デジタル・アナログ情報の利活用と著作権

デジタル・アナログ情報の利活用と著作権


昨今、インターネット上でビジネスに必要な情報を調べて利用することは、当たり前の日常となりました。また、アナログ情報をデジタル化して保管・利用する動きも本格化しています。

しかし、世の中の多くの創作物には著作権が発生しており、インターネットに散らばる情報もその例外ではありません。著作権侵害だと指摘を受けないよう、企業活動において気を付けるべき点をいくつかご紹介します。

1.インターネット上の情報は「著作物」?世の中は権利侵害リスクだらけ

インターネット上の情報は「著作物」にあたるでしょうか。

著作物か否かを厳密に線引きすることは、決して簡単ではありません。しかし、著作権法の定義によれば、思想又は感情を創作的に表現しているものは、みな著作物に該当します。例えば文字で構成されている表現物の場合ですと、ありふれた表現やごく短い文章でない限り、すべて著作物だと考えたほうがよいでしょう。

そして、ひとたびその情報が「著作物」に該当すると、自動的に著作権が発生し、著作権法上の例外的場合にあたらない限り、無許諾のコピーは著作権を侵害することとなります。この「例外」のバリエーションは非常に豊富でして、後述する「私的使用複製」や「引用」のほか、教育・報道に関する例外、検索エンジンの仕組みに関する例外などもあります。

要するに、世の中は権利侵害のリスクにあふれているわけですが、著作権侵害にあたると判断されてしまった場合、理屈上は、刑事罰が科される可能性すらあります。企業活動における著作物の取扱いは、コンプライアンス(法令順守)上、決して軽視できない問題といえます。

2.著作物は「引用」して利用してもよい?6つの要件を確認しよう

企業活動においては、社内向け・社外向け問わず、インターネット上の情報を利用した資料づくりが頻繁に行われている実態があります。他方、その情報が著作物に該当する場合、その一部だけをコピーする行為も、原則として著作権侵害となります。適法に「引用」すれば例外的に合法となるのですが、それはどのようなケースでしょうか。

著作権法に定められている要件は、かなり抽象的です。ざっくり言えば、「公正な慣行に合致するものであり」、「目的上正当な範囲内」であれば、無許諾でコピーして利用できますが、これだけではよくわかりませんよね。実際にポイントとなるのは、以下の6要件です。

①引用する必要性があること
これが大前提です。その著作物を使う必然性までは無くともよいのですが、例えば「スペースを埋めたいから写真を貼り付ける」といった行為は、適法な引用とは認められません。

②公表された著作物の引用であること
未公表の著作物は、適法に引用できません。また、著作者にはそもそも、著作物を公表するかしないか、またその公表時期を決める権利(公表権)があります。

③引用している方が主で、引用されている方が従の関係にあること
いくら「引用した」と言っても、引用した部分がほとんどを占めているような場合、適法な引用とはなりません。ニュース記事を転載して一言加える、といった形式のブログが散見されますが、そのような利用は著作権侵害となります。 何パーセント以下であれば大丈夫、と明確にお示しするのは難しいのですが、引用されている著作物の割合が地の部分(自分で創作している表現部分)よりも多いような比率だと、適法な引用とは認められないでしょう。

④引用している方と引用されている方が、明瞭に区別できること
例えば文章であれば、カッコで括る、本文と異なるインデントを設定するなどして、引用している部分を明白にする必要があります。

⑤引用した著作物の出所を明示すること
通常、上の明瞭区別性とセットになるのが、出所の明示です。引用した部分について、どこから引用したのか明記する必要があります。具体的な方法は慣行による部分も大きいのですが(例えば学術誌であれば、学会や雑誌ごとにルールがあるはずです)、インターネット上の著作物を引用するのであれば、ウェブサイトのタイトル、具体的に引用するページや記事のタイトル、URLを記載すれば概ね適切でしょう。

⑥著作者の意に反する改変をしていないこと
著作者には、自己の著作物を意に反して改変されない権利がありますが(同一性保持権)、上記①~⑤の要件を満たしているのであれば、翻訳して引用をすることは著作権法上も許されています。 ただし、「要約」しての引用が許されるかは、条文上ははっきりしません。要約した結果、著作者の意図が捻じ曲げられてしまう場合もあり得るでしょう。しかし、忠実に引用しようとするとコピーの範囲が大きくなりすぎるような場合にまで、一切の要約を許さないのは本末転倒です。引用する目的や文脈に応じて、原文の趣旨に忠実な形で要約をするような場合には、許される場合も多いと思われます。

3.気を付けよう!文献、新聞記事やウェブページの「企業内コピー」

企業活動においては、他人の著作物を「引用」して利用するような場合だけではなく、著作物をそのままそっくりコピーして利用することも多いのが実態かと思います。

しかし、著作物をコピーする行為はそもそも、著作権法によって、原則として禁止されています。そして、例外規定である「私的使用複製」に該当するかというと、これは家庭内やそれに準じる狭い範囲での利用を目的とする場合に限られますので、企業の中で使うつもりでコピーする場合は通常、「私的使用複製」には該当しないと言わざるを得ません。

