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日経MM情報活用セミナー『進化する働き方~これからの女性広報担当者に求められるスキルとは』

2019年11月6日、「進化する働き方~これからの女性広報担当者に求められるスキルとは」をテーマにセミナーを開きました。デジタルメディアやSNS(交流サイト)などの進化や急速な普及、CSR(企業の社会的責任)、ESG(環境・社会・企業統治)などの重要性が高まるなか、広報部門では、女性ならではの視点やスキル、ネットワークが注目されています。今回は『日経WOMAN』編集長の藤川明日香氏と日本電気(NEC)コーポレートコミュニケーション本部長の飾森亜樹子氏を招き、メディアと企業広報それぞれの立場から、最新事例を交えて令和時代の広報最前線について、ご講演いただきました。

開催日時 2019年11月6日(水)14:30~17:45(14:00開場)
開催地 東京
内容 講演1「メディアが広報に期待する10 のこと」
株式会社日経BP 日経WOMAN編集長 藤川明日香 氏

講演2「『NECのコーポレートコミュニケーション活動』
~会社を変革する コミュニケーション 社会を良くする コミュニケーション~」

NEC コーポレートコミュニケーション本部長 飾森亜樹子 氏

講演1 藤川 明日香 氏「メディアが広報に期待する10のこと」

毎号1000人近い読者の生の声が掲載される日経WOMAN

 日経WOMANは創刊から約30年“働く女性のための実用情報誌”として、20代~40代まで幅広い層に人気の雑誌です。藤川明日香氏は「20代、30代、40代、独身でも、結婚しても、子供を産んでも、『働く自分』でい続けることは日々の成長を感じられ、何があっても生きていける自信につながります。そんな前向きに生きている等身大の働く女性たちを全力で応援したい」と編集方針を語りました。
 誌面では毎号1000人近い一般の読者にアンケートを取り、その生の声や実例を掲載、多様なロールモデルとキャリア形成のノウハウを提示しています。人気雑誌に自社の社員がロールモデルとして掲載されることは、広報の観点からイメージアップにつながることもあります。掲載されている一般の読者、取材対象の見つけ方はメールマガジンで募集したり、PR会社に依頼したり、特集テーマに合わせて企業広報に直接相談するケースがあるということでした。
 藤川氏は「取材対象の選定は、ネタに特徴がある、共感できるエピソードがある、自宅撮影が可能であるなど取材の自由度が高い、といったことがポイントです」と話しました。

藤川明日香氏

お付き合いの始まりとして期待する4つのこと

 藤川氏は「日経WOMAN」が企業の広報から取材対象者の情報提供をいただく際などに期待する10のことに触れ、まず、付き合いの始まりとして、次の4つを挙げました。

1.タイミングを見計らってくれる

 月刊誌は発行サイクルの影響で、月の中での忙しい時期が決まっています。たとえば、「日経WOMAN」の場合、毎月27日頃から月初1週間は、少し余裕があります。この間を見越して、アポイントや相談の電話、メールを入れていただけると助かります。
 また、特集の中には毎年、同じ時期に掲載する恒例のテーマがあります。たとえば、年末にかけて掲載する「手帳の書き方」などです。ある程度、テーマを把握、いつ、どんな情報がほしいかを把握しておいていただくと話がスムーズに進むことが多いです。

2.媒体を読み込み、編集の意図、スタイルを理解してくれている

 編集方針や雑誌のスタイル、カラーをよく理解して、どんな取り上げ方をしているのかをわかっていただければと思います。

3.一読者としての意見を言ってくれる

 取材を依頼する企業広報の方は女性が多く、その広報の方も読者の一人です。ぜひ、記事の感想を教えてくれるとありがたいと思います。また、「こんな記事や特集が読みたい」とか、「他の媒体のこの特集や切り口が面白かった」などのご意見も大変、参考になります。今後の誌面づくりに活かしていきたいと思います。

4.業界の動向と自社の位置付けを理解している

  読者に役立つ新しいサービスなどをご紹介いただく場合、単に自社のサービスだけではなく、他社サービスを含めた業界全体の動きや、そのなかでの自社のポジションや売りのポイントを教えていただけるとありがたいです。編集側もすべての業界に精通しているわけではないので、誌面で紹介する際にも役立ちます。

お付き合いが始まってから期待する6つのこと

 一度、広報部とつながりができると、その後も定期的なコミュニケーションによりお付き合いが始まります。続いて、藤川氏は、お付き合いが始まってから期待したい6つのことを挙げました。

5.迅速にやりとりができる

 迅速なコミュニケーションは大切です。いただいたメールの内容について、お電話でご相談したい場合もありますので、メールには電話番号入りの署名があると調べる手間が省け助かります。また、不在時の折り返しや、こちらからのメールに対しては「わかりました」のひと言でかまわないので、返信いただけるとありがたいです。

