オックスフォード・アナリティカ政治経済分析レポート

『Oxford Analytica Daily Brief』(オックスフォード・アナリティカ・デイリー・ブリーフ、OADB)概要 ▼

OADBは、1975年に設立された英国の国際規模のコンサルティング・調査会社Oxford Analytica(オックスフォード・アナリティカ)社が毎日、世界の意思決定者に向けて発信するインターネットによる国際政治・経済分析レポートです。

分析対象はグローバルな構造問題や地域問題、さらには特定の国に関する政治・経済情勢まで多岐にわたります。しかも、メディアが報道する事実内容だけにとどまらず、英オックスフォード大学の教授をはじめ世界各国に学者・研究者ら約1,400人にも及ぶアナリストが、深い見識と卓越した手法を駆使することで、高度な分析と予測を行っています。そこには、創業者であるデイビッド・ヤング会長がかつて米国のキッシンジャー安全保障担当補佐官の下で活用していたノウハウが生かされており、まさに「インテリジェンス情報分析」と呼ぶにふさわしい高いクオリティーが維持されています。

日経メディアマーケティングは、1日平均20本から30本程度更新されるOADBレポートの中から三宅豊氏が厳選し日本語に翻訳したものを、日本語訳サンプルとして毎月1回、2-4本をめどに掲載します。

日々多発する国際的な様々な事象の行方、さらには周辺国・地域、自国・企業への影響をどうみるべきか―。こうしたグローバルな視点で中・長期的なリスク管理などの政治・経営判断を下す際の有効な情報源として、OADBレポートは官民問わず世界で幅広く利用されています。本サービスの一部を日本語訳で実際にお読み頂き、是非、サービス導入のきっかけとしてご活用ください。

三宅 豊氏:Oxford Analyticaアドバイザー。東京都立大学(現・首都大学東京)法学部卒業。1962年、通商産業省(現・経済産業省)に入省。1994年、貿易局貿易保険課海外情報企画室初代室長。貿易保険事業のカントリーリスク・マネジメント体制作りに従事。1997年に退官。その後、貿易保険機構理事兼カントリーリスク研究所長、通産省「鉱業審議会」専門委員、日本貿易保険の初代監事を務めた。また、イギリスの王立国際問題研究所(RIIA)中東部の客員研究員として情勢分析の訓練を受けた。

オックスフォード・アナリティカ・デイリー・ブリーフ <2017年9月号>

2017年8月21日付
中国
新しい「国家情報法」が中国のスパイ活動に法的根拠
2017年8月21日付
中国
中国の「検閲」当局がケンブリッジ大学へ圧力
2017年8月 4日付
中南米
二つの大洋を結ぶ鉄道建設が中南米貿易を活性化

 日本語訳サンプル2017年9月号

1/状況

 中国政府は新しい「国家情報法」を施行し、情報機関や情報工作活動に広範囲におよぶ権限を与えることになった。
 新しい国家情報法は中国の従来の基準に比べて、より秘密裏に議論され、より迅速な立法過程を経て、全国人民代表大会(全人代=日本の国会:訳注)常務委員会が2017年6月27日に採択し、公布した。2017年6月28日、ただちに発効した。

2/予想される展開

 国家情報法は「国家安全保障」について、西側諸国が伝統的に採用している定義をはるかに拡大した概念を反映しており、「(外国製の)イデオロギー浸透に対する安全保障(ideological security)」と「(外国からの輸入)情報に対する安全保障(information security)」といった「中国独自の観点」が加わっている。
 「オンライン環境」には政治的には「破壊的な」性格があることが前提となっており、いくつかの中国製サイバー技術は他の場所で使われるだろうが、中国が創造性の豊かな国として名声を得ることは決してないだろう。

