NIKKEI Media Marketing

セミナー

  • 第1回 日経MM×SCRIPTS Asia(スクリプツアジア)特別セミナー

第1回 日経MM×SCRIPTS Asia(スクリプツアジア)特別セミナー

 日経メディアマーケティングは2018年9月13日、SCRIPTSAsia(スクリプツアジア)社と共催で、「新たな局面を迎える企業のIR戦略」と題した特別セミナーを開催しました。

開催日時 2018年9月13日(木)
14時~16時30分(13時30分開場)
開催地 東京
プログラム
  • 「ESG投資の考え方-機関投資家の狙いと投資手法-」
     加藤 康之氏 京都大学 経営管理大学院・特定教授
  • 「市場とどう向き合うか、重み増す企業のIR」
     藤田 和明氏 日本経済新聞社 編集委員兼論説委員
  • 「The Use of Earnings Transcripts for Global Investor Communications」
     Erik Abbott SCRIPTS Asia株式会社 Founder/CEO ※逐次通訳付

加藤康之氏 「ESG投資の考え方─機関投資家の狙いと投資手法─」

なぜ今ESG投資なのか

 人類の歴史は狩猟採集時代から農耕時代、資本主義時代という3つの成長期において飛躍後に定常期を迎えるというサイクルを繰り返してきた。現在の資本主義時代も壁にぶつかっているのではないかとの問題意識から、「ポスト資本主義」として投資の哲学を変えるESG投資の考えが台頭している。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとったもので、金銭的リターンに加えて社会的リターン(サステナビリティ)も考慮して投資意思決定を行う。資本主義の持続性に対する疑念、企業不祥事などガバナンスの課題、資産規模が大きく売却できない投資家であるユニバーサルオーナーの登場と、市場全体を良くするしかないという運用手法などが背景にある。ESG投資の歴史的経緯をみると、宗教的制約が起源の第一世代、社会運動としての第二世代に続き、運用規模の拡大で長期的にコミットメントせざるを得ない第三世代、国連により2006年に「責任投資原則(Principle of Responsible Investment=PRI)」が策定されて以降の第四世代と分けられる。今年4月時点で、PRIに署名した年金基金などのアセットオーナーは373、資産規模は合計で約19兆ドル(約2100兆円)にのぼる。

加藤康之氏

金銭的リターンの源泉を考える

 ESG投資リターンには社会にポジティブなインパクトを与えるという社会的リターンと、金銭的リターンの2つの側面があるが、後者のリターンの源泉が何かを理解することが重要だ。この源泉の考え方としては、ESG評価(ESGファクター)が(1)企業価値に織り込まれるとするなら、ESG評価が高くなれば企業価値も上がり超過リターンが得られる(2)リスクプレミアムをもたらすリスクファクターとすれば、ESG評価の高い企業を買えばリスク等に対する報酬としての超過リターンが期待できる──の2通りがある。
 (1)については、DCF法とCAPM理論からリスクの低下が資本コストの低下につながり、ひいては企業価値の向上に結び付く、つまりESG評価と資本コストが反比例するかを検証する必要がある。「ガバナンスが良い」を「ディスクロージャーが良い」と読み替えると、ディスクロ優秀企業の資本コストは低いという日本の研究結果がある。また、ESGスコアと資本コストの関係を分析すると、E、S、Gのうちガバナンスは有意との結果が出た。米国企業ではEとGで有意となった。日本ではここ数年のガバナンス改革を受けGファクターは企業価値に織り込まれているようだ。EとSはまだ織り込んでいないようだが、今後織り込まれる可能性がある。
 (2)の場合、バリューやサイズといったリスクファクターと同様にプレミアムがつくかどうかが問題だが、ESGインデックスのリスクプレミアムをみると有意な対市場超過リターンは認められない。肯定的、否定的な研究があり明確ではないが、一方で高ESG銘柄は金融危機時のリスクが低いという研究例もある。

求められる企業のディスクロージャー

 ESG投資手法としては、「アルファ追求型」として、将来ESGファクターの向上が見込める企業を選んで投資する「ESGファクターを利用したアクティブ運用」や、エンゲージメントの効果がありそうな銘柄に投資して働きかける「集中投資+ESGエンゲージメント」がある。「市場平均リターン(ベータ)向上型」として、「マーケットパッシブ運用+ESGエンゲージメント」や「ESGインデックス運用」などが挙げられる。いずれにせよ、個人的には効果検証するためにもエンゲージメント情報の履歴が欲しいところだ。現状では評価機関のESGレーティングにもばらつきが見られ、企業に対してはESG対応とともに適切なディスクロージャーが求められる。

加藤康之氏
京都大学経営管理大学院・特定教授
1980年東京工業大学修士卒。株式会社野村総合研究所入社、海外拠点を経てシステムサイエンス部長。1998年に野村證券株式会社に転籍、フィデューシャリーサービス研究センター長、金融工学研究センター長などを経て、同社執行役。2011年に京都大学大学院教授。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、日本価値創造ERM学会会長、日本アナリスト協会教育委員会委員、SCRIPTS Asia株式会社アドバイザーなど。京都大学博士。


