日経メディアマーケティングは2021年3月5日、「リモートワーク対応!変化する企業広報~コロナ禍で生産性を高める社内コミュニケーション実践例~」をテーマに、オンラインセミナーを開きました。日本経済新聞社などが提供する、新聞や雑誌の記事を自動でクリッピングし組織内で共有できるデジタルサービス『日経スマートクリップ』をご紹介、実際にサービスを利用していただいている三井不動産広報部広報グループ統括の佐藤寛氏に、導入の経緯や具体的な活用方法を説明していただきました。
開催日時 | 2021年3月5日(金)15時00分~16時00分 |
開催地 | オンライン |
内容 | 講演「リモートワーク対応!変化する企業広報 ~コロナ禍で生産性を高める社内コミュニケーション実践例~ 」 三井不動産株式会社 広報部広報グループ統括 佐藤 寛 氏 |
私は1996年に三井不動産に入社し、さまざまな部門を経験し、2020年、広報部に着任しました。私だけでなく、三井不動産は多岐にわたる業務を経験していくジョブローテーションとなっています。
スマートクリップの導入を検討し始めたのは着任する前の2019年秋ごろです。新型コロナウイルス感染症拡大(コロナ禍)をきっかけとしたわけではなく、以前から検討していたため、2020年6月にはテスト運用を始めることができました。ちょうど在宅勤務が多くなった時期で、7月には本格稼働しました。
ユーザーは現在、関連会社を含めて2,200人です。設定したキーワードに基づいて自動検索結果として1日70件ほどの記事が毎朝7時に広報部員に配信、そこから三井不動産に関連する記事を手動で20件程度に絞り込みます。自動検索でなるべく正確に関連記事を抽出したいのですが、どうしても一部対象外の記事を拾ってきてしまうのは現状では致し方ないことと考えています。そして、毎朝9時半からリモート会議で広報部員全員が内容を確認し、ピックアップした20件の記事の中から配信対象記事をさらに5件程度に絞り込み、毎朝10時ごろ、メール配信機能を使い全ユーザー2,200人に送っています。
残りの50件の記事は同業他社に関する記事、広告換算の対象となる記事ですが、広告換算される記事はスマートクリップを使い、外注先と確認する作業に使用しています。以前は台紙に貼った記事の束(たば)を外注先に郵送して戻していただく作業を月に1回行っていました。いまでは対象記事をシステム内で知らせるため、毎日でも作業が行えるほど効率化されました。
ユーザー数 | 2,200名(一部業務委託などを除く全社員) |
システム利用状況 | 約70件/日程度が自動検索により抽出(朝7時に反映) 広告換算対象(当社関連)を手動振り分け(20件程度) 配信対象を絞り込み(5件程度)見出しをメール配信 |
導入スケジュール | 2019年秋 導入検討開始 2020年6月~ テスト運用開始(広報部内) 2020年7月~ 本格稼働 |
それまでの仕組みでは運用上の課題が大きく3つありました。1つは記事クリッピング作業の煩雑さとリモートワークを推進していくなかで出社しなければ作業ができないという問題です。2つめは記事を閲覧する経営陣や社員も結局、出社しなければ記事が見られなかったということです。そして、3つめが著作権対応についてです。著作権侵害リスクは近年、非常に注目されており、関連する法改正が行われたり、判例によって法解釈が変わるなど、今後、懸念があると考えていました。
スマートクリップの導入で、まず、1つめの広報業務の効率化が進みました。対象記事を抽出・保存する作業が大幅に省力化できたのです。新聞紙面を一つ一つ確認し、カッターで切り抜いて台紙に貼るという煩雑な作業がデータチェックのみで済むようになり、従来の作業には10人くらいが携わっていましたが、いまでは基本的に1人でできます。週ごとに担当を決め、ローテーションで行っています。
負担が軽くなった分、記事の入念なチェックに注力しています。他のスタッフが記事をチェックすることで、精度の高い関連記事の選択やクリッピングが行えるようになっています。
さきほど話した通り、広報部の会議もリモートで実施しているため、記事の確認も配信もすべて在宅で可能です。昨年の緊急事態宣言発令があった4月~5月ごろはまだスマートクリップ導入前でしたので、30年来、続けてきた旧来の記事共有を一時停止しなければならないという事態に陥りました。当時は出社人数を1割程度に縮小しており、たまに出社したときにはオフィスに切り抜かれていない新聞が山積みになっている状態でした。
課題の2つめ、記事を閲覧する側の問題ですが、システム導入後は全社員にメールで見出しを配信していますので、閲覧する側も在宅、移動中または出張中などでも、パソコンやスマートフォンなどを利用して記事を閲覧することができます。