3/副次的なインパクト

  1. 中国の企業が中国の情報部員に対して「隠れ蓑」を提供する必要があるということは、海外で活動する中国企業がその国の安全保障に脅威を与える存在になるという「恐怖」をあおることになるだろう。
  2. 国家情報法は既存の「諜報活動」と「諜報組織」の一体化を図るもので、これはすでに西側諸国では何十年も前から確立しており、本法は部分的にはそうしたものに追いつこうとする動きである。
  3. 中国政府の「外国文化・価値体系の侵入」に対する露骨な被害妄想は、中国の興隆の意図が世界にとっておだやかで安全であることを世界に納得させたいという、自らの努力をかえって損なうことになるだろう。

4/分析

 国家情報法(※1)は、国家安全保障の防衛のために中国政府が実施してきた一連の施策のなかで最新のものである。新法に先立つ安全保障体制整備措置として、2013年には習近平をトップとする「国家安全保障理事会」を設立、2015年には「国家安全法」、2016年に「サイバーセキュリティ法」(またはインターネット安全法)をそれぞれ制定した。
 2014年に開催された第18期党中央委員会第4回全体会議(党四中全会)では、それまで閣僚レベルの自由裁量にほとんど任されていた安全保障問題に関する行政手続きについて「法的根拠」を創り出していく決定を行っており、今回の新法はこうした努力の一環である(党四中全会で中国は「大国イメージ」を高める「法治の厳格な実行」を決定。「四中全会決定の15の新たな注目点(1)立法分野という文書の(6)テロ対策と国家安全の法治化の項目を参照されたい:訳注)
 中国の立法過程では通常、漠然とした草案が起草されるが、これは特定の優先重要事項を知らせるともに、その法律を実行する主務官庁(複数)に権限を与えることを主な目的としているためだ。本法もその例外ではない。しかし、本法では、国家安全保障に関する中国政府の概念とその枠内における「諜報活動」(intelligence)の役割についての中国政府の洞察をわざわざ提示している。

(1)国家情報法は何と言っているか?

 国家情報法は「国家の政治体制や主権、統一および領土保全、国民福祉、経済・社会の持続的発展、その他の主要な国益を保護する」ための諜報活動を許可している(2015年国家安全法第2条をほぼそのまま引用している:訳注)。
そして、新法は中国の個人や企業、官民問わず組織が諜報活動に関して負うべき義務と責任の概要を示している。

(2)政治報告

 情報部員は次の活動を行うとされている。

  • ① 中国国境の内外の両方において、組織機関、企業、個人について「調査」を行う。
  • ② 民間所有の施設内に立ち入る(立ち入り禁止区域侵入許可:訳注)。
  • ③ 他の組織実体の内部に「前進基地」を設置する。
  • ④ 車両、各種設備、通信チャネルを徴用(乗っ取り)する。
 国家情報法は「市民はもちろん、すべての国家機関、軍隊、政党、社会的グループ、企業、事業団体」に対して、必要な時には「諜報活動」を支援することを義務付けている。

 つまり、この法律はすべての中国国民一人一人に義務を負わせている。

(3)企業にとっての影響

 国家情報法が広範囲に適用されれば、こうした義務の明文化は中国国内に立地する「外資系企業」の活動に大きなインパクトを与えるだろう。外資との合弁企業を含む、いかなる中国国籍の組織体は、情報部員に対して「隠れ蓑」を提供するよう要求されうることを意味する。「外資系企業」で働いている中国人はその企業(雇用者)についてスパイ行為を求められることがありうるということだ。
こうした条項は、中国では企業が国家の腕に直接関係するかしないかにかかわらず、中国国家の長い「腕」の「指先」として使われるのではないかという「恐れ」を海外に確実に生じさせることになるだろう。
 中国で事業を展開している「多国籍企業」はたとえば、自社のスタッフ社員が(いつの間にか)「中国のスパイに転向」していることを発見することになるかもしれない。その事実を公表すると「中国政府との関係が悪化」し、株価を急落させられ、一方、その事実を隠蔽すれば、「本国との間の法律問題」を引き起こすことになるだろう。このような中国政府の企業に対する諜報活動支援義務化は、例えば英国の1994年諜報活動法(MI6の根拠法:訳注)に定めているいかなる政府の要求よりもはるかに広い対象に及んでいる。

