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トップインタビュー

 「トップインタビュー」は企業や大学、団体のリーダーにお会いし、グローバル化や第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション、ESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)、働き方改革など、ビジネスパーソンや学生のみなさまが関心のあるテーマについて、うかがってまとめる特別コンテンツです。さまざまな現場で活躍するトップから、いまを読み解き、未来に向けて行動する視点やヒントを探って、お届けします。

現場主義の徹底を胸に、デジタル時代の新たな領域へ  保険業をドラスティックに変革
損害保険ジャパン日本興亜株式会社 取締役社長 西澤 敬二様Adobe PDF file icon

聞き手 日経メディアマーケティング社長
  大村泰
西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏
西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏
 トップインタビュー第30回は、損害保険ジャパン日本興亜株式会社の西澤敬二様にご登場いただきました。支店・本店で徹底した保険事業の「現場力」を磨き、今も精力的に現場を巡り歩く一方、「保険の先へ、挑む。」というブランドスローガンを掲げ、先端のデジタル技術を戦略的に活用した新たなビジネスの創出に取り組んでいます。会社の大変革という大事業に「わくわく感」を持って取り組んでいるという経営者としての心境、その将来ビジョンなどを余すところなく語っていただきました。
プロフィル
西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏 慶應義塾大学経済学部卒業後、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン日本興亜)入社。富山支店長、自動車業務部長などを経て、2010年に取締役。損害保険ジャパン執行役員営業企画部長、取締役常務執行役員、損害保険ジャパン代表取締役専務執行役員等を経て、2016年4月より現職。SOMPOホールディングス取締役を兼務。1958年生まれ。東京都出身

「保険の先へ、挑む。」――保険業の新たな挑戦

--- 「保険の先へ、挑む。」というスローガンの真意と、これからの変化に対応する御社の具体的な戦略について教えてください。

 もともと保険事業から始まったSOMPOホールディングスグループの経営理念は、お客さまに「安心・安全・健康に資する最高品質のサービス」を届け続けることです。この領域で最高品質のサービスを提供することを使命としてきましたが、今後は国内保険事業中心の事業モデルから、海外保険事業や安全・安心・健康の領域での新事業を含む事業へ拡大すべく、事業ポートフォリオ自体の変革に取り組んでいます。
 チャレンジ推進に向け社員が分かりやすいように、ブランドスローガンを定めています。SOMPOホールディングス全体のブランドスローガンは「安心・安全・健康のテーマパーク」ですが、その中核会社である損保ジャパン日本興亜のブランドスローガンは「保険の先へ、挑む。」です。事業会社として、より保険の先に挑み、他の領域へどんどん進んでいこうというメッセージを掲げ、挑戦しているところです。

--- その新しい事業領域での進捗状況はいかがですか。

 今は「モビリティ」「防災減災」「ニューリスク」「ヘルスケア」という4つの領域に注力しています。そのうち「ヘルスケア」以外の3領域は、グループの中で損保ジャパン日本興亜が中心になって推進しています。
 「モビリティ」の領域では、マース(MaaS=移動のサービス化)に注力しており、すでにCtoC(消費者間取引)のシェアリング事業としてディー・エヌ・エー(DeNA)社と合弁会社を作り、今後大きなマース事業を展開していく予定です。
 

2つの合弁会社

2019年3月、SOMPOホールディングスとディー・エヌ・エーは、個人間カーシェアリング事業の「DeNA SOMPO Mobility」、マイカーリース事業の「DeNA SOMPO Carlife」という2つの合弁会社の設立を発表。クルマの所有から利用への流れを加速させるコラボレーションで、実質0円に近い負担でマイカーが所有できるようになる「0円マイカー」の構想なども発表している。
損保ジャパン日本興亜トップページ
 当社は自動車メーカーや電機メーカーのノウハウを持ち合わせていないので、自動運転のプラットフォームに参画し、そのプラットフォームをさまざまなベンチャーや事業体に提供していきます。その一環が、ティアフォー社およびアイサンテクノロジー社と共同で開発している、インシュアテックソリューション「Level IV Discovery」です。これは安全な自動運転サービス実証を支えるサービスで、当社は主にリスクアセスメントなど安心・安全領域の面で知見を提供しています。
 「防災減災」は当社の本業ですから、支援や取り組みに関してさまざまな経験を積んでいます。しかし世界を見渡すと、AIの解析技術を使って非常に高度な防災減災事業を展開している企業があります。その一つが米シリコンバレーの防災スタートアップ企業、ワンコンサーン(One Concern, Inc.)です。当社はこの会社と日本のウェザーニューズ社との間で、防災・減災システムの共同開発に関する業務提携を締結しました。近年は気候変動の影響で日本でも災害が増えていますので、これらの会社と一緒に人の命と財産を守ることに注力していきます。
 「ニューリスク」は、例えばサイバーリスクやドローンの落下・追突などによるリスクなどさまざまですが、SOMPOホールディングスではサイバーリスクの事業に特に力を入れています。これも全世界のベンチャーを含め技術を持つ企業との提携戦略になります。特に世界的に群を抜いて優れた技術が集積するイスラエルのテルアビブにデジタルラボを置き、同国のベンチャーに投資しながら技術提供を受けてサイバー事業を将来的に大きなものにしていきたいと考えています。

