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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

イノベーションに欠かせないダイバーシティ 自分のキャリアは自分の責任で
経済協力開発機構(OECD) 東京センター所長 村上 由美子様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏
村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏
 トップインタビュー第27回目は日本の大学を卒業後、海外にキャリアを求め、国際連合から米国大手証券会社に長く勤務、2013年、経済協力開発機構(OECD)に移り、民間出身者として、初の東京センター所長に就いて、活躍する村上由美子様です。自らの専門性を生かすとともに、常に幅を広げながら、国際機関においてグローバル世界への貢献に取り組む意気込みと問題意識、さらに日本における労働市場の在り方や、女性の活躍、ダイバーシティとイノベーションの関わりなどについて、率直な意見をうかがいました。
プロフィル
村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏 上智大学外国語学部卒、スタンフォード大学院修士課程(MA)修了後、国際連合に勤務。ハーバード大学院経営修士課程(MBA)修了。ゴールドマン・サックス証券、クレディ・スイス証券を経て、2013年から現職。OECDの日本およびアジア地域における活動に関するマネジメントのほか、調査や研究の公表、経済政策提言などを行う。現在、日本経済新聞朝刊女性面、電子版にコラムを連載中。島根県出身

サミット、日本は議長国として調整役果たす 微妙なカジ取り求められる国際機関

--- 6月下旬に20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が大阪市で開かれました。今回のサミットの成果について、どのような感想をお持ち でしょうか。

 世界規模の対応が不可欠であり、かつ緊急性をともなう深刻な課題がこれほど山積した局面は過去にもなかったのではと思えるほど、重要なサミットであったと思います。政策協調が必至であるにも関わらず、参加主要国の思惑の差異が顕著に表れ、緊張感が高まる状況下、議長国として調整役を果たした日本は評価に値すると思います。課題の解決に向けた抜本的な進展があったとは言い難い面は残りますが、今回のサミットで一定の共通認識を確認することができたのは成果といえるのではないでしょうか。 

--- 国連やOECD、世界銀行など国際機関の果たすべき役割は大きくなりますね。

 経済社会体制に関する基本的な理念や価値観の共有や、国際協調へのコミットメントが期待しづらい状況が続いています。マルチラテラリズム、つまり多国間主義から、二国間交渉への重点移行が顕著になってきました。そのような局面で、OECDや国連、世界銀行、IMF(国際通貨基金)のような国際機関が付加価値をつけるためには、より多くの工夫が必要だと考えています。微妙なバランスの取り方、舵(カジ)取りが重要になってきます。
 たとえば、環境や貿易摩擦、デジタル、人権、格差の問題などで、各国間の摩擦を最小限にとどめて、どの国の立場から見ても最低限重要であると納得できる要素をうまく引き出す作業を行い、具体的な国際条約や国際的なガイドラインに結びつけていかなければなりません。
 基本的に国際機関は米国の味方でも、中国や日本の味方でもなく、中立な立場をとっています。中立性を活かすことで、各国のポリティカル・ウイルがそろわない状況であっても、共通の問題点を提示し、ともに解決を図れるプラットフォームを提供し、話し合いの場を設けます。

