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駒澤大学

導入事例 Case Study
日笠 完治 氏

ステークホルダー調査
入試改革や広報戦略の検証に有効

駒澤大学

執行理事(教育・研究担当)
副学長
日笠 完治 氏

導入しているサービス
  • 大学ブランド・イメージ調査

 「仏教」の教えと「禅」の精神を教育・研究の基本とする駒澤大学が大学改革を実現し、人材育成の質の向上と学生支援の拡充に向け、ブランド力の強化につながる大学IR(Institutional Research)活動の活性化に取り組んでいる。少子化が進むなか、「選ばれる大学」となり、学生に「何を学び、身につけたか」を明確に示すことができる教育機関となるべく、日経BPコンサルティングの「大学ブランド・イメージ調査」を採用、中立的な情報として分析、入試や教育内容・プログラム、教育環境の改善、広報活動の適正化を図っている。同大学で大学改革活動を現場で統括する執行理事(教育・研究担当)副学長の日笠完治氏に、これまでの経緯と今後の戦略をうかがった。

「大学IR係」が客観的判断材料として導入、首都圏編

―――「大学ブランド・イメージ調査」を導入された経緯をお聞かせください。

 2016年度に学長が実行する大学改革を補佐するため、学長直下の事務組織として大学改革推進室を設置しました。大学改革推進係と大学IR係の2つの係からなっています(2019年4月より大学改革推進室は学長室へ、大学改革推進係は内部質保証推進係へ名称変更)。学内外からさまざまな情報を収集し、客観的なデータに基づく分析によって本学の実態を明らかにし、教育課程の検証や改善に役立てるため、2017年度に「大学ブランド・イメージ調査」を導入しました。本学の入学者の約6割が首都圏(一都三県)出身であることを把握していたので、首都圏編を導入し、首都圏のステークホルダーが本学のどのような点を評価しているかを調査確認することにしました。
 2016年3月、文部科学省が高大接続システム改革会議「最終報告」を発表、各大学で大学入学者選抜改革が行われています。その改革のなかで、入学希望者の多面的・総合的評価を行う入学者選抜への転換が強く求められていましたので、本学においても、入学者選抜のあり方を見直し始めました。大学IR係は入試方法の見直しだけでなく、広報活動の実態についても併せて検証を行うことで、ステークホルダーが本学をどのように評価しているのかを把握し、入試と広報の両方を一体的に改革することを構想しています。こうした取り組みを行うための客観的な判断材料の一つとして、「大学ブランド・イメージ調査」を用いることにしました。
駒沢キャンパス
大学IR(Institutional Research)
大学の経営改革や教育の質向上、学生支援の拡充などを図るため、内外からデータを収集・分析し、戦略を立案・実行、さらに検証する活動全般をさす。

他大学との比較容易、グラフ表示でわかりやすい報告書作成

――「大学ブランド・イメージ調査」をどのように活用していますか。

日笠 完治 氏
 データはステークホルダーとして、有職者(ビジネスパーソン)、学生の父母、教職員の3つの分類があり、それらの全体平均との比較のほかに、他大学との比較分析が容易に行えます。たとえば、他大学と比較して本学が評価されている点、評価されていない点の分析を行うことに役立てています。49個あるイメージ項目ごとの違いをグラフで可視化することができるため、分析結果をわかりやすく説明する報告書の作成にも便利です。
 首都圏編の大学ブランド力ランキング(ビジネスパーソンベース)には120校の国公私立大学がノミネート。本学は2017年、総合27位という結果でした。上位の大学は「大学認知率」の高い大学が多く、本学も首都圏において十分認知されていることがうかがえました。
 一方、今後の課題として、学生の活躍や教育研究の内容をもっと発信していく必要性があることが見えてきました。また、ランキング上位の大学がどのような広報活動を行っているのか調べることで、広報媒体の利用の仕方やメッセージの打ち出し方などについて、新たな気づきを得ることができました。

 アンケート回答者からの自由意見を閲覧することができますので、本学の知名度を高めている要因が何かを知ることに利用できます。これによって、重点的に打ち出す広報内容を絞り込むことができるため、広報活動を効率的に行うことが期待できます。

情報共有を通じて、学部や他部署とのコミュニケーション円滑に

――調査内容は学内でも共有化していると聞きました。反応はいかがですか?

 大学IR係では分析結果をすべての事務組織の部長が集まる事務部長会へ報告し、全学的に情報共有を図っています。さらに、提供元の了解を得て、グループウェア上に分析結果を掲載し、専任の教職員であれば誰でも閲覧できるようにしたことで、各学部や各事務組織における議論の材料となっています。
 専任教職員に報告した後、購入時に提供されたCD-ROMを直接、閲覧してみたいという問い合わせが他部署(教務部など)からあり、CD-ROMの貸出を行いました。大学IR係が収集・分析を行っているそれ以外のデータにも関心を持ってもらえるようになり、問い合わせが増えるようになりました。データの提供を通じて、学部や他部署とのコミュニケーションが円滑に行えるようになってきたと感じます。