--- 新しい組織や人と積極的に手を組み、外部のリソースを使って新しい事業を作っていくということですね。

 そうです。我々のノウハウは限られていますので、新しい分野の事業領域を作るとき、共創・協業は必須です。問題は、その共創・協業を誰と一緒にやるかです。我々の強みと相手の強みが共創することで、今ある以上の付加価値を生み出せるのかということ。そして何より、ビジョンを共有できること。我々は単に利益を上げるだけでなく、やはり130年の長い歴史の中で保険事業を営んできた事業体なので、社会への貢献や人々の信頼が事業の基盤になっています。そのため、必ず相手企業のトップと会い、そういうビジョンを持っているかどうかを確信したうえで協業します。

デジタルと人との共生で「価値の拡張」を実現する

--- 「共創と拡張」をうたわれていますが、拡張とは、単に事業を大きくするための拡張ではないのですね。

 私の言う拡張は「価値の拡張」です。例えばAIやRPA(Robotic Process Automation/プログラムによる事務作業の自動化)などのデジタル技術はすごく進んでいますので、我々も「業務改革推進部」を設置し、全社横断でAI・RPAの導入を進め、生産性の向上や高品質なサービスの提供に取り組んでいます。
 そこで生産性が飛躍的に向上し、今より利益が出せる構造が作り出せるでしょう。しかし、生産性を上げるだけでは、世のため人のためになるような素晴らしい商品やサービスなどの価値を生み出すことはできません。私は「デジタルと人の共創」と言っていますが、デジタル戦略の本質はデジタルを活用して一緒に何かを作り上げることによって、今ある価値を拡張していくことです。
 他社との共創も同じです。最近はデジタルプラットフォーマーとの共創・協業を盛んに取り組んでおり、その一環としてLINE Financial社との協業で「LINEほけん」を始めました。しかし単に今ある商品をLINE社のプラットフォーム上に流すだけでは、販売チャネルが1つ増えただけで、お客様や世の中にとっての付加価値が高まることにはなりません。そこで当社では、自由な発想で商品を開発できるような子会社として、少額短期保険会社「Mysurance」を設立し、そこに人を投入して、全く新しいコンセプトの保険を作っています。この部隊とLINE社の若い人たちが共同して始めた新サービスの一つが、「LINE」のトーク上で保険がおくれる「贈るほけん 地震のおまもり」です。大事なのはこうした「発想」であり、チャレンジを積み重ねることで、いずれ価値あるものが必ず生み出されると信じています。

--- スマート技術と一体化した、新しい事業やサービスが出てくるときに、損保会社そのものの役割は変わってくるのでしょうか。

 変わるか変わらないかはまだ誰にも想像がつかないと思います。ただ、変わる可能性は大いにあるので、我々は将来に向けてさまざまなチャレンジをしていかなくてはなりません。
 その変化の形態として注目しているのが、あらゆるモノ(X)をサービスとして提供する「ザース(XaaS)」。代表的なものは(X)のところにMが入ったマース(MaaS)であり、移動手段がサービス化していく世界です。日本ではウーバーのようなサービスは、規制の関係であまり進んでいませんが、一定の規制の枠内でマースが進んでいく可能性はあります。

Uber(ウーバー)

アメリカのウーバー・テクノロジーズ社が運営するサービスで、アプリを使った自動車配車やクレジットカードによる精算を行うプラットフォーム。
 マースのようなサービスが発展すると、移動手段がパッケージ化され、定額料金化していきます。移動手段も単に車に乗るだけでなく、電車に乗り、場合によっては自転車に乗りとさまざまですが、それら複数の移動手段がパッケージ化されるわけですから、移動手段別のリスクを保険化している今の保険では全く対応できなくなります。
 そういったプラットフォームができると、若い人たちも、デジタルで保険に慣れ親しんでいく確率が極めて高くなります。このマーケットは、資本を持った事業体ならどこでもサービスを行えてしまうので、我々が保険だけの事業を続けていたらマーケットから締め出されてしまいます。
 もちろん、全てがマースになるわけではありませんので、従来通り代理店を通して保険を利用する既存のビジネスモデルも残るでしょう。一方で、若い層を中心に一定割合の人たちがマースの世界に進んで行った場合、その領域の保険は全く違うものになっています。従って我々は、マースの世界の川上事業で一定のポジショニングを持ちたいのです。その布石を打っておくことで、保険事業においても、飛躍的に拡大するチャンスを手に入れることができるかもしれないと考えています。
西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏

