NIKKEI Media Marketing

ウェビナー講演録

ドコモが実践する
リモート時代の広報活動

広報業務のデジタル化と記事共有サービスの活用事例

ドコモが実践するリモート時代の広報活動
DXが本格化する中、広報部門に求められる役割も大きくなってきています。このたびは株式会社NTTドコモ ブランドコミュニケーション部 広報担当 今井康貴氏をお招きし、自社の広報部門で実践しているDXについてご紹介いただきました。
本講演録は2022年11月24日開催セミナーを再構成したものです
 

デジタル化を進めるきっかけとなった3つの変化

私たちが業務を見直してデジタル化を進めるきっかけとなったのは「会社の変化」「PRの変化」「働き方の変化」の3つの変化です。

会社の変化

今、ドコモはかつてないほど大きな変化の中にあり、携帯電話以外のビジネスの比率を急速に高めています。ここ数年で企業としての体制も変わり、今はいろいろな領域で社会のDXを実現する会社になることを目指しています。広報がカバーする領域も、携帯電話や通信だけでは全く足りず、広範囲に網羅していかなければいけない状況です。

PRの変化

ドコモという会社が変わったタイミングで広報部門も新しい方向に大きく舵を切りました。これまで15年ほど、広報を担当する広報部と宣伝を担当するプロモーション部はそれぞれ独立した組織でしたが、対外コミュニケーションを有機的にかつ複合的に行っていくために、2022年の7月から新しくブランドコミュニケーション部として統合しました。

対外発信のコミュニケーション戦略も一体的に作るようになり、手法としてもそれぞれの部署が従来は扱ってこなかったメディアの活用を実践しているところです。

働き方の変化

今年の7月にリモートスタンダード制度という新たな働く制度を導入し、勤務場所がオフィスではなく自宅に変わりました。約8,800人いる社員のうち、7割に当たる約6,000人がこの制度の対象で、会社のオフィスを前提にした業務フローは真に必要なもの以外は削減していかないとこの新しい働き方には対応できません。私たち広報の仕事も、基本的には家ですることを前提に組み立てることになりました。

新しいドコモグループとして、リモート主体の業務スタイルに変えつつ、その下で新たな情報発信を実現していかないといけない。情報発信を強化するための稼働も業務効率化によって同時に実現していかなければいけない、ということが私たち広報には求められるようになったのです。

デジタル化への挑戦
情報発信のDX

従来の枠組みにとらわれない新しいPRの形が求められる中で、オンラインを活用した機動的な情報発信に取り組んでいます。

1ドコモデジタルスタジオの開設

広報部門が主導して、本社ビルの中にドコモデジタルスタジオを昨年開設しました。コロナの前は従来のマスメディアを対象に対面でのコミュニケーションを基本にしていました。このスタジオを使うようになって、準備の稼働はかなり削減でき、情報発信の頻度が向上するとともにその手法も飛躍的に多様化しました。

ドコモデジタルスタジオからの本ウェビナーの配信風景
ドコモデジタルスタジオからの本ウェビナーの配信風景

リアルだけの時代には手が回らなかった、中小規模の記者レクチャーも実施できるようになり、メディアの方とのコンタクトの機会が増えました。海外メディアへのアプローチもやりやすくなりました。

2新しいPR-解説動画の配信

お客さまにもご覧いただける解説動画の配信を始めました。これは報道発表の際にその内容を5分くらいの解説動画にまとめて配信するという形のものです。

プレスリリースのテキストだけでは伝わりづらい商品のデモンストレーションや、プロジェクト担当者の狙いや思いなどの情報も補完していくことで、記者の方にもお役立て頂いていますし、多いものでは20万人以上のお客様にご覧いただいています。

3インナーブランディングへの効果

ドコモオンラインスタジオはインナー向けのメッセージ配信や入社式のようなイベント、社内報などにも活用しているので、たくさんのドコモグループ社員がスピーカーになっています。

