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情報活用Tips Column

Happy First Achievement ひとりひとりの幸せを追い求める先に成果がある 最終回

Happy First Achievement ひとりひとりの幸せを追い求める先に成果がある 第2回

あなたらしく、大切にしたいリーダーとは
 第1回目、2回目で「ダイバーシティ」、「モチベーション」、「コミュニケーション」について話してきました。タイトルの「Happy First Achievement - ひとりひとりの幸せを追い求める先に成果がある」 というような「そんな甘いマネジメントで本当に勝てますか」とよく聞かれます。しかし、「選手が成長し笑顔で幸せなら、勝てない方がおかしい」と信じています。 今回はひとりひとりの力を発揮するチーム、リーダーのあり方について話したいと思います。テクノロジーの進化、労働環境の変化によって、リーダーに求められるものも多様化しています。社長は、決断する監督のようなものでしょうか。 マネージャーや部長職の人たちは、プレーヤーでありリーダーでもある、キャプテンのようなものでしょうか。あなたらしく、大切にしたいリーダー像とはどんなものでしょう。

ひとりひとりの力を発揮し成果を出せるチーム、リーダーとは

石原孝尚氏

石原孝尚氏

澤穂希「苦しい時は、私の背中を見て」 仲間を信じ、自分にできることを誰より行う

 2011年、サッカー女子ワールドカップ、ドイツ大会で優勝した、なでしこジャパンのキャプテンだった、澤穂希。僕が、INAC神戸で監督をしていた時も、何度も、チームを救ってくれた選手でした。 

 「苦しい時は、私の背中を見て」 

 この言葉は、澤らしいと思います。本人も言っていますが、チームの中には澤よりテクニックがあったりスピードがあったり、優秀な選手も多くいました。 彼女が大切にした、キャプテンとしてのあり方は、苦しい時こそ、「私は最後まで諦めない。絶対に走り続ける」というものでした。2011年ワールドカップ決勝はそれまで一度も勝利したことのなかった米国との対戦でした。 90分では決着がつかず、延長前半、勝ち越されてしまいます。 しかし、後半残り3分、苦しい状況のなか、澤のゴールで同点に追いつき、PK(ペナルティ・キック)戦の末、優勝します。 
 澤はキャプテンとして、「私はドリブルやシュートがうまいわけでもパスセンスがあるわけでもない。でも、私の苦手なところは他の選手がカバーしてくれるし、(私が)他の選手が苦手なところをカバーできたりする。もちろん、苦手を克服するように努力はしますが、それぞれが得意な部分でカバーしあって勝負します」と言っていました。
  決勝で、PK戦になった時、キャプテンだった澤は「PK戦は絶対に蹴りたくない」と言って監督も選手も、みんな笑顔になっていました。 澤はチームをまとめることを得意としていませんでしたが、仲間の力を信じ、自分にできることを誰よりも行い、背中を見せてチームを引っ張るリーダーでした。 

関わるすべての人=Familyを笑顔に そして感動させたい

僕が2013年、INAC神戸の監督になった時、掲げたスローガンは「INAC Family」でした。関わるすべての人たち(選手、スタッフ、サポーター、スポンサーなど)が感動し笑顔になることをめざしました。優勝をめざすプロセスを、関わるすべての人たち( Family )で共有したい、そんな思いでした。そこに厳しさがないわけではありません。 「サポーターもスポンサーの方々も、勝って全員で喜びたい。負けて全員で悔しい思いを共有したい」 そこに僕たちが勝利をめざす意味があると思っていました。 

「どうやったら勝てるチームを作れるか」、誰もいつもわからない?

