川崎重工業株式会社
コーポレートコミュニケーション部長 鳥居 敬 氏
コーポレートコミュニケーション部
パブリシティ課(報道担当)主事 衣笠 喜之 氏
総合重機メーカー大手の川崎重工業はグループのミッション実現に向けた全社的なコミュニケーション戦略の一環として、グループ企業を含めた社内における「情報の共有化」の徹底に取り組んでいる。2015年から日本経済新聞社とELNET社が共同で提供する新聞記事配信サービス「日経スマートクリップplus」を採用。コンテンツの充実や配信先の拡大、効率化などを進めながら、(1)事業戦略や経営判断の円滑化・高度化(2)「働き方改革」、業務の効率化・コスト削減(3)コンプライアンス強化―――などを図っている。
川崎重工グループは船舶や航空宇宙、鉄道車両、エネルギー・環境関連機械などの総合重機メーカーで、連結ベースの売り上げ規模は年間1兆5,000億円超、連結対象会社は90社、従業員は3.5万人にのぼる。2016年に創立120周年を迎え、モノづくりを通じて地球規模で幅広く社会・産業のインフラストラクチャーを支える企業として、グループ一体となってミッションの実現を推進するため、ここ数年、コーポレート・コミュニケーションを重視してきた。
新しい企業メッセージ「カワる、サキへ。Changing forward」
川崎重工業グループのグループミッションは「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する"Global Kawasaki"」。世界の人々の多様な要望に応える製品・サービスを地球環境との調和を図りながら届けることを使命とする。ミッション実現のため、技術の独自性・革新性を追求し、テクノロジーの頂点をめざす。2017年10月からは急激に変化する経営環境にあわせて「スピード」を重視、「カワる、サキへ。Changing forward」というメッセージを新たに発信し、社名の「カワサキ」を用いて、「自分たちがカワる、そのサキに向かって挑戦する」という想いと「社会がカワっていく、その一歩サキへ」という意志を込めて、変革にチャレンジしている。
コミュニケーション戦略の司令塔、コーポレートコミュニケーション部長の鳥居敬氏はコミュニケーション戦略の狙いとして、「『インナー』である社員と『アウター』である顧客・取引先などステークホルダーをつなげる、共感のサイクルの形成」(図表参照)を挙げる。このためにはまず社員はミッションを十分に理解し、自らの当事者意識を醸成、行動につなげる。こうした行動とともに、メディアを通じたコミュニケーションもあわせて、さまざまな形でステークホルダーに働きかけてファンになってもらうことで、「企業の持続的成長が確実になる」(鳥居氏)と考える。
この「インナー」(社員)の共感醸成に大切なのが、情報の持つ価値や意味の共通化である。「働き方改革や従業員満足度を高めるために会社が何をしているか」、「経営陣がいま、何を考え、事業や投資を選択し、人事制度や事業の活性化をどう図ろうとしているか」など社内の情報はもちろん、取引先やライバルの動向、政治や経済、テクノロジー、社会、環境問題など外部の情報もさまざまだ。玉石混交のなか、何がいま、重要なのか、その情報の価値を共有できるかどうかで、変化が激しい時代にあって、顧客の動きやニーズ、マーケットに合わせて、グループ一体となった、スピードのあるビジネス展開ができるかどうか決まってくるというわけだ。
「たとえば、当社が取り組んでいる水素の技術などはその象徴と言えるでしょう。水素はガスタービンによる発電や燃料電池自動車などさまざまな用途で利用が可能になる技術です。水素社会はまだ到来していませんが、それを待ってから開発を始めたのでは出遅れてしまいます。私たちは技術の会社ですから、世の中の一歩サキ(先)を見据えて、何が重要なのかを見極め、情報を発信し、インナーの共感を得て、行動に移していかなければならないのです」(鳥居氏)。
コーポレートコミュニケーション部はその見極めと共有化の促進を担う。社内の情報入手は簡単だ。判断もつきやすい。しかし、外部となると、メディアに限っても情報の量は多く、取捨選択や伝え方の確立など、ノウハウや手間、時間がかかる。川崎重工でもかつて報道部門の担当者が早朝に出勤し、すべての新聞に目を通し、自社だけでなく他社や業界全体の新聞記事をピックアップしてハサミで切り取り、切り貼りをしてクリッピングするという作業を毎日、行っていたという。
これが約20年前、鳥居氏が報道担当としての仕事だった。