「駅伝」のイメージだけではないブランディングを

――今後の大学のブランディング戦略についてお聞かせください。

 駒澤大学というと、どうしても駅伝や野球などスポーツのイメージが強いかと思います。しかし、本学は禅宗である曹洞宗の大学拠点として位置づけられますので、426年の歴史のなかで培ってきた「禅」に関する研究、教義を踏まえた実践というものの成果もアピールし、認知していただきたいと考えています。
 2016年度には文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」タイプB(世界展開型)の一環として、「『禅と心』研究の学際的国際的拠点づくりとブランド化事業」が採択されました。本学は、1592(文禄元)年に江戸駿河台吉祥寺に設立された「学林」を起源としています。その長きにわたる歴史を踏まえ、「禅と心」研究の学際的国際的な拠点づくりとブランド化事業に資するプラットフォームを形成します。
 現在、文部科学省で「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」に関する答申案が審議されていますが、そのなかでは学修成果の可視化、全学的な教学マネジメント、学位プログラムを中心とした大学制度など、大学に対して、さまざまな取り組みが求められています
空のテラス

本学ならではの人材育成像示したい、「学生ファースト」の観点守る

日笠 完治 氏
 大学IR係は新入生の入学時調査、学生の各学年における能力伸長の把握(GPA=Grade Point Average=特定の方式によって算出する学生の成績評価値、修得単位数、学修時間など)、進路状況調査、卒業生調査などを行っています。
 こうした調査のうち、文部科学省が定める「3つのポリシー」の各ポリシーに対応する調査項目をアセスメント・ポリシー(評価の方針)と位置づけ、各調査項目を継続的に収集・分析し、3つのポリシーのうち、特にディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)に沿った人材育成が実現できているかを検証しています。大学が「何を教えたか」から、学生が具体的に「何を学び、身につけることができたのか」への転換が求められています。
3つのポリシー
2016年に文部科学省が大学教育改革の実現に向けて方針として明確化や明示を求めたテーマ。
・ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)
・カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)
・アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)
 大学はかつて15%くらいのエリートが学ぶ場でしたが、今日では50%以上の人が大学に進学する「ユニバーサル大学」の時代に変わってきています。米国の教育社会学者マーチン・トロウが提唱した概念ですが、大学教育を受ける学生が量的に拡大するのに伴い、教育の目的や機能、教育内容や、学生の選抜基準なども質的に変容しています。今はまさにその大学の変革の時代にきているのです。
 大学全体として今後、組織的に対応していくためには、今後の社会情勢を見据えた本学独自の特色あるアクションプランを構築し、それに基づく次期の中期事業計画を策定し、具体化に向けた取り組みを進めていく必要性があります。
 まず、大学全体のブランディングを行い、本学ならではの人材育成像や価値を改めて確認し、そうしてできあがった統一概念に基づいて、大学の各種事業計画へと展開させていくことを構想しています。「学生ファースト」の観点で学生が成長するための施策を強化し、本学で学び、成長した学生の姿を社会に向けてしっかりと発信できるようにしていきます。
駒澤人育成基礎プログラム
駒澤大学に入学した学生が卒業するまでに身につけるべき基礎的・汎用的能力の養成を目的とした教育プログラム。従来の全学共通科目の体系を見直すもので、幅広い教養教育、外国語教育およびスポーツ・健康教育に加え、初年次教育、実用英語教育、キャリア教育、日本語リテラシー教育、ICT教育を全学的に展開し、これを専門教育科目とシームレスに接続している。卒業後に企業などで働く学生が多いことを踏まえ、卒業後も成長し続ける能力を持った学生を育成する。
種月館(しゅげつかん)
 2012年に開校130年を迎え、記念棟として2018年4月運用開始。禅語の「耕雲種月」(耕雲とは雲の下で耕すことで、種月は月の照らす中で植えること。あわせて苦労を厭わず耕作して種をまく、つまり修行に精進すること)に由来。地下1階、地上9階建て。「学びやすさと居心地の良さ」を具現化。1階はフロアの大部分が学生食堂で、約1,200席の座席数を用意。また、ラウンジスペースを全階に設け、ソファなどの什器を充実させ、自宅のリビングにいるような居心地の良さを演出している。
 2階から9階が主に講義室。400人の講義が可能な大教室に加え、少人数教育に対応した40人規模の教室数を増やし、可動式の机と椅子を揃えることでアクティブラーニングに適した教室としている。地下1階には株式会社バリアンメディカルシステムズとの産学連携により設置した最新の放射線治療医療機器を備える。放射線治療の専門技術者の人材育成のため、共同で「駒澤大学-VARIAN放射線治療人材教育センター」を設立し、癌治療の高度な放射線治療の実施を支援する医療従事者と学生のための教育コースを提供している。
種月館
(日経MM情報活用塾メールマガジン11月号 2018年11月28日 更新)

プロフィール

大学名 駒澤大学
創立 1882年
所在地 東京都世田谷区駒沢1-23-1 (駒沢キャンパス)/東京都世田谷区深沢6-8-18 (深沢キャンパス)/東京都世田谷区宇奈根1-1-1(玉川キャンパス)
学生数 15,288人(平成30年5月1日現在)
学部 仏教学部 文学部 経済学部 法学部 経営学部 医療健康科学部 グローバル・メディア・スタディーズ学部
Webサイト https://www.komazawa-u.ac.jp/