか、婦人やリビングなどの各階にパーソナルショッピングデスクを新設し、そこには豊富な販売経験や専門知識を持った約90人のカテゴリー・コンシェルジュを配置しました。顧客の要望や相談に応じ、ブランドやカテゴリーを超えた商品提案をしています。コンシェルジュはIT端末などを通じて、顧客情報を共有化、ほかのコンシェルジュとの連携も可能です。顧客が来店前に予約できる態勢も整えます。三越日本橋本店の顔となる本館1階の内装は新国立競技場を設計した建築家の隈研吾氏がデザイン、心が安らぐ、心地よい空間になっていると思います。

「百貨店なり」のIT活用実現へ アプリ、新サービスなど開発

--- 2018年度からの3カ年計画では「収益体質の強化」と「事業構造の転換」を掲げるなか、特に、「デジタルトランスフォーメーション」に重点を置かれています。ITの活用ということかと思いますが、具体的にはどのように進められていますか?

 伊勢丹新宿本店の「リモデル」でも触れましたが、ひとつはウェブサイトやスマートフォンアプリなどを通じた情報発信と、それによるリアル店舗への誘導、さらにEコマースへ効率的につなぐことだと思います。ただ、一番はお客さまがどう思っているかということであって、たとえば、日中の時間がないから、夜、買い物をしたいという場合、そうしたチャネルを三越伊勢丹としてどのように用意するか。ネット上でアドバイスを受けたい、ネットで見た商品を試着するにはどうしたらいいのかという声にどのように応えるか、ひとりひとりの要望に応えるためのITの活用を探っていきたいと考えています。
 お客さまは欲しい商品や時間によって、買い物をするモードやリクエストが異なります。その志向にあわせたリアル店舗やEコマースの在り方があるのではないでしょうか。
 9月初め、米サンフランシスコのシリコンバレーに視察に行って実感しました。ITを駆使するEコマースの最大の利点は利便性です。それは単なる時間の圧縮だけではなく、選ぶ手間や選択する心の負担を軽くすることができるということです。リコメンドコメントや口コミ情報、あるいはランキング情報はITの一番の真骨頂であり、百貨店としても早くITを使って、どうしたらお客さまのストレスを減らし、その不便を取り除くことができるか、これはリアル店舗でもまったく同じです。来店いただけなくても「百貨店なり」のITサービスやEコマースを提供したいと思っています。ネットの仮想店舗なら海外に利用者を広げることも可能です。
 成長のために「デジタルを軸とした新規ビジネスモデル」の創出にも力を入れており、現在、7つのプロジェクトを選りすぐり、設計、実装、修正のサイクルを短期で回す「アジャイル型」で開発を進めています。秋には新しいアプリというかたちで発表する予定です。店頭での買い物をより快適に楽しんでもらえるICTの活用と魅力的な独自サービスでお客さま満足度の向上をめざしています。
 また、「デジタルトランスフォーメーション」には既存業務のデジタライゼーションを進めることで、お客さまとのつながりを強化したり、コストを削減したり、業務改革を実現する狙いもあります。業務フローのデジタル化で生まれる時間や利益を活用し、お客さまのライフスタイルに合わせた新たな接点の創出やサービスの深掘りができると考えています。

リーダーシップの大前提は「対話」、信条は「へこたれない」

--- 厳しい環境のなかで、杉江俊彦代表取締役社長執行役員CEO兼CDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)と二人が先頭に立ち、会社の改革に取り組まれています。組織のリーダーとして心掛けていること、信条を教えてください。