6.PR記事と編集記事の違いを理解している

 
編集記事に企業のPR色が濃いと読者は敬遠してしまいます。自社のサービスを売り込みたい場合は、タイアップ記事が有効な場合があります。以前、アパレルの会社が働く女性向けのジャケットとパンプスのタイアップ記事を掲載したところ、大きな反響があった例がありました。

7.緻密に校正、確認してくれる

 メディアによって取材先の校正がある場合とない場合がありますが、「日経WOMAN」の場合は校正をお願いしています。こちらの校正が至らない場合もございますので、広報部側でも人名を含む固有名詞、数字は念入りにご確認いただけるとありがたいです。

8.都合の悪いことを隠さない

 消費者からのクレーム、関連会社の不祥事などを隠しながら、ポジティブなネタの取材に応じることは避けてほしいです。記事が出てしまってから不祥事が明るみに出た場合、企業側、メディア側双方のイメージダウンにつながる恐れがあります。また、取材に応じた場合、過去の不祥事であっても、話の流れに関連がある場合はオープンにしてほしいと思います。

9.読者の共感する/しないポイントを理解してくれる

 読者のほとんどは大企業の社員ではありませんので、時に「大企業」というだけで嫉妬の対象になることもあります。順風満帆な話よりも、失敗、挫折、ハンデを乗り越えたストーリーに読者は共感します。記事内容の校正の際、当たり障りのない文章に書き換えられることがありますが、無難なコメントよりも、本音で血の通ったコメントが共感を呼びます。

10.対等な付き合いができる

 時々、お食事会に誘っていただくこともあります。偉い人が同席される会食もためになるのですが、女子トークができるランチ会のほうが実のある話ができることもあります。働く女性の「同志」として、キャリアや仕事、人生についての悩みや本音を打ち明けられる間柄になると、信頼関係も深まりますし、企画のヒントにもつながります。

 最後に、藤川氏は「これからも社会的に意義のあること、働く女性に役立つことを企業の皆様と一緒に発信したい」と抱負を語りました。

藤川 明日香 氏
1996年東京工業大学工学部建築学科卒業、98年同大学大学院建築学専攻修了後、日経BP入社。「日経アーキテクチュア」編集者などを経て、2008年「日経WOMAN」編集部へ。18年より編集長。

講演2 飾森 亜樹子 氏「NECのコーポレートコミュニケーション活動
~会社を変革するコミュニケーション 社会を良くするコミュニケーション~」

企業が社会とコミュニケーションをするということ

 1987年の日本電気(NEC)入社以来、約30年間広報に携わってきた飾森亜樹子氏は冒頭、広報パーソンとして、「徹底的に現場に入り込む」、「枠を超えるチャレンジをする」、「コミュニケーション」「ネットワーキング」を大切にし、「細かな心遣い」を持って「全体を俯瞰してデザインする」ことを心がけて広報活動を行っていることを強調しました。
 飾森氏によると、本部長を務めるコーポレートコミュニケーション本部のミッションは社員を含む社内外のステークホルダーに対して、コミュニケーション活動の全体デザインと整合性をとることです。

 コーポレートコミュニケーションのマネジメントについて、4つのポイントを指摘。まずは(1)「コンテンツマネジメント」。NECは年間かなりの数のプレスリリースを発表しますが、内容については発表の目的を明確にするため細かなチェックリストを設けているといいます。中でも昨今重視しているのは社会価値の創造で、社会課題起点のメッセージが盛り込まれているかどうかでした。

飾森亜樹子氏

二つ目は(2)「スケジュールマネジメント」。年間の社内だけでなく社外(社会)、グローバルなイベントに合わせて、どうタイミング良く広報活動をするかということです。三つ目は(3)「コミュニケーションチャネルマネジメント」で、記者発表など広報発表を起点として、社内外にどのようなチャネルを用い多層的な情報発信をし、効果的に波及させるかを考えることでした。そして、最後は(4)「効果測定とフィードバック」、広報活動のPDCAを回し、アウトカム(成果)を導き出すことです。
 次に、飾森氏はNECのめざすコーポレートコミュニケーションのあり方として、「会社を変革するコミュニケーション」「社会を良くするコミュニケーション」そして、「コミュニケーション活動をデザインする」とビジョンを語りました。

会社の変革を目指す

 飾森氏は「かつてNECはパソコンや携帯電話などBtoCがブランド形成に大きなインパクトを与えていたが、現在はICTを活用し社会インフラを高度化する『社会ソリューション事業』の企業に転換している」と発言。「変革への経営の本気度と思いをメディアを通じて社内と社外に示すためにも、変革のコミュニケーションを非常に重要視しています」と話し、経営トップの強いコミットを記事化するなどいくつかの例を挙げました。

