創価大学
国際教養学部 副学部長 教授 杉本 一郎 氏
創価大学は2014年度に文部科学省から「スーパーグローバル大学創成支援」に採択され、グローバルに活躍する人材の育成に積極的に取り組んでいる大学として大きな期待を集めています。国際教養学部はすべての講義やゼミナールなどの活動を英語で行っている学部で、2014年4月に開設。海外からの留学生も多く、人文・社会科学分野の幅広い科目を多様な背景を持つ教員のもとで実践的に学べる学部として、その存在感が際立っています。副学部長の杉本一郎教授に、同学部の取り組み、短期・長期留学を通じた人材交流やゼミなどの活動状況、学生に期待する成長像などをうかがいました。数量経済史を専攻し、英領期マラヤ(現マレーシア)とシンガポールの長期経済統計の推計と発展の軌跡を研究してきた杉本教授は「アジアの今」を学ぶため、日本経済新聞社のアジア情報英文メディア「Nikkei Asian Review(NAR)」を学生とともに購読し、講義やゼミなどで利用しています。そのねらいと活用法、学生の受け止め方、さらに、日ごろ、心がけているご自身の目標、意気込みを話していただきました。
創価大学は開学時より世界の国、地域の大学や研究機関と積極的に交流し、現在(2017年3月時点)、世界55カ国・地域、185大学のネットワークを持っています。学生数約8,000人のうち、今年4月時点で約600人(7.5%)が留学生となっています。外国人留学生の国籍の幅は広く、キャンパス内での日常的な国際交流も盛んです。2017年3月には「スーパーグローバル大学創成支援」の構想実現に向け、外国人留学生の受け入れを促進するため、新しい学生寮となる「滝山国際寮(男子)」と「万葉国際寮(女子)」が完成、異文化交流を通して相互理解を深めるための環境整備が進んでいます。
2014年4月に開設した国際教養学部は、急速に変化する社会にあって、創造的に人間主義に立脚して様々な挑戦に立ち向かうことができる知恵、勇気、慈悲を有する世界市民を育成することを目的としています。そのために、歴史・社会・文化、政治・国際関係、経済・経営分野の教養教育を英語で行い、多様性豊かな教員、外国人学生との交流、必修の約1年間の海外留学を通じて異文化理解力を養成し、アクティブ・ラーニングも実践しています。
カリキュラムでは早期の海外留学を必修とし、英国、米国、オーストラリア、カナダの5大学などのなかから選択し、集中的に英語を学んでいます。学生たちは異文化のなかでの学習と生活を通じて鍛えられて戻ってきます。この留学経験を通じて培った能力、経験をもとに、人文・社会科学分野の幅広い学びとゼミや専門科目を通じて専門性を養成しています。学年を経るごとに、たくましくなっていく学生の姿に触れることができ、教員として大きなやりがいを感じています。 おもしろいことに、なかには留学から帰国後、本学の交換留学制度を活用し、シンガポール、タイ、香港、台湾などのアジア地域の諸大学に再度長期留学をする学生がいます。また、私が担当する2年次の学生を対象に実施しているマレーシアへの2週間の短期研修には、1学年の約3割の学生が参加するなど、学生がアジア地域にも強い関心を持っていることを実感しています。
私が担当するゼミでは「アジア経済」をテーマに学んでいます。ゼミ生には同時期に私が提供している「開発経済学」(前期)と「国際経済学」(後期)の履修を義務づけ、そこで学問分野の基礎的な知識の養成をしてもらい、ゼミではその学びと並行し、アジア経済に焦点を当てて、ディスカッションやプレゼンテーションなど学生の主体的な学びを促しています。
講義では卒業後、海外大学院などに進学する学生も想定し、世界の大学で使用されている標準的なテキストを使用しています。テキストは大変、丁寧に作成されており学習に適していますが、事例を紹介する場合、「アジア」を軸に据えた情報の少なさに限界を感じてきました。
私自身、マレーシアに約18年間滞在し、大きく変容し続ける現場を見てきました。こうした勢いと変化を効果的にそして楽しく持続的に学べる方法はないか、その教材となるメディアを探していました。そこで、アプリ版のころから親しんでいたNikkei Asian Reviewがその役割を担ってくれるのではないかと思い、昨年の8月にゼミ生全員で購読し、教育に利用することにしました。
NARはアジアという枠組みで、経済から政治、産業、文化・カルチャー、ライフスタイルまで、いろいろな情報を提供してくれています。プリント版はもちろん、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などでもハンディなかたちで閲覧できます。パソコン版ではいくつかのトピックごとにタブが分かれており、ニーズにあったかたちで情報を引き出すことができます。ある程度の時系列で整理されているので、今、起きているニュースや話題のテーマを記事検索してリアルな感覚で縦でも横でも追うことができます。これは既存のテキストでは学べない、一番、足りない部分でした。
ゼミでは毎週1回、昼休みに学生が集まり、その週に掲載された記事やニュース、特集のなかから、学生自身が気になる記事を自由に選んで英語で説明し、なぜ、その記事に関心を持ったのか、その記事の意義について発表します。また、Viewpointsの記事を事前に選び、その記事に対する意見を交換し合っています。
デジタル媒体なので、海外留学中の学生が勉強会には参加できなくても、情報を共有し、読むことはできます。学生たちの関心の幅は広く、たとえば、技術(テクノロジー)であったり、インフラストラクチャーであったり、ライフスタイル、カルチャーとか、それぞれが進路を意識しながら、アジアでどんな貢献ができるかどうかを考えて、NARを読んでいます。
アジアというリアルな実体を忘れていないので、いろいろなことが常にアジアとの関わりで論じられている視点が大変、ありがたいです。TPP(環太平洋経済連携協定)にしてもブレグジット(英国のEU離脱)、米トランプ政権などについても「日本にとってどうなのか、その影響は?」ということが語られることはあっても、「アジアにとってどうなのか」という分析はなかなかありません。米国の移民受け入れ問題でも米国に住む移民からの送金が経済や生活のなかで大きな意味を持つアジアの経済にとっては、これはとんでもない問題です。
