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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

ベンチャーと大企業連携 ミドリムシに次ぐ好循環創りたい
ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング会長
  大村泰
出雲 充(いずも・みつる)氏
出雲 充(いずも・みつる)氏
 トップインタビュー第42回は東京大学在学中に動物性と植物性の両方の栄養素を持つ微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)に出会い、「ユーグレナで世界を救う」という志を持って、食品や化粧品の製造・販売等の事業を行うバイオベンチャー、ユーグレナ社を創業した出雲充社長です。ユーグレナ社では、温室効果ガスのなかでも、もっとも地球温暖化に影響を及ぼしているといわれている二酸化炭素(CO2)を光合成で吸収して育つユーグレナを原料の一部として用いたバイオ燃料事業も行っており、地球環境問題の高まりのなか、注目を集めるリーダーです。母校を起点に後進のベンチャー育成にも力を注いでいます。2020年から経団連の役員にも名を連ねる、ミレニアル世代を代表するアントレプレナー(起業家)に自社の成長戦略や日本における起業家育成、デジタルトランスフォーメーション(DX)、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の行方をうかがいました。
※2020年12月7日インタビュー当時の内容をもとに構成しています。
プロフィル
出雲 充(いずも・みつる)氏。 2002年、東京大学農学部卒。同年、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2005年、ユーグレナ社を設立、ユーグレナの食用屋外大量培養に世界で初めて成功。12年東証マザーズ上場、14年東証1部指定替え。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。20年から経団連審議員会副議長。広島県生まれ、東京の多摩ニュータウンで育つ

グリーン改革、日米から強力な「追い風」 カーボンリサイクルで貢献

--- バイオ燃料を開発し、エネルギー・環境事業を通じて、世界的な気候変動問題の解決に取り組んでいるユーグレナ社にとって、事業環境に大きな変化が訪れていますね。

 こんなに急に変わると思っていませんでした。菅総理は2020年10月の所信表明演説で成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」「グリーン社会の実現」を掲げ、「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」と宣言されました。国際社会のなかで、日本だけが温室効果ガス排出量の削減について目標を発表しておらず、このまま、世界から置いていかれるのではないかと思っていましたから、びっくりしました。
 そして、もうひとつ、今回の米国大統領選挙で新しい大統領にバイデン氏が就任することが確定しました。バイデン氏は「グリーン(脱炭素)に徹底的に投資する」として、4年間で2兆ドル、日本円にして200兆円の規模の投資計画を明らかにしています。また、(トランプ大統領が離脱した)地球温暖化防止に向けた国際的な枠組みである「パリ協定」に復帰することを宣言しています。「グリーン」に世の中の投資と注目が集まり、グローバルメガトレンドになっています。
ユーグレナwebサイト
 菅総理はカーボンニュートラルに向けた戦略として「水素の活用」とCO2を素材や燃料に再利用する「カーボンリサイクル」の2つを挙げています。ユーグレナ社のエネルギー・環境事業の柱は、光合成でCO2を吸収するユーグレナを大量培養しバイオ燃料の原料の一部として活用するものです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、東京五輪の延期があったり、飛行機の便数が大幅に減るなど、航空機向けのバイオジェット燃料の事業環境が難しくなったりしていましたが、日本と米国の大きな変化によって、一気に流れが変わりました。
 いまは、強い「追い風」を感じています。

バイオ燃料、陸・海運で採用相次ぐ 空へ最後の努力続ける

--- あらためて、バイオ燃料事業の進捗はいかがですか。

 追い風はありがたいのですが、バイオ燃料は2008年から12年間、コツコツと開発してきたものです。急に早くできるものではありません。これまで陸・海の順番で実用化を進めており、陸では川崎鶴見臨港バスや西武グループ、JR東日本系のバスで使用が始まり、ファミリーマートの配送トラックやセブンイレブンがペットボトルを回収するトラックに使うことが決まりました。海でも八重山観光フェリー(沖縄県石垣市)でテスト運行されており、次は空、バイオジェット燃料の実用化が目標となっています。
 バイオジェット燃料はすでに技術的な問題はなく、20年2月に国土交通省の認可を得ました。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響で、世界中の航空業界が大きな打撃を受けています。航空業界は路線や人員の削減をしたり、飛行機を売却したり、課題が多く、バイオ燃料にまで手が回らない状況ですが、1日でも早く使っていただけるよう最後の努力をしています。

