2019年12月、大学のブランドの確立や認知度向上を考える「大学ブランド戦略セミナー」を東京と大阪で開催しました。東京では駒澤大学の執行理事 副学長の日笠完治氏に「近未来社会における教学と駒澤大学のブランド構築について」をテーマに講演、大阪では追手門学院大学の総務部広報課課長の谷ノ内識氏に「中堅私立大学の戦略広報」と題して現場最前線の体験談を披露していただきました。
開催日時 | 2019年12月 6日(金)14:00~17:00(東京) 2019年12月19日(木)14:00~17:00(大阪) |
開催地 | 東京・大阪 |
内容 | 「近未来社会における教学と駒澤大学のブランド構築について」(12月6日・東京) 駒澤大学 執行理事(教育・研究担当)副学長 日笠 完治氏 「中堅私立大学の戦略広報~追手門学院大学の挑戦~」(12月19日・大阪) 学校法人 追手門学院 総務部広報課 課長 谷ノ内 識氏 「『大学ブランド・イメージ調査2019-2020』結果と活用事例」」 日経BPコンサルティング ブランドコミュニケーション部 伊藤 憲 氏 「大学の価値を高めるSDGsの考え方」 日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター長 古塚 浩一 氏 |
日笠完治氏は「大学のブランディングを進めていくにはまず、現状をしっかりと認識し、近未来を志向したブランディングが必要である」と強調、現代の日本社会の問題点として「『縮小社会』への対応を余儀なくされているということを十分に認識しなければなりません」と指摘しました。日笠氏によると、具体的な問題点としては、(1)まず、少子高齢化による労働力不足や国力の低下、次に(2)財政赤字による社会保障制度基盤の弱体化や将来世代への負担増、また、格差社会による世代間の不公平感や高齢者支配「シルバー・デモクラシー」、そして(3)経済、科学技術、教育分野における国際力の低下―――ということでした。
さらに、日笠氏は「近未来とは具体的にどのような社会なのか?」という問いを提示、「現在が工業社会と情報社会が併存している社会に対し、近未来は知識基盤社会・人間中心社会、いわゆる政府が提唱するSociety5.0の社会」と発言しました。
日笠氏はこうしたなかで、大学の課題を「近未来社会を生き抜く学生を育てること」と定義、そのためには、「近未来社会における『大学』の在り方を構想し、それぞれの大学が個別にアピールし、大学によって異なるものにならなければならない」と語りました。
近未来社会Society5.0に託された課題として、自然環境の保護、エネルギー問題、格差問題など、さまざまなものがあるなか、日笠氏は「近未来社会がAI(人工知能)を支配する人間に支配されてしまうという閉塞感のある暗黒の『ディストピア』と考えるのではなく、人間と人間がやさしくつながり支え合うバラ色の希望が持てる『ユートピア』を追求する姿勢が大切」と強調。「大学にはSociety5.0にどう向き合っていくのか、真摯に考える義務があり、近未来社会で常に求められる新しい技術や知識、イノベーションや新しい価値創造を導く役割がある」と続けました。
そして、日笠氏は京都大学総長の山極寿一氏が執筆した「大学のいる未来像-ディストピアを振り払う」(朝日新聞2019年11月14日朝刊「科学季評」)から、次の言葉を引用。「利益を求めず、日本の各地や世界と結んでSDGs(国連の持続可能な開発目標)や地球環境へ配慮しつつ、多様な人々の協働によるコミュニティーを作る知識や技術を蓄積する場が必要である。それこそが、未来の大学が果たすべき役割にほかならない」。記事の主旨に同意していることを示しました。
講演で次に、日笠氏が強調したのが「大学の独自性」でした。日笠氏は「大学進学率が同年齢人口の50%を超える時代をユニバーサル時代といいますが、現在は57%となり、大学は偏差値で評価される時代ではなく、それぞれが独自性を見出し、アピールする時代になった」と話しました。日笠氏によると、かつて、大学は社会をリードするエリートや社会指導者を育成する機関であり、専門分化したマス段階教育を担ってきました。しかし、「これからはSociety5.0時代に即した教育を展開しなければならず、多種多様な知的活動が求められ、変化に即応する解決が必要になる」と指摘、多様な大学の存在の必要性を説きました。
日笠氏は「各大学は教育界において独自の教学ブランドを必要としている」としたうえで、駒澤大学のブランド戦略の策定について紹介しました。