後手に回っている環境問題 デジタル化、ビジネスのスピードに規制追いつかず

--- 各国共通の課題として、その解決に緊急性を要すること、真っ先にこの問題から解決した方がいいと考えていらっしゃることはありますか。

 順番付けは難しいですが、ひとつ確実に言えるのは環境問題への対応はかなり遅れているということです。「遅い」という現実をまず真摯に受け止める必要があります。迅速かつ大胆な行動を、地球規模で今とらなければ、人類にとって破滅的な結果が待っています。その代償はどこの国であろうが、地球に住んでいる限り、大きな打撃を受けます。一刻を争うグローバルな問題として、環境は最重要課題です。
 もうひとつ、対応を急がなければならないのはデジタルトランスフォーメーションに関する問題です。環境問題と同じく、各国内の枠組みだけでは解決できません。デジタル化についてはビジネスのスピードが圧倒的に速く、行政の対応が遅れています。もちろんテクノロジーがもたらす恩恵は大きいのですが、同時に経済社会のデジタル化が促進される過程でさまざまな摩擦が起こってきています。経済の二極化が起こり、社会の分断につながるという流れが顕著になっている場合もあります。
 もし、私が明日の国際会議のアジェンダをセットするタスクを負ったとき、何が一番私の頭の中に思い浮かぶかというと、やはりこの2つの問題ですね。緊急性という以前に、すでに対応が遅れて不都合が起こっています。危機感を持って、グローバルに対処すべく、関わっていく問題と思っています。
村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏

「拠点なくして課税なし」、時代に対応できず AIやビッグデータ、国際活用ルール待ったなし

--- デジタルの問題は具体的にいうとどういうことなのでしょうか。

 デジタルというのは範囲が広いですよね。何でもありという感じもありますが、たとえば具体的にはまず、デジタル課税の問題があります。すでに経済そのものがデジタルに移行しているなか、課税体制は1920~30年代に作られた税制がそのまま残っている状況です。従来の国際的な課税ルールである「拠点なくして課税なし」という制度がデジタル時代に対応できなくなっています。国境を越えてビジネスを行っている多国籍企業が低い税率の地域に会計上の拠点を移転させるケースが増えています。オンライン上の取引が増えたため、実質的には経済活動が行われている国でも、デジタル企業に対して課税権がないという状況もあります。OECDではこうした事態に対処するロードマップを作成し、2020年までの世界的な合意形成を目指し、多くの国とともに取り組んでいます。
 もうひとつはAI(人工知能)やビッグデータの問題です。AIやビッグデータの活用によって、国境を越えてグローバルにデータを活用し、マネタイズできるようになりました。 しかし、データの活用方法に関して、各国のプライバシー(個人情報保護)の制約はあるものの、国際的なガイドラインがありません。実際に動いている民間企業と、それに対する行政のスピードがまったく違うため、大きな問題が生じてきています。OECDは今年5月、加盟国とパートナー諸国の間で、AIに関する初の国際的な政策ガイドライン「人工知能に関するOECD原則」を採択しましたが、待ったなしの緊急課題だと認識しています。デジタルの課題は次々と派生する問題を生んでいるのが現状です。

日本の労働市場、改善へ「兆し」 経団連会長「終身雇用を保証できない」

--- 日本のプレゼンスが非常に低下していることに危機感を抱いていると聞いています。それを実感する局面、あるいは改善の「兆し」をみつけているようでしたら教えてください。

 先に「兆し」という意味でいえば、2019年4月22日の経団連・中西宏明会長の発言に、その象徴があったのではないかと注目しています。財界の総本山のトップ自らが「終身雇用を保証できない」という発言をされたわけですから、これ以上の変化の「兆し」はないと思います。
 日本人がなかなか国際舞台で活躍することができない、ひとつの大きな原因はおそらく、国際社会における労働市場のスタンダードが日本の現状とかけ離れていることだと思います。たとえば、私が20数年前に国連に勤めたとき、日本人の職員があまりに少なかったので、もっと日本人の職員を増やそうという声が高まっていました。私自身はその後、民間の金融機関に入り、20年以上経ってからOECDという国際機関に戻ってきました。ところが、20数年経った後も、国際機関における日本人の数が少ないという問題は相変わらず解決されないままでした。
 加えて、現在の国際機関には日本人のリーダー的存在、「シニア」が少ないという課題もあります。その意味では20数年前より状況は深刻かもしれません。当時、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)には緒方貞子さんがいらっしゃいましたし、明石康さん(UNTAC/国連カンボジア暫定統治機構事務総長特別代表などで活躍)のような方もいらっしゃいました。いま、国際機関のトップにいる日本人がいないわけではありませんが、他国から比べれば、圧倒的に少ないですね。

