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  • 第2回 日経MM×SCRIPTS Asia(スクリプツアジア)特別セミナー

第2回 日経MM×SCRIPTS Asia(スクリプツアジア)特別セミナー

 日経メディアマーケティングは2018年12月13日、SCRIPTSAsia(スクリプツアジア)社と共催で、「新たな局面を迎える企業のIR戦略」と題した特別セミナーを開催しました。

開催日時 2018年12月13日(木)
14時~16時30分(13時30分開場)
開催地 東京
プログラム
  • 「ESG投資の考え方-機関投資家の狙いと投資手法-」
     加藤 康之氏 京都大学 経営管理大学院・特定教授
  • 「株主は選べるか~取材現場からのIR論」
     梶原 誠氏 日本経済新聞社 コメンテーター
  • 「The Use of Earnings Transcripts for Global Investor Communications」
     Erik Abbott氏 SCRIPTS Asia株式会社 Founder/CEO ※逐次通訳付

梶原誠氏 「株主は選べるか~取材現場からのIR論」

株主は選べないのか

 日産自動車の「ゴーン・ショック」を受け、日本のIRは新局面を迎えた。IRを考えるうえでベストなタイミングではないか。企業経営者がしばしば「企業は株主を選べない」と口にするのを耳にしてきたが、とはいえ株主を選ぼうとしている企業が存在することを紹介したい。

梶原誠氏

 IRに関してもっとも印象に残っているのは、オリックスの宮内義彦氏が「IRなんて、やるだけむなしい」と発言したことだ。宮内さんはマーケットを信頼してきた経営者だが、2008年のリーマン・ショックの際に機関投資家がオリックス株を「滝のように売って」株価が急落し、大変な目にあった。かつては世界の一流の機関投資家が継続保有を誓ったのに、アセットオーナーの解約を理由にヘッジファンドや投資信託などがなだれをうって売りに動いた。宮内さんは10年たった今でも彼らを「ウソつき」と言っている。
 投資家にもっと翻弄されたのが、ブルドックソースや江崎グリコ、アデランス、サッポロビールなどアクティビスト・ファンドの標的になった企業だ。多くは訴訟などで跳ね返したが、言い分を信じた企業もあった。事業改革や人事までしたのに、リーマン危機後に売却され、はしごを外された。こうした事例はIRが空しいという側面を表している。

株主を選ぶ企業

 だが、株主を選ぼうとしている企業があるのも事実だ。日本電産の永守重信氏は株主総会で「経営方針が気に食わないなら売ってくれ」と発言するという。嫌なら出て行ってくれと言うのだから、株主を選んでいるわけだ。どんな企業が株主を選ぶのか?経営に自信がある企業や嫌われることを恐れない企業、横並びが嫌いな企業だ。
 トヨタ自動車は2016年に中長期の保有を前提とした種類株を発行した。個人投資家の人気を博したが、機関投資家からは保身と批判された。トヨタは50年、100年先を見据え、研究開発のための長期資金が欲しかった。企業を長く見守ってくれる人が欲しいというメッセージと言える。
 オムロンの資料には「株主を選ぶ努力をする」とちゃんと記してある。ターゲッティングして機関投資家を区分けして対応を差別化する能動的IRだ。さらに現在、株主でない人たちにも投資を期待して積極的に接点を持とうとしている。オムロンは「批判は承知のうえ」としているが、株主の平等原則を無視している。

理想の株主とは

 理想の株主とは何かを私なりに説明するに当たって、パナソニック創業者の松下幸之助氏について触れたい。松下氏は株式投資について一家言を持っていた市場の専門家であり、「国民総株主論」という1967年の論文の中で「国民すべてがどこかの企業の株を持つようになったら日本は良い国になる」と書いた。株を何代にもわたって持ち続けることで企業の主人公としての自覚が生まれ、企業にも堂々と物が言えるようになり、企業との対話が深まることで企業は成長して株主に報いる好循環という国の姿を描いた。実際は、短期売買する投資家を企業が軽んじる悪循環が続いている。
 現実に理想の株主はなかなか見つからないが、近い例として、プロ野球球団の広島東洋カープの創生期を挙げたい。原爆投下5年後の1950年に監督や選手がファンに株を売って資金調達して創設され、敗戦後のすさんだ広島市民の心を癒した。一方、厳しいヤジが飛ぶことでも知られ、選手は株主であるファンの声に耳を傾けざるを得ない。猛練習に励んだ結果、1975年の初優勝につながった。理想の株主とは、会社が理念と照らし合わせて決めるものであり、それがIRの第一歩と言える。

理想のIRとは

 日本経済新聞夕刊コラム「あすへの話題」にコニカミノルタ取締役会議長の松崎正年氏が執筆した文章はIR担当者必読と考えるが、2018年11月26日付の同コラムのなかで「コーポレートガバナンス・コード全てにComply(遵守)すれば良いというものではなく(中略)、堂々とExplain(説明)すれば良いという考えである」という個所がある。発信とは理想の株主に向かって理念と具体策を訴えることであり、必要ないと考えれば市場に説明すればいいという点に同感だ。
 株の公開は堕落という創業者の言葉が残る出光興産は、経営危機を上場で乗り切った。かつて私は「大家族主義」の理念に無関心な株主に振り回されるのではと同社CFOに尋ねたことがある。すると、CFOは「理念を分かってくれる人に株主になってもらえるような会社にならないといけない」と答え、深く感じ入った。企業理念に基づいて理想の株主像を決め、その株主に選ばれるよう経営・企業を変えるということが理想のIRではないだろうか。

梶原 誠氏

日本経済新聞社 コメンテーター
1988年に日本経済新聞社に入社し、編集委員、論説委員、英文コラムニストとして、グローバルな資本市場や企業について取材・執筆活動を続けてきた。東京をはじめ、ソウル(1992~93、94~97年)、ニューヨーク(2002~06、09~11年)、香港(2015~17年)を拠点としてきた。取材テーマは「市場に映るもの全て」。2017年より現職。

 

加藤康之氏 「ESG投資の考え方─機関投資家の狙いと投資手法─」
エリック・アボット氏 「グローバルな投資家との対話に向けたトランスクリプトの利用」
 
講演内容は、下記バナーからご覧ください。