日笠氏によると、駒澤大学はまず、ブランド構築にあたって、「ステークホルダー参加型」をめざしたといいます。もちろん、ブランド構築は建学の理念や従来のビジョンとの整合性を図る必要があり、駒澤大学の建学の理念は「仏教の教義並びに曹洞宗立宗の精神」です。また、駒澤2030長期ビジョンに「自他共創」、研究ブランディング事業に「禅の学際的国際的研究とその世界発進」があります。
こうした前提を踏まえたうえで、日笠氏は「関係者全員で進めていく、その過程が最も大切」と考え、「駒澤大学の現在の姿と将来ありたい姿とのギャップについてリサーチをしたり、在校生、卒業生、教職員へのヒアリング、教職員のセッションを重ねたりして、ブランディングの根幹にあたるブランドコンセプトを策定しました」と振り返りました。そこではさまざまな意見が飛び交い、学外からもアドバイスがあったといいます。
日笠氏はできあがったブランドコンセプトを次の通り紹介し、ブランドコンセプトをベースに、スローガン・ロゴデザインを策定した経緯を話してくれました。
■提供価値
自分の道を見つけ出すための“よりどころ”として こころ・まなび・つながり
■ミッション
ともに、よりよい明日を築く
■パーソナリティ
寛大で堂々としたしなやかで芯のある 前向きでいきいきとした
和文スローガンとしたのは「しなやかな、意思。」でした。日笠氏によると、変化と多様性に富んだ社会のなかで、しなやかに、折れることなく、主体性を持って生きていく心を育んでいくという思いを込めたといいます。一方、英文スローガンは「Learn Actively. Live Wisely.」。多様な価値観や知に触れながら、学んだ知識と実践経験を活かし、しなやかに生きていく力を育んでいくという思いがあり、ブランドスローガンの考え方や思いを書き下した宣誓文も作成し、定着させるためにブランドブックをつくり、配布したそうです。
日笠氏は「スローガンがキャッチコピーで終わらないためにはどう利用するかが大切」と指摘、駒澤大学の策定したブランドの利用法として、3つの柱を教えてくれました。
1つは「教学の基本方針として」。教学の重要施策への展開や大学改善サイクルの評価基準、履修科目との連動などに活用しているそうです。
2つめは「広報戦略として」。入試広報での基本方針と連動させて、社会的定着を図っていることを指摘。日笠氏によると、「偏差値ではなく、大学の魅力で進学したいと思わせるためにも大切なこと」と付け加えました。
そして、3つめは「学生・教職員のアイデンティティとして」。自分たちもそのブランドを誇りに思い、満足することが大事ということです。インターナルブランディングの方策として展開し、自校教育・自校精神としての精神的支柱となる展開を考えているそうです。日笠氏は「ブランドを浸透、定着させるために、ステークホルダーとの接点を増やし、繰り返しアピールしていきたい」と話しました。
日笠氏は最後にセミナーを総括し、「近未来Society5.0社会において、大学の果たす機能は多様性を持つ」「大学教育は専門性に基づきつつも、専門性を超越する能力を培う責務がある」と強調しました。
1954年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。同大学大学院法学研究科博士課程公法学専攻単位取得退学。2003年駒澤大学法学部・法科大学院教授、駒澤大学法科大学院研究科長、図書館長を経て、2017年より教育・研究担当副学長(教育・研究担当執行理事)。専門は憲法学。研究課題は「人間学的憲法論の理論構築」。
谷ノ内識氏は大学の戦略広報の要として、「経営戦略」と連動することの重要性について触れ、追手門学院大学が中期経営戦略、そして、さらに長いスパンの長期構想と、経営面における戦略とを連動させることにより、成果を挙げていることを話しました。
もともと、追手門学院大学は大規模・総合私立大学ほどのブランド力が確立しておらず、ブランディングとともに認知度向上にも取り組む必要があったといいます。そこで、まず、目標を「中堅私立大学の最前線」として、それを広報活動のポイントに据えたことを強調しました。
さらに、谷ノ内氏は自大学の情報を客観的に捉え、根拠をもって継続性のある広報活動を意識していることも指摘。その実践として、2013年~2015年、2016年~2018年、2019年~2021年の3期に分けた中期経営戦略と、それに連動した広報の取り組みを紹介しました。
