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明治大学

導入事例 Case Study
中野直人特任准教授

課題解決力を育てる数理・データサイエンス教育
身近なPOSデータが学生の主体性と発想力を引き出す

明治大学

大学院 先端数理科学研究科 特任准教授
中野 直人 氏

導入しているサービス
  • 日経POS情報 SCAN(教育機関向け)

 高度化・複雑化する現代は、同時に多くの社会的課題を抱えるようになった。その解決の手段として注目されているのが数理・データサイエンス・AIの領域であり、人材の育成が急がれている。明治大学では「数理・データサイエンス・AI教育プロジェクト認定制度」に準拠したプログラムを2023年度から開始した。その一つでもある課題解決型学習(以下PBL)では、分析する元データとして「日経POS情報」を採用。その効果や成果について、中野特任准教授に伺った。

導入の目的は?

  • ・データを使った実践的な課題解決能力を育成したい
  • ・学生が主体的に取り組めるデータを使いたい

その効果は?

  • ・生活に密着する身近なデータから様々な着眼点が生まれた
  • ・学生のリテラシー向上につながった

数理・データサイエンス・AI分野では、データを使った課題解決能力の育成が求められる

--- 専門分野である先端数理科学では、どのような人材育成を心がけているのですか?

 私が所属している先端数理科学研究科は、社会に現れる複雑な現象や課題について、数理・データサイエンス・AIを活用して解決するための実践的な能力を育成することを目的としています。この分野は社会からのニーズも高く、学生の人気も高い。文部科学省も人材育成のため「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」を創設しましたので、学生は認定されたプログラムを修了することで就職の際には大きなアピール材料となるでしょう。認定制度にはリテラシーレベルと応用基礎レベルがありますが、いずれも学部生向けのプログラムに対する認定です。大学院生を対象とした本学の「数理データサイエンス人工知能上級レベルプログラム」は、認定制度の応用基礎レベルより上級の知識技術を身に付け、上位の学生は「エキスパートレベル」をうかがう水準に達する人材の養成を目指したものです。
中野直人特任准教授

--- 「日経POS情報」を活用したPBLの狙いについて教えてください。

 このプログラムの必修科目の一つに「先端数理科学PBL」があります。PBLは、学生が自ら課題を見つけ、さらにその課題を自ら解決する能力を身に付ける学習方法です。実社会でも、大量のデータから数理・データサイエンス・AIを活用して、自ら課題を発見し解決する能力が求められます。まさに数理・データサイエンスの学習には適した学習法です。今回は3~4人のチームを6チームつくり、プロジェクトに取り組んでもらいました。

生活に密着したPOSデータで学生の想像力と主体性を引き出すことに成功

--- 「日経POS情報」を採用した背景を教えてください。

 数理やデータサイエンスは、データを解析するだけではありません。まずはデータの収集が大きなポイントになります。当初は、地球科学のデータを考えていました。地球科学のデータはオープンデータが多く、利用しやすいと思ったのです。
 しかし、このプロジェクトは学生が主体的に取り組む必要があります。そのためには、すべての学生が興味を持てるようなデータが必要です。そこで、いろいろと調べるうちにPOSデータがあることを知りました。私自身はPOSデータを活用したことはなかったのですが、飲食に関わるPOSデータは学生にとっても生活に密着した身近なデータで興味を持ちやすいだろうと思い、採用しました。実際、学生の反応は良く、興味を持ってくれました。
 また、データの品質も重要です。「日経POS情報」はブランド力がありますから、データそのものの信頼性もありました。データの品質が低いと、いくら解析しても意味がありません。また、他の大学でも活用事例がありましたので、教材として安心して採用できました。

--- どういった商品分類・期間・期種の「日経POS情報」を使ったのですか?

