NIKKEI Media Marketing

一橋大学

導入事例 Case Study
齊藤教授と研究者の皆様

新聞記事をもとにした東日本大震災学術調査

一橋大学 大学院Adobe PDF file icon

経済学研究科 教授 齊藤 誠 氏

導入しているサービス
  • 新聞記事テキストデータサービス

 東日本大震災の記録を収集・分析し、そこから得た知見を次世代に伝えるため、独立行政法人日本学術振興会が主導している「東日本大震災学術調査」。人文・社会科学的視点で8つの調査研究班が構成され、日本を代表する研究者100名以上が携わっている。その中の「経済班」を統括しているのが齊藤誠(一橋大学 大学院)教授だ。
「原発危機の経済学」(石橋湛山賞受賞)を出版し、新聞や雑誌でもよく見かける齊藤誠教授だが、「東日本大震災学術調査」のひとつとして、新聞記事を用いて震災の行動経済学的側面を調べている。

新聞記事を通した行動経済学研究

 経済学が、人間の合理性を前提に理論や統計モデルで世の中を説明しようとするのに対して、時に不合理な意思決定・行動をとる人々・社会を究明しようとするのが行動経済学だ。

マーケティングへの応用など、何かと注目度が高まっている行動経済学だが、政策決定の場における役割も期待されている。人々の行動を理解せずして、よりよい社会を作るための有効な政策など有り得ないというわけだ。

 今回の齊藤教授の研究は、東日本大震災後、社会・人々がどのように考え、どのように行動し、どういった政策が取られたのかを、新聞各紙の記事を通して明らかにする試みだ。

 調査対象は、日本経済新聞各紙、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞で、震災に関連するキーワードで新聞記事を抽出し、傾向を分析する。日経各紙の記事については、「テキストデータで非常に取扱いやすい」(齊藤教授)と評判の日本経済新聞社が提供する「新聞記事テキストデータサービス」を利用。

<キーワードの例>

「東日本大震災+アンケート」「東日本大震災+調査」

震災のインパクトを測るために様々な機関でアンケートや調査が行われたが、どういう主体が何の目的で行い、どのような結果だったのか。

「東日本大震災+提言」

誰が、どういう目的で、どういった根拠で、どんな政策提言をしたか。

「復興+消費税」「賠償+原発」「復興+予算+財源」

復興や原発賠償の財源がどのように意見形成されたのか。

まだ研究途中とのことだが、これまでのところで明らかになったことを齊藤教授から教えて頂いた。

一橋大学風景

19兆円の復興関連予算の根拠は?!

 「19兆円という復興予算の数字は、かなり早い段階で精緻な調査を経ずに出てきたが、財源については後回しになっていた。原発賠償についても同じで、財源についての議論はほとんどされていない。」(齊藤教授)

全国的に高まる防災意識

 「震災をきっかけにして、東日本から南海トラフまで広く防災対策を求める声が高まり、『国土強靭化』というキーワードとともに全国に広がった。縮小傾向だった公共投資が震災を起点に拡大方向に変わり、防災投資がその主軸になった。」(齊藤教授)

全国的な地域開発投資の契機にも

 「被災地の抱えていた高齢化などの問題は他の地域でも共通することなので、全国の地域開発に発展して膨大な公共投資予算につながっていったことも新聞記事を読み込んでいくとわかる。」(齊藤教授)

研究対象としての新聞記事

 「政策の善し悪しの議論は置いておき、震災後何が起き、社会がどう受け止め、未来に向けてどう動いたか、どんなことが誘発されたかを明らかにして、後世に残す。客観的な事実として捉えるために、有力新聞の記事で振り返る。」

 齊藤教授は淡々と語ったが、日経各紙だけでも多い月では5,000件超、1年間で3万件を超える記事を読み込むというのだ。しかも新聞社によって報道の仕方も違うので、公平性を保つために、日経・朝日・読売・毎日を対象にするという。

 さらに、記事情報の分析に加え、地図上にマッピングされた津波浸水地域や建物損壊エリア情報に、その地域の人口動態や失業率(国勢調査)、当該地域のGDPの減少(市町村民経済計算と事業所統計)、資産価値の下落(地価公示データ)、農業へのダメージ(農林センサス)を合わせて経済的損失額の算出も試みているそうだ。

 現地でのフィールドワークも定期的に実施するなど、この研究にかける並々ならぬ熱意を感じる。齊藤教授の研究を含めた「東日本大震災学術調査」は、2015年3月に「研究叢書」として公開される予定だ。

プロフィール

齊藤誠 一橋大学大学院経済学研究科教授。1960年生まれ。
1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授などを経て、2001年4月から現職。
2007年に日本経済学会・石川賞、2011年に全国銀行学術研究振興財団・財団賞受賞、2013年行動経済学会・アサヒビール最優秀論文賞受賞等。
主な著書に『原発危機の経済学』(日本評論社、石橋湛山賞)『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、日経・経済図書文化賞)、『資産価格とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、毎日新聞社エコノミスト賞)、『競争の作法』(ちくま新書)。