2015年採用した「日経スマートクリップplus」はこうしたクリッピング作業を画期的に効率化させているという。「キーワードを選択しておくだけで記事が自動的にピックアップされるようになったのですから、夢のような話でした」と鳥居氏。ペーパーレス化によるコストの削減にも貢献、著作権に関わる課題がクリアされているため、新聞記事を社内で共有する際の申請なども必要なく、「コンプライアンスリスクを軽減するメリットも大きい」(鳥居氏)という。
「デジタルテクノロジーをいかしたネットワーク化も効率化促進への貢献は大。各カンパニーや部署ごとに行っていた新聞の購読やクリッピングもコーポレートコミュニケーション部への一元化を推進できるため、非効率性が一掃、一部部門への情報偏重も克服でき、社員の情報レベルの底上げや情報格差の排除にも役立っている」(鳥居氏)という。現在、コーポレートコミュニケーション部から経営幹部や関係会社の社長、各カンパニーの広報担当など約500人に記事本文までの詳細データを含めて配信、一部の事業部門ではその部門の予算でライン部長以下までニュースが届く仕組みとなっている。
クリッピングした記事を毎朝9時ごろまでに社内にメール送信している。媒体は日本経済新聞、日経産業新聞、日経MJ、日経ヴェリタス、そして神戸本社がある地元の神戸新聞、さらには日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ、読売新聞、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、東京新聞などの専門紙・全国紙もカバーしている。
配信内容は自社や同業他社、業界関連などの記事を幅広く選択しているという。基本的に日経関連の新聞と神戸新聞は2週間前、その他の媒体については 1カ月前までの閲覧が可能で、それ以前の記事に関しては「日経テレコン」の検索を併用している。
ユーザーの閲覧履歴によると、経営方針に関する社長の記事や、人事、財務などの記事への関心が高く、また、各カンパニーの製品や技術が紹介された記事にも注目が集まっているという。「カンパニー制を敷いている会社では、同じ社内でも、ともすると他のカンパニーの事業に対する関心が薄れてしまいがちですが、メールで記事が配信されることで他カンパニーへの関心も高まり、社員の一体感の醸成に役立ちます」。コーポレートコミュニケーション部パブリシティ課(報道担当)主事の衣笠喜之氏は導入の効果をこう語る。
また、鳥居氏は川崎重工グループがどのような形で記事に取り上げられているかを社員が目にすることで、「アウターがインナーをどのように見ているかを知ることにより、さらなるインナーの一体感の醸成につながることもあるのです」と話す。衣笠氏も「社員もアウターのステークホルダーにどのように働きかけ、ファン化を図っていくかという"広報マインド"を持つことの重要性を理解してくれると思います」と付け加える。
記事の閲覧はパソコンのほか、スマートフォンやタブレットで可能。専用アプリでテキストでもPDF版でも閲覧できるようにしている。「新聞紙面のどこに記事が載っているか、また、見出しがどのくらいの大きさで載っているのかということも非常に重要な情報。特に、営業部門などは顧客先で新聞記事の話題が出たとき、当然、その記事の内容を知っておかなければいけないし、その記事がどこにどのように掲載されていたかということを話題に出せることも大切」(鳥居氏)。
鳥居氏は今後の課題として、配信記事の経営・事業への活用動向を把握したいと考えている。また、全社的にニーズの高い地方紙や業界紙の追加も検討している。「地方で受注する仕事も多く、そこで取り上げられている記事を閲覧するためには東京・大阪本社版だけではなくて、地域面もカバーできると助かる」とのこと。情報収集のメッシュ(網目)を細密化させることで、ビジネスへの貢献も大きくし、クリッピング作業のさらなる効率化にもつなげていく考えだ。
(日経MM情報活用塾メールマガジン2018年2月号にて配信 2019年3月25日 更新)
企業名 | 川崎重工業株式会社 |
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事業内容 | 船舶、鉄道車両、航空宇宙、ジェットエンジン、各種エネルギー設備、各種舶用機械、プラントエンジニアリング、モーターサイクル、レジャー関連機器、各種油圧機器、産業用ロボット等の製造・販売 |
代表者 | 代表取締役社長執行役員 橋本 康彦 |
本社所在地 | 東京本社 東京都港区海岸一丁目14-5 神戸本社 神戸市中央区東川崎町1丁目1番3号(神戸クリスタルタワー) |
資本金 | 104,484百万円(2020年3月31日現在) |
従業員数 | 36,332人(2020年3月31日現在) |
Webサイト | https://www.khi.co.jp/ |