 「どうやったら勝てるチームを作れますか」。 よくこういう質問をされます。僕は、その人たちにこう質問します。 「僕の若い知り合いに美味しいご飯をたくさん食べさせたいと思っています。何がいいですかね?」 「若い子たちなら、焼肉なんかいいんじゃないですか」と答えてくれます。 僕は、「その若い知り合いは2歳の赤ちゃんなんです」と伝えます。 
 そこにいる選手(社員)たちの特徴や環境、価値観を知らずに、勝てる方法を伝えることはできません。 僕もシーズンが始まる前から、「これをやれば勝てる」なんて思ったことはありません。 高校生にサッカーを教える時も、体育の授業で女子中学生に指導するときも、アメリカ代表キャプテンを指導する時も。 
 目の前にいる選手が「どのようにしたら成長してくれるか」を毎回、考えるだけです。いつも、悩んでばかりです。 
 米経営学者のピーター・ドラッカーも 「われわれは未来についてふたつのことしか知らない。ひとつは、未来は知りえない、もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違うということである」と言っています。 要は、ドラッカーですら、未来のことは何もわからないと言っているのです。 

トレーニングの考え方 、「言われただけではできなくてあたりまえ」

 「言っただろ!!」 「なんでできないんだ!!」という上司、近くにいませんか。イメージしてください。隣にベートーベンが来て、ピアノを弾いて、「はい、同じようにやってごらん」と言われても出来るはずがありません。 社員も部下もトレーニングが必要です。 トレーニングをするときに気をつけたいのは、必要とわかっていても、飽きてしまったり、好きでないこともあったりします。 上司としては、「必要だから、やってあたりまえだ」と思っているかもしれません。 
 みなさんも、トマトが健康に良いことは知っていると思います。 ただ、毎食、トマトをそのまま丸ごと、食べなさいと言われても最初は食べられても、食べられなくなってしまいます。 リーダーは、ある日はトマトを、サラダにしたり、パスタにしたり、スープにしたり、必要なこと(トレーニング)を、手を替え、品を替え、提供することも大切です。リーダーとして、できないことを部下(選手)のせいにしてはいけません。 

「勝つ」ことではなく、「勝ち続けること」をめざす

 「勝つことにこだわる」、「結果がすべて」。 ビジネスでは売り上げを、スポーツでは勝利をめざしているので、結果にこだわることは、間違ってはいません。 ただ、ビジネスもスポーツも「勝ち逃げ」はできません。 一試合勝ったとしても次の週、また試合があります。 売り上げが今年度あがっても来年度、また新たな戦いが待っています。 
 「どうやったら勝てるか」。それはすごく大切なことですが、目の前の試合を勝つことだけを追い求めると「ごまかして勝つ」、「その場しのぎ」の勝利になることがあります。 大切なことは、「勝ち続けること」です。 一試合勝つだけなら、「どんな手段を使っても」となります。 ごまかして掴んだ勝利というのは、その時しか有効性がありません。 
 ビジネスもスポーツも勝ち続けることが大切です。 よく「ここで負けたら意味がない」といいます。 たしかに、その瞬間は意味がなく感じます。 でも、そのアスリートの、その社員の人生は続きます。 リーダーとして大切なことは「勝ち続けられる」ために、「勝てる集団」に成長させることだと思います。 

あたりまえの状況に「ありがとう」 、感謝の二重構造を

 チームの関係性はパフォーマンスに影響を与えることはみなさんも理解していると思います。 お互いの存在、役割を認め、感謝しあえる関係をつくるために、「ありがとう」をいま以上に言ってみるのはどうでしょうか。 
 僕が米国でコーチをしている時、選手たちが練習後に、I like it.(練習、よかったよ)とかThank you, TAKA.とフランクに言ってくれていました。 最初は、コーチだから練習を考えて指導するのがあたりまえなのに、なんで「ありがとう」って言ってくれるのだろうと思っていました。 
 でも、感謝されると「もっと彼女たちのためにがんばろう」と思えたものです。 いまでは僕も、選手たちにも「練習してくれてありがとう」、「楽しんでくれてありがとう」といつも言うようにしています。 

