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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

「課題解決先進国」日本へ、47都道府県がリード 「ピンチをチャンスに」先駆けて行動
全国知事会会長(徳島県知事) 飯泉 嘉門様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏
飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏
 トップインタビュー第31回は2019年9月、四国の知事として初めて全国知事会会長に就いた徳島県知事の飯泉嘉門様です。「より一層、行動する知事会」を目標に掲げ、「人口減少」と「災害列島」という2つの国難の克服に国と一体となって取り組むリーダーです。自治省(現在の総務省)入省以来、地方自治体における活躍も含め、次々と新しい発想と行動力で積み上げてきた豊富な行政経験をいかし、「地方創生」第二幕に向けて、「政策提言・行動集団」として各都道府県知事をどのようにまとめていくか、先頭を走り出した、この3カ月の手ごたえと、若い人へのメッセージを語っていただきました。
プロフィル
飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏 1984年東京大学法学部卒業後、自治省(現在の総務省)に入省。山梨県や埼玉県の県庁勤務、郵政省(現在の総務省)通信政策局テレトピア推進室長、地域情報化プロジェクト推進室長、総務省自治税務局企画課税務企画官などを歴任、2001年徳島県商工労働部長、02年県民環境部長を経て、03年5月徳島県知事に初当選。19年4月に5選。9月に全国知事会会長。1960年生まれ、大阪府出身

都市部も地方部も一致結束  「地方創生」の推進に向け、Society5.0など新概念取り入れを

--- 2019年9月の全国知事会会長就任会見で、「政策提言力や知事会の存在感を高め、より一層行動する知事会をめざす」と抱負を述べられています。その滑り出しはいかがですか。

 就任会見で強調したのは「人口減少」と「災害列島」という2つの国難を乗り越えていくためには、全国知事会が都市部も地方部も一致結束し、国とともに責任を共有し、より行動していかなければいけない大変な時代になったということです。ラグビーW杯に続いて、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年に徳島県を含む関西を舞台に開催される「ワールドマスターズゲームズ2021関西」と3年連続で開かれる世界的なスポーツイベントが後押しするインバウンドに対する期待、さらに、5G(第5世代移動通信システム)の登場で幕を開けるIoT、ビッグデータやAI(人工知能)、ロボットなどを活用する「Society5.0」社会など、これまでにはなかった、未知の世界が広がるなか、まったく新しい感覚で取り組んでいく必要があると考えています。
 この5年間、政府も地方自治体も「地方創生」を掲げてきましたが、十分な成果が上がってきたわけではありません。全国知事会としても10月から11月にかけ、政府や与党に対し、「地方創生」の推進に向けて、総合的な計画、ビジョンを年内に出すように要請しました。そのなかでは、相次いだ大水害を受け、災害対策、国土強靭化に対する施策や危機管理体制の強化のほかに、世界的なスポーツイベントや「Society5.0」への対応など、これまでにない新しい概念を取り入れるよう提言しました。
 政府は11月22日のまち・ひと・しごと創生会議で、「地方創生」をテーマに2020~24年度に実施する第2期総合戦略を年内にまとめることを決め、景気・災害対策や人材育成のため、大型補正予算を組むことになりました。安倍首相は「地方創生に日本の未来を託す」と強調、地方からのタイムリーな提案に対し、レスポンスが早くなったことを認識しています。
 全国知事会もこれまで13県の知事しか参加していなかった地方創生対策本部にすべての都道府県知事が参加する枠組みを作りました。地方創生は地方部だけが取り組むということではありません。小池百合子・東京都知事も「地方創生に東京都としてどのような貢献ができるか考えたい」と話しています。
 ニーズを知っているのはいわゆる「霞が関」(中央官庁)ではなく、47人の知事です。地方のエゴではなく、この国のために、具体的な政策として提言し、行動できるものと考えています。
Society5.0
 人類が築いてきた「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く、5番目の新しい社会として考えられているのが「Society(ソサエティ)5.0」。第4次産業革命により、ビッグデータやAI(人工知能)、すべてのものがインターネットにつながるIoTテクノロジーや、ロボットなどを活用することで、産業や生活、暮らしが大きく変わっていくことが想定されている。超スマート社会と呼ばれることもある。