人事部門がレール、担保されたジョブ・セキュリティ 世界へインセンティブ生まれない

 では、なぜ、何十年も国際機関における日本人の数を増やそうとキャンペーンまで行ってきたのにもかかわらず、状況が変わっていない、むしろ悪化しているのかといえば、ひとつの大きな理由は日本の労働市場の特異性にあると思います。
 日本では、大学を卒業して会社に入り、30年、35年と同じ会社でサラリーマン生活を送るのが一般的です。このような労働環境で生きている日本人にとって、弱肉強食的な国際社会の労働環境で働くことはリスクが高すぎるとみえるわけです。
 日本では正社員として会社に入った後、人事部門が敷いてくれたレールに乗っていけば、ある程度の地位まではいけます。もちろん誰もが執行役員までいくわけではありませんが、ある程度、将来の見通しは付くわけです。2年、3年ごとに配属は変わりながら、その会社で30年近く働くことがほとんどの場合、担保されています。
 このように職、そして所得が安定している環境から、国際社会に一歩、足を踏み出すと、突然、明日がみえなくなります。人事部門が「あなたの次のポストはここです」とお膳立てをしてくれることなどありえず、次のポストは同じ組織内でも自分で探さなければなりません。日本のような環境で働いている人が海外で就職しないのはある意味、合理的といえるかもしれません。安定した職をわざわざ捨てて、いつクビになるかわからない環境を選ぶインセンティブはどこにあるでしょうか。日本人が国際社会で活躍できないのは、日本の労働市場の方が彼らにとって好都合だという、当たり前の状況があったからです。
 しかし、終身雇用や年功序列に縛られた日本の労働環境では、実力に応じた機会を見つけることが困難です。機会平等より、結果平等に重点が置かれた人事制度では、キャリアのアップサイドも限定的なのです。

日本だけの「特異性」から「欧米式」へ変化、優秀な人材にオプション増える

村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏

--- 中西会長の発言はその日本の労働市場が変わっていくことを示したものと受け止めているということですね。

 中西会長の発言はこうした日本の労働市場の特異性、それを象徴する終身雇用制が崩壊していく「兆し」を表したものです。日本の労働市場も欧米式に変わり、自分のキャリアに対して自分が責任を持っていくというパターンに変わっていくと思います。
 すでに中国や韓国、シンガポールやマレーシアなどアジアの国々は変化の洗礼を受けており、日本の労働市場の性格も徐々にグローバルスタンダードの方向に向いていくでしょう。逆に言えば、従来の日本的な人事制度にメスを入れることのできない企業は、競争力を失い、存在価値さえ問われることになるかもしれません。結果平等から機会平等に企業文化をシフトさせ、多様な人材を活用する人事体制は、優秀な人材確保につながり、最終的には企業価値を押し上げる結果になるはずです。同時に労働市場の流動性も高まり、年齢、国籍、性別ではなくスキルという物差しで人材の価値が決まるという状況が生まれます。そのような環境の中で、主体的にキャリア構築を考える日本人も増えてくるでしょう。自分にとって最適な選択肢を求め、海外を含めた多くのオプションを視野に入れ始めると、自然に国際機関で活躍する日本人も増えると思います。
 このように、日本の雇用慣行がグローバルスタンダードに近づいてくれば、日本企業に就職を希望する高度な知識や技能を持つ外国人も増えるはずです。文化、治安などの面から、住む国として日本は実はインテリ層の外国人からの評価は高いのですが、働く国としての評価はあまり高くありません。実力主義に基づいた、潜在能力を発揮しやすい環境が整えば、日本企業が必要とする高度人材が世界中から集まる可能性はあるのではと思います。
 少し時間はかかるかもしれませんが、経団連の会長が変化を表明しているくらいですから、そう遠い将来の話ではありません。私の子どもたちが大人になるころには、日本の労働環境は大きく変わっているかもしれません。