(4)関係諜報機関

 国家情報法は諜報活動の集約化のための諜報機関の再編を明確に始めるというものではなく、ましてや諜報活動の付託されている権限の正確化でもない。法律は諜報機関の間に閣僚レベルを巻き込んだ激しい権限争いが進行しているための徹底的な見直しとつながっている。
 中国の対外諜報機関である「国家安全部」は中国共産党中央部において強力な「政治的権限」を持ったことがない。英秘密情報部(MI6)や米中央情報局(CIA)と対照的である(国家安全部は国際戦略情報の収集・分析、香港・台湾工作、スパイなどに対する防諜・監視活動、科学的偵察技術等の対外防諜活動全般を執行:訳注)。
 そのうえ、「国家安全部」は最近、現在、服役中の前党中央政治局常務委員で「党中央政法委員会」書記(トップ)の「周永康」の時代に行われていた上級指導層に対する盗聴活動と米国に逃亡中で華麗な不動産王の「郭文貴」の周永康を巻き込んだスキャンダルに連座していたことから、政治的に不面目な状況にずっと置かれている。(「党中央政法委」は最高裁長官、最高検長官、司法部長、公安部長(武装警察を含む:訳注)、国家安全部長をたばねる立場で、絶大な権力を誇っていた。周永康が汚職で逮捕された後、現在は副書記の「孟建柱」公安部長(国務委員)が「書記に昇格」している:訳注)

 国内治安維持機関の付属機関が海外で活躍している。

(5)サイバー分野

 「国家安全部」の管轄責任範囲のうちのいくつかは「公安部」に取られたようにみえる。公安部の管轄は警察機構を含む国内治安維持行政が中心だが、米国との関係においてサイバー問題に関して主導的な役割を果たし、国際関係においても評価を得ている。2015年、米政府と「サイバー協定」(※2)を締結したのはインターネット検閲責任者の「魯?」ではなく、上記の孟建柱党中央政法委員会書記だった。
 軍事面では、2014年、米司法省が中国人民解放軍兵士5人を起訴した時(5人の兵士は米国の民間のインターネットにハッキングを行って致命的なデータを入手した「サイバースパイ」行為に対して、告発されたもの:訳注)、習近平国家主席に中国のサイバー部隊をもっと効率的で目的を明確にしたものにするきっかけを与えることになった。
 このサイバー部隊再編計画はまだ完成していないが、―「情報支援部隊」の設立は2017年7月末に報告― おそらく軍事技術の入手に焦点が絞られ、中国はステルスや核、潜水艦推進技術を獲得することになるだろう(あたかも原子力潜水艦の性能向上による外洋進出能力強化を求めているようにみえる:訳注)。

(6)さらに努力を集中

 習近平政権下では、中国政府は諜報活動をより広範に行うように強化してきている。たとえば、「外国人の情報提供者」の採用を早めているようにみえる。
 「国家安全部」の部員が米国やカナダ、豪州で、自分の身分を隠すことなく、汚職容疑のかかっている逃亡中の中国高官などに対する帰国の説得を試みている。
 一方、中国国内においては、外国勢力のために働く情報提供者が増えている危険性について一般大衆に警告する宣伝活動を活発化させている。最近の報道によると、2010年以来、米国のためにスパイ行為を働いた容疑で20人の中国人市民が処刑されている。

(7)相互不信を縫い合わせる

 国家情報法は上記に述べたように「中国企業の活動の信頼性」に対する疑問を超えた「懸念」を提起する。
 中国国家の持つ「レーニン主義的性質」は、結果として統治に「慢性的な不安定さ」をもたらし、その不安定さのため、中国政府や中国共産党が国の内外で敵対する勢力をしつように探索したり、開放や透明性に対して本能的な嫌悪感を表したりしているのである。
 このため、中国政府と中国共産党は「中国が地域と世界全体において『秩序と平和』を維持するための信頼できるパートナー」であると周辺諸国や世界の主要な大国を「納得」させることができないのである。


