NIKKEI Media Marketing

トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

挑戦と創造、創業時の精神 いまも  長期ビジョンで「ありたい姿」示す
昭和産業 代表取締役社長執行役員 新妻 一彦様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング会長
  大村泰
新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏
新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏
 トップインタビュー第36回は、創業以来、「人々の健康で豊かな食生活に貢献する」というグループ経営理念のもと、小麦や大豆、菜種、トウモロコシなど穀物を加工した食品を中心に「穀物ソリューション・カンパニー」として、幅広く事業を展開する昭和産業の新妻一彦代表取締役社長執行役員です。社長に就いた2016年、創立90周年にあたる2025年度に向け高い目標を掲げた「長期ビジョン」を策定、その第1ステージと位置づけた17年度から19年度まで3年間の中期経営計画の進捗、その手応えと、20年度から始まった第2ステージにかける意気込みをうかがいました。
※2020年3月13日インタビュー当時の内容をもとに構成しています。
プロフィル
新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏 明治大学経営学部経営学科卒業後、昭和産業入社。広域営業部長、製粉部長、執行役員、常務取締役、専務取締役を経て、2016年より現職。製粉協会会長、日本植物油協会副会長なども務めた。1957年生まれ。福島県出身

「積み上げ」では単なる延長線 2025年度・90周年へ目標高く 3年ごとに実行計画

--- 長期ビジョン「SHOWA Next Stage for 2025」の策定にあたっては社長自らが主導し、これまでにない高い目標を掲げたと聞いています。

 当社創立80周年という記念の年の2016年に社長に就任しましたが、その前年に社史の編纂(へんさん)を行いました。そのなかで、創業者の伊藤英夫が当時、工業化が進む一方で、深刻な食糧不足に加えて、凶作が続き、農村が疲弊する姿を目の当たりにして、「日本の農業を支えたい」と一念発起し、農産加工で国を豊かにするために取り組んできた「挑戦と創造の精神」に触れました。私もトップとなり、「次の世代に何を残したいのか」を考えたとき、あらためて、まず、昭和産業の「ありたい姿」を示すことが必要ではないか、それが「長期ビジョン」となりました。
 それまでも昭和産業は3年間の経営計画を積み重ねてきましたが、「積み上げ」では単なる延長線にしかなりません。視点をがらりと変えて、90周年にあたる2025年度の当社の「ありたい姿」を思い描き、そこから3年ごとに何をすべきかをBack castで立案、実行していくカタチにしました。
 掲げた数値目標は当時からみると、2.5倍の水準です。積み上げでは絶対に無理という話ですが、大きな目標を達成するために、グループの従業員全員がそれぞれ「いま、何が必要なのか」、「何を変えていくべきか」、「何に挑戦していかなければならないか」を考えるようになると思いました。
 不可能と思われた数字のほうがむしろ、夢に向かって大胆に突き進めるのではないかという感じです。

長期ビジョン「 Next Stage for 2025」の概要についてはこちら

(昭和産業のWebサイトへ移動します)

第1ステージで「足場固め」を実感 基盤事業の強化を進め、幹太く 海外でも成果

--- 2019年度で3年間の第1ステージが終わりました。進捗はいかがですか?

 長期ビジョンの基本戦略は(1)基盤事業の強化(2)事業領域の拡大(3)社会的課題の解決への貢献(4)プラットフォームの再構築(5)ステークホルダーエンゲージメントの強化———という5つです。第1ステージはありたい姿に向けた「足場固め」と位置づけ、当社の主力工場である鹿島工場(茨城県神栖市)において、需要が増えている大豆たん白や粉末水あめなど、今後当社が注力すべきカテゴリーに対して、生産能力の増強に取り組んできました。
 また、基盤事業の製粉事業では子会社がひとつ増え、5社7工場体制となり、コンビニエンスストア向けのパンビジネスではM&Aにより2社が加わり、商品開発力や生産性が向上し、基盤事業の幹は太くなりました。「事業領域の拡大」では中国、ベトナム、さらに台湾で事業展開が進みました。ガバナンスの強化でも報酬諮問委員会、経営諮問委員会の設置など成果がありました。人件費や物流費などの増加で、19年度の連結売上高、経常利益は、目標値には残念ながら未達となりましたが、連結経常利益については、過去最高を更新しました。これは中計17-19で掲げた基本方針の「足場固め」が着実に行われた成果であると考えています。
昭和産業の連結業績