藤田和明氏 「市場とどう向き合うか、重み増す企業のIR」

資本の活用に期待

 企業が投資家から資本を機動的、有効に使うことを求められる中で、自社が考える価値と市場の評価の差を埋めていく作業がIRであり、好材料・悪材料ともきちんと理解してくれる株主を増やしたい。英語で上場企業をパブリック・カンパニーと言い、広く一般に公開された情報から投資家が判断するだけに、情報開示の要請がある。アベノミクスでゼロ金利や法人税減税などの政策をとったことからも分かるように、日本は民間企業の活力に期待している。2018年3月期に上場企業のROE(株主資本利益率)が10.4%と初めて二ケタに乗せ、企業の稼ぐ力は高まったが、現預金も100兆円を超えるなど、まだまだ資本をうまく使いきれていないというのが市場からの視線だ。

変わる株主の行動

 コーポレート・ガバナンスとは「経営者から、ルールを守りつつ効率性を追求するという良質の経営行動を引き出すこと」と定義されているが、経営の暴走の防止に力点を置く米国に対し、日本では企業家精神をもって資本をいかしてほしいという成長戦略の一環と言える。6月改訂のコーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)は、2人以上の独立社外取締役や外国人・女性の登用、CEOの選任・解任手続きの透明化などがポイント。すでに外国人株主の比率が30%を超えるとともに、国内機関投資家も「物言う株主」になりつつあり、株主とコーポレート・ガバナンスのあり方が変わってきた。金融庁が2017年に改訂した機関投資家向け行動指針「スチュワードシップ・コード」は、投資先の企業経営を監視する責任を果たすよう促しており、議案ごとの議決権行使結果や理由を公表するよう求めた。その結果、議案内容を吟味するようになり、株主総会での経営トップの選任に対する賛成率は企業統治の採点の様相を呈している。社外取締役についても独立性を厳しく見るようになり、会社が議案を撤回したケースが18件に上った。株主提案に賛成する例も増え、株主提案のあった42社のうち、3割で賛成比率が2割以上となった。

藤田和明氏

制度改正が公平性・透明化促す

 2018年4月施行のフェア・ディスクロージャー・ルールでは、投資判断に影響する重要な未公表情報をアナリストやファンドマネジャーに提供した場合、速やかに一般にも公表しなければならなくなった。アナリストの仕事は早耳から総合的な分析力へ変わる。欧州の新規制「MiFID 2」(ミフィッドツー)でリサーチ費用の分離からリポートが有料化されると情報の質が厳しく問われることになり、アナリストの間では非財務情報で付加価値を高めようという動きもある。
 こうしたなかESGに関心が高まっており、昨年の国内のESG投資額は136兆円と前年の2.4倍に増えた。財務と非財務情報を融合した統合報告書を出した企業は400社に上る。一方で、2021年3月期から監査法人がどこにリスクがあると注意を払ったのかを外部に公表する「キー・オーディット・マター(KAM)」が導入されるなど、投資家にとってさまざまな判断材料の充実が進みつつある。

藤田 和明氏
日本経済新聞社 編集委員兼論説委員
1991年一橋大学法学部卒業。1991年日本経済新聞社入社。大阪商品部、証券部、2003年米州編集総局(NY)、2009年証券部編集委員。2011年米州編集総局(NY)編集委員、2013年証券部デスク、2015年秘書室部長、2017年証券部長を経て、2018年4月から現職。


エリック・アボット氏 「グローバルな投資家との対話に向けたトランスクリプトの利用」

有益な投資家への情報伝達手段

 世界的に重要性が認められているトランスクリプト(決算説明会などでの発言の文章化、いわゆる「テープ起こし」)について、数年前であれば日本企業は抵抗を覚えたのではないか。日本企業が変わってきたのは、(1)海外で標準的な慣行になっている(2)海外・国内投資家が求める声が大きくなっている(3)企業自身がトランスクリプトを活用して投資家に伝えるメリットを認知してきた──といった背景がある。具体的には、株主総会や決算説明会、アナリストミーティング、主要製品の発表会など、トランスクリプトで実際の内容を補足し、株主との対話に役立てることができる。トランスクリプトは録音に基づいているため中立で、ミーティングに参加できなかった人や言語の違う人にも伝えられるのが重要なメリットである。
 標準的なトランスクリプトの構成は、上から順に(1)企業名・イベント名(2)企業側の出席者名(3)参加者名(アナリストや投資家など)(4)用意した発言(5)質疑応答(6)免責事項から成り、とくに大事なのが質疑応答のやりとりだ。欧米の大企業ならコーポレートサイトに必ずIRページがあり、トランスクリプトが提供されている。最大の提供者はナスダックやNY証取などの証券取引所であり、2~3時間以内に速報版、修正版が配信される。

エリック・アボット氏

日本企業の関心高まる

 世界の1500以上の機関投資家が合計で5億ドル超の日本株を保有しているが、機会の少なさや言葉の壁で投資情報へアクセスするのに課題がある。翻訳コストや内容を公表することへの抵抗なども課題だった。しかし、最近は企業側がメリットを認めるようになり、日本の時価総額トップ100社のうち84%の企業は音声や画像、トランスクリプトなどを公表している。当社も来年は1000件以上のイベントをカバーする予定で、トランスクリプトへの関心は明らかに高まっていると言える。

エリック・アボット氏
SCRIPTSAsia株式会社 創業者・CEO
20年間、グローバル金融情報ベンダーのファクトセット・リサーチシステムズにて、北米、アジア、ヨーロッパの機関投資家に対する営業活動に従事。日本と韓国の営業部門の統括を経て、アジア地域のストラテジック・パートナーシップ&アライアンス部門長を務める。2017年にSCRIPTS Asia Inc.を立ち上げ、アジア企業の投資家向けイベント情報を、国内外の機関投資家に向けて発信するプラットフォームの提供を開始する。