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情報活用Tips Column

Happy First Achievement ひとりひとりの幸せを追い求める先に成果がある 第2回

Happy First Achievement ひとりひとりの幸せを追い求める先に成果がある 第1回

コミュニケーションに大切な「お互いへの思いやり」
 第1回のコラムではダイバーシティ(多様性)を最大限に活かすために、チームのメンバーがモチベーションや目的を共有化することの重要性を指摘したうえで、それがひとりひとり異なることを認め、それを認識する必要があることを強調しました。今回は価値観がますます多様化する時代、お互いがそれを確認するために大切になっている「コミュニケーション」について、まとめてみました。

人は「正しい人」の話を聞くのではなく、「信じた人」の話を聞く

石原孝尚氏

石原孝尚氏

 自分の気持ちを相手に伝え、相手の気持ちを理解するにはどうしたらいいでしょうか。「あいつは、なんでわかってくれないんだ」、「あの人が言っていることはわかるけど、どうも素直に聞けない」。 そんなやりとり、周りでもありませんか。
 実は、「人は正しい人の話を聞くのではなく、信じた人の話を聞く」ということかと思います。現在は「正解のない時代」です。つまり、「正解(絶対解)」はなく、「納得解」が重要となっています。 
 これまでは正しい、決まった方法で行動すればよかったので、コミュニケーションが不十分でも仕事が前に進みました。 いまは、変化が激しく、その場での対応も迫られ、ひとりひとりの価値観も多様化し、コミュニケーションをとって、納得し行動する必要があります。 
 「自分の話を部下が聞いてくれない」 
 「相手のミスを指摘したいけど、うまく伝えられない」 
 「そもそも相談されない、相談したくない」 
 「話していても議論が噛み合わない」 
 「自分の考えを決めて、伝えなければいけないが、AかBか決めきれず伝えられない」 
 「相手の気持ちを理解できない」 
 こんなことを感じる方もいると思います。
 では、どうしたら人は話を聞いてくれるのでしょうか。 
 リーダー、上司は正しいことを言おうとします。それでも部下は聞いてくれません。
 どれだけ正しいことを言われても素直に聞けない経験、みなさんもあると思います。 ヒトは、正しいことを言う人の話ではなく、「自分が信じている人」、すなわち、「自分を認めてくれる人」 の話を聞きます。 
 自分は認められるほどすごい人じゃない。そんなふうに、思う方もいるかもしれませんが、「自分を認めてくれる人」というのは「自分の話をちゃんと聞いてくれる人」です。 
 普段から、部下の話もちゃんと聞いていない上司がやさしく、そして論理立てて説明しても、部下は素直には聞いていないものです。 よく勉強し、コミュニケーションスキルを磨くことも大切ですが、自分の意見を聞いてもらうには、普段から、相手の話をよく聞くことが大切です。 

第一歩は「肯定ファースト 」、ミスの指摘よりもしないための「選択肢」示す

 人にミスを伝えることが苦手だったり、ミスを指摘すると言い返されてしまったりする方もいると思います。 
 「本質行動学」では、コミュニケーションの第一歩に「肯定ファースト」をかかげています。 仕事をするうえでは必ず、仲間のミスを指摘したり、修正点を伝えたりする必要があります。 指摘する方は「正しい」と思っているので、相手の否定からはいってしまうこともよくあります。 
 相手がロボットであれば、ミスを修正しプログラミングすれば済む話ですが、人間の場合、否定された瞬間に、「心を閉ざす」、もしくは「否定されて敵対視する」ことがよくあります。心を閉ざしてしまったり、敵対関係になったりしまえば、本質ではなく言い訳を並べることになってしまいます。 
 「注意してやっているのに何だその態度は!」と思う方もいると思いますが、それでは部下は信じてついてはきません。 まずは相手の行動を認めたうえで、「相手のため」に指摘することが大切です。 
 サッカーコーチはプレーの修正が仕事です。サッカーはミスが多いスポーツなので、指摘しようと思えば、ワンプレー、ワンプレー、すべて指摘できます。 

 でも、僕は、なるべくミスを指摘しないようにしています。 技術的なミスは本人も周りもわかります。現象としてミスが出ているので、わざわざ伝える必要はありません。 
 ミスではないが、本人がより良い判断ができたのにしなかった場合などは、「こんな選択肢もあったよ」とだけ伝えます。 「なんでミスするんだ!」、「集中しろ!」なんていう指導者も多いですが、一番、ミスしたくなかったのは本人です。 本人は「言われなくても、わかっているよ!私が一番、ミスしたくなかったから!!!」と思っています。
 わざわざ自分を傷つけるようなリーダーの話は聞きたくないはずです。 
 ここで難しいのは「ミスを許容する、ミスしても良い」わけではないということです。 その選手が「ここでこんなミスをする選手にはなってほしくない」という思いもあります。 もっと成長して高いレベルでプレーして欲しいと思っています。 伝え方の問題であり、ミスをしても良いというわけでもなく、ミスを繰り返さないようにサポートをしていくべきだと思います。 

