「withコロナ」時代には通用しない日本モデル
--- 今のご指摘にもあったパンデミックの問題ですが、感染の拡大防止と経済の両立については、いまどこの国でも悩んでいるところだと思います。今後、「withコロナ」と言われる時代において、これらをどのように両立させていくべきだとお考えですか。
アメリカの経済を見ていれば、まだ完全に感染拡大が終息していないところで経済再開を宣言しても、結果的に効果が出ないことがわかると思います。例えば失業率や、小売りの売上高といった経済指標が、7月後半に入ってまた悪化しています。
トランプ大統領が3月に国民に対して移動を制限した後、カリフォルニア州など各州がロックダウンを始めますが、フロリダ州などは経済的に耐え切れないという理由で、5月にはロックダウンを解除してしまいます。そのために再び感染が広がってしまいました。結局、ロックダウンのような規制がなくても、市民は感染を恐れて自主的に外出を控えるようになり、市民発の経済収縮が起きてしまった。こうした例を見ると、「経済withコロナ」の両立は、なかなか難しいということがわかります。
一方で、こうした経験が蓄積されていった結果、最もコストパフォーマンス(費用対効果)が高いロックダウン策がどういうものか、各国とも少しずつわかってきたように思います。例えば、「三密」。英語では“Three Cs(スリー・シーズ=closed spaces, crowded places and close-contact settings)”と言いますが、この「三密」を避けるために全ての小売店を閉める必要はなく、感染の拡大しそうなところやクラスターが発生しそうなところだけを閉めれば効果があるということもわかりました。つまり、経済との両立は、最も経済的なダメージが少なく、かつ感染の拡大防止に効果が高い対策を中心に行えば、不可能ではないということです。
ただ、日本の例を見ると、そうした対策を行う際の政治的な難しさを感じました。例えば夜の街でクラスターが発生したときも、一軒一軒調査をして、「この店は密閉空間でマスクの着用も徹底していないので強制的に閉める」「この店は密閉されておらず、感染防止対策も徹底しているので営業を許可する」といったメリハリのついた対策が取れていない。店の営業の可否を誰が判断するのか、強制的に閉鎖を命じた場合の補償はどうするのかという責任の所在が明確でないからです。結果的に「強制」ができないため、「お願い」ベースで個別の店舗などに営業自粛を促すわけですが、経営する側も生活がかかっていますし、閉店や倒産の危機に瀕しているため、強制でなければ無視して営業するところもあるでしょう。
日本で緊急事態宣言が発令されたとき、店舗なども強制的に店を閉めるのかと思ったら、そうではない。ごく一部を除いてあくまで任意の「要請」。つまり応じたくないところは応じなくてもいいという宣言でした。これはロックダウンを行っていた世界中の国から奇異な目で見られ、当社の本社のデスクもなかなか理解してくれなかった点です。ところが4月から5月の連休頃まで、街に行くとデパートもレストランもほとんどの店が閉まっていました。「強制」でなく「要請」だけでここまで徹底できるのだから、日本モデルというのは一時的にうまく機能したのかもしれません。
しかし、緊急事態宣言が解除されて、店舗の営業などが再開されるようになったら、「要請」だけで十分だったはずの日本モデルも、その歯車がうまく回らなくなったように見受けられます。