NIKKEI Media Marketing

トップインタビュー

NMM 35th anniversary top interview

  • 第1回 東京海上ホールディングス 隅修三会長様
 日経メディアマーケティングは2018年3月1日、おかげさまをもちまして会社創立35周年を迎えました。その記念プロジェクトとして、4月、お取引先様などとの絆(きずな)を深めさせていただくことを目的に、ウェブサイトを大幅にリニューアルしました。
 その目玉企画として、企業や各界のトップにインタビューをお願いし、みなさまにお届けする連載を始めました。グローバル化やデジタルトランスフォーメーションが加速するなか、ビジネスの革新や働き方改革に向け、今を読み解いて、未来に向けて行動するための視点やヒントを探っていきます。

若い世代をサポートする仕組みを作りたい
東京海上ホールディングス・隅修三会長様

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
隅修三(すみ・しゅうぞう)氏
隅修三(すみ・しゅうぞう)氏
 トップインタビュー第1回は5月末に経団連副会長に就任することが内定している東京海上ホールディングス会長の隅修三氏にお願いしました。今年で5回目の参加となった世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の印象や経団連副会長就任に向けた抱負、これからの企業ガバナンスの在り方などをうかがいました。ながく、損害保険会社の経営にたずさわり、経済界で活躍する隅氏のグローバルな視点からみた、これからの企業経営や社会の姿を考えたいと思います。
プロフィル
隅修三(すみ・しゅうぞう)氏 東京海上ホールディングス会長。1970年東京海上火災保険入社。2000年取締役、2007年社長。2007年東京海上ホールディングス社長、2013年現職。山口県出身。

世界各国のリーダーが集まるダボス会議、参加5回目の実感

--- 今年も世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席されました。米国のトランプ大統領が初めて参加しましたが、印象はいかがでしたか?

  ダボス会議への出席は今回で5回目になります。世界各界のリーダーたちが集まって、さまざまなテーマで論議が行われました。他国の政治家や経営者が世界をどうみているのか、肌感覚で感じることができる良い機会と考えています。
  こうしたなか、会議の冒頭でホスト国としてスピーチしたスイスのアラン・ベルセ大統領はすばらしかった。さまざまな問題があっても、これまで人類が懸命に考えながら作り上げてきた民主主義や自由、人間の価値を重視する仕組みは、ベストではないかもしれないけれどベターであると強調していました。こうしたものを守るために、負の側面は解決しながら、決して一国主義ではなく、ひとつひとつ、力を合わせて取り組んでいくことの重要性を訴えていました。報道ではほとんど報じられていませんが、大変立派な演説だったと思っています。
  今回、私は(日程の関係で)トランプ大統領の演説は聞けませんでした。TPP(環太平洋経済連携協定)への復帰示唆もあったようですが、TPP11にそのまま復帰するわけではないようで、今後も状況をよく見極める必要があると思っています。
隅修三(すみ・しゅうぞう)氏

民主主義や自由・人権をいかに守るか、いまが考える大切な時期

  いま、私たちが後世に伝えていかなければならない民主主義や自由、人間の尊厳などが損なわれかねない状況となっています。デジタルイノベーションやグローバル化によりさまざまなところに広がり始めた格差、そして民族問題、民族間の確執、難民問題など、一時期よりも解決策が非常に見つかりにくいテーマが世界を覆っています。
  また、民主主義や自由、人権などをどちらかというと否定するようなステート・キャピタリズム(国家資本主義)もみられます。こうした考え方は、効率だけを考えれば優れているのかもしれませんが、私たちが選ぶ道なのかという思いがあります。
リーダーたちにとっては、どれひとつとってもその解決が本当に難しく、「ここから手をつけていけばスムーズに解決できる」といった確たる手法は見当たりません。こうした状況のなか、あくまで個人的な見解ですが、リーダーたちは、抱えている問題や課題の解決に向けて真正面から論議することに対して、若干引いているというか、真面目に論議することに躊躇しているのではないか、という印象を受けることもありました。
  いま、私たちが作ってきた自由や資本主義、民主主義などが問われており、いまはそういうことをしっかり考える、考えなければならない時期だろうと思っています。ダボス会議では多くの議論が展開されますが、いかに世界が持続的・平和的に発展していくかということが根底にあるテーマであり、これを確認するということが、世界のリーダーが集まる会議の意義の一つだと感じています。

いろいろな課題の根底にある「人口減少」・「高齢化」

隅修三(すみ・しゅうぞう)氏

--- 経団連で人口問題委員長を務めておられることを踏まえ、人口減少や子育て対策についてのお考えをお聞かせください。また、5月末に就任される経団連副会長としての抱負をお願いします。

  年金や医療などの社会保障に対する不安、個人消費の伸び悩み、物価がなかなか上がっていかない経済状況、地方創生・地域活性化など、いま日本が抱えているいろいろな課題の根底に、人口問題があると考えています。
  急速な高齢化の進展や人口問題に対しては、「これをやれば解決する」という確たる方法があるわけではありませんが、経済界だけではなく、いろいろな視点から取り組みを進めていかなければならないという認識をもっています。
  何より、若い世代が安心して子どもを産み、育てていける社会を作っていく必要があります。現状は、足元の暮らしや将来への不安もあって、若い世代が子どもを産み、育てることにやや躊躇している傾向もあると思います。社会全体で次世代を支えるというメッセージを打ち出し、若い世代が抱く「漠然とした将来不安」を解消することが喫緊の課題であると思います。