 企業におけるリーダーシップの大前提は働いている方に自分たちの考えをしっかりと伝えること、そして働いている方がそれを理解して進んでいるかどうか確認すること、それから働いている方からみて「変だ」と思うことがあったら、意見として言える、対話ができるということではないでしょうか。杉江とはグループ内の現状をみて「コミュニケーションが不足している」とまず認識し、その克服を課題としました。特に、役員や中間管理職が「現場との対話」をすることに重きを置いており、風通しがよく、働きやすい環境づくりをめざしています。
 杉江はこの1年半のあいだに、全国の関連会社など各社の課長以上のマネージメントクラスとミーティングやディスカッションを続けており、私も会長としてそれをフォローしています。働いている方とどれぐらい会話ができているか―――これが我々の経営スタンスの基本中の基本です。
 周囲の方々からは「厳しい時代に会長になりましたね」とよく言われますが、自分はあまり苦境に登板したという意識はありません。やらなければならない「抑え」はどこにあるかというのをみつけて、行動するだけです。私の役割としてはそれが重要だと思っています。元々、楽観主義ということもありますが、働いているみなさんが考えて決定して行動し、三越伊勢丹を愛していただいているお客さまにしっかりと応えていけば、どんな困難も必ず打ち勝つことができると信じています。少し状況が悪いぐらいではへこたれません。“へこたれない”が私の信条です。

ワーク・ライフ・バランスを重視、女性管理職20年の30%目標

--- 「働き方改革」「ダイバーシティ」への取り組みはどのようなものがありますか?

 ワーク・ライフ・バランスがやはり一番、大切です。グループには日曜日や祝日、夜も午後8時、9時まで営業している店があります。そのなかで、いかに自分たちの豊かな暮らしができるか、いかに意欲を持って仕事ができるか、そういうバランスを大事にしたいと思います。プライベートと仕事でちゃんと心と体のバランスが取れるような環境、体制づくりに心を砕いています。
 具体的には、有給休暇を消化しているか、不要な残業時間が増えているような状況はないか、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントは起きていないか、といった項目を挙げて、厳密にチェックしています。働いている方が快く働けない会社に未来はありません。労働組合ともよく話し合い、労働環境の改善に努めています。
 ホームページなどで紹介していますが、「人と時代をつなぐ三越伊勢丹グループ」というミッションのもと、社員や社会には「変化せよ」という行動指針・目標を掲げています。その言葉通り、働き方に関しても経営者と社員が対話をして、自分たちで変えていこう、チャレンジしていこう、ということに一生懸命、取り組んでいます。
赤松憲(あかまつ・けん)氏

--- 百貨店は女性従業員も多いと思いますが、「女性活用推進」の状況はいかがですか?

 いま、全従業員に占める女性比率は72%です。女性向けの商品が多いということもありますが、女性が活躍する場はたくさんあります。管理職ベースでは23%が女性です。小売業の平均が12%程度ですので、かなり高いほうだと思います。ヒラリー前米民主党大統領候補・元国務長官が大統領選でも盛んに仰っていたように、キャリアを阻む“ガラスの天井”があってはいけません。社内の手本となるべきロールモデルとして、多くの女性がキャリアアップでき、ボード(取締役会)にも参加しているという会社の姿勢をみせることが重要と考えています。
 現在、化粧品の統括責任者は執行役員で女性ですし、今年、女性役員を社外取締役に迎えました。伊勢丹立川店の店長、人材派遣の関連会社の社長も女性です。
 女性にはもっともっと活躍していただきたい。そのための具体的な数字目標も設定しています。2020年までに管理職ベースで女性比率を30%、うち部長職を10%以上、管理職登用試験合格者の女性比率を毎年40%程度は維持していきたいと考えています。言葉で目標を掲げるだけでなく、実現のためには具体的に数値目標を定めることが重要です。
 また、女性が働きやすい環境や制度も充実させています。育児休暇は最長3年取得が可能ですし、その後も子どもが小学校3年生まで使える育児短時間勤務制度など、柔軟に働ける制度を用意しています。実際、多くの従業員がこれら育児関連の制度を利用していますし、「産前・産後休暇」「育児休業制度」を取得した従業員の出産後の復職率は9割を超えています。