国土強靭化、「事前復興」「再度災害防止」の着眼点大切 徳島県で実証済み

--- 相次いだ水害のなかで、全国知事会も大きな役割を果たしてきたと聞いています。

 10月12、13日の令和元年台風第19号に伴う災害の際、全国知事会は14日、緊急広域災害対策本部を立ち上げ、直ちに危機管理・防災特別委員会で人命救助やライフラインの復旧・復興などに必要な提言をまとめ、16日には具体的な対策をパッケージとして、政府に届けることができました。被災地域への支援では都道府県が協力し、被災した6つの県には30都道府県から9,300人(11月28日現在)の職員が展開しました。即応性が重要で、地方の業務がわかる部隊が直接、現場に向かいました。
 11月の政府主催の全国都道府県知事会議では政府に国土強靭化をより一層、強く進めていく必要性を訴えました。大切なのは(1)土地利用の適正化による安全な場所(高台など)への建物移転などを進めていく「事前復興」(平時から被災後を想定して速やかな復興が実現されるよう検討し、手続きを決めて準備していく「復興に資する事前準備」を含む)と(2)同じ規模や強さの災害が起こっても、壊れない堤防や橋などをつくっておくという機能強化、「再度災害防止」―――という2つの観点です。
 これは徳島県が取り組んできたことで、実証済みです。これまで地方が対応してきた知恵や工夫を、政府や関係閣僚に伝え、即、国が検討し、政策にいかし、地方に返していくという循環を生んでいく。それをもっともっとスピード感を持って進めていかなければならないと考えています。

徳島県発、災害予防に先手 イエローゾーンをいち早く指定

--- 徳島県はさまざまな施策で国をリードしてきました。

 各都道府県はさまざまな課題を抱えていますが、「ピンチをチャンスに」という言葉があります。徳島県は都市部に先行して進む高齢化や人口減少問題、台風銀座といわれる四国に位置していることからくる水害への対応、さらには南海トラフ巨大地震、活断層による直下型地震への備えなど、日本の課題が最初に来る「課題先進県」です。こうした課題をまっさきに片づけるべく、国などに先駆け、あらゆる選択肢を検討し、先手、先手で取り組んできました。
 災いの年と言われた2004年、当時は、「三位一体改革」により公共事業が大幅に削減されるなか、相次ぐ台風襲来により甚大な被害を受けたため、「災害復旧ありきではなく、災害予防を推進すべき」であると、本県が強く訴えた結果、全国知事会で「緊急決議」がなされ、翌年「災害予防」という視点で、大型補正予算が編成されました。2011年3月の東日本大震災の後、高速道路を「陸の防潮堤」として、そこに津波に備えた緊急避難場所をつくっています。南海トラフ巨大地震のリスクが取り上げられると、いち早く、国の決定を待たずに、独自に暫定津波浸水予測図を公表しました。この公表は徳島県が実施し、大きな混乱がなかったことをみて、躊躇していた国が発表しました。国がやらないのであれば、県が先行し、国を動かすようでなければいけません。
徳島県ホームページ
 国土交通省は2011年12月、「津波災害警戒区域」(いわゆるイエローゾーン)を法律で知事が指定することができる「津波防災地域づくり法」を施行しましたが、徳島県は2012年12月21日、「震災に強い社会づくり条例」を制定、知事として「『津波災害警戒区域』を指定しなければならない」と自らを追い込むようなかたちにしました。2014年3月11日、全国で最初に津波防災地域づくり法制度第一号として、「津波災害警戒区域」を県民に示しました。
 指定地域の地価下落が予想され、当時は不人気な政策とされていました。しかし、徳島県では土地利用の規制を緩和し、内陸部や高台地域などの開発を促進したことから、工場や病院、学校などが移転。津波地域の空いた土地に若い人が住むことで、土地が動きました。景気を刺激し、アンケート調査などでは結果としてよかったという意見が多くありました。必要な制度を組み合わせることで、県民に受け入れられたと考えています。
 活断層による直下型地震についても、四国には「中央構造線」という徳島県、香川県、愛媛県などを東西に走る巨大な活断層がありますが、2013年8月30日には特定施設を建築する際に活断層直上を避ける土地利用規制をかけました。行政として警告すべきかどうか、県内の世論は真っ二つとなりましたが、最終的には規制を設け、経済界や県民に対応を任せることにしました。結果として、大規模集客施設や危険物貯蔵施設は一つもつくられていません。

出納業務にRPA導入、業務量96.2%削減 働き方改革&行政サービス向上の"一石二鳥"

 また、「働き方改革」でも徳島県はRPA (ロボティックス・プロセス・オートメーション)をいち早く導入し、出納業務サービス関連で業務量を96.2%削減しました。100人で行っていた仕事が4人で済むわけです。RPAではコマンド(シナリオ)をどうつくるか、それがカギを握っていますが、きっちりつくることができれば、24時間、働いてくれます。政府の規制改革推進会議で先進的な事例として紹介しましたが、職員の仕事量が減るだけでなく、これにより、行政サービスが改善されるメリットは大きいと思います。
 47都道府県が「課題解決先進県」になると、日本が「課題解決先進国」になります。これから日本が迎える超高齢化社会は世界中、どこも経験していませんが、先進国に限らず、発展途上国もいずれはすべての国に共通する課題となります。もし、日本の高齢者がいきいきと元気で働いている国になれば、世界中の理想の国となります。原子力発電所事故処理の問題も日本が克服できれば、世界に冠たる技術大国として、外交でも有利に働くのでないでしょうか。