つまり、書籍、新聞記事、ウェブページなどの企業内コピー・回覧行為は、著作権侵害であるが、「野放し」になっているといえます(これを「黙認」と捉える見解もありますが)。紙に印刷せず、PDFなどにしてデータを共有する場合も同様です。一般の方は、あまりそのことに気が付きませんので、外部向けのセミナーで資料を大量に配って、後で問題視されるといったことが時々起ります。

この実情の中、各企業がどこまで企業内コピーの適正化に対応すべきかは難しい問題です。業務上かかわるすべての著作物について、すべての権利者から個別に許諾を得ることは、現実的ではないでしょう。

現実的な対応として考えられるのが、日本複製権センター(JRRC)という著作権管理団体(http://www.jrrc.or.jp/)と契約することです。同センターは、出版や新聞、文芸、学術著作などの著作権者の団体から、企業内における少部数ないし小部分のコピーを許諾することに関し、権利の委託を受けています。利用したい企業は、同センターと契約すれば、一定の範囲内・条件で、適法にコピーをすることができます。同センターの管理している著作物は、網羅的ではないものの広い範囲に及びますので、コンプライアンス重視の姿勢を打ち出すのであれば、選択肢の一つになると思います。

もっとも、インターネット上の情報のコピーについては、解決策はなかなか見当たりません。例えば、オンライン百科事典「ウィキペディア」上の記事は「クリエイティブ・コモンズ」という仕組みでライセンスされており、一定の条件に従うことでコピーその他の利用が許されていますが、このような仕組み(パブリック・ライセンス)は、まだまだ浸透しているとはいい難い状況にあります。現在、政府の保有情報に一定のライセンスを付与して活用の道を拓く「オープンデータ政策」が進行しており、今後の動向が注目されます。
<日経メディアマーケティングから>
新聞業界では全国紙や地方紙約60社が公益社団法人日本複製権センターに出版物のコピーについて権利を委託しています。しかし、日本経済新聞社は著作権管理にはさまざまな判断が求められると考えており、同センターに権利委託していません。複製部数の多寡や個別、定期契約の別にかかわらず、すべて日本経済新聞社で利用申請の相談を受け付け、諾否の判断を行っています。

4.アナログ情報をデジタル化?「自炊」サービスの落とし穴

数年来、アナログな状態で保管されてきた情報をデジタル化して活用する動きが本格化しています。政府でも、国立国会図書館の蔵書をスキャンして活用する動きが進められていますし、アメリカでは、Google Booksというサービスが既に2,000万冊以上の書籍のスキャンを終えています。

他方、個人のレベルでは、自宅の蔵書を解体してスキャンし、データの形で保管するというトレンドがあります。この作業は「自炊」と通称されますが、そもそも裁断機やスキャナーを用意する必要がありますし、分解・裁断・スキャン・データの整理という作業は煩雑です。そこで、これらの作業に関与する業者がたくさん現れました。

業者には色々なタイプがあります。裁断機とスキャナーを置いた場所を用意して「あとはご自由に」というスタイル(機器のレンタルですね)もあれば、たくさんの書籍を実際に置いて「いくらでもスキャンしてお持ち帰りください」といった乱暴なサービスもありました。後者のサービスは明らかに違法だったので、今は見当たりません。

とりわけ「自炊代行」、すなわち「自宅の蔵書を送れば、分解・裁断・スキャン・データ整理を全部代行してくれる」サービスが注目されました。小説家や漫画家らが一部業者を相手取り、著作権に基づき「自炊代行」行為の差止め等を求める訴訟を提起したためです。

訴訟の主要な争点は、依頼者と業者のいずれが「複製行為の主体」であるか、でした。業者の行為は、顧客が自宅で行う「自炊」を代行するという建前であるところ、顧客(企業ではなく個人に限ります)が行為主体であれば、その行為は前記の「私的使用複製」にあたり適法となりうるからです。

しかし、東京地方裁判所は2013年秋、業者の行為が著作権侵害に当たるとして、その差止めを命じる判決を言い渡し、控訴審である知的財産高等裁判所も2014年秋、東京地裁の判断を維持しました。この事件は、書籍の自炊代行業に関するものでしたが、新聞記事その他の媒体であっても同様と考えられます。

5.まとめ

以上のとおり、インターネット上の情報や、デジタル化された情報の利活用には、著作権法上、様々なハードルがあります。進化したITインフラを活用して、どのように情報の共有・利活用を図っていけばよいかは、技術的・サービス的な観点だけでなく、コンプライアンス的な観点からも配慮が必要であり、一筋縄ではありません。

各企業におかれても、著作権管理の現況を一度見直されてはいかがでしょうか。
著作物の引用 6つの要件
増田 雅史
増田 雅史

森・濱田松本法律事務所 弁護士

東京大学工学部卒、中央大学法科大学院修了。主要取扱分野は、IT全般、知的財産等。経済産業省への出向後、東京大学情報学環非常勤講師、各種団体役員、中央省庁の委員会委員等、多数の公職に従事。『インターネットビジネスの著作権とルール』(CRIC・2014年)、『デジタルコンテンツ法制』(朝日新聞出版・2012年)など著作講演多数。


(日経MM情報活用塾メールマガジン2月号 2015年2月23日 更新)

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