女性の活躍、「質」はまだまだ リーダー層、意思決定の場でプレゼンス高めたい

--- 労働市場の多様性という意味ではダイバーシティの推進(性別、年齢、民族、国籍など)とイノベーション創出の関係についていろいろ発言されています。

 ダイバーシティの必要性を認識している企業は増えてきたと思います。トップが認識し、自らがコミットし、実際にそうした取り組みをやろうとしている企業もいくつかあります。女性の活躍や育児支援を推進するようなポリシーを取り入れている企業もあります。ただ、「認識をしている」ということにはいろいろな意味合いがあります。実際に結果が出ているかというと、「量」の部分では出ているかもしれませんが、「質」の部分ではこれからです。
 「質」とはどういうことでしょうか。たとえば、「経営層にはほとんど女性がいませんが、女性の雇用、就業率は上がっています」というケースです。実際、日本女性の就業率はこの数年急増し、米国を抜く水準に達しました。しかし、管理職以上の女性は微増に留まっています。特に経営層における女性の登用はまだまだ不十分です。なぜ、企業や国際機関の組織、あるいは政界のリーダー層に女性がいることが重要なのか。別に女性でなくても、外国人でもいいのですが、リーダー層における人材の多様性こそが、意思決定の場における発言の「質」を広げるのです。
 意思決定のプロセスにおいては、同質性の高い人達のみによる議論より、バックグラウンドの異なる参加者からの視点や発想が反映された議論の方が、より質の高い企業判断につながります。それは企業のイノベーションやリスク管理につながり、それがゆくゆくは企業価値を拡大させます。そこに一番おいしい果実があるはずなのですが、実際は多くの企業のトップがそこに行き着く前の段階で満足してしまっています。
 女性の採用のみで満足することなく、意思決定のプロセスに発想の多様性をしっかり取り入れているかどうか鍵となるはずです。女性の活躍が最終目的ではありません。女性の活躍はあくまでも手段であり、シーズです。本当の目的は企業活動を高めるためにイノベーションを生み出し、経済全体を活性化させることです。人口減少や高齢化に伴う経済的なさまざまな負の部分に焦点が当てられている日本にとって、イノベーションはこれからますます重要になっていきます。イノベーションを同じ頭を持った同じ人たちが考えていても、選択肢は狭まるだけです。

米GSで「官民転職」目の当たり、人生の選択肢広がる 個人の専門性持ち出し

--- 村上さんご自身、異色のキャリアを歩いていらっしゃいましたが、転機となったきっかけと感じられること、あるいはロールモデルとなったような人があれば、教えてください。

 米国のゴールドマン・サックス(GS)で一緒に働いてきた人たちをみてきたことがその後の私の人生の選択肢を広げるうえで役に立ちました。ニューヨークの本社に勤務した経験が一番、長いのですが、そこで気がついたのは多くのGS幹部たちが、あの生き馬の目を抜く競争の厳しい職場で、長年バリバリ働いた後、政府関係など公的な仕事に就くのです。例えば、当時GSのトップだったポールソン氏(ヘンリー・ポールソン/ブッシュ大統領時代の財務長官)はその1人ですが、華やかなウォール街のキャリアの後、パブリックセクターに転身する人が多かったのです。それを会社としてサポートする風潮がGSにはありました。
 ワシントンに行き、財務省をはじめさまざまな公的分野で幹部として働いた人が、何年かしてGSに帰ってくるというパターンもありました。労働市場の流動性というところにもつながると思いますが、個人のエクスパティーズ(専門知識・技術)を持ち出せる――それもひとつの企業・産業ではなくまったく違う産業分野に持ち出して活かせる労働市場が米国にはありました。GSで活かされていた金融というひとつの専門知識が、財務省のような官の世界で活かされ、その後、戻ってきて金融ビジネスに活かされているのです。ちなみに、ムニューシン財務長官など、現在のトランプ政権にも多くのGS出身者が幹部として働いています。
 私が金融業界後のキャリアを考えた時、そういう人たちの後ろ姿をみながら長く仕事した経験は大きく影響したと思います。OECDで働くことを考えた時も違和感はなく、自然な選択肢だと感じていました。運よく採用され、OECDに入ってみたら、周りからは珍しがられました。「GSから国際機関に出向で来たのですか?」と聞かれることもありました。日本では私のようなケースはないのですね。
 日本の労働市場は流動性が低く、会社に入ったら同じ会社で定年退職まで働くというパターンが一般的でしたが、これも変わりつつあります。ご質問にもあったように、私のキャリアもいまでは珍しいかもしれませんが、20年後にはもう普通に起こっていることと思います。

