丸大食品株式会社
マーケティング部 マーケティング一課 土方 健太郎 氏
「わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい。」誰もが知っているフレーズで親しみのある丸大食品。消費者の嗜好が多様化し、変化の激しい食品業界にあって、総合スーパーや食品スーパーなどの「POSデータ」をマーケティングや営業支援、商品開発から経営戦略策定まで幅広く活用する取り組みを加速させている。詳細なデータを独自の手法を加えて分析・加工。市場を深掘りし、最前線の売り場への提案力を強化するとともに、消費者のモニター調査やグループインタビューなどを通じた消費者目線の商品分析やトレンド分析の精度を高め、ヒット商品の開発や効率的な事業展開などに役立てている。
スーパーの陳列棚にはさまざまなメーカーの多様な商品が並んでいる。店舗側は売れ筋商品を中心に棚割を決めていくが、売れ筋商品のほかにキャンペーン商品や新商品、定番商品などをどのくらいのスペースでどう配置するか、棚割のマネジメントが売上や利益に直結する。食品メーカーは少しでも自社商品のスペースを広く確保すべく、営業担当者がしのぎを削っているが、単に自社商品をアピールするだけではスペースは確保できない。営業担当者に求められるのは棚割全体を見据えたマネジメント能力だ。
丸大食品マーケティング部が「日経POS情報・SCAN TREND(以下、SCAN TREND)」を活用し始めて15年ほど。マーケティング部の土方健太郎氏は「当初からSCAN TRENDのデータに、独自に収集したマーケティングデータや分析手法を組み合わせて、営業部隊の棚割マネジメントを支えてきた」という。
土方氏によると、「単品商品だけを営業してA社の商品がB社の商品に変わっても、実は店舗にはあまりメリットがなく、ハムならハム、ソーセージならソーセージのカテゴリー全体で相乗効果がでるようなマネジメントが必要」という。このような考え方を「カテゴリーマネジメント」と呼び、マーケティング部も営業部隊も一体となって、マネジメント力の向上に取り組み、店舗側に提案している。
マーケティング部が求めるのは売場の棚から何がどれだけ売れたのかといった細かな分析だ。SCAN TRENDは商品単位、業態単位、地区単位のデータに加え、店舗別(※オプション)のデータもCSV形式のファイルでダウンロードできる。「売れ行きの見方も『3個しか売れない』のか、『3個も売れた』のかを見極める必要があり、店舗の売上を知るだけでは十分とは言えない。世の中では平均的に何が売れているのか、この店では売れていなくても他の店で売れているものは何か。どの価格帯の商品が売れているのか。こうした比較が重要になる」(土方氏)。
スーパーなど売場の担当者も他店舗を含めた全体の傾向まで把握していないケースが多いという。また、棚全体で見たとき、売上高と利益のバランスが崩れていることに気づかないこともあるようだ。マーケティング部では売れ筋商品だけでなく、プロモーションやセール(値引き)などの検証、価格帯別の売れ行きなどの分析が不可欠と考えており、SCAN TRENDの詳細なデータがこうした分析を支えている。カテゴリーマネジメントを追求するなか、現場ではライバル商品に考慮しつつ、その店では取り扱っていない自社商品を提案することもある。「こちらから提案する分析データが詳細であるほど、説得材料として、その効果は大きい」(土方氏)と話す。
食品業界はトレンドの移り変わりが激しく、丸大食品ではSCAN TRENDから取り出した最新データから市場を分析し、消費者のニーズや新しい味覚の追求をテーマに商品開発を行う。商品開発はハム・ソーセージ事業、調理加工食品事業、食肉事業それぞれの開発部隊とマーケティング部の共同作業である。「POSデータを深掘りしていくと、商品開発や売り場づくりのヒントになることがいろいろ発見できる」と土方氏はいう。
たとえば、一般に「鍋つゆ」商品は秋冬に比べて春夏は2割以下に売り上げが落ちるが、丸大食品の「スンドゥブシリーズ」は春夏でも秋冬の6~7割の売り上げがある。このようなデータを呈示することで、一年間通して定番で販売してもらうための商談ができる。
SCAN TRENDは月次や週次、時系列でデータを把握、出現店千人当りの販売金額、個数、容量なども詳しく分析できる。ダウンロードしたデータはExcelで並び替えたり、ある要素を足したり引いたりして活用可能。土方氏も「CSV形式のデータをダウンロードできるので、データの加工が自由にできるのが便利」と話す。
「データはトレンド分析の裏付けにもなるし、今後のトレンドの仮説を立てるのにも役立つ」という。データとあわせて、消費者に対する調査なども繰り返し、時には主力商品の見直し、新商品のチェックなどを行っている。
最近ではSCAN TRENDのPOSデータを経営者会議にもレポートとして提出するようになった。分析したデータをグラフ化し、分析コメントや提言をつけていく。これまで培ってきたマーケティング部ならではの分析を踏まえ、月に1度はこのレポートを作成する。今や経営戦略を立てるうえでも、重要な役割を担っているといえるだろう。
ここ数年、マーケティング部は調査分析の対象を大きく広げてきた。いまでは食品に限らず、消費者のし好やライフスタイルなどさまざまな領域でマーケティング活動をしている。こうした分野でのトレンドが食品に結び付いていくことがあるからだ。背景には消費者の属性による商品ターゲットの細分化がある。たとえば、ハンバーグ1つとっても、30歳向け商品があれば50歳向け商品もある。今後も食はどんどん多様化され、消費者のライフスタイルやし好、属性などと密接に関連していくことは間違いない。
土方氏は「食品の大きなテーマの1つが健康」という。健康への影響は消費者が食品を選ぶ大きな要因になっている。ただ一口に「健康」といっても、その領域は非常に広い。例えば減塩、カロリーオフ、低脂肪、糖質オフなど。最近では乳酸菌も注目されている。「今後どの『キーワード』に注目していくべきかを会社に提言していくためにも、さまざまなものにアンテナを張ってマーケティング活動を行ってきたい」(土方氏)。
(日経MM情報活用塾メールマガジン10月号 2017年10月23日 更新)