カーボンリサイクルとは

 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2) を資源として捉え、これを分離・回収し、鉱物化や人工光合成、水とCO2から天然ガスの主成分であるメタンを合成するメタネーション技術などにより、素材や燃料への再利用を通じて、大気中への CO2 排出を抑制する仕組み。CO2排出を実質ゼロにするにはその実現が不可欠とされる。資源の安定供給にもつながり、国立研究開発法人 新エネルギー‧産業技術総合開発機構(NEDO)は事業モデルを確立するため、化学コンビナートや発電設備などを対象に実証実験と調査を進めようとしている。
 ユーグレナ社は大手化学会社や大手商社などと組み、NEDOのバイオジェット燃料生産技術開発事業に採択されている。

DX、30年間できなかったことができるのか 「痛みを伴っても成し遂げる」には共感

--- 日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)に少し悲観的な展望をしています。

 平成の30年間、日本はまったく成長しませんでした。私が小学校3年生だった平成元年(1989年)、年末の日経平均株価は3万8,915円、これが史上最高値でした。日本の国際競争力は当時、世界1位(スイスのビジネススクールIMD『世界競争力ランキング』)。日本は元気とやる気と活力にあふれていました。それが平成の時代に下がり続け、令和になって2020年には34位(63カ国・地域対象)に下がっています。
 この理由は明らかです。ひとつめはベンチャー企業、アントレプレナーシップ(起業家精神)が育っていないこと、そして、ふたつめはデジタル化に圧倒的に後れをとったことです。
 これを変えるのがDXでしょうが、30年間できなかったことが、コロナ禍で反省し、進めると言っても、果たしてできるでしょうか。私は難しいと思います。
 日本はコロナ禍を受けて、国民に特別定額給付金13兆円を支給するのに膨大な時間とコストがかかった国です。事務費は1,500億円でした。こんなバカな話はありません。ユーグレナ社は現在、WFP(国際連合世界食糧計画)と連携し、バングラデシュのロヒンギャの難民キャンプでユーグレナ入りクッキーを配布するなどしていますが、難民の方はすべて電子マネーを持っています。そういう意味では日本は難民キャンプのデジタル化に及ばないわけです。マイナンバーカードはあるのに、緊急事態になっても誰も使えない状況です。そんな日本がとてもDXをできるとは思えません。
 そもそも日本では失業率を抑えたままでDXをやろうとしています。しかし、失業率が上がらないDXというのはありません。DXが進むとどうしても不要になる仕事が生まれます。DXをしないで守られる雇用とDXによって得られる生産性の向上、どちらを選ぶのですか?となるのですが、日本ではやはり失業率が上がることは嫌なんです。いま、みんながDXを進めるといっていますが、日本は雇用を守ろうとしています。失業者を増やさないことが大事なんですね。これでは真のデジタル化はできないと思います。
 ただ、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は痛みを伴ってでも生産性の向上とDXを成し遂げなければならないとはっきりと宣言されています。(経団連として)これは初めてではないでしょうか。日本はずっと二者択一の選択を避けてきました。高度成長が続いたせいか、それでも半分ずつ(果実を)もらえると考えていたからです。中西会長は日本の生産年齢人口が減っていくなかで、このままでは国民全員が貧しくなることを心配しているのではないでしょうか。私も経団連の役員として、中西会長の考えの実行役として支えていくことを全力でやらせていただきたいと思っています。