(※1)http://www.chinalawtranslate.com/中华人民共和国国家情报法/?lang=en
(※2)https://fas.org/sgp/crs/row/IN10376.pdf

(2017年8月21日付のOADB)
原文:China's new intelligence law codifies espionage外部サイトへアクセスします

  • 本日本語訳は、OxfordAnalytica社の承諾の下、翻訳されたものです。
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1/状況

 言論・研究をリードする学術出版社が中国の「検閲」当局の要求を受け入れ、センシティブな論文など一部のコンテンツを自社のウェブサイトで閲覧できないようにしている。
 英ケンブリッジ大学出版局(CPU)は2017年8月18日、同局の中国における輸入代理店が中国の「メディア規制当局」からの指示を受けたので、中国のウェブサイトから政治的にセンシティブなトピックス(1989年の六四天安門事件等を含む:訳注)を取り上げたおよそ300の論文を既に削除したこと(閲覧不能)を発表した。
 対象となった論文は数十年前のもので、中国に関する英文で書かれた社会科学雑誌では世界最高水準のひとつである「チャイナ・クオータリー」誌のアーカイブ(発行記録)の一部を構成している。
 同誌を利用する学術研究者は少数ではあるが、おそらく、今回の禁止措置を「乗り越えられない」障壁ではなく、「不便な」障壁としてとらえる回避策を見つけるだろう(これまでもその都度、新しい抜け穴を発見してきたといわれ、今回はこれに対して業を煮やした中国政府が外国出版元へアプローチして止めさせたというもの:訳注)。中国の社会科学分野の研究者は以前、政府に対する重要な政策助言者であったが、2012年に習近平政権が成立して以来、厳しい監視と検閲のもとに置かれている。

2/結論

 中国政府の今回の行動は個別の政策判断というより、すでに確立されている官僚機構の行政行動の一部であったと考えても不思議ではなく、そのため、この問題を過剰に戦略的な意味が含まれていると読み込む前に、「注意」が必要である。中国の規制当局は今後も日常の定型業務のように今回のような対応を続け、他の外国コンテンツ・プロバイダーに対して、(1)規制に従うことで海外の評価を落とすか(2)あるいは拒否して中国における事業にダメージを受けることを覚悟するか、その選択を強いて来るだろう。多くのコンテンツ・プロバイダーはこの種の特定の要求には従うだろうが、中国のコンテンツ・プロバイダーが既に行っている「先手を取った自己検閲」(事前の自主的な検閲)のたぐいについては受け入れを拒否するだろう。

〔その後のケンブリッジ大学出版局の対応は8月22日付のBBCニュース、日経新聞電子版、朝日新聞電子版、ニューズウィーク日本版(電子版)等によると、次の通り。
 BBCニュースは、世界最古の出版社ケンブリッジ大学出版局(CPU)が8月21日、チャイナ・クオータリーの中国版ウェブサイトへの中国からのアクセスを禁止した措置を撤回する旨を発表したと伝えた。8月18日のアクセス遮断発表以来、中国の研究者約700人を含む各国からの反対が集まり、同大学はツイッターで「『学術研究の自由はケンブリッジ大学が根幹となす最優先の原理原則』として、遮断措置をただちに撤回すると明らかにした」と報じている。
 同大学出版局がいったんは中国政府の要求と強制を受け入れた理由として、中国側から要求を受け入れなければ好調な売れ行きの英語学習教材を含む出版物の販売を禁止すると脅迫されたと明らかにしている。
 今回の経緯を観察すると、ケンブリッジ大学は上記の2.結論部分にある二者択一の選択を実際に迫られたわけで、中国政府は自国内の「言論統制」を国境線を越えて他国に強制することについて、国家として何とも感じず、当然、受け入れられるべきであると考えているもようである。この問題に関しては8月21日付と23日付のニューズウィーク日本語版(電子版)の「遠藤誉コラム」を参照されたい:訳注〕

(2017年8月21日付のOADB短信)
原文:China censors will put pressure on foreign publishers外部サイトへアクセスします