新たな価値の確立に向け 重心は「事業領域の拡大」や「社会的課題解決への貢献」へ

--- 第2ステージ(2020~22年度)以降ではどのような展開を考えておられますか。

 第2ステージの基本コンセプトは「SHOWA New Value Creation」、サブタイトルは「SHOWAだからできる新たな価値とは」と設定しました。「中期経営計画20-22」は、価値創造を「確立」していくステージにしていきたいと考えています。5つの基本戦略は変わりませんが、「基盤事業の強化」に注力しつつも、重心は「事業領域の拡大」や「社会的課題解決への貢献」に移り、さらに「プラットフォームの再構築」「ステークホルダーエンゲージメントの強化」の優先度が高まってきます。
 基盤事業ではグループ会社間の連携強化によるサプライチェーン改革に取り組みます。原材料のグループ共同購買によるコスト削減、グループ間での生産拠点の見直しによる製造・需給バランスの最適化を進めます。営業活動のグループ連携を強化し、全体で持続可能な物流体制を構築し、コスト抑制を実現しながら、さらなる安全・安心・安定を図ります。
 製粉事業では鹿島工場・神戸工場(兵庫県神戸市)で設備増強と生産改善を図り、小麦粉生産量の増加を計画しています。ミックス事業では船橋工場(千葉県船橋市)に新しい工場を建設し、最新の自動化設備やIoTによる高い生産性、多品種小ロット生産を実現します。また、健康志向により急拡大している植物たん白についても鹿島工場で大豆たん白の生産設備を増強します。販売面ではマーケティング機能を強化・整備し、顧客情報を一元管理することで、いままで以上に迅速かつ的確なソリューション営業提案ができる体制を構築していきます。
 さらに高付加価値商品の開発に力を入れ、小麦、大豆、菜種、トウモロコシなど基本原料を深掘りし、新しい機能性の開発やシナジーの発揮をめざします。そして、外部知見も活用しながらオープンイノベーションによって未利用新素材を開発・活用し、より高付加価値な商品の開発に力を入れていきたいと考えています。

「冷凍食品事業強化」が喫緊の課題 需要増に応え、M&Aも視野

--- 「事業領域の拡大」にはどのように取り組みますか?

 事業領域の拡大は若干、遅れているという認識はありますが、基盤事業と親和性のある分野として、3つのポイントがあると考えています。1つ目は喫緊の課題となりますが冷凍食品事業の強化です。高齢化と少数世帯の増加、女性の社会進出により、冷凍食品の需要は今後も増加していくと予想されます。グループ会社間の連携を強化し、生産ラインや商品構成の見直しを進め、販売体制も再構築します。グループシナジーを活かせるカテゴリーとしてM&Aも視野に入れながら事業の拡充を推進する考えです。
 2つ目は植物由来食品の開発強化です。健康志向の高まりや、ベジタリアン、ビーガンなど菜食主義の外国人の方のインバウンドの増加に伴い、植物肉市場はさらに伸長していくものとみられます。昭和産業が持つ大豆を軸とした大豆たん白食品の開発を進め、単なる素材メーカーから大豆たん白をメニューにした加工食品メーカーへ脱皮を図り、競争優位性のあるバリューチェーンの構築をめざします。
新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏

 3つ目はアグリビジネスへの挑戦です。第2ステージでは社内ベンチャーとして、鹿島第2工場内に人工光を使った植物工場の実験プラントを建設し、リーフレタスなどの栽培を始めます。第3ステージでの本格生産に向けた実証実験を繰り返しながら、アグリビジネスの育成を進めます。また、動植物から生まれた再生利用可能な有機性資源であるバイオマス利用技術の研究は、循環型社会に対する意識が高まっているなかで、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点からも将来の企業価値向上に向けた取り組みになります。
 事業エリアの拡大という意味では国内だけでなく、海外、特に東南アジア、台湾、中国を中心とした地域で事業の拡大をめざします。台湾は製粉、鶏卵事業を現地合弁でスタートさせます。昭和産業の技術力と現地企業の販売力、マネジメント力をかけ合わせることで、両社のシナジーを発揮させ、製粉や鶏卵だけでなく、関連する分野にも事業領域を広げ、台湾における事業基盤を強化していきます。

CO2削減、政府目標に挑戦 脱プラスチックへバイオマスゴミ袋の実証実験

--- 企業に対してESG経営に対する社会的ニーズも高まっています。

 「社会的課題解決への貢献」については、(社会との)共通価値の創造というCSV(Creating Shared Value)の視点から活動を推進しています。SDGs(国連の持続可能な開発目標)など中長期視点で解決すべき社会的課題と、今後の事業戦略で優先的に取り組むべき課題を「環境への配慮」「穀物ソリューションの進化」「従業員の活躍推進」という3つの非財務的KPI(重要業績評価指標)として、整理しました。
 たとえば、CO2排出量の削減では2030年度の政府目標となっている2013年比26%削減に挑戦します。プラスチックゴミ問題に対し、バイオマスを使用したゴミ袋を開発し、その実証実験に取り組んでいます。2019年から船橋市で当社バイオマスを20%配合したゴミ袋を市庁舎などで使用しているほか、コロナウイルス問題で延期されていますが、Jリーグの鹿島アントラーズのホーム、鹿島スタジアム(茨城県鹿嶋市)で今年の開幕試合から使用する予定です。
 食品ロスの削減では賞味期限の延長や需給管理の徹底などで製品ロスの削減を進めており、一方で外食うどんチェーンと協力し、うどんを生産する過程で出る廃棄ゴミを飼料として再利用する資源循環に取り組んでいます。このほかにも、健康・環境、時短・簡便ニーズへの貢献など社会的ニーズの解決に貢献していきます。2022年度目標として、女性管理職を2倍以上に増やす計画で、今年、初めて女性の執行役員が誕生しました。法令に沿い、障がい者雇用の推進を行います。