 NECには強い技術をどうマネタイズするかという課題があり、業界をリードする若手のAI(人工知能)研究者がTシャツ姿で登壇しシリコンバレーでビジネスを推進する熱いメッセージを伝え、「変革のイメージを醸成した」と言います。また、時流のテーマを活用することも大切で、東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手関係者30万人の顔認証という技術による貢献アピール、ラグビーワールドカップの場を使った技術PRとファンづくりも行っているそうで、「たとえばアフリカ開発会議など社会的に注目を集める大きなイベントには、関連事業などのホワイトペーパーを作成して配布し、記事に取り上げやすくなるよう、メディアに働きかけています」。国内外の展示会・イベントでは会場ごとにマスコミ用のマップを作成して配布し、「マップには見どころやTVカメラのベストポジションなどを書いておきます」。

会社と社員、会社と社会のエンゲージメント

 飾森氏は会社と社員、会社と社会のつながりを高めるための活動を輝く社員のための「シャイン(Shine)エンゲージメント活動」と名付けており、「社内と社外のコミュニケーション連携が特に大切だ」と強調しました。
 たとえば、NECでは記者会見を行った場合、その日のうちに社内報にアップし、時にはビデオも配信しているそうです。「社員が報道を見て初めて知るのではなく、社内広報を見て知るように、タイムリーかつリアルタイムに情報発信することを心掛けています」。また、社内にはデジタルサイネージによる情報展開を行い、さらに社内報へのアクセスを誘導しています。イントラネット社内報「NEC now」に、3日に一つは記事やビデオをアップするようにしています。記事が掲載された直後に、その事業の紹介を社内報でとりあげるなどタイムリーな連携発信をしています。

 「社員の誇りをフィーチャーした事例もあります」。顔認証について、NECは世界トップクラスの技術を持っており、その中心となった開発チームのキーマンと社員が語り合う社内イベント開催と、記者会見を連動させて企画し社員の誇りを醸成するのです。また、M&Aをした場合には、買収先の広報と連携し、社外にM&Aの効果をアピールするだけでなく互いのトップがメッセージを送りあい、社員とリアルな対話を丁寧に行い、エンゲージメントを高める努力をしています。

会社と社員の変革のために

セミナー風景

 NECは2018年1月に発表された中期経営計画で、「実行力の改革」を大きな目標の一つとして、掲げました。これは社員の力を最大限に引き出す改革ともいえます。

 重視しているのが、「コミュニケーション改革」です。たとえば、社長と社員が直接対話をする機会を設け、その様子を社内に配信。そのほか、社内のムーブメントを作るしかけも行っています。働き方改革についても、広報部員はじめ社内の取り組みの実例を紹介し、情報共有を促進。働き方改革の一つにドレスコードフリーを推奨したそうです。その際、社外には「多様な人材が自律的に最適な働き方を選択し、社員の自由な発想や階層・垣根の低いオープンなコミュニケーションやコラボレーションを促進します」といった目的を伝え、その重要性を指摘しました。
 飾森氏は「ドレスコードフリーに戸惑う役員に適切なアドバイスをすることも、女性広報ならではの役割ではないか」と助言してくれました。NECでは記者会見にのぞむ役員全員にプレゼンテーション時のコーチングやトレーニング、リハーサルを行い、「思いを伝える工夫に取り組んでいます」。

社会と会社を良くするために

 ESG投資が重視されているなか、飾森氏はNECがコーポレートコミュニケーションについて、SDGs(国連で採用された持続可能な開発目標)を活用していることを紹介。「サスティナビリティ推進室のメンバーと一緒に具体的にどうSDGsを会社のコミュニケーションに活用するかを検討している」と話しました。飾森氏によると、NECは社会ソリューション事例の中からSDGs貢献事例を認定制で選出しています。認定されるには定められた基準があり、プレスリリースを発表する際もその基準をもとにストーリーを展開しているということです。

 また、AIやITの進展によるデータの利活用において、「プライバシーへの配慮や人権の尊重なども大きな課題です」と話し、NECがデジタルトラスト推進本部を2018年に設置し、ポリシーの設定などを行っている事例を示し、デジタル時代には、「こうしたことに関する配慮やリスクの認識と強みの認識の両面が必要で、この件に関する社外のステークホルダーとの対話も今の時代は大きな課題であり責務です」と強調しました。

コミュニケーションをデザインする

 飾森氏は最後に広報パーソンとしての役割と心得を総括してくれました。一つが「コミュニケーションをデザインする」こと、さまざまなコミュニケーションの手段と機会を使って、企業がどのようなメッセージを伝えるべきなのかを考えることでした。二つ目は「社員全員がPRパーソン」であるように現場から経営者まで社内に働きかけていくべきということ、「どんな仕事にも、あらゆる局面で広報・コミュニケーション活動への関わりがある」と語りかけ、講演を締めくくりました。

飾森 亜樹子 氏
1987年NEC入社、広報室海外メディア担当。グループマネージャー、シニアマネージャー等を経て、2014年よりコーポレートコミュニケーション本部長。2018年、経済広報センター主催「企業広報賞」受賞。日本PR協会理事。

(日経MM情報活用塾メールマガジン1月号 2020年1月29日 更新)