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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

お客様が第一、第二は従業員 会社は経営者の器量を超えられない
ライフコーポレーション会長兼CEO 清水信次 様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
清水信次(しみず・のぶつぐ)氏
清水信次(しみず・のぶつぐ)氏
 トップインタビュー第4回は食品スーパー大手・ライフコーポレーションの清水信次代表取締役会長兼CEOです。日本チェーンストア協会や日本小売業協会などの流通業界の団体トップを歴任する、まさに重鎮。92歳となったいまでも売り場を歩き、お客様をみつめ続ける一方で、創業オーナーでありながら、会社経営のかじ取りを自らが見込んだ外部の商社マンに思い切って任せる才覚で、再編・淘汰の激しい競争をくぐりぬけてきました。長年の経験と内外に広がる人脈、確固たる歴史観に基づく識見と現場感覚から見た、流通業界のいまとこれから、理想とするリーダー像や企業人の在り方をうかがいました。
プロフィル
清水信次(しみず・のぶつぐ)氏 1956年、ライフストア(現・ライフコーポレーション)を設立し、社長。2006年、三菱商事出身の岩崎高治氏に社長兼COOを譲って、現職。2011年日本チェーンストア協会会長(2018年5月副会長)。三重県出身。

大きな流れを見る 常に売り場に答えがある

--- ようやく脱デフレの足音が聞こえ、個人消費にも明るさがみえているように言われています。現在の景況感をどのようにみていますか。

 長く経済や社会、暮らしを見てきた立場からすると、インフレや円高不況、バブルだったり、その後のデフレもあって、現在は「さあ、脱デフレ」といったりしていますが、部分、部分をみて判断すると、誤るのではないかと思っています。報道機関や学者はそれが仕事かもしれませんが、太平洋に出る前の大河をながめるように大きな流れで見るようにしています。(デフレがずっと続いていくということではないですが)、基本的な立場や判断姿勢はずっと変わっていません。戦後から約70年間、景況感を大きくとらえるようにしています。流通業者としてはお客様、売り場をしっかりとみる、そこからお客様ニーズにきっちりと応えていくことが大切だと思っています。いまでも必ず新しい店舗の出店には立ち合い、売り場を見ています。もちろん取締役会には必ず参加、全店の店長、部長、課長が集まる定例の店部課長会には出席し、店長、幹部たちの顔を見ることにしています。
 日本は戦後から一貫して国民がいい商品をつくって、足りないものは輸入して、いろいろな人がいろいろな立場で力を合わせてきました。特に、戦後すぐはそれぞれが自分の会社の利益にこだわらず、譲り合って、最善の方法を取ってきた歴史があると思っています。国を、経済を、暮らしを再建するために、協力してきたし、今もその続きにあると考えています。そこには使命感があり、覚悟もあり、何とも言えない満足感があります。

流通業界、残るのはもう何社という感じ 独立維持は至難の業

--- 流通業界はバブル崩壊後、まさに厳しい淘汰の歴史でした。これからも再編の動きが続くのでしょうか?

 流通業界は大きな再編や整理が続いてきました。かつて売り上げトップだったダイエーはイオングループに吸収、セゾングループの西友はいま、米国のウォルマート・ストアーズの100%子会社となり、同じグループの西武百貨店はそごうといったん経営統合した後、2位だったイトーヨーカ堂とコンビニエンスストア(コンビニ)のセブンイレブンのセブン&アイホールディングスの傘下に入っています。ニチイ(その後、マイカル)は経営破たん、こちらはイオングループが引き継ぎ、名前もなくなっています。ユニーはコンビニのファミリーマートと伊藤忠商事系列となりました(図表は日経流通新聞1989年度小売業調査を参照し作成、ライフコーポレーションは当時、ライフストアで35位)。
 流通業界として初めて東京証券取引所に株式を上場した長崎屋はドンキホーテホールディングスに入り、いまは姿を消し、静岡県地盤のヤオハン、九州の寿屋、ユニードなどもなくなり、流通業界の競争はまさに「廃墟」のような様相です。独立を維持するのは至難の業だったという感じです。
 いまはセブン&アイとイオンという二強がはっきりしていますが、残るのは何社になるのかという感じはあります。また、創業家が子どもから孫へ、経営を引き継いでいくのは難しくなっているのではないでしょうか。相続税という課題もあります。オーナー創業家が株式を継承していくのは本当に困難な時代になっています。
国内流通業界の激しい再編・淘汰

後継者選びの決断は「第六感」、くらいついたら離さない

--- 12年前に決断されたライフコーポレーションの後継者選び、社長指名は理想的だったといわれています?