一人一人がドコモの顔として社内外に発信していくマインドを持ちながら、ドコモブランドをドライブしていける機動力が着実につきつつあると感じています。

デジタル化への挑戦
情報収集のDX

1記事クリッピングを完全自動化

ドコモでは、2022年7月から日経スマートクリップPlusを利用しています。対象は、主要紙と業界紙、地方版も含めたクリッピングで、主要ニュースを毎日15件~20件、関連するニュース数十件をテーマごとに抽出しています。

経営層と各事業部の部長、私たち広報と各地域の支社の広報担当者、合わせて100人程度から運用を始めました。利用者はそれぞれのデスクトップから見ることもあれば、スマホやタブレットから見ている人もいます。

日経スマートクリップの画面をブックマークし、毎朝チェックをしている方もいますし、毎朝その日の注目記事をメールでも配信しているので、メールリンクをクリックして記事を読むという人も多いようです。導入から約5カ月経ちますが利用者からも好評な反応をもらっています。

日経スマートクリップからのメール配信の例
日経スマートクリップからのメール配信の例
日経スマートクリップのサービス画面の例
日経スマートクリップのサービス画面の例

2日経スマートクリップ導入前の課題

コロナ前まで、私たちの新聞クリッピングは、実はアナログでした。広報担当者が当番制で朝早く出社し、外部のパートナーさんと紙の新聞記事を並べて共有用の紙面を作り、それをコピーして経営層や各事業部に展開していました。ただ、このやり方ではコロナの緊急事態宣言の期間には対応ができなかったので、日経スマートクリップを使い始める前に半分デジタル、半分アナログという運用を試しました。

外部のパートナーさんの力を借りながら、記事をスキャンしたPDFを送っていただき、それを広報担当が自宅のパソコンから確認、編集して共有フォルダに格納する。このやり方であれば出社は必要なく、紙も使わなくなりました。共有フォルダもアクセス権を設定しているので、著作権にも対応しつつ、誰が読んでいるのかも可視化できるようになりました。

日経スマートクリップ導入前のクリッピング方法
日経スマートクリップ導入前のクリッピング方法

一方で、これでもまだ解決しない課題がありました。

一つが作業時間です。リモートでのクリッピングでも、まだまだ手作業であることには変わりなく、家で早朝から作業する必要がありました。ドコモの場合は、毎朝2~3人体制で大体1.5時間かけていました。単純計算すると年間1000時間がクリッピングにかかっていたことになります。

もう一つはクリッピング精度、クオリティの問題です。人力でやる以上はどうしても人によって細かな判断の差が出てきます。さらに深刻なのは会社の変化、事業領域の変化に対して、このやり方では追いつかないかもしれないということでした。

3クリッピング全自動化の方法

携帯電話以外の事業も急速に拡大する中、個々人の見識や知見、経験に左右されずに迅速に変化にキャッチアップして的確に情報を収集する仕組みづくりが必要だと感じ、ドコモは日経スマートクリップを使い始めました。私たちの使い方には特徴があると思います。

それは「全自動化」です。毎朝の記事の選定から利用者への配信までを一切人手をかけずにすべて自動化しています。導入を始めた時から全自動化、一切の人手を介さない仕組みを実現したかったので、そのための作り込みをしました。

大切なのは「検索ロジック」と「フォルダ構成」の2つです。

検索ロジック

単にキーワードをドコモとだけ設定した場合、記事の中で少しだけドコモのことが言及されているものや競合他社の記事の中で比較のような形でドコモと入っているものも一緒に上がってきてしまうので、読む方からすると分かりづらい一覧が出来上がります。ここで「検索ロジック」を綿密に設定することで自動化を実現しました。

一例としてはAND条件やNOT条件を指定する、HEADLINEという見出しのみを検索対象にする細かい検索条件を活用したこと。また、上位のフォルダで抽出されたものは下位のフォルダには表示させないといった数式を検索式の中に盛り込む。このような作り込みで検索の精度を高め、意図した順番で記事が並ぶ仕様にしています。