そして、課題の3つめ、著作権リスクの問題もクリアになり、メディア各社と個別に対応するなどの複雑な業務がなくなりました。記事の印刷もユーザーごとにカウントされるので、著作権を保護するかたちでの配布が可能になっています。
ただ、課題がないわけではありません。まず、最初のうちはどうしてもキーワードによる自動抽出が完璧にはいきません。抽出漏れが出たり、逆に、当社には関係ない記事が抽出されたりという事態が発生しています。この点はテスト期間だけでは検証できないため、一定期間運用してみないと解決が難しかったのかもしれません。販売代理店(日経メディアマーケティング)と何度かやりとりを重ねるなかで、現状ではおおむね合格点の記事抽出レベルまで来ているという認識でいます。
2つめの課題はユーザー管理の面です。2,200人の対象ユーザーがおりますが、人事異動などがあった際にはそれを随時、反映していかなければなりません。基本的には年2回、大きな定期異動があり、入退社を含めると、実際は毎月、人事データを確認したうえで新規ユーザーの追加、削除という作業を行っています。
広報部には当然、人事データはありませんから、この社員がどこに異動したかということがすぐにわかるよう、人事部の持つデータをそのまま転用できたら便利でしょうが、人事データは広報部の作業用に管理されているわけではありません。なかなかこの点は苦慮しているところではあります。
課題の3つめは個人情報保護の問題です。特に、出向先の配信メールアドレスも含めて日経メディアマーケティングに渡していますので、個人情報の保護というところの対応が少々煩雑になっています。
ウェビナー参加者の方からのご質問にもお答えしたいと思います。まず、「スマートクリップ導入後に何が一番変わったか」というご質問についてです。
実際、スマートクリップの導入以前に、コロナの影響で働き方が大幅に変わりました。しかし、結果として、在宅ではできない業務も明らかになりました。広報部員は以前、10人全員で毎朝9時半から打ち合わせし、抽出する記事を検討し、10時には全員が見られるようにする作業を繰り返していました。しかし、スマートクリップの導入によって、リモートでもここまで作業が行えるということが証明されましたし、見る側もスマートフォンでどこでも見られるというのが非常に便利な点です。リモートワークの可能性を広げたという点が一番、大きく変わったところかと思います。
社内の評判も非常に良く、複数の社員から「すごく便利になったね」という声も直接聞いています。たとえば、30年来ずっとクリッピング記事を閲覧してきた社員からすると、緊急事態宣言後の在宅期間中に記事を見られないことは、相当なストレスだったそうです。そういう社員から配信によって「便利になったね」という声が聴けるのはうれしいですね。
次に「操作方法は難しいですか」というご質問がございました。
これは直感的に申し上げて、非常に簡単だと思います。スマートフォンでも簡単に閲覧できます。
ただ、社員からは時々、操作に関する質問も寄せられます。たとえば、記事をPDFで表示する際に、画面のポップアップを解除するという作業が必要になります。そのやり方が分からないという問い合わせがいくつか寄せられました。ポップアップブロックの問題は新しいスマートクリップでは改善されているそうですが、最近、多かった問い合わせはそのくらいでしょうか。全社の掲示板や、最初に使う時のメールなどでご案内はしております。基本的にはそれほど難しい操作は必要ないと思います。
最後にもう一つだけ質問にお答えします。「テーマは導入後、変更できますか。コロナの話題のテーマなど足せますか」というご質問についてです。
実際、テーマを付け足しています。新しい事業に参入することもありますので、テーマの追加・変更は必須ともいえます。
三井不動産は非常に広範囲にわたり事業を展開しております。大きな柱はオフィス、商業施設、住宅ですが、たとえばオフィスでいうと、最近では「ワークスタイリング」といったシェアオフィスの事業、商業施設で言いますと「三井ショッピングパーク ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」などの事業を手がけています。そのほか「三井ガーデンホテルズ」などのホテルやリゾート、海外事業、ロジスティクス(物流)などの事業も展開しています。そういう意味では露出が比較的多い会社であり、三井不動産のホームページのポータルにあるニュースリリースの本数も相当な数に及んでいます。
コロナの話題で言いますと、テレワークや働き方改革の記事がどうしても多くなります。三井不動産の状況はもちろんですが、同業他社の働き方改革やテレワークに関連する記事がともすると対象外になったりするので、そういう記事もキーワードの変更によって、その都度、把握できるように追加・変更しています。