やりたいことにとにかく挑戦 ムーンショットを打ってほしい 前例踏襲ぶち壊せ

飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏

--- 若い世代へのメッセージをお願いします。

 若い人にはまず思ったこと、やりたいことに、とにかくチャレンジしてもらいたいと思います。もちろん、失敗するということもありうるでしょうが、そのときは先輩たちが事前に注意してやり、サポートすることが大切です。我々は(若い世代の)やりたいを応援したいですね。
 若い人には小賢くなってほしくないです。ムーンショット、遠い先をみることが重要と思います。目先をみて、やめたり、微調整したりするのではなく、もっと先をみてほしいです。
 そうした若い人のバイタリティや新たな感性をみて、我々の世代が経験をいかし制度化し、実現することにより、それが若い人の成功体験となり、もっとやってみようと意欲が湧く。そういう経験をした人たちはきっと中堅やベテラン、管理職になってから、次の世代を応援するようになります。これがいい循環になります。ベテランになっても、保身に走らず、保守的にならず、芽を摘むのではなく、若い世代にチャレンジさせてあげられる立場になってもらいたいです。
 私も官僚になったとき、最初のモットーは「前例踏襲をぶち壊す」ということでした。前例を変えることをまず、考える、見直すということです。見直して結果が同じであっても、変えようとすることで、勉強もするし、経験もします。
ムーンショット 
 困難だが、実現によって大きなインパクトがもたらされる、壮大な目標・挑戦・研究プロジェクトのこと。米国がアポロ計画によって人を月面に送り込むのに成功した1969年から50年になるが、その計画にちなんで、米国のシリコンバレーで話題となってきた言葉。日本も2020年から5年間に1000億円を投じる大型の革新研究「ムーンショット」計画を始める。「サイボーグ」「人工冬眠」「汎用量子コンピューター網」といった25のテーマから12月までに数テーマを選ぶという。

「仕事は遊び、遊びは仕事」 リラックスしたとき、いい「解」や「アイデア」生まれる

--- ふだん、心がけていることはありますか。

 もうひとつ、私のモットーに「仕事は遊び、遊びは仕事」という言葉があります。確かに、仕事はしんどいし、稼ぐために仕方なくやっているという意識になりますが、何かを生み出すと思えば楽しいし、遊びと考えれば、ワクワク、ドキドキするし、おもしろいでしょう。一方、遊んでいる時は好きなことをしているわけで、上司もいないので、リラックスしていますよね。その時、仕事の課題や悩みについて「解決法」を考えるのです。アルファ波はでているし、頭脳も感性も回ります。
 郵政省に勤めていたころ、日本の情報通信政策、IT戦略を検討するプロジェクトを担当していたのですが、いまでいう「IoT」の「情報家電」や光ファイバーを全国に張り巡らす「全国ギガビットネットワーク構想」など、私が考えた政策のほとんどがコンサートホールで浮かんだアイデアでした。コンサートプログラムに書き込んだものです。遊んでいるとき、仕事を忘れる部分があってもいいのですが、課題意識を常に持っていると、実はいい「解」(答え)、アイデアがでるものです。

1日平均3キロのランニング目標 出張先にも独自コース  

--- 余暇の過ごし方を教えてください。

 とにかく移動、出張が多く、体が資本ですから、健康には気をつけています。目標としているのは1日平均3キロランニングをすることです。徳島に戻っているときだけでなく、出張するときも全国に自分なりのコースを作っています。たとえば、徳島では公舎のまわり、愛媛県松山市では松山城、香川県高松市では高松港周辺のサンポート、岩手県盛岡市では北上川沿いとなりますね。それぞれ自分でコースをつくっています。時間があれば、4、5キロ走ります。筋力トレーニングも毎日、腕立て・腹筋・背筋110回が日課です。そうでないと、柔道(三段)、弓道(二段)それぞれ続けることができません。柔道は中学から始め、高校生になってすぐ段を取りました。いっしょに段を取ったのは兵庫県警2人、大学生ひとりでした。当時は珍しかったんですよ。
(左)飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏<br />
(右)大村泰
(左)飯泉嘉門(いいずみ・かもん)氏
(右)大村泰
(掲載日 2019年12月24日)

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