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Oxford Analytica社 2017「Global Horizon」カンファレンス体験記

日経メディアマーケティング株式会社 住田佳穂

 毎年9月、英国オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジがにぎわう3日間がある。同地に本社を置くコンサルティング・調査会社、オックスフォード・アナリティカ社(Oxford Analytica、OA社)の年次カンファレンス「Global Horizon」の舞台となり、世界中から国際政治・経済、社会情勢の今と未来をみつめようと、行政・立法機関や政治家、大学・研究機関、グローバルビジネスやメディア事業に携わるアナリスト、有識者や実務担当者たちが集まる。OA社が提供する「Daily Brief」(政治・経済情勢分析レポートを配信するオンラインサービス)のユーザーを中心に、最新のテーマに沿ってさまざまな意見交換や討議が繰り広げられ、その交流、コミュニケーションはぞれぞれの意思決定や取り組み、ビジネスなどに大きな刺激を与えている。
クライストチャーチ・カレッジ

クライストチャーチ・カレッジ

 日経メディアマーケティングは2015年春、OA社と日本国内で業務提携し、「Daily Brief」の日本国内販売代理店として、企業や行政・研究機関などへの提供を始めた。以来、カンファレンスには毎年、参加している。ここでは長いようであっという間に過ぎる密度の濃い、2017年の3日間の一部を紹介していきたい。

 カンファレンスは今回で34回目。各国から延べ280人が参加したという。プログラムは各日10テーマずつ開催される「パネル・ディスカッション」(大ホール、参加可能50-100人)、「ディスカッション・セミナー」(教室、同10-30人)などで構成。セミナーは国・地域でテーマ分けすることが多いが、中には「グローバルトレンド」や「サイバーセキュリティ」など、よりマクロ的な視点のテーマも存在。参加者は申し込み時点で自身が興味のある分野のセミナーにエントリーできる。

キーワードは「グローバル化」と「反グローバル化」

2017年 アジェンダ(PDF)

 2017年のプログラム数は昨年同様、3日間の合計で21テーマ。米国、ロシア、中国などの各国別のテーマから、ヨーロッパ、中東アジアなど地域別のものまで多岐にわたった。国・地域のセミナーでは「ヨーロッパ」、「米国」、「中国」のセミナーが参加者も多く盛況だった。こうした国や地域別のセミナーのほか、人気が高かったのは、「グローバルトレンド」「グローバルエコノミー」の2つ。2016年以降、世界的に広がる反グローバル化の世界経済への影響は参加者にとって共通の懸念事項らしく、テーマを問わず、いずれのセミナーやディスカッションにおいても、「グローバル化」「反グローバル化」に関しての話題が、質問事項や議題として挙がっていた。
 また、最終日の「Closing Debate :The Era of "High Globalization" is over?」では参加者一人一人に「Yes」「No」と書かれた投票用紙が配布された。パネル・ディスカッションの終了後に、「グローバル化の時代は終了したと思うか?」という問いに対して投票が行われた。結果は過半数が「No」。参加者の多くは「グローバル化の時代」が終了したとは考えていないようだった。

 3日間のパネル・ディスカッション、セミナーなどで討議されたテーマ・概要は「オックスフォード・アナリティカ カンファレンス特設サイト(外部リンク)」参照。

「主役は『習近平の新しい中国』」・そのインパクトに高い関心

 今回、注目されたセミナーの一つは5年に一度の中国共産党大会を直後に控えていた中国をテーマにしたセミナーだろう。参加人数も多く、立ち見もでていた。
 タイトルは「中国:Mao or Market? -What next for Xi Jinping's China?」。一期目で国内における権力基盤を固め、さらに超大国のリーダーとして世界中に大きな影響力を持ち始めた習近平(シー・ジンピン)国家主席・共産党総書記の政策への展望と分析、インパクトを討議した。サマリーは次の通りだが、中国を巡る政治や外交・軍事、経済・産業・テクノロジー、社会・文化、イデオロギーまで、「Daily Brief」でも取り上げられることは多く、今回のセミナーはまさにそれを象徴する盛り上がりだった。

(1)セミナー内容(骨子)

 2017年は今後の中国の方向性が見えることとなるだろう。「経済的開放」の道をたどるか、政治的弾圧をより強めるか、またはその両方の可能性もある。5年ぶりの中国共産党大会では党のトップ人事を習近平国家主席(党総書記)の盟友で固めることで、彼の地位を強化することになるだろう。
 しかし、習近平総書記がリードしなければならないのは中国だけではない。トランプ大統領の下で、(彼の言葉を借りるなら)米国は中国こそが自由貿易の勝者であり、気候問題に対する世界的なリーダーだとしている。インターネット空間には"サイバー主権"の概念をもたらし、そこでは中国が独自のパワーを獲得、ブレトン=ウッズ協定に代わって、まさに中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や「一帯一路」構想などの対抗軸(カウンターパートナー)が確立されようとしている。

