NIKKEI Media Marketing

トップインタビュー

NMM 35th anniversary top interview

  • 第11回 オムロン 取締役会長 立石文雄様
 日経メディアマーケティングは2018年3月1日、おかげさまをもちまして会社創立35周年を迎えました。その記念プロジェクトとして、4月、お取引先様などとの絆(きずな)を深めさせていただくことを目的に、ウェブサイトを大幅にリニューアルしました。
 その目玉企画として、企業や各界のトップにインタビューをお願いし、みなさまにお届けする連載を始めました。グローバル化やデジタルトランスフォーメーションが加速するなか、ビジネスの革新や働き方改革に向け、今を読み解いて、未来に向けて行動するための視点やヒントを探っていきます。

「企業理念」が成長の源泉 社員・社会との対話、丁寧に
オムロン 取締役会長 立石文雄様

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
立石文雄(たていし・ふみお)氏
立石文雄(たていし・ふみお)氏
 トップインタビュー第11回は制御機器から電子部品、車載、ヘルスケア、交通・社会システムなどさまざまな事業で、グローバルに成長を遂げてきたオムロンの立石文雄取締役会長です。早くから企業に必要な公益性とパイオニア精神を両立させた「企業理念」を掲げ、ダイバーシティやサステナビリティ経営で先進的な取り組みを続けています。立石会長が伝道師として担っているのが取引先や株主、そして社員などステークホルダーとのコミュニケーションです。きめ細かく丁寧な対話のなかに、「企業理念」の実践にかける強い意志と成長の原動力を見つけることができました。
プロフィル
立石文雄(たていし・ふみお)氏 1972年慶應義塾大学商学部卒業後、75年立石電機(現オムロン)に入社。97年取締役、ヨーロッパ現地法人トップに。99年執行役員常務、2001年グループ戦略室長、2003年執行役員副社長兼インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長、2008年取締役副会長、2013年取締役会長。1949年生まれ。京都府出身

60年前の「社憲」を「求心力」に進化、いまも新しく

--- オムロンは1959年に創業者である立石一真氏が制定した「社憲」(「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」)が象徴するように、60年も前から、企業の社会的責任を意識してきた先進企業です。会長として、この「社憲」の持つ意味と、これを守り、伝える立場としての使命感をお聞かせください。

 創業者が「社憲」を制定した背景には1948年に起きた労働争議があります。当時、どうしたら経営と社員が一体となって同じ方向を向いて、企業を成長させることができるか悩んでいたそうです。1953年に参加したJEMA(日本電機工業会)主催の米国視察で、米国の経済発展の源泉は星条旗に込められた想いやフロンティア精神などの理念にあることに気づきました。企業にも同じような理念のようなものが必要であると確信を持ったと聞いています。社憲には2つの意味が込められています。1つが会社として社会に貢献する「公器性」であり、もう1つはオムロンが先駆けとなりたいという「先進性」です。根本には創業者が幼少期に父親を亡くしたり、家計を助けるために新聞配達をしたり、国から奨学金をいただいて大学に進学したことで、社会に恩返しをしたいという想いが強くあったのだと思います。
 1990年1月に「立石電機」から社名変更する際、同時に「社憲」を「企業理念」に進化させたのです。以降、3回改定していますが、DNAをキープしながら、時代背景や会社の規模拡大などに合わせてきました。2006年5月の2回目の改定のとき、経営としての「求心力」を「創業者」から「企業理念」に置き換えることを宣言し、経営のよりどころとして、「企業理念」の実践にこだわってきました。
 現在の「企業理念」はシンプルでわかりやすくOur Mission(社憲)とOur Values(私たちが大切にする価値観)で構成しています。Our Valuesでは、企業理念を実践するために、どう行動すべきかを明確に打ち出しています。最近ではこの「企業理念」の実践こそ、サステナビリティ(持続可能性)の推進そのものであることを伝えています。
社憲