営業体制の抜本的改革を検討 デジタル技術活用し省人化や業務プロセス効率化

--- 中期経営計画の推進を支える、「プラットフォーム再構築」「ステークホルダーエンゲージメントの強化」についてもうかがえますか。

 「プラットフォームの再構築」については持てる力の発揮とグループ経営の推進をめざして4つの視点で強化・改革に取り組みます。第1に、組織は顧客への課題解決の提案をより一層充実させるため、営業体制の抜本的改革を検討しています。2つめは労働生産性の向上、働きがいを実現するための新たな人事制度の導入計画です。3つめはICTなどデジタル技術の活用による省人化や業務プロセスの効率化の推進です。そして、4つめとして、事業の効率性や採算性を明確に捉え、経営判断に活用していくため、事業別のポートフォリオ管理体制を導入し、事業ポートフォリオ全体の最適化をめざすことを企画しています。
 第2ステージでは、こうしたコーポレートプラットフォーム戦略を有機的に結びつけ、イノベーション創出に向けた経営基盤の確立をめざしています。
 「ステークホルダーエンゲージメントの強化」では、経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を得ながら、対話を強化し、パートナーシップをさらに推進します。
 具体的には、従業員との対話において、教育プログラムの充実や福利厚生、賃金体系の見直しなど、従業員への投資を行い、従業員のモチベーション向上につなげていく考えです。顧客・取引先に対しては、消費者志向自主宣言に基づき、消費者目線でわかりやすい表示や包装への改善、顧客からの声を反映させた新製品開発やサービスの改善などに取り組んでいきます。
 株主・投資家には「統合報告書」を発行し、財務情報、非財務情報も含めて中長期視点での価値創造プロセスを伝えていければと考えています。地域社会とは工場見学の充実化や食育活動を推進し、「共生」と「貢献」を図っていきます。

発売60周年を迎える「昭和天ぷら粉」 天ぷらの魅力伝えたい

昭和天ぷら粉特設サイト

--- さまざまなブランドを取り扱っていますが、いま、一押しの商品があれば、教えてください。

 やはり2020年は、発売60周年を迎える「昭和天ぷら粉」です。50代以上の方だと、「そうそう」とおっしゃってくれますが、20代、30代となると、残念ながら、ブランドの認知率は低いです。しかし、こうした強いブランドをいまから作るとなると、相当、時間とお金がかかります。先輩たちが残してくれたブランドをまだ、十分、認知しているお客様がいらっしゃる間に、若い人にもできるだけ認識を広げたいと思っています。
 コロナウイルス問題で、いま、インバウンドがとまっていますが、「1番が寿司、2番がラーメン」という日本食のイメージのなか、天ぷらを上位にしたいですね。日本人の方もそうですが、天ぷらのおいしさをぜひ、海外の方にももっと味わっていただきたいです。
 内食の機会は減っていますが、揚げたての天ぷらのおいしさは別格です。家中みんなで、ワイワイガヤガヤしながら、材料を集めて、天ぷらを揚げて食べていただければいいですね。この緊急事態で、内食が見直されているなか、天ぷらのおいしさをもう一度認識いただけるのではないかと思っています。いろいろなきっかけづくり、出会いづくりをこの1年間、課題として取り組んでいきます。

「失敗を恐れるな」 新しいことにチャレンジを 次の成功体験へつなげよう

--- 次代を担う若い方へのメッセージをいただきたいのですが。

 毎年、入社式で話ししていることですが、若い人には「失敗を恐れるな」ということを必ず言っています。常に、チャレンジ精神を持って、新しいことにチャレンジしてほしいということですね。挑戦すれば、そこには必ず失敗するリスクがありますが、それは構わない。それができるというのが若さです。人生においては必ず失敗はあります。その失敗体験をトラウマとはしないで、ぜひともポジティブに考えて、次の成功体験につなげてほしいですね。それはまさに、昭和産業の創業精神である「挑戦と創造」ということにもつながってきます。

ゴルフが趣味、カート使わず歩いて ミュージカル好き「レ・ミゼラブル」はやっぱりおもしろい

--- 最後にご趣味やリフレッシュ法を教えてください。

 ゴルフですね。これまでは週1回くらいのペースで、健康を意識して、基本的には18ホール、すべてカートを使わずに歩くように心がけています。あとは筋肉を鍛えるというよりも肩や股関節などの柔軟性を高める目的でジムに通っていました。1回30分程度の軽い運動ですが、ゴルフや散歩などで疲れにくくなった効果がありました。10年以上、続けていましたが、どちらもコロナウイルス感染拡大防止の関係でいまはお休みしています。
 文化的な趣味では、ミュージカルをよく観ます。テーマは重いですが、「レ・ミゼラブル」などはやっぱりおもしろい。時間に余裕があるときなどは、四季劇場にもよく足を運んでいます。

(左)新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏<br />
(右)大村泰
(左)新妻 一彦(にいつま・かずひこ)氏
(右)大村泰
(掲載日 2020年6月3日)

バックナンバー

トップインタビュー一覧へ