海外に出ていく女性、もったいない 企業リーダーに考えてもらいたい、その理由

 個人的に、最近、私のロールモデルに挙げさせていただいている方がいます。
 久能祐子さんという女性で、現在、京都大学経営管理大学院で「グローバル社会起業寄附講座」を持って、特命教授をされています。いわゆる医薬ベンチャーで成功された方で、いくつか私との共通点を感じています。私も男女雇用機会均等法が導入された後、日本の大学を卒業しました。企業訪問で銀行に先輩を尋ねたとき、総合職で入ったはずの女性の先輩が制服を着ていて、男性の先輩は背広を着ていることに、違和感を覚えました。結局、私は日本を出て、米国に行きました。久能さんも京都大学で博士課程を取られた後、米国に渡り、最終的には製薬会社を創業しました。数年前の米国『Forbes』誌に、世界の自力で成功した起業家のリストが掲載されましたが、日本人として唯一、久能さんが載っていました。
グローバル社会起業寄附講座
久能祐子(くのう・さちこ)氏
京都大学経営管理大学院特命教授 京都大学大学院工学系研究科博士課程、ジョージタウン大学経営学認定コースを修了。アールテック・ウエノ、スキャンポ・ファーマシューティカルズ社、VLP Therapeutics社を共同創業。S&R財団の理事長兼CEO。Halcyon Incubator創業者兼会長。株式会社フェニクシー 共同創業者兼取締役
 彼女はいまでも起業した会社に関与されていますが、ワシントンDCに財団を作り、ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)や若いアーティストをサポートしています。さらに、そのスキームを日本に逆輸入し、京都でソーシャルアントレプレナーを育てるプログラムを始めています。まさに社会還元をライフワークとして取り組んでいます。
 久能さんが日本にいたら、現在の活躍もまた違ったかたちになっていたのではないかと想像します。私も自分で海外に出たのでわかるのですが、日本では自分の潜在能力を思い切り試す環境が整っていないのです。特に女性にとっては厳しい状況です。野心的な女性たちの多くは活路を求め海外に出てしまうのです。まさにブレーンドレーン(知能流出)なのです。それはとてももったいないことだと思います。
 私はGSで何年も働きましたが、日本に同じような活躍の場があれば、日本に残っていたと思います。しかし、当時の日本にそんな場所はみつけられませんでした。海外でも誰でも簡単にそうした場がみつけられるわけではありませんが、少なくともその機会は日本よりは開かれています。いま、若い人たちと話をすると、やる気のある女性には海外で働きたいと考えている人が多く、私も海外に出ることを後押ししています。理想的には「わざわざ海外に出る必要はないよ、日本でも同じようにチャンスがあるから」と言いたいところですが、女性にとっていまの日本に自信を持ってそう言えるような環境は整っていません。
 久能さんも本来なら日本ですばらしい会社を立ち上げ、日本の経済にも日本のビジネスにも大きなプラスの影響を及ぼしてくれたかもしれない人です。彼女がなぜ米国に行って、成功したか、ということを特に企業のリーダーには考えてほしいと思います。