こうしたテーマをアジアの視点から取り上げることで、NARには日本人としてアジアの人にコミットしていくというメッセージがあり、温かい目を感じています。学生もそれを感じてくれて、このアジアのなかでやっていくんだ、アジアの地域で貢献できる人材になりたい、そうした力を身につけていきたいと思ってくれるきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。
取り上げる特集テーマやデータを表現するレイアウトやイラスト、グラフィックもきれいですし、個人的には毎週、プリント版の表紙が楽しみです。最近ではアジアの「財閥(韓国、マレーシアなどで厳しい試練に直面)」や「民主化度と経済発展の関係」、「男余り問題(人口構成における男性と女性の差の拡大)」などをテーマとした特集がおもしろかったです。ものすごくタイムリーなニュース的な特集と、中長期的な切り口から俯瞰した内容な特集が混在している点がすごくいいと思います。
今、私たちは様々なデータや情報を格段に入手しやすい時代を生きていると思います。そうしたなか大切なのは問題意識を持って必要なデータや情報を自ら選び抽出し、アウトプットを意識したインプットを行うことを習慣化していくことだと思います。一人でそれを行うことは時に難しいかもしれません。そうした時こそ、学生にはお互いに切磋琢磨できるような環境を主体的に作っていってもらいたいと思っています。NARはその学生の問題意識の醸成と、有益な情報を選びとる機会を提供してくれており、感謝しています。
私の目標は、日本とアジア地域の発展に貢献できる能力や知識、志を有する人材が生まれてくるように、教員という立場で、サポートしていくことです。そのためにも、私自身が教育・研究に挑戦し、その姿を学生に発信し続けていきたいと思います。
NARにも記事を学生同士でSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などでシェアし、グループで共有しあえる仕組みがあるとありがたいです。そうした学生を援護するために、将来的にはNARのIP認証サービスなどを使って、多くの学生が使え、共有できるメディアとなればと希望しています。
また、NARの読者を中心として、大学生や研究機関、専門家、ビジネスマン、編集担当者などが集まって、英語の論文やプレゼンテーションを競うイベントや交流するセミナーなどの企画を期待したいですね。意識のある学生は大学時代に、難しいけれど、やりがいのある舞台を探しています。英語を使用したプレゼンテーションや論文などのコンペティションに挑戦したいという学生は本学に限らず潜在的にいると思います。
日経が主催する「アジアの未来」のようなイベントに、NARを購読する大学生も参加できるようになれば、意識ある学生の横のネットワークが生まれるのではないでしょうか。
企画・特集記事ではアジアの教育についてのリポートに興味があります。各国・地域でどのような教育が行われているのか、それで悩んでいない国・地域はないと思います。企業の方もアジア諸国で人材がどのように育てられようとしているのか、関心は高いものと思います。特に、高等教育、大学に光を当てて、たとえば、各国政府・地域の担当者に見解を述べていただくというのでもおもしろいと思います。シンガポールの南洋理工大学などは大学改革の参考になるだろうし、メディアとしてアジアで「強い大学」や「求められる大学」の像を示していくことは多くの刺激を読者に与えていくと思います。
(日経MM情報活用塾メールマガジン5月号 2017年5月15日 更新)
大学名 | 創価大学 創価大学は「人間教育の最高学府たれ」「新しき大文化建設の揺籃たれ」「人類の平和を守るフォートレスたれ」を建学の精神に掲げ1971年に開学。「学生第一の大学」として、社会や時代のニーズに合わせ、学生にとって最善の教育・学習支援を提供するため、教育システムの充実、施設・設備の新設など、学習環境の充実に力を注ぎ続けている。2014年には文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」と「大学教育再生加速プログラム」に採択された。 |
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創立 | 1971年 |
所在地 | 東京都八王子市丹木町1-236 |
学生数 | 7,915人(2016年5月1日現在) |
学部 | 経済学部、経営学部、法学部、文学部、教育学部、理工学部、看護学部、国際教養学部 |
Webサイト | https://www.soka.ac.jp/ |
株式会社エグゼクティブ・ジャパン
GMC Business School(グローバルマネジメントカレッジ・ビジネススクール)は株式会社エグゼクティブ・ジャパンが運営する、欧州のビジネスマン向けMBA(経営管理学修士)やDBA(経営管理学博士)の取得をめざして、日本国内にいながら学ぶことができるビジネススクールです。受講生には外資系企業に勤める社会人が多くを占め、エグゼクティブ・ジャパン代表の喜多元宏氏は「仕事と両立させながら短期間で海外のMBAが取得できるとして好評です」と話しています。(主なプログラムなど詳細はhttps://gmc-bs.com/)
GMCはスクールの教材として、アジア(日本)に拠点を置く日本経済新聞社が発行するアジアの経済・金融市場や産業・企業活動、政治・社会情勢を報道する英文情報メディア「Nikkei Asian Review」(NAR)を採用しています。国際ビジネスへの理解を深める目的で、月1回、NARの記事をテーマにビジネスにおける課題を分析し解決策を求めて自由闊達に議論を交わす勉強会を開いており、毎回8人~10人が参加しているといいます。
急激なグローバル化に対応しキャリアを中断することなく海外のMBAが取得できる教育システムの実態や、その一端を担う「Nikkei Asian Review」の活用法などを喜多氏にうかがいました。