谷ノ内氏によると、その際、学内に対しては広報活動と施策を「見える化」、その成果も合わせて、教職員に浸透させることで支援と共感を得て、広報の「全学体制」「組織力の向上」をめざしたといいます。加えて、学外には知名度向上とともに大学のビジョンと価値観を継続的に発信し、共感と信頼を築くことで「社会的評価の向上」をめざしたとのことです。
追手門学院大学の2013年~2015年の中期経営戦略の目標は「学力的にも人間的にも成長を実感できる学院像を共有することで、学院の存在意義および価値を高める」ことでした。まず、学校法人のなかで、経営の70%を占める大学を重視し、広報活動を大学に集中させる施策を打ち出しました。
具体的には、学内において、副学長直轄でUI(ユニバーシティ・アイデンティティ)ワーキンググループを発足し、全学ワークショップ・関係者インタビューを通じてUIを整理。大学像の明確化と価値観の共有を図りました。キャッチコピー「自分史上、想像以上!」も策定。谷ノ内氏は「この結果、『学生の成長を支援する大学』であるということが学内に浸透しました」と話しました。
谷ノ内氏は「大学における二本柱ともいえるのが『教育』と『研究』ですが、ここで『教育重視』の姿勢をアピールしたことが、その後の広報活動の布石になった」と分析。その後、「教育重視」の内容から学部横断型プログラムや学生の正課外活動が推進され、学外に直接的にPRする「直接広報」につながったとのことです。
ただ、「2013年~2015年の活動においては課題も残った」と谷ノ内氏は語りました。「アンケートなどで反響を測定した結果、学内では一定の認知向上が見られたものの、学外への効果は疑問が残ったためです」(谷ノ内氏)。
この点を踏まえ、戦略広報を見直し、第二期である2016年~2018年につなげました。ここでは前期の取り組みを引き継いで、さらに、大学に経営資源を集中させ、費用対効果を重視することを方針として定めたといいます。
最重要課題として掲げたのが「学生募集」で、学生募集を行うのは入試部のため、広報課は入試部をサポートする体制をつくり、「組織的に入試部を強化・支援を行うことを戦略広報の要に据えました」(谷ノ内氏)。
入試に関する施策として、追手門学院大学では「アサーティブ入試」を導入しています。アサーティブとは「相手の意見に耳を傾けながら、自分の意見や考えを主張できる態度」のことであり、追手門学院では「そのために自分を知り、表現することが大切になる」という意味で用いているそうです。「アサーティブプログラム」を通じて、出願者と大学側が面談を行い、学習面でのアドバイスなどを経て試験・面接を実施し、その後も入学前学習プログラムを行うという入試です。
従来の「選抜型」ではなく「育成型」であるこの入試制度は「教育重視」の理念とも一致しており、大学の改革を象徴するものとして位置付けられました。結果として、アサーティブ入試だけでなく、別の形式での入試出願数が増加。追手門学院大学を第一志望とする学生も増え、学生の質の変化ももたらしたそうです。「取材の問い合わせも増加し、広報的な側面においても一定の成果を挙げることができた」と谷ノ内氏は振り返りました。
第二期の2016年~2018年は、学生募集で成果を挙げたほか、学院130周年とそれに伴う新教育コンセプトの発表(2018年)、新キャンパス完成(2019年4月)など、「さまざまな面で改革を遂げた期でもありました」(谷ノ内氏)。130周年式典では広報課主導で作りあげた「行動して学び、学びながら行動する」を掲げた新教育コンセプト「WIL」を発表。新しいキャンパスのホールも「WILホール」と広報課が命名し、ソフト面・ハード面を連動させ、ストーリーとして打ち出す「ストーリー戦略広報」を実践しました。
また、これらを効果的に発信するため「『経営機能としての広報』を意識するようになった」と谷ノ内氏は語ります。
全学体制で広報活動に取り組むことを意識し、各学部・部署と密接に広報担当者が連携することで、事業企画の段階からニュース性を付加し発信できる体制を整備。各学部や部署が自ら発信できる人材を育成して組織力向上をめざしました。実際に「各部署からの情報が広報に集まっている大学」として追手門学院大学が挙げられているそうで、「全教職員の意識向上といった成果がうかがえます」(谷ノ内氏)。
「志願者増とそれに伴う偏差値向上といった実績をもとに、さらに大学改革をストーリーとして打ち出すことで、学外でも認知度・信頼度向上の成果が生まれた」と谷ノ内氏は話します。特に、母校の動向が気になる卒業生からの期待も高まった結果、大学訪問や寄付の申し込みといった成果も現れたとのことです。
