京都本社工場が手狭になっていたこともあり、父親の社長時代に取得していた琵琶湖畔の土地を活用しようと考えました。
技術の遷宮を行うことで、技術の伝承だけでなく、世代を超えた大きな連携の輪もできました。あらためて、OBを呼んで教えてもらい、会社のノウハウが結集した新しい製造設備を一緒に作っていくなかで、世代間に良いつながりができあがりました。先輩たちに困ったことを相談していく中で、磨かれてきた技の数々を知り、あらためて尊敬するようになったと聞いています。先輩たちも自分の技術を若い人たちに伝えることに対して誇りを持ってもらえました。
2016年に滋賀県大津市に竣工した開発・生産拠点。京都市の本社工場から主に自動車・環境関連の開発機能を移転させ、集約した基幹工場。1階にある自動車開発試験設備「E-LAB(イーラボ)」は3つの実験室を備え、自動車のすべての走行モードにあわせた計測が可能という。琵琶湖畔の高台に立ち、クルーズ船をモチーフに、外からふんだんに光を取り入れた、従来の工場・研究施設にはない開放的な空間が特徴。10階建て。吹き抜けの階段をもっとも明るい琵琶湖側の中央に配置、角度や踊り場、手すりなど昇り降りしやすい工夫が施されている。階段近くに椅子やデスク、カウンターをあつらえたコミュニケーションスペースがあり、打ち合わせや気軽に談笑する様子がみられる。
社是「おもしろおかしく(Joy & Fun)」が書かれたヨットの帆が玄関で訪れる人を迎える。ミーティングルームや応接室の窓、社員レストラン、デッキ、壁などのデザインやインテリア、調度品などはすべて船をイメージしたもの。「ぜいたくはだめだけど、一流・プレミアムでありたい」(堀場厚会長)と想いがこもる。「『働きやすい』を超越し、『働きたい』工場、『ほんまもん』の工場、そういう工場をつくることができたのではないかな」と笑みを浮かべる。
「港」の見学者は1万人を突破、国内外の大手企業のトップも頻繁に訪れる。
当社は「製作所」と名乗っていますが、モノづくりの8割は協力会社に依頼しています。「日本の工場の強みは何か」と言えば、実は「協力会社の強み」です。30年、40年かけて世界中に工場を建ててきましたが、あらためて、「世界に負けない工場」を考えたとき、そのヒントはこの協力会社にあると思いました。協力会社と共に、強力な工場を作ろう、こうみなさんにお願いをしたのです。結果は同じ場所で研究・開発段階からテストまで一緒に進めていけるのですから、連携は早いし、試作段階における打ち合わせの移動時間、タイムロスとなる中間財の物流、在庫もなくなり、生産効率が大幅に上昇しました。両者に大きなメリットが生まれています。
実は、新工場の設計・レイアウトにあたって、各部門から提案を持ってきたとき、2、3度、突き返すようなことがありましたし、「そんなやる気がないなら止めよう」とも言いました。というのも、外部の設計会社の提案をそのまま採用したようにみえたからです。社員たちへは「どれだけ君たちの意志があるか」と問いただしました。
最後は私も感心する良い案ができました。なかでも一番納得できたのが管理職を全員一箇所に集めたオフィスです。開発、設計、生産の各本部長は、席を並べて座る配置となっています。各担当者が報告にきたとき、たとえば、製造で問題があっても開発の責任者が横にいるから聞こえてくるわけです。会議を設定する必要はありません。その場で対処できます。会議はすごく減りました。これは若手のアイディアです。私は生産性と対応力が向上し非常に良いと褒めました。
当社は、分野の異なる5つの事業を持っています。自動車、環境、医用、半導体、科学の5つです。顧客が求めることや、価値観、時間軸がまったく違います。ただ、こうした顧客に対応しているということは世界のほとんどの産業の動きを把握しているということです。
たとえば、先ほどの半導体ですが、なぜ、あのタイミングで投資したかというと、自動車業界の動きを知っていたからです。自動車が電動化すると、半導体の使用量も上がります。パソコンとか携帯電話の使用量の拡大に加えて、絶対的な生産量は増えます。最終価格の浮き沈みはあるかもしれませんが、製造装置に使うコンポーネントの需要は絶対に増えると確信していました。
5つの市場から最新情報を常に得ることができますので、情報戦では優位です。それらを活かし、複合化したマーケティングが可能になります。