--- それは社長のおっしゃる、インシュアランス・アズ・ア・サービス(IaaS/Insurance as a service)ということですね。

 そうです。そういう構造的な変革がさまざまなところで起きると思います。私は「スマートX」と言っていますが、スマートシティ、スマートフォン、スマートファクトリーといったところでも変革が起こるでしょう。
 例えばスマートファクトリーでは、機械がインターネットにつながってIoT(Internet of Things)化します。そうなると将来の事故や故障の確率が統計から予測できるようになり、メンテナンスのタイミングもメーカー側で把握できるようになります。そして当然、このサービスの中で、保険が不可欠になります。ここに参画していなければ、我々は旧態依然とした保険会社のままです。従ってこういった新しい領域にも、チャンスがあればどんどん進出していきたい。
 我々の事業は「安心・安全・健康領域」と言っても、その範囲はものすごく広い。単に事業の多角化ではなく、親和性があり必然性がなければなりません。例えば、マース事業に進出するのは、我々の事業を守り成長させていく意味でも、必然的なものなのです。全くの飛び地に行って利益を上げるのではなく、親和性や必然性のあるところ、あるいは既存事業で持つ基盤や市場、データが強みになるような領域に出ていくということです。
 極端な例を挙げれば、ラーメン屋さんの繁盛店なら1億円売り上げがあるので100店作れば100億円売り上げが出ると考える人もいるでしょう。しかし社員には、こういうのは我々の事業領域ではないと、冗談を交えて言っています。

--- そうなると組織も社員も変わらざるを得ませんね。ここ数年、新しいチャレンジを支えるさまざまな組織ができたそうですが、今後どういう分野に力を入れていこうと考えていますか。

 数年前から3つの組織を立ち上げています。入社以来、10年、20年と保険事業だけをやってきた社員が圧倒的に多いので、新しいセクションを作って新しい人たちを入れ、その中でまったく新しい企業文化を作るためです。既存事業の部門とコラボさせながら、変化をもたらしていこうと考えました。
 3つのセクションの1つは、商品・サービスの発信拠点となるデジタル戦略部(「SOMPO Digital Lab」)です。世界のデジタルシーズを起点としたビジネスを発想するために立ち上げました。ここには60人ほどがいて、世界の最先端テクノロジーが集うシリコンバレー、イスラエル、東京にラボを作り、3極プラスさまざまな事業体と協業しています。
 もう1つは、優れた開発研究機関・企業・ベンチャーとの提携・投資・人材交流などを通して、社会的課題の解決に取り組む「ビジネスクリエーション部」です。デジタルシーズに限らず、世の中で進化しているいろいろなテクノロジーに注目しようということで、今は生命科学や農業に深く注力しています。ここは比較的小規模で、20人ほどで事業を推進しています。
 3つ目が「本丸」ですが、デジタル戦略部と一体となって、デジタルを活用したお客さま起点の新たなビジネスモデルを創出する「ビジネスデザイン戦略部」です。まさにニーズから発想したビジネスを展開していく部門です。ここには100人ほどを投入し、保険以外の新規ビジネスも含めて作り出しています。
 この3部が本社の40階フロアに金融機関・保険会社からは全く想像もつかないITベンチャーのようなフロアを作り、今では人が増えて41階も半分使っています。各部署が独立して動くのではなく、シーズとニーズを一緒にやっていかなければならないので、毎日のようにディスカッションしながらビジネスを展開しています。服装は自由、予算も一定配分し、それぞれの権限の範囲内で投資し、報告も事後報告。一言も文句は言わず、好きにやらせています。