弱さは強みになりうる、利用すべきEmotional(感情)のパワー

 サッカーチームもそうですが、チームワークをFunctional(機能的効率)な視点を重視し、Emotional(感情的効率)を軽視していると思います。 タイムマネジメントやタスクマネジメントなどのFunctionalなマネジメントは、数字でわかりやすいため、共有しやすく、効率をあげるために重視されてきました。 
 しかし、感情を考慮せず、効率化ばかりをめざしてきた結果、そこに熱(感情)がなくなり、パフォーマンスがあがっていない会社も多いと思います。 コンピューターやロボットであれば、プログラミングを変えるだけで解決しますが、人間がやっている以上、Emotional(感情)のパワーを利用すべきです。 
 INAC監督時代、リーグ終盤、優勝を決められる試合で、そのシーズン、一回も出場していなかった選手を先発で起用しました。 実力的には他の選手とは明らかに差がありました。しかし、彼女のことを選手たち全員が人間的に信頼し、「彼女のためなら何とかしたい」と思える選手でした。 試合中、その選手のパフォーマンスとしては不十分な部分もありましたが、周りの選手たちが彼女のために、いつも以上に走ってサポートしていました。 試合は2-1で勝利しリーグ優勝を決めることができました。 
 彼女の弱さをカバーすることで、全員の集中力が高まったゲームでした。 チームでは、「弱さが強みになりうる」こともあります。 

チームは難しい課題だからこそ、うまくいく 「動物性危機感」が集中力高める

 人間は、何が起こるかわかっていると、集中力が落ちます。 敵がどこからいつ襲ってくるかわからない状態だと、緊張感、集中力が増します。 それは、人間が動物だからです。 僕はこれを動物性危機感と名付けました。練習も難しい方が、選手は集中してやります。 目標も難しい方が、燃える選手たちもいます。 
 「難しいな、できるかなぁ」と思える状況をあえて、作り出すこともリーダーの仕事です。 ラグビー日本代表を見て、「こんなに強かったのか」と感じた人も多かったと思います。 一瞬でも気を抜いたら、やられてしまう状況で、ラグビー日本代表が持っているすべて、もしくは、実力以上のものを引き出して、試合ができていたのだと思います。 

サイボウズ・青野社長と共感、「ひとりひとりの幸せを追求したら売り上げが上がった」

 いままでは「組織、集団の成功の先に、個人が恩恵をうける」時代でした。 組織の成功のために、個人の犠牲も仕方ないと思われてきました。 でも、これからは「幸せな個人の集まりが、成果を出す組織」になります。 
 僕は、サイボウズの社長である青野慶久さんとは同じ勉強会で学んでいます。 サイボウズは「100人いたら100通りの働き方」をめざしておられます。青野さんの著書、「チームのことだけ考えた」の話を聞いて、僕は「青野さんも、社員、ひとりひとりの幸せを大切に考えているのですね」と伝えました。青野さんは「僕も石原さんも、チームの神様の下にいます。ひとりひとりの幸せを追求していたら、売り上げが勝手に上がりました」と。 
 僕は、「選手、ひとりひとりの幸せ、成長を考えれば、選手が勝利を運んでくれる」、青野さんも「社員、ひとりひとりを幸せにするための働き方を追求すれば、売り上げはあがる」と、幸せの先に成果がある考え方でした。 
 誰も犠牲にすることなく、ひとりひとりの幸せを一番に考える、Happy Firstをこれからも広げたいと思います。 
(日経MM情報活用塾メールマガジン3月号 2020年3月27日 更新)
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石原 孝尚 Takayoshi Ishihara
FCふじざくらグローバルディレクター
岡山県高梁市スポーツ振興アドバイザー

2000年金沢大学教育学部卒業、2003年筑波大学大学院体育研究科修士課程修了。前橋育英高校サッカー部コーチ 、帝京高校教諭兼サッカー部コーチなどを歴任。2012年INAC神戸レオネッサのヘッドコーチ兼U-18監督、2013年監督に就任。国内大会の三冠独占(リーグ・リーグ杯・皇后杯)に加えて、国際女子サッカークラブ選手権を制し、四冠を達成した。2014年米プロリーグ・NWSLのスカイ・ブルーFCのアシスタントコーチ。2016年浦和レッドダイヤモンズ・レディースコーチ、2017年監督。2018年11月から豪州女子プロリーグMelbourne City FC Ladiesコーチ。サッカーだけでなく、IT、経済、女性の社会活躍などを世界中で学び、発信を続けている。