「会長ダイアログ」で世界へ伝道、共鳴の広がりに手応え

--- 会長ご自身、「企業理念」の伝道師として、毎年、世界中の拠点を訪れていると聞いています。

 2006年に2度目の企業理念の改定を実施しました。翌年2007年から取締役が海外の主要拠点に出向いて、「企業理念」について理解を促進するために現場社員と対話をしてきました。2013年、私が会長になってからは、「会長ダイアログ」としてこの取り組みを主導しています。「企業理念」の実践には、「企業理念」の浸透が大切なことと考え、毎年、国内も含めて米国や欧州、中国・アジアなど主要拠点を周り、経営幹部と対話しています。2018年で12年目になります。私は「企業理念」を「太陽の光」にたとえて話します。光が強ければ強いほど、遠くまで届き、組織の核からの共鳴が強ければ強いほど、現場社員まで強く浸透します。社員に「太陽の光」を与え続けることにより、実践が促進され、現場と経営の距離を近づけることができると信じています。コツコツとした草の根活動ですが、社員を通じて、お客様まで届くものと思っています。
 2017年度は「サステナビリティ」をテーマに加えて、世界7カ国で延べ11回、210人と議論してきました。拠点のマネジャー層はオムロンの成長を通じて自らも成長することに喜びを感じて、部下ともその喜びを共鳴することが行動の原動力になっているということでした。私との対話は、マネジャー層がそれぞれ現場に持ち帰って議論してもらうのですが、マネジャー自らが率先垂範することが重要です。メンバーはその姿に共鳴し、「企業理念」が現場に定着していくのだと思います。
 海外を周ってみると、オムロンの、この「企業理念」に惚れているという社員が多いようです。欧州など日本から遠ければ遠いほど、「企業理念」は頼りになります。

「サステナビリティは経営課題そのもの」、理解進むことに喜び

立石文雄(たていし・ふみお)氏
 「サステナビリティは経営課題そのものであり、常に意識して業務に取り組むことで企業理念の実践そのものになっていくと感じた」(韓国)、「2020年に向けてサステナビリティ推進に明確な目標が設けられたので実践に役立った」(オランダ)といった声のほか、米国・シカゴでは「企業理念とSDGs(国連の定めた持続可能な開発目標)をリンクさせることでオムロンは一層、先進的でイノベーティブな企業になれる」といった声を聞き、グローバルレベルで共通認識が広がっていることが確信できました。
 サステナビリティ、SDGsと事業をリンクさせることはオムロンらしいと思っていましたが、受け入れられるか心配な部分もありました。しかし、そうした懸念は払拭され、社会的課題を解決することに誇りを持ち、喜びや生きがいを感じてくれていることがわかりました。
 企業理念の実践とサステナビリティの実現は同義語と思っています。2017年度に設定した中期経営計画に2020年をゴールとするサステナビリティ重要課題を設定しました。2020年に向け、事業ドメインごとに目標を置いています。目標の置き方はそれぞれですがサステナビリティ課題への取り組みというベクトルを一致させ、持続的な企業価値の向上を目指しています。

社内表彰制度がチャレンジする風土を醸成、モチベーション向上

--- 2012年度から始めた社内表彰制度「TOGA(The OMRON Global Awards)」が企業理念を実践することを日常業務で意識することに役立っているそうですね。

 「TOGA」は、「企業理念」の実践を促進するために始めたイベントで、対象はグローバル全社員、3名以上でチームを作って、参加する仕組みです。近年では社外のお客様との協創テーマも増えてきました。仕事を通じて企業理念を実践することを目的に、アプローチはいろいろです。たとえば、お客様へ事業価値を届ける(社会的課題の)テーマを決め、それに対応した新規事業のアイデア・計画や事業促進策・改善案などのプランをエントリーしてもらっています。初年度の参加者2万828人・2,481テーマが2017年度は5万1,093人・6,216テーマといずれも2.5倍となっています。毎年5月10日の創業記念日には各国・地域の予選で選ばれた13チームが京都の本社に集まり最終プレゼンテーションを行い、社員皆で称えあい、共鳴の輪を広げます。翌日には国内の事業所数か所に散らばって紹介してもらいます。運営スタッフは大変ですが、受賞メンバーには大きなモチベーションになっています。
 当初は「絶えざるチャレンジ」をテーマとしたもの(継続的な取り組みの延長線)が多かったのですが、2年前くらいから「ソーシャルニーズの創造」に関するテーマが多くなり、社会がいま、求めるものは何であるのか、社会的課題を意識してきているのではないかと思っています。これはガバナンス(企業統治)の強化にもつながっているということです。
TOGAの参加状況

ステークホルダーとの会話、オープンに 社員と経営はツーウェイ

--- オムロンは取引先、株主、社員など、さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションを非常に大切にしています。ホームページやアニュアルレポートなどでも数々の受賞があります。

 ステークホルダーの皆さまとの対話も、企業理念の実践、「よりよい社会づくり」と位置づけており重視しています。また、社員も大事なステークホルダーのひとつです。2016年度から始めた「VOICE(VG OMRON Interactive Communication with Employees)」 は、社員の声を経営側が聞くツールです。単に社員・従業員満足度調査(ES)ではなく、経営に対するニーズを調査し、それを課題として、経営が議論して、対策を社員にフィードバックし、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回しています。短期や中期、経営計画や経営方針について、どう思っているのか、社員の意見を聞き、フィットしているかどうか、ナマの声を聞いています。2017年度は約7,600件の声が集まり、中期の視点から、5つの優先課題を抽出し、経営側として改善策を打ち出しました。経営と社員のツーウェイのコミュニケーションによって、距離が縮まることで、社員はやりがいを感じ、事業のスピードアップになります。
 オムロンでは「タテヨコ経営」と称していますが、カンパニーごと、横の垣根も低く、助け合うカルチャーがあります。カンパニートップは他の部門にアドバイスをしたり、いい意味で、「ワイガヤ」です。トップ同士がアイデアを出し合い、社員もいっしょになって、アプローチします。事業部門それぞれが中規模なので、経営のスピードも上がるのではないでしょうか。
連結業績推移、事業別売上構成