(2)サマリー

・習近平による中央統制

 習近平国家主席による反腐敗キャンペーンは経済成長・発展を再優先で促してきた「ポスト毛沢東時代」の既存の体制を破壊した。反腐敗闘争のなかで、習近平国家主席はこれまで共産党のエリート同士では暗殺など身体的危険は脅かさないという暗黙のルールも犯した。

・監視国家

 従来の「ポスト毛沢東」時代体制を支えてきた一つの特徴はシンクタンクと調査研究機関の存在だ。シンクタンクと調査研究機関は党トップに正確な情報と率直なアドバイスをもたらし、政策決定のための率直な議論にも加わってきた。習近平国家主席はこのシステムを覆し、自由な議論の場を閉ざした。
 今後、さらに自由な議論が制限される可能性は高く、情報の質が低下する恐れがある。党トップが受け取る情報の質の低下は「貧しい」意思決定につながる恐れがある。
 情報革命はシステムから「人間性」を奪っているようにみえ、党指導部の情報収集・分析への依存を減らすと同時に、より正確な情報を収集することの必要性を危険にさらしている。
 ソーシャルメディア、eコマース(電子商取引)、あらゆるものがネットにつながるIoTなどを通じた社会的および経済的な介入が増えるにつれて、共産党指導部がより簡単に一般市民へ情報を与えることができるようになっている。
 ほかの多くの改革とは異なり、情報革命のプロセスは地方公務員に頼ることなく、民間企業や自主的なユーザーの参加を通じて働くため、官僚制が広がる隙を与えない。

・企業の関与

 民間企業は共産党の権力を脅かす可能性があるものとみなされる。しかし、これは企業のビジネスエリートの不満が潜在的な共産党内部の分裂や一般大衆の不満と一致する場合のみである。大企業は政治的介入に対して民間として抵抗することができる。そのため、大企業は経済的・社会的に政府の圧力をある程度コントロールできる「レバー?」として機能できるはずだ。

聖アルデイツ教会内でのパネルディスカッション

聖アルデイツ教会内でのパネルディスカッション

ディスカッションやセミナーではこのほか、Brexit後のヨーロッパの政治情勢についてのディスカッション「ヨーロッパ:A comeback of sorts」なども旬のテーマとして話題を集めていた。

 また、こうした討議やセミナーとは別に、OA 社が日次配信を行っている「Daily Brief」の配信テーマを決定する「モーニング・カンファレンス」も人気の高いプログラムの一つだった。普段、読んでいるレポートの編集・分析過程を実際に体験することができるため、朝8時開始という比較的早い時間にも関わらず、会議室は連日、立ち見の参加者がいるほどの盛況ぶりだった。今回、3日間で配信されたレポートの中でも、特に、時間をかけて議論されていたテーマは
(1)電気自動車の需要拡大について(原題:Electric vehicles surge but peak oil is decades away)
(2)トランプ大統領の外交政策(原題:Trump policies will increase global nuclear tensions)
(3)ベネズエラへの経済制裁の影響(原題:Crisis spillover fears may drive Venezuela dialogue)
―――などがあった。

前フィンランド首相「大転換乗り越え、想定以上に順調」・欧州情勢基調講演

 最終日にはオックスフォード近郊のブレナム宮殿を貸し切っての豪華な「ディナーパーティー」。ディナー中の基調講演者も目玉の一つで、今回はフィンランド前首相で、現在は欧州投資銀行(EIB)のヴァイス・プレジデントを務めるアレクサンデル・ストゥブ氏が招かれていた。テーマは「ヨーロッパ情勢の行く末」。同氏は2016年を「大きな転換期だった」とし、その象徴的な出来事として「Brexit」「トランプ氏の当選」を挙げた。しかし、現在の政治・経済情勢は昨年ほどの衝撃や悲壮感はなく、「今後のヨーロッパの政治・経済情勢の見通しは(人々が思っていたほど)悪くはない、むしろ我々はよくやっている」と述べた。

 3日間にすっかり打ち解けた参加者がディナー終了後も遅くまでレセプションホールで名残惜しそうに語り合っている様子が印象的だった。

 今回、参加して得た気づきや経験は今後、OA社の「Daily Brief」をあらためて日本で広く紹介していくにあたって生かしていきたい。
活発な意見交換が行われた

活発な意見交換が行われた