 予算の関係もあり、全データを購入する訳にもいきませんので学生にアンケートをとりました。商品分類を多くするのがよいのか、期間を長くするのがよいのか、月次集計がよいのかなど。
 これはプロジェクトを誰の立場で設定するかで、必要なデータが変わってきます。例えば、メーカーの立場、小売店の立場、あるいは投資家の立場にするか。それによってデータの見方も変わってきます。結果的にはアンケートはきれいに意見が分かれてしまい、間をとった形です。商品分類を数種類、期間は2020年1月から2023年3月までの3年3カ月。ちょうど、コロナ、ウクライナ、インフレと社会情勢が激変した期間です。対象地域は首都圏のスーパーにしました。
 学生たちは、まずPOSデータからプロジェクトの前提となる立場や課題の設定に入ります。苦労したチームもあったようですが、みんなでそこを打開した時の達成感がよい経験になったと感想をもらしていました。私はどちらかというと、つい口を出してしまうのですが、教員が余計な指示をしなくても、本来の狙い通り学生が主体的にPBLに取り組んでくれました。これは、私のPBLの収穫でもあります。

POSデータから多様な着眼点が生まれ、学生のリテラシー向上を確信

--- PBLの成果はいかがでしたか?評価の高かったプロジェクトを教えてください。

 どのチームも想像以上でした。私は、もっとデータマインニング的な研究が多いと思っていました。例えば、季節要因による売上の波の中にある小さな変化を取り出して、その要因をデータ解析するとか。しかし、それは無機質的な研究になります。学生は実社会における立場をしっかりと設定していました。メーカーの視点、小売店の視点、コンサルの視点などです。そこから、課題や目的を設定して分析を試みました。どれも私の発想にはない、着眼点です。POSデータが想像力をかき立てたようです。
 学生からも評価が高かったのが冷凍食品会社のプロジェクトです。マーケティング手法のPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析を使って、メーカーの立場で商品の現状を把握し分析していました。PPM分析は、市場成長率と市場占有率の2軸から商品を四つのカテゴリーに分類し、今後の経営資源をどこにどう費やすかを分析するものです。市場の情報などPOSにないデータも自分たちで集め、企業内コンサルのような立場でデータ分析をした例です。データの使い方も内容も分かりやすかった。
発表資料
 また着眼点が独創的だったのが、今話題のChatGPT(生成AI)に着目したプロジェクトです。ChatGPTに売上予測の分析コードを生成させ、POSデータを分析するのです。プログラムが書けない人でも、ChatGPTを使って高度なデータ分析ができる可能性は今も話題になっています。本来はChatGPTにPOSデータを読み込ませて分析するのがよいのですが、データの使用許諾ルール上、他社のサーバにデータを置くことはできませんので、分析コードを生成させることにしたのです。
 その他、商品の陳列方法や、販売価格と株価の相関分析など、各チーム独自の視点で取り組み、発表会も盛り上がりました。学生も実践的なリテラシーの向上が実感できたと思います。やはり、POSデータという身近なデータが良かったのでしょう。データサイエンスのPBLには最適なデータでした。

次回のPBLで学生がどのようなデータ分析をするか、今から楽しみ

--- 今後の「日経POS情報」の活用について、またデータ属性について何かお考えはありますか?

 今回初めての試みでしたが、これだけの盛り上がりを見せましたので、来年も「日経POS情報」を使った先端数理科学PBLを行いたいと思っています。
 データの種類については、今回の成果が良かったので欲がでてきました。今回は月次の首都圏というくくりでしたが、例えばエリアの違い、日次でデータを抽出した場合は、どのような分析ができるのか。もっと粒度の細かいデータのほうがよいのかもしれません。今回は、始める前に日経の方にも来ていただいて、POSデータの詳細について学生に解説していただきました。学生もそれでデータの理解が早かった。
 学生によって、データの見方もさまざまです。来年の学生は、どのような着眼点でデータを分析するか、今からもう楽しみです。
中野直人特任准教授
(2024年3月11日 更新)

プロフィール

大学名 明治大学
創立 1881年
所在地 東京都千代田区神田駿河台1-1
学生数 大学 32,261人 大学院 2,016人 専門職大学院 619人(2023年度)
学部・
大学院・
専門職大学院
法学部、商学部、政治経済学部、文学部、理工学部、農学部、経営学部、情報コミュニケーション学部、国際日本学部、総合数理学部
【大学院】法学研究科、商学研究科、政治経済学研究科、経営学研究科、文学研究科、情報コミュニケーション研究科、理工学研究科、農学研究科、先端数理科学研究科、教養デザイン研究科、国際日本学研究科、グローバル・ガバナンス研究科
【専門職大学院】ガバナンス研究科(公共政策大学院)、グローバル・ビジネス研究科(ビジネススクール)、会計専門職研究科(会計大学院)、法務研究科(法科大学院)
Webサイト https://www.meiji.ac.jp/