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情報活用Tips Column

女性管理職を増やすには

 政府には、2020年までに指導的な地位に占める女性の割合を30%にするという、いわゆる「2030」と言われる目標があるが、その実現を目指し、政府は、数値目標の設定や情報公開の義務付けなど企業にプレッシャーをかけようとしている。

 しかし、日本の企業の女性活躍推進には、女性の就業継続と女性の育成・登用という大きな課題がある。女性たちは第一子の妊娠・出産を契機としてその6割が職場を去る。それは80年代とあまり変わらない。80年代は結婚が退職の理由となり、現在は妊娠・出産が理由となるという変化はあるものの、結婚や出産等で女性たちが退職し労働市場から撤退するという傾向は変わっていないのである。
 ただし、大企業を中心に仕事と育児の両立支援制度が手厚くなってきたため、女性の就業継続という課題はクリアしているという企業も出始めている。しかし、女性が働き続けて管理職候補となる母集団が形成できたとしても、そこから女性を管理職に登用できないのが企業の新たな悩みである。どうしたら女性の登用は進むのだろうか。企業側は、管理職になりたがらない女性たちのキャリア意識や昇進意欲の低さを問題にする。しかし、筆者は、そのカギは女性ではなく男性管理職にこそあるのではないかと思っている。

背景にあるのは「優しさの勘違い」

7月に開催された日本労務学会で、神戸大学教授・平野光俊氏は、「結婚や出産後は退職して家事・育児に専念することが女性にとっての幸せだ」という固定観念と、「出産を経て復職した女性は大変そうだから責任のある仕事はさせない」というパターナリズムが男性側にあり、その「優しさの勘違い」(パターナリズム)を反映した「両立支援」と「職域限定」が女性のキャリアを停滞させてきたと発表した。

 「育児休業制度などの両立支援策は女性の定着には効果を発揮するが、均等推進とは相性が悪い。出産後に仕事を休ませることに解決策を求めても、女性が長期にわたって職場で活躍することにはつながらない」と平野教授は指摘する。

数多くの企業を取材してきた筆者も同じ意見である。ただし、「優しさの勘違い」は女性が出産・育児期になって表れるものではなく、もっと前の、初任配属の段階からあり、ここにも男性のパターナリズムによる弊害が生じていると筆者は見る。

両立支援制度だけでは足りない

 男性と同じ総合職・基幹職で採用された女性が、男性と同じように育成されているかどうか疑問である。初任配属に男女で偏りはないか。付与される仕事に男女の差はないか。配置転換のタイミングは同じなのか。女性は職域が狭められていないか。先行研究では、就業継続リスクのある女性は、たとえ同じ総合職であっても早期段階から配置転換等で男性と差が生じる事例(地方銀行、製薬会社研究職)が報告されている。

 「こんなきつい仕事を与えては女性がかわいそう」「これでは女性が泣くかもしれない」「会社を辞めてしまうかもしれない」「女性を昇進させると縁遠くなり不幸になるかもしれない」等々の男性上司の余計なお世話と優しさの勘違いで、男性にはチャレンジングな成長を実感できるような仕事を与えるのに、女性には成長実感が乏しい簡単な仕事を与え続けてはいないか。

 企業の人事担当者からは、採用のときは女性のほうが男性より優秀なのに、女性が30歳くらいになると伸び悩むという声もよく聞く。しかし、いくら入社時に優秀であった女性でも、男女均等処遇と言いながら、初任配属も男女で差がある、仕事の与え方も違うという事態が続けば、女性のモチベーションも下がろうというもの。会社に展望を持てず去る女性も少なくなかろう。

両立支援制度を拡充するだけでは女性活躍推進にはならない。両立支援制度と同時に、女性のエンパワーメントを高めたりキャリア意識を高めたりするような研修など、女性のキャリア開発施策を展開することが重要なのである。そして同じように大事なのが男性管理職対象の取り組みである。

女性社員の昇進意欲を高める

 平野教授は、「仕事の有意味感」と「社会へのインパクト」の醸成が、女性の昇進効力感を高めるという。若いうちから社会的意義を実感できるような仕事の醍醐味を女性部下にも付与せよということである。何も特別なことはいらない。男性部下と同じように女性部下を処遇せよということである。腫れ物に触るかのように扱うのではなく、理解できないからと避けるのではなく、男性と同じように鍛えよ、タフでチャレンジングな仕事を与えよということなのである。ただし、そういうパターナリズムを脱した男性上司は自然には生まれない。女性部下にも育成意欲を持って的確に育成行動をする男性上司となるように、男性側の意識変革が必要なのである。

 女性対象の研修をして女性たちがエンパワーメントされて職場に戻っても、その職場の上司が古いタイプの管理職だったら、意欲も萎んでしまう。女性登用を進めたかったら、女性対象の研修と、経営層や男性管理職の研修を同時に進めるところが重要なのである。

日経ウーマンの調査(2014年)では、働く女性に「管理職になりたいか」という問いに対して、「なりたい」と答えた人は29%、「なりたくない」と答えた人が45%となり、半数近くの人が管理職にはなりたくないという結果となった。しかし、女性管理職(課長相当職)の女性たちに「管理職になり続けたいか」と質問すると、約7割が「はい」と回答している。つまり、管理職を経験した女性の多くは管理職の仕事に魅力とやりがいを感じているということである。昇進意欲の高い女性社員をつくるのは企業の戦略と施策次第であるということがいえるのではなかろうか。

グラフ「将来、管理職になりたいか」
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麓 幸子 Fumoto Sachiko
日経BPヒット総合研究所長 執行役員

1962年秋田県生まれ。1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。2011年12月までに5年間日経ウーマン編集長。2012年よりビズライフ局長に就任、日経ウーマンや日経ヘルスなどの媒体の発行人となる。2014年より現職。同年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府調査研究企画委員。経団連21世紀政策研究所研究委員。筑波大学非常勤講師。経産省「ダイバーシティ経営企業100選」サポーター。主な著書「なぜ、女性が活躍する組織は強いのか?」(編著・日経BP社)、「企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革」(共著・経団連出版)他。