また、これらの戦略広報に関する効果測定・成果指標についての説明もありました。谷ノ内氏によると、まず、経営戦略における位置づけを考えた内部・自己評価としての「準備評価」。そして、実際に広報活動を行った後の「実施評価」。これは数字としてあらわれる効果として、プレスリリースの件数や掲載件数、記者開拓数などを他校とも比較しつつ、広告効果換算も行って内部資料として作成したといいます。さらに、測定や実証が難しい「効果評価」については、日経BP大学ブランド・イメージ調査、各種外部調査を継続的に観測することでその変化を読み取りました。認知度の上昇については「日経BP大学ブランド・イメージ調査の変化で手ごたえを感じた」ということです。
谷ノ内氏は最後に、今期(2019年~2021年)は前期の目標・方針を引き継ぎつつ、「経営機能としての広報課」のさらなる確立をめざすことを強調しました。経営の一部機能を担うという意味合いで、広報課を「伴走者」と位置づけ、「広報伴走型ストーリー戦略広報2.0」として展開していくとのことです。「各部署で自ら発信できる人材の育成を引き続き行い、『時流』『話題性(新しさ)』をとらえた企画の立案・発信を支援していくのが広報課の役割である」と述べました。
「ストーリー戦略広報2.0」の要はアサーティブ入試制度、新教育コンセプト「WIL」、そして新キャンパスということです。これらに関する情報のUIを広報課で再編集し、それを発信する具体的なプログラムも現在、立案中であるとのことでした。経営における長期構想・長期計画と連動した発信を行うことで「ストーリー3.0」へとステップを進めることが大事だとのことです。
谷ノ内氏は各種調査からみても、大学の知名度に対してイメージ付けがまだ弱いこと、今後も大学としての立ち位置や経営戦略に合わせて広報戦略も変化が必要なこと、また、効果の部分で検証が十分でないことを挙げ、「今後も広報戦略としての挑戦が続きます」と意気込みを伝え、講演は終了しました。
NHK記者を経て2006年学校法人追手門学院入職。2015年から広報課長。
博士(政策科学)。専門は広報・PR論、経営組織論。日本PR協会認定PRプランナー。2019年1月より『月刊広報会議』にて「大学広報ゼミナール」を連載中。
日経BPコンサルティング ブランドコミュニケーション部の伊藤憲氏は同社が発行した『大学ブランド・イメージ調査2019-2020』の調査結果の概要と、調査データの活用法などについて説明しました。
調査は全国を9つのエリアに分け、延べ458の大学を対象に行われます。特長の1つが回答者です。対象Aは各地域に在住する有識者(ビジネスパーソン)と教育への関心が高い中学生以上の子を持つ父母。対象Bは教育・研究機関に従事する人で、「自由コメントも好評」と話しました。
ブランド偏差値を算出するのは49のイメージ項目と3つのスコアで、たとえば、「一流感がある」「知名度がある」「親しみが持てる」などの【一般イメージ】、「教育機関としてのビジョンがある」「学部、学科が充実している」などの【大学ブランド・イメージ】、「勉強、研究に熱心である」「基礎学力が高い」「語学に長けている」などの【学生ブランド・イメージ】です。
49のイメージ項目を【一流】【躍動感】【創造力】【グローバル】【地域貢献】【上品・誠実】の6つの因子に分けた分析も実施。「どの傾向が強みとなるのか」を把握することができることを強調しました。
伊藤氏によると、今回の調査でブランド力ランキングが最もアップしたのは九州・沖縄・山口編の福岡大学(福岡市)で、前回6位から2位にランクアップしました。8.1ポイントの上昇は全国トップです。6因子分析でみると、スポーツ施設が充実していることから「躍動感」、産学連携がメディアで報道されたことで「地域貢献」がトップでした。次に、ランクアップしたのが4.4ポイント上昇した北陸・東海編の金城学院大学(名古屋市)でした。前回17位から9位にアップしています。伊藤氏は「周年事業で学内外に理念などが再認識されたことが影響している」と分析しています。
次に、伊藤氏は「大学ブランド・イメージ調査」を有効に活用するための代表的な使い方として、次の4つを紹介。それぞれポイントを話しました。
1.「はじめる」ために使う。
ブランディングを「はじめる」ための「現状把握」として客観的な数値データとなります。学内での共通認識を持つことができ、議論が発展しやすくなります。
2.「まとめる」ために使う。
データをエビデンスとすることで、現状や課題を共有し、学内を「まとめる」ことに役立ちます。
3.「きめる」ために使う。
どういう点でアピールするのか、どこでエッジを立てるのかを「きめる」ために、データを活用できます。