--- 3つのセクションのトップも外から採用したのですか。

 デジタル戦略部のトップは、シリコンバレーからのヘッドハンティングです。執行役員として採用し、現在は常務になっています。ビジネスデザイン戦略部のトップもヘッドハンティング採用です。ビジネスクリエーション部のトップだけは当社の社員の部長ですが、メンバーはキャリア採用が多いですね。
 優秀な人が来るとその人を慕って移ってくる人もいます。彼らはミッションの達成が目的なので、それをやり遂げるために、必要な人材を自らヘッドハンティングなどで採用しています。元の出身の会社だけでなく、大手IT企業などいろいろな会社からいろいろな人が来ています。保険会社という感じでは全くないですね。
 保険業界は認可の問題などもありますから、そういう新しい部署の人たちも、既存の商品開発部やサービス部との協業が不可欠になります。協業するようになって、既存部門も「絶対に負けない」という気持ちを強め、大いに変わってきました。ある意味、社内ライバルですね。彼らは保険会社の保守本流だったのですが、新しい部署が事業領域、商品領域を含め、保険商品なども面白いものを発想してくるので、競争心が生まれ、さらに「このセクションに異動したい」という若い人たちが増えています。それはそれで困るので、今はプロジェクトを横断して組む形にしています。「人は変わらない」という人もいますが、やっぱり人は変わると思いますね。みな目つきも変わって楽しそうに仕事に取り組んでいます。

現場は事業の宝。変化の根底にも現場主義を徹底

--- 会社の基盤を支えてきた営業の人たちへの配慮はどのようにされていますか。

 営業部門や保険金支払のセクションなどはお客様に毎日対面し、いろいろなニーズを掘り起こしています。今も将来も現場は大事で、我々の事業の宝だと考えています。私自身も現場主義なので、自分の時間の大半は現場をしょっちゅう回っています。また、テレビ会議システムで社長室と各支店、その出先で普段行かないような郊外にある出張所を結んで、支店長や支社長抜きに直接職員や担当者と話をしたりしています。テーマは決めず、こちらも長いメッセージは伝えません。あとは質問を受け付けて、普段疑問に思っていることや不平不満など、言いたいことを言ってもらいます。私も感じていること、ビジョンとして思っていること、皆に期待したいことを答えています。ビジョンを共有できればいいと考えて、いろいろな部署とやっています。

--- 社長に就任されて4年になります。先ほどの新しい3つの部署や現場との交流を踏まえ、会社を変える、社員を変えるというところはかなり実現したという手応えはありますか。

 会社の未来を作り上げるためには、企業風土・文化がまだまだ変わっていかなくてはなりません。そこで実は今年、企業文化を変えるためいろいろな運動を起こしています。
 私が挙げているテーマが3つあります。1つはお客様の立場で徹底的に考える企業風土・文化を作っていくこと。真の意味でお客様の立場に立っているかどうかを自問自答しながら、さらに徹底して欲しい。もう1つは、創造性、独創性を生むような自由闊達さを作り上げていくことです。創造性や独創性は今後ビジネスにとって非常に重要な要素です。それらはダイバーシティな組織、つまり自由闊達な組織に生まれてきます。そして3つ目のテーマは、スピードです。決断と実行のスピードを尊ぶ文化を作っていきたい。
 この3つのテーマを、今はことあるごとに職員に言い続けています。課支社のミーティングでも、このコンセプトを自分たちの組織に当てはめて考えてもらっています。コンセプトが理解できても、それを自分たちの組織に当てはめ、お客様の立場に立ったとき、何ができていて、何ができていないのか。どう変わっていかなくてはならないかを、全ての組織のミーティングで考えてもらいたい。2~3年でそういう企業文化を作り上げられれば、次の時代に生き残っていくうえで必要な文化が醸成されるものと思っています。

--- 来春には商号・社名変更するそうですね。

 社名変更も「変える」ことの1つです。社名変更というのは、職員や代理店からものすごい反発が起こるものだと思っていました。そのため、主要代理店の代表の人たちにも事前に社名変更の意味を私から直接説明したのですが、意外にも反発はほとんどなかった。それどころか、現場はお客様中心で動いているので、自主的に新しい社名への移行を進めているくらいでした。心配は杞憂に終わりましたね。

--- 最後に、オフビジネスで、リラックス法としてやっていることはありますか。

 実はそういうものは、あまりないんです。今は会社を変えようとしていますし、新しいことにチャレンジしていて、仕事自体にわくわく感がある。情熱を持ってやっているので、精神的なストレスもありません。「仕事漬け」ということでしょうか(笑)。
 あえて言えば、ゴルフは嫌いではありませんので、お客様とも親しくプレーさせていただいたりしています。足が衰えないよう、ゴルフの時はできるだけ自分の足で歩くようにしています。あとは本を読むことは昔から好きなので、仕事の本も含め、時間のあるときには読書をしています。それから家内と週に1度、2時間くらいゆっくり食事をします。家内が店を見つけてきたり、行きつけのお寿司屋さんに行ったり。先日は表参道にある鉄板焼きの店を予約して行きましたね。
 

(右)西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏<br />
(左)大村泰
(右)西澤敬二(にしざわ・けいじ)氏
(左)大村泰
(掲載日 2019年10月23日)

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