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1/状況

 大西洋と太平洋を結ぶ鉄道は地域の貿易関係を一変させる野心的な事業である。
 ブラジルの大西洋岸のサントス港と太平洋側のペルーのイロ港を結ぶ鉄道建設プロジェクトの気運が高まっている。この計画には技術的、財政的な障害は大きいが、生み出される経済的利益は潜在的に巨大である。ブラジル政府は切迫した財政状況にあるため、現在のところ計画に心からの支持を表明するには消極的であるが、ブラジルの大豆生産者と鉱山関係者は最大の利益を享受するだろう。

2/予想される展開

 計画が最終的には成功するにしても、巨大インフラは現在、想定されている以上のコストの増大と建設期間の長期化を生むだろう。問題は最終費用の大部分を引き受ける「中国政府の意志」にかかっている。また、工事開始の前に、詳細な経済的実行可能性とエンジニアリングおよび環境アセスメント調査を必要とするだろう。

3/副次的なインパクト

  1. 計画は多国籍にまたがるため、すべての関係国が最後まで計画を支持するという確約が前提となる。
  2. 鉄道はブラジル、ボリビア、パラグアイの大豆生産を一層刺激するが、環境問題も付随している。
  3. 鉄道開通により、ボリビアがチリのアリカ港の利用を減らして依存度を下げ、ボリビア・チリの二国関係の改善を可能にするだろう。

4/分析

 2017年7月21日にアルゼンチンのメンドーサで開かれた会合において、南米南部共同市場(メルコスール)加盟国と準参加国はサントス港とイロ港を鉄道で結ぶ建設プロジェクトを正式に承認した。鉄道はブラジルから貨物を太平洋側に運ぶために現在、必要としている4週間という期間を短縮できることが考えられている。ボリビアは計画の次の段階を討議するため、来月(2017年9月)の「首脳会談開催」を提案している。
 大西洋と太平洋を鉄道で結ぶ案は過去数年間にわたって議論されているが、必要コストの融資を「中国および(または)ヨーロッパ」から得ることで、これまでより可能性があるようにみえる。
 米州開発銀行(IDB)を含む多国籍銀行とアンデス開発公社(CAF)は、中南米およびメキシコ諸国の物理的な側面の統合度を高めるように設計された複数のインフラ・プロジェクトの全体のなかに、「中国および(または)ヨーロッパ」による融資案を取り入れている。IDBはこれまでこの構想の「投資前調査費用」を融資している。
 総工事費用は固めに見積もって130億~150億㌦と見積もられている。鉄道が完成すれば、年間700万人の利用者と年間1,000万トンの貨物が往来することになる。

(1)以前の計画

 最初に検討された案はボリビアを迂回し、アマゾン地帯を横切って、直接、ペルーとブラジルを結ぶ案であった。しかし、この案は工事費の増大が避けられないことと、熱帯雨林に対する環境破壊の可能性と、熱帯雨林で生活している先住民に対する問題があるため、実現が困難と考えられた。
 ここで、頃合いを見計らったように、ボリビアが自国内を東西に横断する路線案を提出した。これによると、路線案の大部分に既存の鉄道路床があり、費用は主として路床のアップグレード化を図ればよいため、建設費が安く済むものである。昨年(2016年)、ペルーの政府関係者が来訪してこのボリビア案を支持した。その後、2016年7月に選出されたペルーのクチンスキー新大統領は同年9月にいったんボリビア案に懸念を表明したが、同年11月にボリビアを訪問し、同案の契約を結んだ。