これからの世代はDX済み、能力はピカイチ あとはアントレプレナーシップ

--- 若い世代はどうでしょうか。

 次の世代については何も心配することはないですね。2000年以降に20歳となったミレニアル世代や、それに続く「Z世代」はデジタルネイティブです。アナログからデジタルになることがDXですから、これから社会にでてくる若い世代は全員がDX済みです。何の問題もありません。
 ただし、デジタルだけではダメです。もうひとつ大事なのがアントレプレナーシップマインド、ベンチャー精神です。この育成がうまくいっていない、うまくいく兆しがないですね。日本はもっとベンチャー企業が生まれやすい環境をつくっていかないといけません。いまある大企業に優秀な若者が就職していく社会だと、イノベーションや活力がうまれてきません。
 言い尽くされていますが、世界をリードしているのはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などイノベーションを起こした企業です。イノベーションを起こすベンチャーがこれから社会の中心になっていきますから、若い世代がとにかくベンチャー企業を創ったり、ベンチャー企業に就職したりすることが一番、いいと思います。

東大のベンチャー支援、まさにいたれり尽くせり エコシステムとして機能

--- ご自身、出身大学の東京大学のネットワークを通じ、また、企業として「リアルテックファンド」というファンドを立ち上げ、ベンチャーの育成に力を入れていますね。

 「ベンチャー精神は大切」、「ベンチャーを育成しなければならない」と口でいうのは簡単ですが、具体的に何をしたらいいのか難しいですよね。日本では東京大学だけがちょっとずつですが、うまくいっているのではないでしょうか。
 東大には大学1年生から起業して、会社が上場して成功するまで、全部をサポートする、いたれりつくせりの「サービス」があります。
 たとえば、大学1年生には、東大を卒業した、たくさんのベンチャー経営者、先輩から経験談を聞く機会があります。そのなかには男性もいますし、女性もいます。私たちユーグレナ社もいれば、AI(人工知能)、ロボットもいます。当たり前にベンチャー精神を浴びることになります。
 ここでちょっとでも起業に興味がある学生には次に「アントレプレナー道場」があります。ここは道場ですから、起業のための精神やスキルを学び、実際にビジネスプランを創ったりしています。道場のなかから実際、何社か起業します。
 起業するとなると、事務所、オフィスが必要になりますが、大学はオフィスとして「アントレプレナープラザ」を用意しています。そこには弁護士や公認会計士、銀行や証券会社の人も集まり、多くの経営者の先輩がいて、相談ができるようになっています。さらには東大発ベンチャーを中心に資金を提供するベンチャーファンド、東京大学エッジキャピタルがリスクマネーを貸してくれます。
 ベンチャーに必要なアントレプレナーシップマインドからノウハウやスキル、場所、おカネまで、切れ目なく、本当に応援し、相談に乗る体制が整っています。学生も「じゃあ やってみよう」となりますよね。ほかの大学は起業を勧めるだけで、サポート体制が整っていない。誰に相談したらいいのかもわからず、先輩も事務所も自分で探す、というのでは学生も動き出せません。
 時間や労力はかかりますが、こうしたフルラインアップでしっかりベンチャーを応援するエコシステム(生態系)が一番、大事です。この流れをもっといい流れになるように、私もできることは何でもやろうと思っています。
 リアルテックファンドは金融機関と共同で立ち上げた技術系ベンチャーファンドです。リスクマネーは100億円ほど集まりました。東大発に限らず、すぐれたテクノロジーを持った研究開発型ベンチャーを応援しようとやっている最中です。

SDGs浸透へ、いい流れ あらゆる場で目標との関連訴える 「ブームに終わらせない」いまが正念場

--- 創業以来、グローバル社会への貢献をめざし、いまでいうSDGs(国連の持続可能な開発目標)やESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)経営に意欲的に取り組んできました。日本でもトレンドになりつつあります。