人にある感情、あえてタイムラグを作ることも 相談しやすい「環境」こそ大切

 人のミス、課題を指摘するとき、一般的には「タイムリー(ミスした時)」が推奨されています。 その時が一番、リアルな状態であり、わかりやすいからです。 
 ただ、僕は少し時間がたってから(あえてタイムラグを作ってから)、話をしたりします。 人には感情があるからです。 
 後から冷静になれば素直に聞けることもタイムリーに言われてしまうと、指摘された人も防衛本能がはたらいて言い訳が多くなってしまうこともあります。 
 ただ、これも、信頼関係が影響しており、信じた人からの指摘ならば、その場で指摘してくれた方が効果的なこともあります。 
 また、仕事を進めるうえで相談は必要です。では、みなさんが働いている環境は相談しやすい環境でしょうか。
相談
 どれだけ、コミュニケーションスキルがあっても、「相手が何を考えているかわからない」状況では相談も難しくなります。少し前までは「喫煙室でほとんどが決まる」とも言われていました。それは、雑談の中で、相談しやすい関係がすでに構築されていたのだと思います。
 テクノロジーが進み、社員間の連絡はとりやすくなっていますが、相談しやすい環境は減ってきているのかもしれません。株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長の倉貫義人さんは「ザッソウ(雑談+相談)」を推奨しています。 
 これは普段の何気ない雑談から良いアイデアが生まれるし、相談したいときに相談しやすい良い関係を作るためにも普段からの雑談が有効だということです。 
 ただ、倉貫さんも雑談をすれば良いと言っているわけではなく、大切なことは「相談したい時に安心して相談できる環境が大切」ということです。 

意見食い違っても思い同じことも 東洋思想テトラレンマ「Aではないが、Aでなくもない」

 「私はAだと思います」、「僕はBだと思います」。 
 多くの意見は立場や見方によっては正しくて、話し合いが平行線で結論がでないこともあります。 
 賛成、反対など意見が違う場合でも同じ思いだったということもあります。 たとえば、福島の原子力発電所に対して賛成、反対の議論があります。 賛成の理由も反対の理由も正当なもので、主張している方々も自分の考えを信じており、原発をなくすか、残すかの二択に迫られてしまいます。 
 でも、考えてみれば、賛成側も反対側も「福島の人たちを守りたい」という同じ思いだったりもします。 原発を残したい人たちは、「福島の人たちを守るため」に、原発がなくなっては働く場所がなくて、みんなが生活できないと思っています。 原発をなくしたい人は、「福島の人たちを守るため」に、原発があっては危険だと思っているのだと思います。 

 賛成も反対も、同じ「福島の人たちを守りたい」という思いを持っています。 
 議論をするときに、相手の思いを確認し、「なぜ、そう考えるかという思い」を共有し、理解し合うことで、議論を進められることも多くあります。 
 「どう思っているのですか」と聞かれて、「Aではないが、Aでなくもない」と思うことはありませんか。 
 これは東洋思想のテトラレンマという考え方で、「Aではない」と断定したいが、「Aでなくもない」ということは僕たちが生きている社会では実に多いということです。 
 人の気持ちも社会の構造もグラデーションの部分がすごくあります。
 物事を進めるために決断は必要ですが、人の気持ちを理解するときに、このテトラレンマを意識してみたら、はっきりしない部下のことも理解できるかもしれません。 

言葉ではなく、背後にある「気持ち」を視覚化し、理解する

 「もう練習なんてしたくありません!」 
 試合後、試合に出られなかった選手が僕に言ってきました。 僕は「やる気がないなら練習に来なくていい!」と伝えました。その選手は泣きながら、部屋を出ていきました。 
 僕の大失敗の経験です。 
 「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」 。これは有名な正岡子規の俳句です。 
 俳句でもそうですが、言葉だけを追ってそれを事実として捉えても意味がありません。 その句の背景にある思いや考えを視覚化し、理解することが大切です。 
 選手が「もう練習なんてしたくありません!」と言ってきたとき、僕は言葉をそのまま受けてしまいました。 
 その選手は、普段から練習を誰よりも一生懸命やる選手でした。その選手が努力してきて、それでも試合に出られない悔しさを、僕に理解してほしくて、言った言葉が「もう練習なんてしたくありません!」でした。ということは、その選手の思いは「試合に出たくてしょうがない。そのためにもっと練習がしたい!」ということでした。
 周りで働く人のなかにもうまく気持ちを伝えられない人もいます。 
 そのときに、聞く側も言葉の意味を追いかけるのではなく、その背後にある思いを視覚化し、理解してあげられることもコミュニケーションにとって大切だと思います。 
 コミュニケーションに大切なことは「お互いの思いやり」ではないでしょうか。 
(日経MM情報活用塾メールマガジン2月号 2020年2月27日 更新)
次回は、「ひとりひとりの力を発揮し成果を出せるチーム、リーダーとは」です。
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石原 孝尚 Takayoshi Ishihara
FCふじざくらグローバルディレクター
岡山県高梁市スポーツ振興アドバイザー

2000年金沢大学教育学部卒業、2003年筑波大学大学院体育研究科修士課程修了。前橋育英高校サッカー部コーチ 、帝京高校教諭兼サッカー部コーチなどを歴任。2012年INAC神戸レオネッサのヘッドコーチ兼U-18監督、2013年監督に就任。国内大会の三冠独占(リーグ・リーグ杯・皇后杯)に加えて、国際女子サッカークラブ選手権を制し、四冠を達成した。2014年米プロリーグ・NWSLのスカイ・ブルーFCのアシスタントコーチ。2016年浦和レッドダイヤモンズ・レディースコーチ、2017年監督。2018年11月から豪州女子プロリーグMelbourne City FC Ladiesコーチ。サッカーだけでなく、IT、経済、女性の社会活躍などを世界中で学び、発信を続けている。