4.「ふりかえる」ために使う。
ブランディング施策など、活動の総合評価として「ふりかえる」ために使います。ブランディングのKPI(重要業績評価指標)として、目標の達成度を測定できます。
さらに、調査データの具体的な見方について、次のように解説しました。
伊藤氏によると、大学ブランド・イメージ調査は「目に見えないブランドを数字で表して見える化する調査」と説明、その結果から、「大学の強みや他大学と差別化できるイメージを把握できる」と話しました。
伊藤氏はその手順を示し、まず、「個別分析シート」を使って、自校の現状を把握、次に、「競合分析シート」で、他校と比較した時に、自校はどのような立ち位置なのか相対値で把握できるといいます。これには「ブランド偏差値」×「認知率」のプロットを使いますが、伊藤氏は「ブランディング戦略を進めるうえで、自校はどのステージにいるのかを把握していくことが特に重要」と話しました。そして、ステージは初期状態、成長期、成熟期とステップアップしていくとはいえ、「ある程度の認知率を持たなければ、大学ブランドは向上しません」と続け、「他大学と差別化できる強みの認知をどう向上させるかがポイント」と強調しました。
加えて、伊藤氏は自由意見に書かれた「特長・魅力」や「改善点」「入学推薦/非推薦意向の理由」から「個別分析シート」や「競合分析シート」で確認した結果の理由づけや改善のヒントなどを確認することができることを指摘しました。
伊藤氏は最後に、ブランド成長のための3つのフェーズについてアドバイス、ブランドの成長を(1)認知度・知名度を上げる「ひろげる」(2)他大学との差別化をはかる段階「とがる」(3)大学を好きになってもらう、ファンを増やす「よろこばす」の3つのステップに分けて考えることで、効率的なブランドづくりに取り組めると話しました。
たとえば、「ひろげる」は人的・金銭的資源が必要な部分であるため、その効果が十分に出ているかどうか、調査を活用して定期的に測定する時期。「とがる」段階では大学の強みや特長を意識して伝えていくこと。「よろこばす」は、在学生・卒業生は「この大学でよかった」と思い、受験生の家族が自学を推薦してくれるなど、すべてのステークホルダーにファン層を広げる活動をする時期ということでした。
日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター長の古塚浩一氏から、いま、大学で広がっているSDGs(国連の持続可能な開発目標)への取り組みについて、説明がありました。
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、2015年9月の国連総会で、世界各国が合意した17の目標と169のターゲットが採択されました。古塚氏は「多くの企業において、本業を通じSDGsの達成に貢献することが当たり前のことになってきている」と強調。「大学も例外ではなく、SDGsに取り組まないこと自体がリスクとなる時代になっています」と話しました。
古塚氏は「大学がSDGsに取り組むメリットは、大学のブランド力向上、学生・職員の成長、新たな協業の創出があります」と指摘。逆に、取り組まないデメリットは「SDGsネイティブの若者から選ばれなくなることです」と話しました。新しい学習指導要領がスタートし、2020年から小学校で、2021年から中学校で、教科書にSDGsが盛り込まれることになり、古塚氏は「SDGsネイティブは、SDGsに取り組むことが当然という意識を持つようになる」と予測します。
「また、企業も自治体も大学もSDGsを共通言語としてパートナーシップを結びイノベーションに取り組むケースが増えており、SDGsに取り組まない大学は産官学のコミュニケーションに支障をきたすことが考えられます」(古塚氏)。
古塚氏は大学のSDGsの取り組みとして、(1)SDGsを理解する(2)優先課題を決定する(3)目標を設定する(4)経営へ統合する(5)報告とコミュニケーションを行う―――という5つのステップを紹介。「まず、手を付けなければならないのが、トップによる『危機意識』の表明です」と話しました。
古塚氏によると、「いま、やらなければ10年後はない」という危機感が大切ですと訴えました。環境にもたらす「価値」、社会にもたらす「価値」、経済にもたらす「価値」を構築していき、最後は、学内外への浸透がポイントで、「学生・保護者や教職員、企業・地域へのアピールが欠かせない」と話したうえで、「まずはトップが『はじめの一歩』を踏み出すことが重要です」と最後に強調しました。