世の中の変化に関心、敏感に反応 仕事の「意味」深く理解して

--- 三越伊勢丹グループに求められる人材はどのような人材でしょうか?また、若い世代へのメッセージをお願いします。

 1つめは世間に関心を持って、世の中の変化に敏感であることです。自分の好きなことだけで、世の中のことに関心がないようでは困ります。小売業として、生活や暮らしで使える商品をフルラインで扱っていますので、世の中の動きを知らずして、仕事はできません。
 2つめはお客さまに関心を持つことです。自分のいる店舗に来ているお客さまに対して、何に関心を持って来店されているのか、そのことを自然と、たとえば、接客中の会話の中から、察知できるような人材が必要です。
 そして、3つめが何のためにその仕事をしているのかを理解することです。私も三越日本橋本店などで現場経験がありますが、商品を並べるときに色やサイズに規則性をもって陳列するいわゆるVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の基本を教わりました。そこには当然、理由があります。その理由を理解してほしいのです。なぜ、そうなのかということを自分で考える必要があります。これは一例ですが、そうでなければ、自分がやろうとしている仕事の本当の意味がわからないし、そうしないと次の世代に伝えられません。一番、大切なお客さまにはどう見えているのかを理解し、どのように反応していただけるか、分かるような仕事の仕方をしてほしいです。
 若い世代には海外へもっと心を開くことを苦にせず、グローバルな経験を積んでもらいたいですね。もっと、グローバルな人材を育てたいし、一緒に仕事をしたいと思います。
 シリコンバレーは世界のベンチャーの憧れですが、働いている3分の1が欧米人、3分の1がアジア人、残りの3分の1が南米系でした。アジア人のうち日本人はあまりいませんでした。もったいないなと思いました。日本でもベンチャーの機運は高いので、ああいうところで外国語で、知的な刺激を受けて育っていくという経験をもっと日本人もするべきではないかと思いました。
 日本人の気質がグローバルになっていない印象があります。海外に出て足を運び、外の知見を学び自分に活かす、自分の知見を世界に広めていくことが日本人は弱いのではないでしょうか。百貨店はあまり外に打って出ていませんし、失敗もしていますので、ちょっと気弱になっているところもありますが、国内だけにとどまっている必要はありませんし、チャンスを狙っていきたいですね。

国内旅行で息抜きと発見 神楽、朝市など無形有形資産楽しむ

--- 趣味やリフレッシュ法があれば教えてください。

 国内旅行によく行きます。地方の産品や風習、道具とか、その地方が営々と築いてきた無形・有形の資産をみると感動します。
 最近、九州を旅行し、高千穂(宮崎県高千穂町)に行きました。神話の里で、神々しい場所です。夜は高千穂神社で神楽(かぐら)をみました。翁(おきな)と媼(おうな)のお面をつけた男性2人が踊ります。驚いたのは地元の人たちに交じってそれを見に来ていた観衆のうち、3割くらいが外国人だったことです。音楽が雅楽で、言葉はほとんどないパフォーマンスなのですが、その外国人たちも神楽の意味は理解しているようでした。こうしたところにまで、インバウンドが浸透していたのです。
 函館の朝市に行ったときには外国人観光客が多くて驚きました。私が歩いていたら、中国語で声をかけられ、中国人と間違われました。お店の人に聞いたら、8割が中国から来た観光客で、そのほか、韓国、台湾、香港、タイからの観光客が多いそうです。店の看板も北京語、ハングル、英語、そして日本語と多言語表示でした。まるで外国にいるような感覚でした。市(いち)に出店しているお店の人はちゃんと中国語で接客しており、見習わなければいけないなと思いました。こういう体験をすると、日本はおもしろいし、それは息抜きでも発見でもあります。日本全国の消費の動向を肌で感じることができます。
(左)赤松憲(あかまつ・けん)氏<br />
(右)大村泰
(左)赤松憲(あかまつ・けん)氏
(右)大村泰
(掲載日 2018年11月7日)

バックナンバー

トップインタビュー一覧へ