自己のキャリアへオーナーシップを 「変化し始めると意外と速い日本」

--- 若い世代へのメッセージをお願いします。

 若い人たちに話すのは自分のキャリアに対する自分自身の責任です。いま、終身雇用制が音を立てて崩れるくらいの勢いで、変化が起こっています。たとえば、いったん辞めた企業に復職することなど、2~3年くらい前までは考えられませんでした。
 日本という国はなかなか変わらない国だとよく言われますが、私はこの国は変化し始めると意外にその後が速いという特殊な文化があると思っています。そのため、どこかの会社が「復職OK」と言い始めたら、次の日には10社ぐらいがOKを出し、さらにその次の日は100社ぐらいがOKを出すというように、速いスピードで変化が伝播していくような気がします。経団連の中西会長が「就職雇用はこれからもう保証できない」と発言されたことを契機に、終身雇用という制度も意外に速いスピードで変わらざるを得なくなるかもしれません。
 終身雇用が崩れるということは年功序列も一緒に崩れるということです。これまでの企業社会は、機会平等ではなくて結果平等でした。それが機会平等でも結果平等ではなくなる。つまり、優秀であれば、25歳の部長も現れる。その代わり、35歳でもう退職という人が現れることも珍しくなくなるでしょう。
 私たち一人ひとりが考えなければいけないことは、ひとつは自分のキャリアに対するオーナーシップです。そこの意識が変わらないと、この変化についていけない人たちが次々に出始めます。人事部門が敷いてくれたレールがないと自分のキャリアがどこに行くのかわからないというメンタリティのままで社会人になり、社会の中で働いていくということになると、日本の経済そのものの沈没のシナリオがかなりまた色濃くなりますし、日本が競争力も保てないということになります。

子どもとの「ふれあい」でバランス、学ぶこと多く「私にとって先生」

--- お忙しくされているなかで、何かリフレッシュをされている方法や趣味があれば教えてください。

 あまり趣味らしい趣味はないのですが、私には子どもが3人いますので、彼らとのふれあいがリフレッシュになっているように思います。仕事をしている自分と家に帰って子どもの宿題をみている自分は全然違いますが、これは結構、精神的にはとっても健全なバランスかなと思います。発想が全然違うので、私が子どもから学ぶことが意外と多いのです。
 先日、ショックを受けたことがあります。それは私の記事がある新聞に掲載されていたので、それを中学生の長男にみせたのです。そしたら長男が「これはどうやって読むの?」というのです。紙の新聞を読んだことがないのですね。なぜなら子どもたちの世代は産まれたときからすべてデジタルですから。かつては電車の中で、新聞をこんな器用に小さく畳んで読んでいるサラリーマンがいましたが、そういう技を持った人たちもここ5年ぐらいの間に見かけなくなってしまいました。紙の新聞を広げて読むという行為に接することがなかった子どもにとっては、デジタル版以外の新聞の読み方にはなじみがなかったのです。
 私は最初、子どもの質問の意味がわかりませんでした。「これはどうやって読めばいいの」と聞かれて、「これはこうやって読めばいいの。ママの記事があるでしょう」と。自分にとってはショックですが、一方でひとつの新しい発見でもあります。子どもとその話をしなかったら気が付かなかったことです。
 仕事以外の場で接触する人達との何気ない会話から、考えもしなかったようなことを教えられることがよくあります。子どもたちとの会話もそうです。そんなとき、子どもは私の先生になるわけです。リフレッシュ法かどうかわかりませんけど、私にとっては想定外のイノベーションが沸き起こる素材ではないかと思っています。リフレッシュ法は「育児」と書いておいてください。まあ、本当の育児はあまりしていませんけど(笑)。
(左)村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏<br />
(右)大村泰
(左)村上由美子(むらかみ・ゆみこ)氏
(右)大村泰
(掲載日 2019年7月10日)

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