(2)現在の路線案

 大西洋に面したブラジルのサントス港からボリビアのサンタ・クルスまでの2,170キロは既に鉄道路線が稼働しているが、その途中にはサンパウロ市や南部ブラジルの重要な都市が連なっている。しかし、これまでの数十年間にわたって路線のメンテナンスが不十分であり、その大部分の路線の改良が必要である。特に両国の国境線をまたいで伸びているブラジルのプエルトスアレスからボリビアのサンタ・クルスの間の650キロは路床のアップグレードが必要である。
 サンタ・クルスからペルーのイロ港までは1,500キロの新路線建設が必要で、途中、アンデス山脈と山脈に付属しているアルティプラーノ高原(標高4,000メートル)を経由する。この新路線計画は既に進行中で、サンタ・クルスから北西のブロブロまでの間は敷設されている。ボリビアの鉄道網はここ数十年の間、荒廃しており、首都のラパスからコチャバンバを経由してサンタ・クルスまでの間の鉄道建設計画はついに完成を見ず、ラパス・コチャバンバ間の軌道は25年前に他に移された。
 完全に新設される路線案はアルティプラーノ高原とイロ港を結ぶ路線を選択しなければならない。大雑把に言えば、ここはラパスからチリのアリカ港までの既存の路線と並行する形となる。現在、検討中の路線案を促進するためにも、鉄道計画でパラグアイと接続する必要がある。この路線はボリビアの南東部のロボーレ町からパラグアイ川沿いのチャコ地方北部のカルメロペラルタまで計画されている。

(3)関係国の承認

 このプロジェクトはペルー、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチンの4カ国によって正式に承認されている。ブラジルは巨額の財政赤字で身動きできなくなっているので、すぐにとは言えないが、現在、基本的に南米横断鉄道計画への支持を表明している。
「南米諸国連合(UNASUR)」(南米12カ国)もこの計画を支持している。サンペール事務総長は2016年後半にボリビアを訪問し、UNASURが必要な資金調達に係る交渉を支援すると約束している。
 ドイツとスイスのエンジニアリング会社が本プロジェクトに強い関心を示している。ドイツの運輸プロジェクトを管轄している閣僚がドイツ産業界の首脳たちとともに2017年3月にボリビアの首都ラパスを訪問し、モラレス大統領と話し合いを持った。両国は覚書(MOU)にサインした。

(4)経済的利益

 中国はブラジルが生産するバルク品(例えば鉄鉱石や大豆)に大量にアクセスできるように流通システムの改善に熱心である。鉄道は大量の貨物を陸路(トラック)で輸送するよりも容易に船積みさせることができる。2013年にブラジルとペルーを結ぶ道路網を完成させたが、現在までのところ、その輸送貨物量は失望に終わっている。
 中国の李克強首相が2015年にペルーとブラジルを訪問。当時、想定されていた路線案はボリビア経由ではなくアマゾン地方を横断する案であったが、鉄道建設プロジェクトを前進させる合意の枠組みにサインした。すでに中国は新しく計画された路線案に対する支持も明らかにしている。
 同じような理由で、ブラジル生産者、なかでも特にマットグロッソ州の大豆生産者は鉄道輸送により大きな利益を受ける。2017年の中国向け大豆輸出は過去最高を記録することが見込まれており、ブラジルは現在のところ中国向けの最大の供給者である。
 パラグアイの農家も市場へのアクセス改善によって利益を得るだろう。しかし、パラグアイ北部のパラグアイ川西岸のチャコ地方の大豆生産用地の拡張は、鉄道開通が自然環境と先住民の土地所有形態に与える影響に対する懸念を生む可能性がある。
 南米横断鉄道の開通は海のないボリビアがチリのアリカ港に過剰に依存している状態を緩和するだろう。ボリビアは南米地域の中心として輸送のハブとしての地位を強める一方で、長年にわたる領土問題のあるチリへの依存度を減らすことになる。ボリビア政府はチリを通じて太平洋へのアクセスを回復させることが近い将来、起こりそうにないことを前提に、長く、南米大陸の中央に位置する地理的条件をどう活用しようかと模索してきた。現在、ボリビアの輸出の大部分はチリのアリカ港経由で送り出されている。
 南米横断鉄道構想には「世界最大の鉄鉱床」であるエル・ムトゥン鉱床の開発を促進する役目がある。この鉱山はボリビアの南東部にあり、計画されている鉄道路線はそのすぐそばを通っているのである。

(2017年8月4日付のOADB)
原文:Interoceanic rail may boost Latin American trade外部サイトへアクセスします

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