非正規社員の処遇改善を、財源の状況によっては少しずつ我慢も

  若い世代の不安には、労働者全体の4割に達している非正規社員の処遇の問題もあります。非正規社員には若い世代の人も多く、所得が思うような水準に達していないという状況もあるでしょうから、生産性向上を通じて処遇を改善することも必要です。また、若い世代には、自分たちの世代に年金が残っているかどうかという不安感もあります。
  こうした現在の不安感、将来に対する不安感をどうやったら和らげることができるか、考えなければならないと思います。そういった意味で、政府が消費税増税分の一部を幼児教育・保育などの子育て支援にシフトし、若い世代を支援することで、「みんなで子どもを育てていく、サポートしていく」という方向性を打ちだしたことは評価しています。財源の状況によっては、みんなが少しずつ我慢して、若い世代に支援が回るような仕組みを作らなければならないと思います。

AI・ロボティクスの加速は雇用に影響、社会全体の対応必要

  今回の春闘では賃上げの動きも進んでおり、企業側にも働いている人に還元していくという姿勢が強まってきていると思います。非正規雇用の人を含め、企業が処遇改善に向けて努力していくことは、経済界として取り組んでいかなければならないテーマだと思います。企業は国民全体の生活や社会を安定化させるという視点を持ち、賃上げ、生産性向上、女性・高齢者の労働参加率向上につながる働き方改革などを進めていく必要があります。
  また、AI(人工知能)やロボティクスに象徴されるようなデジタル技術が進展するなか、企業は世界と競争していくためにそうしたものを導入し、生産性を向上させていかなければならないでしょう。そうすると、デジタル技術の世界に対応できる人もいるでしょうが、おそらくできない人もでてくるでしょう。対応できない人をどう守り、活躍する機会を作っていくか、社会全体でどのように雇用を守っていくのか、その仕組みについても考えていく必要があると思っています。

ガバナンスの「かたち」は問わない、社外役員に何を求めるか明確に

--- 財界活動に加えて、ソニーや豊田自動織機などの社外取締役に就任されています。企業ガバナンスの在り方、取締役の位置付けや役割・機能についてお聞きできればと思います。

  現在、三菱UFJ銀行(4月1日付で三菱東京UFJ銀行から行名変更)、ソニー、豊田自動織機の3社で、社外取締役を務めています。三菱UFJ銀行は「監査等委員会設置会社」、ソニーは「指名委員会等設置会社」、豊田自動織機は「監査役会設置会社」と、ガバナンスの形態は三社三様で、たまたまですが、3つの形態に関わっていることになります。
  私は、「ガバナンスはこの形態でなければならない」といったことは思っていません。それよりも、社内で執行を担っている役員と社外役員がしっかりと論議できているか、その中身がすべてだと思っています。「かたち」(形)は問わないと感じています。
  大切なのは、企業サイドが取締役会に対する考え方、軸をしっかり持ち、社外役員に求めることを明確にしておくことです。一方、社外役員も、自分がどのような役割を求められているのか、どういった貢献ができるのか、真剣に考えなければなりません。実際、私も、社外役員を務めている3社にどのような貢献できるか、大変、悩むことがあります。
3つのガバナンス機関設計方式(現在)
3つのガバナンス機関設計方式(現在)

経営者が自ら説明責任を果たす判断を

2018年3月13日日経夕刊

  社外の人間として、経営者が暴走しないようチェックするのは大きな役割です。また、その企業にある企業内常識と、社会の常識との間に生じ得るギャップについて、きちんと確認していく役割もあると思います。社外役員が企業活動のすべてについて知ることは難しい面もありますが、そうした限界があることも感じながら、役割を果たしていく必要があると思っています。
  一方、企業が「リスクをとって、チャレンジしよう」という時、社外の人間はただ「あぶない、あぶない」と言っているだけで良いとは思っていません。本当に企業の将来性につながるチャレンジとなるよう、どうやってサポートできるか、そういう視点からも真剣に考えたいと思っています。もちろん、それでも事業が失敗することはありますが、さまざまな視点から考えて、決めていくことが大切です。

  現在、コーポレートガバナンスコードが見直されようとしています。法制審議会(法相の諮問機関)などでは、企業と株主の対話促進、株主総会や株主提案権に関するルール、取締役会の在り方、社外取締役の設置義務付けや人数の基準、構成比、さらに取締役の女性比率などが焦点になっています。
  これはコードであり、強制ではないという位置づけは承知していますが、経営者が株主に対してしっかり説明責任を果たすという視点を持ち、自らの考え・判断で決める、実行することが重要だと思っています。

透明性をとことん高めていくこと、これこそがあるべき「経営哲学」

(左)隅修三(すみ・しゅうぞう)氏 (右)大村泰
(左)隅修三(すみ・しゅうぞう)氏
(右)大村泰
  委員会制度の導入、社外役員の起用など、コーポレートガバナンスの観点から先駆的な取り組みをしていたとされていた企業であっても、不祥事が起こることがあります。私が社外取締役を務めているソニーでは経営改革に関するさまざまな論議が行われたことがありますが、事業全体の戦略の決め方が非常にオープンでした。やはり、とことん透明性を高めていくというのは経営者の経営方針であり、これは経営哲学であるべきだろうと思います。
(掲載日 2018年4月2日)

35周年記念「トップインタビュー」