記事共有サービスの活用術・演算子の活用
記事共有サービスの活用術・演算子の活用
フォルダ構成

フォルダの構成も重要で、「主要ニュース」と「分野別ニュース」という2つの構成にしています。「主要ニュース」の方は主に自社記事など是非読んでほしいものという位置づけで、キーワードもピンポイントに設定をした少数精鋭の記事ラインナップにしています。

一方で、「分野別ニュース」は、事業分野ごとのトレンドが分かるように関連するニュースを少し幅広にそろえるという位置づけにしています。「主要ニュース」で必要十分な記事を漏れなく取り、「分野別ニュース」で読者が自ら選ぶというハイブリッドスタイルで、自動化でも問題ないつくりにしています。

日経スマートクリップの活用にあたっては、ロジックの作り方、フォルダ構成の作り方、これが鍵になると思います。正直なことを申し上げますと、こうした設定なしに無条件で思ったような記事の抽出、稼働の削減ができる魔法のツールとは思っていません。

ですが、うまく使いこなしていけば、クリッピングのDXが実現できるはずです。このあたりの設定の仕方については、日経メディアマーケティングさんからも多々お知恵をいただきましたので、皆さんも検討される際には是非相談してみていただければと思います。

記事共有サービス・フォルダ構成を工夫
記事共有サービスの活用術・フォルダ構成を工夫

4日経スマートクリップ導入の効果と今後

日経スマートクリップを使い始めて、私達は間違いなく良かったと思っています。利用者にとっては、それぞれ好みの端末から簡単にアクセスできますし、以前の紙の時代には物理的に収集できなかった地域面の記事も見ることができて、情報のインプットの質が高まりました。

弊社の場合は約7割が日常的に利用しています。そして、ロジックを綿密に組むことで、人によるばらつきのない記事選定のクオリティを確保できました。今後、会社の事業領域がさらに変化しても、このロジックを更新していくことで迅速かつ的確に対応ができると思います。

そして、何より「年間1000時間程度かかっていた朝のクリッピングの稼働を完全に0」にすることができた。これは非常に大きいと思います。広報担当者がこれまでクリッピングに充てていた時間を、別の業務、新しい発信手法の検討に使うことができるようになりました。

記事共有サービス活用の効果
記事共有サービス活用の効果

今後、この効果をずっと維持していけるように「継続的なメンテナンス」と「更なる運用拡大」に取り組みたいと考えています。何カ月かに一回は定期的に編集会議のようなものを開いて設定内容を最新化していくつもりです。

また、現在は社内の幹部を中心とした100名規模での運用ですが、アカウントの整理の仕方などの運用ルールも整えて、ゆくゆくはより多くの社員に最新のニュースに触れてもらえる環境を構築していきたいと考えています。

Q&A

Q.

宣伝部門と広報部門を統合したことでどんな効果がありましたか。

A.

現時点で私が感じていることは2点あります。1つ目は対外的に発信をしていくコミュニケーション戦略を一体的に考えられるようになったことです。イベントの際にも対外発信のタイムスパンを一緒に考えていくことで、報道機関を使った発信をしながら、同時期に同じテーマのプロモーションを打っていくというような統合的な戦略が作れるようになりました。

2点目は、今までお互いが見合わせて手がつけられないところがあった宣伝と広報の中間にあるようなSNSやYouTuberなどの新しい領域にも挑戦してみようと部員自身のマインドもかなりアグレッシブになってきたことです。

Q.

記事クリッピングの全自動化で抜け漏れは発生しませんか。
また、完全自動化までにはどのぐらいの時間がかかりましたか。

A.

我々も自社記事は漏らしたくなかったので、作り込みはかなり丁寧に行ないました。実際、テストを始めた頃は思ったようにうまくいかないことがありましたが、検討から導入までの約3カ月間で日経メディアマーケティングさんとの議論やトライアル環境を活用したチューニングで精度を高めてきました。

今のところ運用開始から5カ月、ほとんど漏れはないと思っています。ごくまれに発生してしまうものはありますが、仕組みを根本的に変えるにあたり、記事抽出を全自動化するので移行直後は漏れが発生するかもしれない点も経営幹部への説明や利用者の理解をいただきながら進めたので、現在のところ大きなトラブルはありません。