 国も会社の経営もトップのリーダーの資質、これがすべてです。要するに、その手腕や力量、人格、識見に優れ、天下国家を論じ、物事の理非曲直の判断ができ、私権、私利私欲がなく、公平、正道、謙虚であること、これがないとトップは務まりません。会社は経営者の器量やスケールを超えることはできません。何事もこの一言に尽きます。しょせん、私は焼け野原に残った「野戦兵」のかたわれであり、「正規兵」ではないし、そういう教育や訓練を受けていません。岩崎高治社長とはまったく違います。岩崎社長には私とは違うものを感じ、任せることに決めました。それは間違いなかった。
 彼を後継者に選んだのは勘、第六感、インスピレーションでした。20年前、流通業界の視察で訪れた英国のリバプールで当時、三菱商事から英国の同社子会社の食品メーカーに出向していた岩崎社長が偶然、現地の百貨店を案内してくれることになりました。初めて会うのに、不安な気持ちで、リバプールの駅で待ち合わせました。でも、彼のガイドを受けるなかで、話しぶりや気配りの仕方、見識、すべてが気に入り、「この人と一緒に仕事をしてみようかな」と思ったのです。そのころ、自分の器量に限界を感じており、このままでは経営が困難になるのではないかと感じていました。必死に人材を探していました。ちょうどその時だったのです。
 帰国してすぐ三菱商事にお願いしました。ただ、三菱商事としても海外赴任なので会社のルールがあり任期がある。結局、2年待って、会社に迎え入れたのです。その時32歳。彼には店舗、商品、管理(人事・総務、法務など)と2年ずつ契約を更新しながら、会社の経営をひととおり経験してもらいました。やっぱりいいですね。さあ、4回目となったら、三菱商事が難しいというので、1年だけ延期してもらい、専務として営業全般をみてもらったのです。6年と最後の1年。これ以上は難しいと思ったけれど、たまたま、私が心臓の病気で、手術をしなければならなくなった。入院するし、治ってもどうなるかわからなかったので、彼に社長になってもらうことを考えました。あまりすっとはいかなかったけれど、体のことがあったので、無理をいって、三菱商事に承知してもらいました。
 みんなしくじるのは己(おのれ)の器量、スケールを超える仕事をしてしまうことです。私みたいに、「手に負えんなあ」と思ったら、人に任せる。己の器量がわかれば、おのずからとどまるところを知るということです。そして、次はこの人と思ったら、くらいついて離さない。そのエネルギーと熱意は(相手にも周囲にも)伝わるのです。失敗する人はみんな、「おれはできる」、「おれはえらいんだ」と錯覚するんですね。とんでもない話です。
 岩崎社長となって12年になりますが、ライフコーポレーションも連結売上高7000億円規模に育ち、着実に歩んでくれていると思っています。自己採点は難しいけれど、統合が進んできた百貨店業界と比べてみると、三越や伊勢丹など有力ブランドのひとつに匹敵する規模にはなってきました。

人との縁がすべて 人間も動物の一種 「勘」が大事

清水信次(しみず・のぶつぐ)氏
清水信次(しみず・のぶつぐ)氏

--- 振り返ってみて、なにが一番、よかったとお考えですか?また、これから求められるリーダー像、どのような人材が必要でしょうか?

 自らの一生を省みると、全部、人との縁(えん)だったと思っています。戦後の焼け野原、闇市から立ち上げた会社をライフコーポレーションとして育てて、いまはかじ取りを次のリーダーに譲っているわけですが、この間、通った学校の先生やそこで得た友人、そして戦友、政治家や官僚、戦後の経済復興を支えるために一緒になって汗を流した商社の方々、日本のために、お客様のために、がんばってきました。
 やはり、お客様と従業員がいて、はじめて会社の経営が成り立つのです。会社はだれのものか議論になることがありますが、これだけは確かなことです。米国流の「会社は株主のもの」ということではないと思っています。第一にお客様、そして第二が従業員そして第三が取引先、それから株主や創業者は四番目です。お客様と従業員、取引先の三つの循環がうまく回って、それが利益となり、おこぼれが配当として、株主や創業者に落ちてくるということではないでしょうか。
 基本的には先ほどいったような本当の意味でリーダー像に通ずるような人ならだれでも通用します。ただ、身近なことをいえば、自分の家庭や家族を大事にすることです。父親として威張っているような人がいるけど、私は感心しません。親子、兄弟、夫婦といえども人格を尊重し、健全で明るい、風通しのいい家庭をつくることです。企業人である前に、家を治めることです。もちろん、例外はあります。家庭がほとんど壊れているような人でも経営や事業に成功する人がいないわけではありません。
 それと、人間はしょせん、動物の一種です。大切なのは気、気合い、空気、それがなく、それが読めないと、身を守れないですよね。空気を読むとか、気分をとらえるとか、その勘を養うことです。そこのところが大事です。動物的な感覚が必要なことがあります。気づいているかどうか、成功しているひとは動物的な感覚がありますね。

政治家はもう少し勉強を リーダーによって流れが決まる

--- 世の中に期待することはなんでしょうか。

 政治家にはもう少し勉強してもらいたいと思うことがありますね。経済界は国内でも世界でも激しい競争があるから、がんばるし、努力もします。官僚もいろいろいわれていますが、日本の官僚は世界一だと思っています。やはり優秀だし、基礎があり、使命感がある。それぞれに専門家をそろえています。あとは政治家だと思います。戦後の首相をずっと見てきましたが、一流と思う政治家は自民党では岸信介氏、福田赳夫氏、中曽根康弘氏など7、8人。あと25、26人はランクが低い。落第点ではないかもしれないけれど、派閥で切磋琢磨しなくなったせいもあるが、勉強不足ではないでしょうか。
 最近、若手をチヤホヤするけれど、果たして、中国や米国、ロシア、歴史のある英国、ドイツなどと対等に渡り合うことができるでしょうか。小選挙区制という選挙制度の問題もありますが、人材がいるかどうかで、リーダーによって流れが決まるので、どれだけ勉強、努力するかにかかってくると思っています。仮想通貨の問題など、弊害や被害をもたらす可能性もあるのでないでしょうか。大けがをしないよう、慎重にやってもらいたいですね。 ただ、経済界にも人間として大物はいなくなりましたね。商品やサービスをうまく回している人はいますが、教育がせせこましくなっているせいでしょうか、大物が出てこなくなっているのでしょうかね。
(左)清水信次(しみず・のぶつぐ)氏(右)大村泰
(左)清水信次(しみず・のぶつぐ)氏
(右)大村泰
(掲載日 2018年6月8日)

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