「人間性の尊重」こそダイバーシティ、女性管理職8%目標

--- ダイバーシティ経営に関しては2017年度には多様な人材の能力をよく引き出している「新・ダイバーシティ経営企業100選」(選定:経済産業省)、女性活躍推進に成果を挙げている「なでしこ銘柄」(選定:経済産業省・東京証券取引所)のダブル受賞を果たしています。

 「企業理念」に「人間性の尊重」を掲げています。人の多様性や人格、個性の尊重はもとより、人間らしい暮らしや仕事を追求するのはオムロンのすべての活動の根底にある価値観です。
 1972年、世界で初めてとなる福祉工場として、「太陽の家」(障がい者自立のための社会福祉法人。1964年の東京パラリンピックを成功に導いたといわれる医師・中村裕氏が設立)と共同出資で「オムロン太陽電機株式会社」(現オムロン太陽株式会社)を設立しました。中村氏の理念に創業者が惚れ込んだと聞いています。「人に障がいはあっても、仕事に障がいはない」。現在でもグループ全体で障がいの有無にかかわらず活躍できる環境を整えて、ダイバーシティへの取り組みを加速しています。
 オムロンは事業売上高の6割、従業員の3分の2が海外です。2020年度のサステナビリティ目標では「人財マネジメント」に、海外重要ポジションに占める現地化比率を2017年度の49%から66%に引き上げることを掲げています。女性活躍推進ではまだまだがんばっていかないとと感じています。現在、女性の社外取締役が1人、女性執行役員は2人です。女性管理職比率を現在の4%弱から2020年度に8%とする計画で、女性管理職候補生の研修「OMRON WOMAN WILL」を2015年度から始めるなどリーダーの育成に力を入れていますが、いろいろなアプローチをしていかなければなりません。

異能人財集団が目標、「人生は常に『学び』である」

--- オムロンが求める人材像と、若手として働き始めた人、さらにこれから社会にでてくる学生たちにメッセージをお願いします。

 現在の長期ビジョン「VG2020」、そして先の未来においても持続的な成長を実現するために、経営と事業をけん引できるリーダーを育成していきたいですね。すべてがインターネットにつながるIoTやAI(人工知能)、ロボティクスなど、現在はイノベーションの勃興期です。すさまじいスピードで変わっていくなかで、それぞれの領域で「とがった」専門性やスキルを持つ「異能人財」を先行して集めていくことができるかが重要だと考えています。そうした人財を多く採用し、集団となって、議論することで、イノベーションを起こしていきたいです。
 若い世代には「人生は常に学びである」といっています。そして、チャレンジしてほしいです。チャレンジの先に「成功」はあっても「失敗」はありません。そこには「学び」があり、「学び」を積み重ねたあかつきには「成功」があると思っています。
 それから、物事を判断するときには身内の「損得」よりも、社会の「善悪」で判断することが大事ではないでしょうか。

唄うことが好き 趣味は旅行、ふれあいが「寛容を教えてくれる」

--- ご自身のストレス解消法や趣味、最近の関心事をお聞かせください。

 幅広く音楽を聴くことです。コンサートにいったり、唄ったりすることです。大学時代は4年間、「男声合唱団」(ワグネル・ソサィエティー男声合唱団)に所属していました。唄うのは好きです。趣味は旅行です。国内でも海外でも。座右の銘は「一期一会」、そして「旅は寛容を教える」という言葉です。旅先で現地の方とふれあい、交流することを通じて、お互いの意見を見出し、認め合うことができると思っています。それがブーメランとなって、自分自身の「寛容性」が養われることになると信じています。週末などには旅番組をよく見ます。あとはスイミング、アクアビクスです。
 社会の「持続可能性」に強い関心があります。2015年、2030年に向けた国連のSDGsが発表され、「パリ協定」も翌年に制定されましたが、いま、世界中で大きな気候変動が起こっています。多くの「社会問題の解決」にスピードを上げて取り組み、世界の、また、地球の「持続可能性」を守っていきたいですね。

(左)立石文雄(たていし・ふみお)氏<br />
(右)大村泰
(左)立石文雄(たていし・ふみお)氏
(右)大村泰
(掲載日 2018年10月24日)

35周年記念「トップインタビュー」