 ようやくSDGsやESGが日本にも定着するかどうか、いい流れになっていると思います。ただ、せっかくここまで来たのだから、ブームに終わらせず、この流れを着実に各企業と生活者、消費者などに浸透させていくために、いまが一番、大事な時期になると思います。
 いま、SDGsのバッジをさまざまな方が身に着け、さまざまな商品にSDGsのロゴが印刷されています。私もSDGsのバッジを着けています。「ダサい」といわれることもありますが、絶対に外さないつもりです。ユーグレナ社はホームページや決算説明資料など、あらゆるコミュニケーションの場で、事業や試み、商品やサービスがSDGsの17目標のうち、何に関連するのかを訴え続けています。常に、徹底的に発信する。地味ですけれど、これを続けられるかどうか、正念場だと思います。
 我々のような小さなベンチャーがFAO(国際連合食糧農業機関)、WFPなどとタッグを組んでバングラデシュの難民支援事業を連携して進めていくことができているのも、SDGsの盛り上がりがなかったら、到底できなかったことです。SDGsの示す共通のゴールに向かっていくなかで、パートナーとして仲間意識や連帯感が生まれてきました。
 この流れをさらに進めていくためには影響力のある経営者やリーダー、企業が連携することが大事です。たとえば、花王のフィルム容器入りシャンプーを繰り返し使えるボトルに立てて使うサステナブルな商品がセブンイレブンで販売され、そのセブンイレブンのペットボトルリサイクル事業にバイオ燃料を積んだトラックが使用されるなど、いまはメーカー、物流、小売り、流通と全部の業種、あらゆる分野の考え方がSDGsになりつつあります。
 同じような試みが同時多発的に生まれてくれば、それが世の中のトレンドになっていきます。消費者は価格が高いか安いかで商品を選ぶのではなく、こうしたアクションを取っている企業の商品やサービスを選ぶようになるのではないでしょうか。

チャレンジしなければ、ベンチャーの意味はない 根気強く、イノベーション起こす

からだにユーグレナ

--- 経営者としての信条を教えてください。それから若い世代へのメッセージをお願いします。

 ユーグレナ社は設立してまだ15年、人間でいえば中学3年生です。グループでも従業員は400人、売り上げは150億円程度のベンチャー企業です。チャレンジしなければ、ベンチャー企業の意味はないので、失敗を怖がらずにチャレンジの回数を増やしていきたい。100回でも200回でも、根気強く、チャレンジしていきます。
 ベンチャーがたくさんチャレンジし、イノベーションを起こし、挑戦がうまくいったら、次に大企業とタッグを組んでオープンイノベーションです。大企業はベンチャーが創ったいいモノをものをどんどん取り込んで社会実装につなげていく。大企業と連携し、大きなうねりにつなげていきたいですね。大企業との役割分担のなかで、好循環、好事例をユーグレナだけでなく、たくさん創りたいと思います。
 若い世代にはとにかく挑戦、チャレンジしてもらいたいです。若いうちの失敗はたいしことはないので恐れることはありません。一方、先輩世代は二者択一の決断をすることです。これは繰り返しになりますが、人口減少時代にデジタル化と失業率抑制、両方を取ることはできません。痛みを伴っても、どちらかを選ぶ決断をしなければならないと思います。

ピアノは弾くのも聴くのも好き 囲碁でストレス解消、いまはオンライン教室「デジタルはいい」

--- ご自身の趣味はなんですか。また、ストレス解消法を教えてください。

 「趣味はユーグレナ、だからネクタイもいつも緑(色)」と話していますが、いま、はまっているというと、ピアノと囲碁ですね。最近はなかなか弾くことはないのですが、ピアノは弾くほうも聴くほうも好きです。囲碁は月1回、万波奈穂さんや王唯任さんなどプロの棋士に指導してもらうため、教室に通っています。これがストレス解消になっていますね。もっとも、これもいまはオンラインです。でも、オンラインはいいですね。打ち手、棋譜が残るので、4手前とか、その場で戻ることができますし、また、たとえば、5手先まで予測することもできます。一つの手によって、どうやったら間違えていくか見通すことができます。デジタルトランスフォーメーションはやっぱりいいですよ。
(左)出雲 充(いずも・みつる)氏<br />
(右)大村 泰
(左)出雲 充(いずも・みつる)氏
(右)大村 泰
(掲載日 2021年1月20日)

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